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Soul-Move -新章開始-  作者: 癒柚 礼香
【エスナの地下迷宮】
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99話≫〔修正版〕【ローランドSide】

よろしくお願いします。






【ローランドSide】



スキル【強者に抗う者】は奇しくもカナデの

【下克上】とは別系統にあるが、同種のスキルであった。


効果は一つ。


たった一つ。


それは、諦めない心が宿る事。


この世界での心、

つまり精神の力がどれだけ大事なのか、

それはいずれ分かる時が来るだろう。




××××××××××××××××××××××××××××××××××




……行ったか……


雄叫びをあげながら、

その腐りかけた前脚を前に出しおれを蹴散らそうと迫るエンシェントアンデットドラゴン。



「GUGYAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!」



エンシェントアンデットドラゴンの魔力を乗せた咆哮と質量が迫る。


【終焉の間】はかなり広く、

崩れた柱の残骸などが散らばり障害物も多い。


おれは長年の経験とスキルを駆使して障害物を避けながらエンシェントアンデットドラゴンとの距離を詰める。


「うぉぉおおおおぉぉおぉ!!!!!」


長年一緒に駆け抜けた相棒である バスターソードを構え特攻する。


戦儛技ー【首刈(クビカリ)


エンシェントアンデットドラゴンの踏み出した前脚に向かって力の限りバスターソードを振り抜く。


青い光を纏ったバスターソードは前脚を首に見たててそれを刈り取らんと迫るが、

腐った肉を切り裂く感触の先にある巨大な骨に弾かれた。

腐った肉こそ切り裂けても、骨はレベルの差がありすぎて届かなかった。


「ぐおぉぉっ!?…ッ……クソ硬てぇ…」


突進してくるエンシェントアンデットドラゴンに轢かれない様に咄嗟に横に跳ぶが弾かれた衝撃で両腕に力が入らない。


(これが…圧倒的なレベルの差だと言うのか…)


決して敵わない敵を前にしてローランドは退路を探す為に距離を取りながら僅かに意識を逸らした。


転移魔法陣の光は既に消えた。


内部から脱出したければあのエンシェントアンデットドラゴンを倒さなければならない。


既に転移魔法陣の魔力はさっきのカナデの転移で使い切り今は待機状態。


次の発動はエンシェントアンデットドラゴンを倒すか、外部から誰かが侵入するのみ。


倒すのはもちろん却下、と言うより不可能だ…


長年の勘が戦い続ければ確実に死ぬと伝えてくる。


あたりに散らばる障害物に身を隠してもアンデット系の魔物が使うであろう魔力探知で直ぐにバレる。


だが、もとよりローランドは魔力を殆ど持たない人間である、今まではコンプレックスであり嫌だったが今だけはありがたい。


エンシェントアンデットドラゴンの目とも言える部位に捉えられる可能性が低いのだから。


だがそれでもエンシェントアンデットドラゴン程高位のアンデットの探知から完全に姿を隠せ仰せるとは思わない。


よって障害物長時間隠れるのも却下となる。


先ほども言った通り【終焉の間】は広い。

四方が300m以上もある部屋であり巨大な玉座が扉と対極の場所にある。


因みにこの扉は開く事はない。


扉の前の転移魔法陣が3階層のボスの間から階段を降りた所にある転移魔法陣や各階層の転移魔法陣と繋がっているからだ。


だがトラップの強制転移以外では上から下には飛べない。


下から上になら可能だが。

それは相手を倒せたらの話だ。




(玉座の裏…行けるか?)


エンシェントアンデットドラゴンがおれに照準を合わせ大きな口を開く。


まずい!と思った瞬間、エンシェントアンデットドラゴンの口に禍々しい炎が渦巻き放たれた。


骸古龍の吐息エンシェントアンデットドラゴンブレス】が一つ。



ー【腐敗の吐息(フォイルニス・ブレス)】ー



身体に纏う地獄の炎と同じ黒い炎が方向性を持っておれを焼き尽くそうと迫る。


おれは死に物狂いでスキルを発動させた。


スキル【天翔脚(テンショウキャク)】発動


筋肉に覆われた身体が羽の様に軽くなり、

天をも駆け抜けられるような力が身体中を駆け巡る。


その効果は単純ゆえに強力であるが、

そのスキルを持ってしてもエンシェントアンデットドラゴンのブレスから完全に逃れ切る事は叶わなかった。


左の肘から下、

痛みに腕を見れば黒い炎が纏わり付き、

燃えた場所から腐っていく。



「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


くそ、【腐敗の吐息(フォイルニス・ブレス)】かッ!?


腐敗の吐息(フォイルニス・ブレス)】の効果は単純明快、

ブレスの範囲内の対象を腐敗させる事。


これはまずい、おれは直ぐに右手に握ったバスターソードで肘から下を切り落とし、

回復薬を取り出し口で蓋を開け飲み干す。


自分の身体を切り裂く事に強烈な拒否反応を起こしショックで心臓が止まりそうになるが精神力で堪える。


久方ぶりの激痛で脂汗の様な液体が身体からドバドバと溢れ出すのを感じる…


暫くすれば左腕の傷口ぐらいは塞がるだろう。


だが、まずいな、もう威力の乗った攻撃は出来ない。


「序盤からいきなりこれか…くそっ…詰んだか?」


先に逝った仲間が呼んでいるのかもしれない。


俺はもう用済みなのか?


これは神の定めた運命なのか?


カナデと会ったのは最後の幸運だったのか?


「ハッ!笑わせんな!おれはローランド!腐った奴の仲間入りなんかごめんだ!!」


ローランドは気が付かないが、

【強者に抗う者】の輝きが増していた。


バスターソードを握った片手を前に突き出す。


ローランドはこんな所で死ぬつもりなど無かったのだ。


カナデは助けにくると、そう思い疑っていない。


ローランドは人を疑うのが好きじゃなかった。


それは誰かに裏切られても変わる事なく自分の心の中で1本の柱として聳えていた。


それがローランド誇りの1つ(・・)であり、

そしてたった1つ(・・・・・)の誇りでもあった。



ローランドは魔法を使えない。


それは別段おかしな事ではない。


だがローランドは冒険者だった。


力が1番必要な職業であり、

そこで魔法が全く使えないと言うのはどちらかといえばマイナス要素が大きかったのだ。


故に努力した。



ローランドには確たる才能は無かった。


故に努力した。


今でこそ剣術の技術だけなら一流の剣士と呼べる辺りまで達したが、

かつては並の剣士から頭一つ飛び出た程度。


同じ実力者は探せば見つかるくらいの冒険者であった。


それが変わったのはあの事件があった日からかもしれない、

おれが【強者に抗う者】を手に入れた日であった。


貴族の依頼で2つのクランが合同で魔物を倒しに遠征に赴いた時に起きた、とある事件。


生き残ったのは両クランの1人づつだった。

そんな事件。

おれはそれから魔物を倒すのをメインにしたもう1人とは違い、

技術をひたすらに磨いた。


満たされる様な感覚が身体を襲い、

全身の力が漲る現象は魔物との先頭が減った事により少なくなったが、

技術だけなら今のBランク冒険者とも互角には戦えるはずだ。


バスターソードを握りしめ体内にあるほんのわずかな魔力を纏わせる。


古には全ての戦士が使えたと言うらしいが、英雄譚の英雄を最後に修得者は消えさった。


今使える者は独学で辿り着いたか奇跡的に習得したか、

それか遺跡の書物に書いてあったヒントから辿り着いたか者の3通りくらいしかないだろう。

多分両手で数えられるほどの人数しか居ない筈だ。


ローランドも剣術修行中にその噂を聞き、

それから数年後にダンジョンでたまたま見つけた隠し部屋に置かれた書物から知った技術であり、

習得するのに5年はかかった物である。


そういえばこの技はカナデには見せる機会が無かった話だった。


そう思いおれは僅かに口角を吊り上げる、

帰った時にする事が出来たからだ。


今はほんの少しのきっかけでも力になる。


バスターソードは薄っすらと発光しはじめる。


技の名前は分からない、

おれが名前をつけるとすれば【魔装剣】と言った所だろうか。


おれはスキルを使う。

身体が軽くなりエンシェントアンデットドラゴンとの距離を一息に駆け抜け、

空いた距離を潰す。


「オラァァァァァァ!!!」


片腕で強く握りしめたバスターソードでエンシェントアンデットドラゴンを斬りつけ。


斬りつけ。


斬りつける。


最初に斬りつけた前脚の傷、

そこに正確に、何度も何度も。


やっと露出した骨にもひたすらにバスターソードを突き立てる。


エンシェントアンデットドラゴンの動きは腐った肉が阻害してかなり遅い。


腕の一振りからなにまで全てが速度にのるまで相当ゆるいのだ。

華麗な戦いはおれには向いてない。


泥臭くてもいい、這いつくばってでも。


それで戦う事が出来るなら。


何度もエンシェントアンデットドラゴンの爪が迫り身体を傷つけていく。


その度に紙一重で後ろに回避し再びスキルで接近する。


それを精神力の続く限り続け、バスターソードに纏った魔力が切れればポーチの魔力回復薬(マナポーション)を飲み、


体力が切れれば体力回復薬(スタミナポーション)を飲む。


傷からの出血が激しければ回復薬(ポーション)を飲み、目の前の敵をひたすらに斬り続けた。




××××××××××××××××××××××××××××××××××




「……ゴポッ…ぐっ……はぁ…はぁ……うぅッ………」


一体何日が経った?


口から溢れた血は地面にブチまけられ綺麗な薔薇の華を咲かせている。


身体中に付着した自分の血やエンシェントアンデットドラゴンの腐った肉は乾燥して張り付き、関節の動きを阻害してくる。


既に回復系のポーションの在庫は切れかかってきている。


切れかけてからは特に回避と自然回復を優先しているが、

ポーチに入っている保存食もあと1週間持てば良い方だろう。


精神力は既に崩れかけていて、

寝不足で集中出来ず時折頭がクラクラとする。


たまに玉座の裏で息をひそめる事もあるが、

エンシェントアンデットドラゴンの感度の高い感知にかかり暫くすればバレる為に一息つく程度の休息が限度だ。


(ァ…ガ…………まだ…だっ……まだだ!!)


敵の姿がボヤけてきた、既に敵の攻撃は殆ど【第六感(シックスセンス)】と経験で避けている。


生憎とエンシェントアンデットドラゴンの攻撃はノロい物が多いのが幸いと言った所か。


生前と違い肉が腐っているからだろうと推測する。


動き回ったせいでさらに肉の腐敗が早まってきているし、


ブレスで室内の温度が上がりそれもエンシェントアンデットドラゴンの腐敗を早めている。


動く度に肉が飛び散り辺りを汚す。


おれは今まで集中的に一箇所を斬りつけていた。


そうするうちに最初から切り続けていた脚の骨が欠けていく様になった。


斬りつければ斬りつけるだけ肉が削ぎ落とされる。


倒せはしないだろうが、逆に倒されてもいない。


だが、


(一発でも攻撃を受ければ…死ぬ…)




「格下に手こずってさぞ屈辱だろう…


いつまで持つか、勝負と行くか。」



そう思いバスターソードを構えた時、





唯一の転移魔法陣が光を放ち…





懐かしい声が聞こえた。







「助けにきたぜ。…ローランドのおっさん」




おれはその声の方向に振り返る。



まだ会ってそんなに経っていないというのに、

あいつは約束をまもってくれた。



そこに立っていたあいつは、

返り血で血塗れになっていて、

まるで捨てられた子犬の様に見えた。




カナデのその軽い口調は言葉とは反対に、

一言では語りきれないほど複雑な感情と、

おれに対する確かな気遣いと生きていた事に対する安堵感が感じ取れた。



「………がはっ…ははっ………待ってたぜ…


…カナデ…」




××××××××××××××××××××××××××××××××××




諦めない心が引き寄せた…


奇跡。


カナデがこの"不完全"な世界(・・)の一端に干渉した最初の事例。






【SideOut】




人族ヒューマン[lv:21]』 :【剣士(ソードマン)】【盗人(シーフ)


ローランド


必要経験値/規定経験値:400/2200


能力(スキル):【天翔脚(テンショウキャク)】【剣術補正:中】【活性術】

第六感(シックスセンス)】【解除】

【強者に抗う者】










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