レディーストーク
これはすべてフィクションです。
「まいったわよ。っとに!」
麻奈はそう息巻いて早速ビールをグラスに注ぎ始めた。中学からの親友、佐竹麻奈は、ビールをつまみに冷酒を煽る大酒飲みだ。相手に都合があるという事を考えないところも変っていない。事前の知らせもなく「今駅に着いた」と電話が来たのは昨日の午後。更には今朝早々に連泊予定だったホテルをチェックアウトしたのだという。
終業時に震えだしたスマホに呼びつけられ、麻奈が待つ店へ駆けつけると、麻奈は赤と紫で縁どられたカップを二本の指でつまみ、優雅に雑誌をめくっていた。その姿はまさに深窓のご令嬢。
「あのホテルって高級なんでしょ? なんだってわざわざこんな狭い部屋へ来るかなぁー」
「他に知り合いいないし、自分でホテル探す暇なんてなかったんだもの」
「手配してくれる人にはことかかないのでしょ?」
「そしたら、なぜって聞かれるじゃない」
「ホテルに不満があったなら、そう言えばいいだけなのに」
「……いいのよ! もうあそこにいたくなかっただけなんだから」
部屋に着きシャワーを終えた麻奈は、こちらの呆れ顔を意に介した様子もなく一本目の缶ビールのプルタブを引きあげた。冷房はつけていないけどキャミワンピ一枚じゃ寒すぎだろう。薄いカーディガンを羽織らせると麻奈はお行儀悪く膝立て座り。見えるのは……見ているのは私だけだからよしとしよう。
私が麻奈の隠された体質を知ったのは、地元での成人式を機に開催された高校最終学年のクラス会だった。
二年、三年と組み替えがなかった私たちのクラスは、やはり連続担任だった懐の広いおばさん先生の人柄に影響されたのか、他クラスと微妙に違った親密さがあった。
進学、就職とばらばらに散った元級友たちの多くが軽装に着替えて集まった居酒屋へ、麻奈は振袖姿のままで現れ、ソフトドリンクでしとやかに過ごしていた。
若さの勢いで場が盛り上がり宴もたけなわを越え、皆がぞろぞろと二次会会場へ移動しはじめた頃。私はそれをやり越し麻奈を誘って自分の家へ向かったのである。
誰にでも言葉少なく笑顔で愛嬌を振りまいていた麻奈は、私の誘いにホッとした顔で即座に頷いた。
酒屋の娘に生まれながら、全くお酒に耐性がない私は麻奈も自分と同様だと思ったのだ。乱れ放題な喧騒の中にいるよりも、久々に思い出話に花を咲かせたいと考えた。けして麻奈をダシに場から逃げようとしたわけじゃない。
我が家の玄関で迎え入れた両親に麻奈は優雅なそぶりで挨拶をして見せた。
「好きなものを好きなだけ持って行け。俺からの祝いでぇー」
麻奈の振る舞いに気を良くした父の言葉に、では早速と二人で一階の店を漁ったのだ。炭酸飲料を物色していた私を尻目に、麻奈はおもむろに日本酒の一升瓶を脇に抱え、つまみの袋をいくつか握りしめていた。更にはグラスが必要ね、と私を見もせず階段を上がって行く。私は不可解な麻奈の行動を、んっ? と訝りながらも台所から小ぶりのコップを探し出し、ついでにつまみ用のお皿を抱え部屋へ入った。麻奈はすでに帯を解きはじめていて、私のジャージに着替え終えると、ローテーブルの前にちょこんと座りこんだ。
その時点で麻奈はまだ深窓のご令嬢だったのだが。コップに冷酒を注ぎ、一口目は舐めるように、次第にあおる勢いでコップを空にしていく。
呆気にとられる私の前で麻奈は豹変していった。何が麻奈のグレーゾーンを刺激したのかは、今でもわからない。ただ、飲むほどにぶつぶつと級友たちを貶める言葉を吐き出す麻奈に、私は相槌を返すのが精一杯だったと記憶している。
今の麻奈はその道では講演依頼まで来るようなバリバリの業界人だ。フラワーデザイナーで佐竹麻奈の名を知らない人間はモグリだそうだ。だが人嫌いということでも有名で、接待なんてものは軽くスルーし、役目を終えると忽然と場から消え去る、謎多き女性と業界内で噂されているそうだ。とは、麻奈からの受け売りなのだが。
普段はいたって静かな暮らしを送っているらしい。たまに個展やなんとか会という集まりで都市部に出向くほかは、お弟子さんに実務を任せ、ひっそりと生まれた土地で暮らしている。故郷ではそれなりに元旧友たちと集まるようだが、私的な付き合いをする業界関係者はいないという。そして私以外の友人の前ではお酒を飲むこともしない。私は、麻奈はお酒が好きなのではなく、飲み出したら耐性が半端ないという稀な体質なんだと思っている。
そんな麻奈が言うには久々にリッチなホテルに泊まるんだから、ちょっと贅沢ついでにお酒でも飲もうかなという気分になったのだという。ルームサービスでシャンパンとフルーツの盛り合わせなんてお洒落じゃない? と。
翌日は講演予定だからアルコールは加減しよう――なんて考えは一切なかったのだろう。
しかしである。取り寄せたものはあくまで気分を盛り上げるための飾りもの。
麻奈いわく酒のつまみといったら〈キムチ〉だったらしい。チェックイン前に駅デパでこっそり購入した冷酒とキムチ。誰に遠慮もいらない個室でゆっくり確実にそれらが臓腑に染み渡っていったのは想像するに易い。 やがて満足しきったままウトウトとベッドに横になり。二時間ほど惰眠を貪るとほぼ素面になり――アルコール耐性が半端ない麻奈が話し出した記憶はしっかりしたもので。昨夜の経緯が鮮明に紡ぎ出されていった。
寝る前にシャワーで染み付いた汗を流し終え、浴室から出たらキムチの残り臭が部屋に充満していたと麻奈は続けた。私は、それ、酒臭じゃん! というつっこみは入れず、ゆっくりうなずきながら先を促していった。
窓を開けるにも部屋は高層階だったそうだ。ならば、匂いの元となる食器を廊下に出しついでにドアをちょっと開けて換気しようと思ったのだとか。
「片手で押せば動くくらいに軽くて小さな台だもの。ちょっとだけドアを開けて抑えようとしたのよ」
だが、厚い絨毯に阻まれ動きが鈍った台車のキャスターをにらみつけるはめになったらしい。結局、動け! とばかりに両手で押した勢いで、麻奈は台車と一緒に廊下へ飛び出していたという。そして無情にも背後でバタンと閉じるドア音が響いたのだと……。
「鍵は――合鍵はフロントだってすぐ思ったのよ?」
全裸にバスタオル一枚で閉じたドアの前。麻奈の思考が停止した瞬間だったのではないだろうか。
「と、ともかく集中というアンテナを伸ばしたのよ。冷静だったんだから! し、静かで人っ子一人いなかったわ」
室内の防音が行き届いているのは無論だが、深夜に近い時間が幸いしていたのだろう。
『廊下やエレベーターで誰かと鉢合わせするかもしんない。かといってこのままこの場にいるわけにも行かないし。い、いつ誰が来るかわかんないじゃない! 冗談じゃないわよ! この姿を知らない人様に晒す……! だめよお……うぅっくぅぅ。それは絶対にあってはいけないことよおぉぅぅぅっ!』
想像しただけで語られない麻奈の雄叫びが、私の頭の中に響き渡った。
その後どうやって部屋に戻ったのか? とにもかくも、今は荷物を手にここに居るのだから、無事に危機は脱したのだろうけど。そこで麻奈は渋面とともに口をつぐんでしまった。
もう少し飲めば口が軽くなるだろうか? その先を聞きたいと思うのは私じゃなくても当然のことだろう。
私は追加の缶ビールを開け、麻奈のグラスに黄金色の液体をなみなみと注ぎソフトに問いかける。
「で、チェックアウトしたと?」
「だって、だって……それもこれも曽我君のせい!」
「はぁっ? 曽我君って――麻奈、会ったの?」
「会えるわけないじゃん……日本にいないだもの。クラス会にも出ないような奴なのに……」
曽我君――それは高校時代の麻奈が秘かに想っていたクラスメートだ。卒業式に曽我君に告白するのだと麻奈は受験前からクラス中の女子に宣言していた。曽我君は小柄で物静かな雰囲気をまとった存在だった。案外密かなファンも多かったらしい。麻奈の宣言はある意味、他女子へのけん制もあったのだろう。だが、その結果報告は聞いていない。恐らく玉砕したのだろうと思ったから聞く事もしなかった。プライドの高い麻奈を追い立てるようなまねは、私は絶対にしないと決めていた。以来、麻奈が曽我君の名を口にしたことはなかったし、もう十年も昔の話だ。
なんてことを思い出していたら、麻奈の目からぶわっと海水のような涙があふれ出した。
うわっー、もうちょっと私にもわかるような説明を求む、と言ってもいいだろうか。
「なにそれ? 麻奈が酔っ払って裸で廊下に立ちん坊したのと、曽我君がどう関係すると?」
「……わたしの人生で唯一の汚点が曽我君だからよ! 人にはダメもとでも言わなきゃいけないことってあるのよ。言わなかったことをずるずる引きずってちゃだめなんだよ!」
「えっと、それは、例の……曽我君へ告白します宣言のこと?」
「ええ、そうよ」
「つまり卒業式ん時……告ってなかったってことなん?」
「出鼻を挫かれて言うに言えなかったのよ」
手渡した箱ティッシュを抱え、子どもが悪戯するような勢いで、次々とテッシュペーパーを引き出しては投げ、を繰り返す麻奈。その合間にもビールを飲み干す勢いは衰えない。当時の私に……いや、今現在まで、そんな答えは予想していなかった。麻奈はやるといったら確実にやる気高いお嬢様だったのだから。
「へっ? 告ってなかったの? うそー、信じらんないー」
「だって……なかったのよ。卒業式前にはもう……」
麻奈の遠くを見るような眼差しは、酔いが回ってきたのだろうか。すでに三本目の缶も空なようだ。
「けどさぁ、言わなかったことがずっと心残りだった、いつまで経っても。クラス会があったじゃない? あの日、言わなかった後悔を晴らすって決めたのよ! けど、曽我君来ないし、みんなはあいつスゲーとか言って喜んでるし、人の気も知らないでちょっかいかける野郎ばっかでさ。あの日、百合ん家でわたしはお酒で紛らすってことを知ったのよ。だから、わたしがお酒飲んだのも、昨夜の失態も、全部曽我君のせい」
「……ねえ、麻奈――」
詭弁っていう日本語知っている?
私はそう続けようとしてやめた。麻奈の酒癖は絡み酒。あの日、後にも先にもただ一度、意を決して指摘して以来、麻奈は私以外の前でお酒を飲まない。そして一人でも飲まないらしい。果てない酒量にはストッパーが必要だと知ったらしい。昨夜は例外中の例外だったのだろう。
曽我君といえば、思い出すのは卒業式の朝だ。
三階の教室へ向かう階段で、彼は私の前を歩いていた。私はいつものように見知った背中を追って走ったのだ。彼の立つ一段下まで追いついて、おはよう、と背中にタッチした。吃驚させるつもりはなかったのだけれど、彼はビクッと固まった瞬間に階段を踏み外した。
落ちたといっても高々二段。ただ彼はピアノ弾きだった。咄嗟に両手を庇ったのだろう。曽我君は丸まった海老のように広い踊り場へ寝そべった。
すぐに立ち上がった彼の学生服の片側は白い埃にまみれていた。慌てて駆け寄った私に彼は一瞬照れたような顔を向けたのだが。すぐにうろうろと床を見回し、胸ポケットから落ちた手帳を拾いあげ、愛おしそうに表面を眺めなでつけていた。
「あ~よかった。怪我しなかったよね? ごめんね、びっくりさせて」
床の端っこで光るものを拾い上げながら私がそう言うと、彼はこくりと頷き手を振って先に行けの合図。私はそのまま教室へ向かい、彼はぎりぎりでやってきて麻奈の隣、最後尾端っこの席についたのだった。
そういえば、成人式直後に留学のため出立したと、彼の親しいクラスメートが報告していた。
麻奈の振袖での登場も、あの夜の乱れっぷりもそういうことだったのかと、今更ながら麻奈の豹変ぶりの理由が理解できた気がした。私と違って麻奈は完璧人間だ。告白しなかったというそれを未だに引きずっているのかもしれない。
ふっ、と、麻奈の言葉に突っ込みたい言葉が思い浮かんだのだけど。今更過ぎて、聞くのが怖くなってきた。ともかく今は、昨夜の窮地をどう脱したのか、そっちへ話題を戻そう、そうしよう。
「昨日、なんで一人飲みしたの?」
「……駅に着いたら、学生たちが群れてたのよ。もうまわりへのめーわくなんてお構いなしでさ。けどうるさいっていうより、懐かしいって思ったんだ……。私もあんな頃があったなーって。したら、ああ、曽我君どうしてるかなって?」
垣間見た若さの弾ける様に言わなかった後悔とか、空振りしたリベンジとか。そんな感情が一気に押し寄せてきたんだろう。なるほど。わたしへの急な呼び出しはそのせいだったのか。
「で、飲まなきゃやってらんないって思ったわけか……」
ここは一言詫びを入れておくか。ついでに、ちょっと感情過多、混乱気味になっている麻奈を突ついてみよう。
「付き合わなくてごめんね? どうしてもはずせない会議だったの。でさ―廊下の危機はその後どうなったっん?」
「どうしょうもないじゃないさ、走ったわよ、裸足で」
うん、どうやら聞き出せそうな予感。内心興味深々なのを押し隠し、さらっとさらっと、小出しに聞いていこう。
「ああ、廊下に電話とかあって、フロント行かなくても済んだわけか」
「……済まなかった。エレベーターへと思ったけど誰かとばったりなんて怖いじゃないさ。そしたら斜め向かいにドアがあったのよ。スタッフオンリーって書いたドアが」
「スタッフオンリー?」
「鍵は掛かっていなかったわ。開けていいってことでしょ? 緊急事態だったんだし……」
「……」
「エレベーターより人との遭遇率は絶対に低いって思った。だから……階段を駆け下りたのよ」
あ、うん……なるほど、案外酔いは醒めていたんだろう。だったら、ドア開ける前に着替えるくらいすればよかったのに……いや、完全に覚醒したのはドアが閉まった瞬間だったんだ、きっと。
「……えっと……部屋、何階だっけ?」
「三十二階よ」
「ええぇ――っ、三十二階分を走って降りたん!?」
「何よ、そのリアクションは――しないわよ。……しようとは思ったけど……」
思ったんだ、そうか、思ったんだ――バスタオル一枚で階段を駆け下りる姿は想像するに絶。
「その途中にあったのよ。スタッフルームって書いたドアが。やっぱり鍵は掛かってなかったし、緊急事態だもの……開けたわよ」
「や、それはー、やっぱ部外者でしょ? 下手したら不法侵入じゃない?」
いくら緊急事態でも、階段を降りるのと、スタッフルームへ入るのは別だろう。そこにはスタッフさんの私物だってあるんじゃないのかな?
「人聞きの悪いこと、言わないで! 部屋には入ってないよ。入ろうかと思ったけど」
思ったんだ、あ、やっぱり思ったんだー。
「けど、開けたんでしょう? ドアを?」
「まだ、廊下だったわよ! スタッフルームってか、更衣室が向かいにあったのよ。で……ばったり、と……」
「ばったり、と、曽我君?」
「だーかーらー、彼は日本にいないのよ! コントじゃないんだから変なボケかまさない!」
うわぉ、さすがだな。酔っても崩れない強気は麻奈なればこそのもの。
「けどね、男だったのよ……ドアを開けたら若いホテルマンのお兄さんとばったり……よ」
なんてこと。さぞや驚いただろうな、若いお兄さん。
その事態で開き直った麻奈はスペアキーを要求したらしい。対したホテルマンもプロらしくすぐ対応したのだそうだ。まあ、そんなことがあったなら朝一でのチェックアウトもうなずける。
話し終え満足したのか、酔いが手伝ったのか――。麻奈は人のベッドでくーくーと安らかな寝息を立て始めた。キャミワンピの裾から覗く均整のとれた白い足。もったいないなー、その気になればいつでもお嫁に行けそうなのに。田舎に引きこもっているなんて。
「十年か……」
私は届かないため息交じりのつぶやきと一緒に上掛けで麻奈を包み込んだ。
※ ※ ※
「あのね、百合……」
「うん? なぁに?」
翌日の昼前。
帰りの電車を待ちながら、私たちは駅前のカフェで朝食をとっている。今朝の麻奈は素面通りのお嬢様姿で艶やかだった。寝坊した私が起きる頃、さっさと散歩を済ませて戻ってきた。ついでに何か買って来てくれたらなんてことは言わない。麻奈はお嬢様なのだから。何気に吹っ切れたような表情にこちらが慰められた気分になったのは内緒だ。
「誰だったのかなー? 曽我君がボタンをあげた娘」
そういいながら変わらず優雅な手つきでカップを口元へ運ぶ。しばし、その姿に見惚れそうになった。
「曽我君、結婚したなんて聞いている?」
わたしはブンブンと顔を横に振りまくった。麻奈以外にも連絡しあう昔の友人はいるけれど、そんな話は聞いていない。
「そうよね……。地元にいたら誰と付き合っているとか、結婚したらしいとか、耳に入ると思っていたんだけど。一切ないのよねーそういう噂。誰だったのかなー? 卒業式前に第二ボタンをもらった娘」
「第二……ボタン?」
再びの言葉に小声で聞き返していた。
「卒業式の日、彼、教室へ最後に来たでしょ? なかったんだ……第二ボタン。だから言えなくなって。わたし、ホテルで恥をさらしてやっと踏ん切りついた。曽我君に執着するのもうやめる。でね、お見合いする」
「お見合い!?」
「いくらでもあるのよ、釣書が積まれてる。百合にも分けてあげようか?」
「ふぇっ? いらないし……てか、そんなんでいいの?」
「ふふーん、佐竹麻奈がその気になったら相手は選り取り見取りよ」
麻奈の自信満々な表情が眩しく見えた瞬間だ。麻奈はずっとこうだった。
「わたしさーこだわり過ぎていたんだと思う。第二ボタンをもらったのが誰なのかなって。わたしを差し置いてって。曽我君にっていうより、そこにこだわってたんだと思う。だからもうおしまいにする。曽我君もお酒も」
麻奈が十年こだわった第二ボタンの相手。それが一晩の経験で吹っ切れたのならいいんだと思うことにしよう。
知らなかったとはいえ、今更言うことでもないんだろう。
曽我君が転んだ時、たまたま拾ったボタン――どこへやったっけ? あの日私は校章が刻まれたボタンを拾った。輝きが黒ずんだ金色がなぜか愛おしくて、卒業記念にと持ち帰った。まさか第二ボタンとは思わなかった。小柄な彼は手帳を眺めうつむいてたから。勢い任せにはじけ飛んだとしたら一番下のだろうと思ったんだ。そんなに目立たないし、いいかなっ? って。出来心というやつだ。
……でもこれ、麻奈には一生、内緒にしとこう。
秘密って最大のミステリーかもだしね?
(おしまい)
るうねさま、企画主催お疲れ様です。
書いた本人がミステリーと言ったらミステリー。そんな宣伝文に乗り、踊らせていただきました!
なお、フラワーデザイナーという業界の知識は皆無です。それについての突っ込みだけはご勘弁をお願いします(^0^)/~~