第10章 勝利と悲しみと ~その5~
ウンディーネが放ったのである。
自分1人の力で勝利を得るのが難しいと痛感したワタルは、ウンディーネに助力を乞うた。
「我が契約者は、人が好すぎるぞ?」
くくっと笑った、ように見えたウンディーネは快諾する。
かくして呼吸を合わせて重ねがけした魔法は、激甚な破壊力を発揮した。
「やはり、バルムンクの力だけではないな」
視線を固定し、ワタルは険しい面持ちで呟いた。
爆発の魔法や物理攻撃による損傷を防ぐ鉄壁の防御と、アイギスの大盾を砕く打撃力。
それらにバルムンクは一役買っているが、もともとジークフリートが備えている潜在能力によるところが大きいのだろう。
「竜の血か」
竜殺しと称されるほどの人物だ。
竜を殺したのは疑いない。
その際に竜の返り血を浴び、常人では持ち得ない身体能力を手に入れたことが、ワタルには容易に想像がついた。
だから伝説上の人物となりおおせたのだ。
ワタルの双眸が血走ったものへと変わった。
ここで、今ここで決着をつける。イゾルデの仇を討つ。
己の内に宿る魔力を全て吐き出し、ワタルは流水の渦の魔法の威力をぐんと跳ね上げた。
「このジークフリート、これしきのことで」
その肉体の強靱さは常軌を逸していた。
ジークフリートは命を落とすどころか、まだ意識を保っているのである。
普通の人間なら、とうに圧死しているはずだ。
まさしく悪夢の具現化だった。
「ぐ。ここまで、追い詰め、られるとは……」
さりとて、ジークフリートも限界に達しようとしていた。
全身の骨が軋み始めたのだ。
「ぶはぁっ!」
内臓が圧縮され、ジークフリートは口から血しぶきを噴き出した。
想像を絶する光景に、この場にいる者は全て戦いの手を休め、白い魔法使いと竜殺しの対決の行方を固唾を飲んで見守る。
刹那、巨大な水柱が立ち上った。
魔法の効果時間が切れてしまったのだ。
水柱が消滅したとき、誰もが塩の柱と化したかのように立ち尽くした。
宝剣バルムンクともども、ジークフリートの姿はどこにもなかったのである。
数日後、王都は完全に解放され、再びアルビオン王国の手で治められることとなった。
現在、ユーフェミアの即位式が行われているところだった。
アルビオン王国の女王に、わずか14歳で即位する。
「まんまとしてやられましたね」
カーディスは苦笑交じりに嘆息した。
ユーフェミアに王冠を被らせようとしている少女、クレアに負けたという苦々しい感情が胸を占める。
「参りましたよ」
お手上げだと言わんばかりにカーディスは肩を竦めた。
「まさに力づくで奪われてしまったな」
対照的にローエングリンはニヤニヤと笑っている。
特に不平や不満はなかった。
強い者に敬意を払うのが、この男の流儀だからだ。
実際、ユーフェミアが言うところの臣下たちは、それぞれに優れた手腕を発揮した。
鮮やかな手際で王都を奪還し、ユーフェミアに勝利をもたらしたのである。
王都奪還に最も貢献したのはユーフェミアの軍であることは、衆目の一致するところだった。
しかし、こうなると別の重要な問題が発生してしまう。
同じアルビオン王国の人間、つまり味方同士であることにローエングリンは不満なのだ。
白い魔法使いと竜殺しの戦いを目の当たりにし、挑んでみたいという感情を抱くのは、白鳥の騎士として自然な欲求だった。
「終わったばかりで、また戦は勘弁して下さいよ?」
しばらく大人しくしろとカーディスは窘めた。
長い付き合いで何を考えているのか、手に取るようにわかるのだ。
今回の戦役はカーディスにとって非常にキツイものだった。
しばらく休息を取りたいのである。
「時間を置けば、構わんのか?」
してやったりという顔で、ローエングリンは太い声を発した。
「さて、それはどうでしょうかね?」
曖昧な返事を寄越し、カーディスははぐらかす。
それを不満に思ったのか、ローエングリンはつむじを曲げてしまった。
「全く、子供ですか」
呆れてカーディスの顔がひきつる。
視線を転じれば、クレアの手に合った王冠がユーフェミアの頭上に置かれ、アルビオン王国の新たな王、それも女王が誕生した瞬間だった。
王宮が万雷の拍手で包まれる。
ローエングリンは普通に、カーディスは義理で手を叩いた。
拍手が鳴り止むとアルビオン王国の女王は2人の前にやってきて、女王として始めてとなる命令を下す。
「ローエングリン、ならびにカーディスの両名に命じます。兵を率いてベイドン平原に集結している北海帝国軍を打ち払いなさい」
「謹んでお受けいたしましょう」
頭を下げながら、ローエングリンは了承した。
少なくとも公の場では女王の臣下として振る舞う。
黙然としてカーディスも頭を垂れた。
「ところでユーフェミア女王。白い魔法使い殿も出陣されるのか?」
単純な好奇心からローエングリンは訊いただけだ。
そもそも今回の出征は戦いにはならないことがわかっていた。
ところがユーフェミアの顔色は暗く沈んだものへと一変してしまう。
ワタルはまだ、悲嘆に暮れていたのである。
イゾルデの墓前で、ワタルはただただ、ぼーっとしていた。
ユーフェミアの即位式にも参列していない。
今回の戦役における自分の役目は終わったのだ。
そのことを虫の知らせで察していた。
ベイドン平原にいる北海帝国軍も、アルビオン王国が軍を進発させれば、ハドリアヌスの長城の向こうまで撤退するだろう。
北海帝国軍の遠征に端を発した一連の戦いは、それでおしまいである。
気がかりといえばジークフリートのことだが、消息は掴めていなかった。
もしかしたら、いずれ再び会いまみえる日がくるかもしれない。
「イゾルデさん……」
しかし、今はイゾルデとの思い出に浸っていたかった。
まずは謝辞を。
ここで一区切りです。
お付き合いいただき、ありがとうございます。
この話はオーバーラップ文庫さんが募集している、ということで急遽書いてみました。
そういう事情で、どかどか投稿することになったのです。
無理な更新にも関わらず、読んでくれた方には感謝の念に堪えません。
それで、です。
正直に白状すると、とにかく10万字書く事しか頭になかったので、この先は全く書いておりません。
第一、メインヒロインを殺してるし、あの伏線も回収していないですし……。
カテエラですかね?
伏線の方は、もともと次がエンディングの予定でしたので、そこで回収することになっています。
ですが投稿して日が浅いにも関わらず、ありがたい事に点数をつけてくれた方や、感想を書いてくれた方もいらっしゃいますので、続けようか迷っています。
悩んでいますので少々、お時間を下さい。
本当に申し訳ありません。
ちなみに、どんなエンドかというと数十年後、よぼよぼのお爺さんになったワタル君が流転の魔法を使い、叶恋ちゃんを召喚して白い魔法使いを引き継いで終わります。
これで伏線も回収ですね。
続けるなら、ワタル君が若いうちに叶恋ちゃんを召喚して『白い魔法使い2人』編かな?
その方がヒロインも増えて、いいかもしれません。
絶賛検討中です。




