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ふわふわ

作者: 別府のもっさん


俺は、これと言う楽しみも無いサラリーマン。


しいて言えば、一つだけ楽しみが有る。


大概の人からは、珍しいと言われる楽しみだ。



・・・とある朝・・・



『さてと、仕事に出掛けるか』


いつもの様に、安アパートの部屋から出て、バス停まで歩く。


道すがら、昨夜の夢を思い出してみる。


『昨夜は、他愛の無い平凡な夢だったな〜。』



そう、俺の楽しみは、定期的に続く夢を見たり、見た夢を忘れず覚えてて、思い出しては余韻を楽しむ事だ。



バス停に着いた俺は、到着した会社方面行きのバスに乗り込んだ。



・・・昼休み・・・



『昨夜はどんな夢を見た?』


社員食堂でカレーライスを食べていると、同期で総務課の佐竹が声を掛けて来た。



佐竹は、正面に座って、ランチを食べ始めた。



『昨夜は、他愛の無い夢だったよ。』


俺は、食べながら答えた。


『そっか残念、お前の夢の話しは面白いからね。』


佐竹は、微笑みながら言った。



『そうそう、言い忘れてたけどな、先月可笑しな夢を見たよ。』


俺が言うと、佐竹が聞いて来た。


『どんな夢だい?』



『夢の中で俺が、空を飛びたい!てか、飛べる!って思ったんだ。』


俺は、思い出しながら言った。



『うんうん、それで?』


佐竹は、先を促す。



俺は、話しを続ける。


『どこかの砂浜で俺は、体を伸ばして、風に向かって飛び込んだんだ。』


『ほうほう。』

佐竹は、うなずきながら身を乗り出して来た。



『俺は、勢い余って、砂に潜ってしまったよ。』


俺が言うと、佐竹はがっかりしたように。


『な〜んだ。』



『ハッハッハ!』


二人で笑った。



・・・それから数日後の昼休みの社員食堂・・・



『俺さあ、ついに風に乗れたよ。』


俺は、嬉しそうに佐竹に言った。



佐竹は茶化すように言った。

『そりゃ〜気持ち良かったろな。』



『それがさ、高さ地上20センチくらいでさ、進むのが、ネコが歩くより遅いんだよ。』


俺は、残念そうに言った。



『夢なんて、そんな物だろ!ハッハッハ!』


佐竹に言われて、二人で笑い合った。



一人になった俺は、夢を思い出す。


(とにかく風に乗れた!気持ち良かったよな〜。)


俺は、夢を楽しみながらも何時もと違う、妙なリアルさを感じていた。



・・・翌月・・・



「うわ〜!電線にぶつかる〜!」


「今度はビルだ〜!危ない!」


「落ちる落ちる〜!」



『うわっ!』


俺は、跳ね起きて目覚めた。



『夢か・・・』


ほっとしながら俺は、夢をたどってみた。



『かなり上空まで、飛べるようになったな〜。』


俺は、ちょっと嬉しかった。



『しかし、まだまだ思い通りに飛べないな。』


時計を見ると、午前3時を少し過ぎていた。



『さて、もう一眠りするか。』


俺は、布団に潜り込んだ。



・・・



『そっか、おめでとう。』


翌日の昼休み、いつもの様に社員食堂で、佐竹と夢の話しに盛り上がっていた。



『それだけ上空まで飛べるようになれば、かなり気持ち良いだろな!』


佐竹は、ちょっと羨ましそうに言った。



『ああ、かなり気持ち良かったぜ。ただ高所の恐怖感も、半端無いんだよな〜・・・』


俺は、笑いながら言った。



『なんだか、リアルな恐がり方だな、夢だろ!』


佐竹は、少し呆れたように言った。



『ハハハ。』


二人で笑いながら仕事に戻った。



・・・翌月・・・



「ウホ〜!速い速い!」


夢の中の俺は、海の上をかなりのスピードで飛んでいた。



「ん?海の上、空中に家が浮いてる。」


俺は、中に入った。



「早く昼御飯をお食べ。」


後ろを向いたお婆さんが、食事の支度をしながら優しく言った。



俺は言われるままに、食卓にゆっくり近付いた。



「お祖母ちゃん!それも元気な頃の。」


何年も前に亡くなったお祖母ちゃんが、優しく微笑んでいた。



(ピピピピッピピピピッ)



目覚まし時計の音で、俺は目が覚めた。



『懐かしかったな・・・』


お祖母ちゃん子だった俺は、夢とは言え嬉しかった。



『しかし、かなりの進歩だな。あんなスピードで飛べるなんて。』


俺は、少し疲れていた。



・・・翌月・・・



「任せて!俺が買い物に行って来るよ。」


夢の中の俺は、父親に飛べる姿を見せようと、実家のマンションのバルコニーに立った。



が、しかし飛べない。



「あれ?おかしいな。」


ふと、ヘソの所を見ると、シャツの下で灯りが点滅している。



「何だろう?」


俺は、シャツを捲って見た。



「ヘソの奥に、電球の様なものが、赤く光ってるぞ。」


「昔、正義のヒーローの胸に見た様なものかな?ハハハ!」


俺は可笑しくなった。



しばらくすると、点滅が止まって、また飛べるようになった。



「行って来るよ。」


部屋の中の子供達に言ってから、颯爽とバルコニーから大空に飛び出した。



「父親の姿が子供の姿になってたな、さすがに夢だ。」


俺は、冷静に夢を楽しんでいる。



俺は、いつの間にか自由自在に、思い通りに飛べるようになっていた。



調子に乗って飛んでいると、またしてもヘソの中で、電球が点滅しだした。


「うわ〜!落ちる〜!」


俺は目覚めたが、かなり疲れていた。



それから、ほぼ一ヶ月毎に、夢でふわふわ飛びながら、昔の友達やら以前亡くなった、懐かしい人達とも、空で会うようになった。


とても楽しみな一時(ひととき)だ。



ある月の休日、疲れていながらも、楽しく夢を思い出しながら、俺は少し不安になった。


『亡くなった人やら、懐かしい人達と会うようになるって事は・・・良い事か?』


(最近お前やつれてないか?)


夢の話しをする俺に佐竹が、心配そうに言った事も気になる。



・・・ある日の昼・・・



朝から会社に来ない俺を心配して、佐竹が家を訪ねて来た。


(ピンポーン)


ドアベルを押しながら、佐竹が声を掛ける。


(ピンポーン)


『返事が無いな・・・お〜い、大丈夫か〜!?』



・・・しばらくすると



・・・ガチャ・・・



『すまん、寝坊した。』


俺は、目を擦りながら、パジャマ姿でドアから出た。



『寝坊なんて珍しいな、心配したぜ!』


安心した佐竹は、少しやつれた俺の腹に、冗談ぽくパンチを入れた。


(パリッ!)


ヘソの奥で、何かが割れた様な気がした・・・



『あっ!』


俺は、一気に元気が戻った気がした。



良夢だったのか・・・悪夢だったのか・・・長い間、ふわふわしてた夢は終わった・・・

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