75話≫〔修正版〕
【アイゼントSide】
我の視線の斜め前には我がトリステイン王国の国王、アイゼント・ノイン・トリステインが玉座から身を乗り出し疲労で充血した目を更に見開いていた。
「まだ見つからないのか!」
「お、お許しください王よ…」
どうした事か、我が父上は最近ピリピリしておる。
やはり【黒髪の英雄】が中々見つからないからだろうか、
我が目の前では伝令の者が父上の小言を頂戴している。
とんだとばっちりであるが仕方あるまい。
我とてとばっちりはごめんだからな。
あの【ロヴィスキィの惨劇】とよばれるダストファングバードとの戦いで絶望の窮地に現れた黒髪の青年は、
圧倒的な魔法と驚異の速度と威力の戦儛技によって相手を息つく間もなく倒し忽然と姿を消した。
我も個人的にあってみたいものだが、家臣や王は危険性が高いと見ている。
まぁ数万の軍勢とタメを張れるダストファングバードを倒すのだ、危険な存在だろう。
だが、あの場で退いた黒髪の青年の顔は何処か焦ったような…
何と言うか我々を避けて通ろうとしているように見えた。
まるで国家という物に付く事で発生する争いを避けるように。
巨大な権力とは自分達の身に余る余所者を理由を付けて排除するのが大好きな物である。
やはり黒髪の青年もその事を憂慮していたのであろう。
その様な危険分子をほおっておくと王国としては非常にマズイ。
その者が帝国に流れてしまったら王国存亡の危機、
その者が本物の危険分子であっても王国存亡の危機。
となると最後は一つ、黒髪の青年の人間性に賭けるしか無いのだ。
そうして今現在も捜索隊が【深淵の密林】やロヴィスキィ村周辺に派遣されているが、
森で魔物に追い返されたりして散々な結果だと父上から聞いた。
だが有益な情報も手に入っているようだ。
ゴブリンの大規模な集落が2つも、
冒険者ギルドに通達無しでー別に違反ではないー壊滅していたり、
ロヴィスキィ村の少年と少女がゴブリンから助けてもらい、食事をご馳走した。
などという情報も聞き込みで得た。
特に後者は既に接触した事があったと聞き、
その事に付いては父上は相当しっかりと調査したらしい。
結果としてその情報を手に入れた王国は絶対にとは言わないがある程度の余裕を得た。
聞き込みによる結果から黒髪の青年の名はカナデ、
そして人格に問題は見られず、むしろ王国にとって益のある人間ではないか?
と、判断された。
まぁそれでも我が父上こと国王は黒髪の青年が帝国に流れる事を恐れ、あそこまで血走っておるのだが…
そしてさらにもう1つ、我や父上も近くの村の被害を覚悟していた芋虫が凶暴化する日、
肉食の日。
その日、村に向かっていたであろう芋虫が大群で氷漬けになっているのが発見された。
そう、氷漬けだ。これが興味深い
ダストファングバードを倒した時黒髪の青年が使った魔法も"氷属性"の魔法だった。
やはり間違いないだろう、黒髪の青年はダストファングバードとの戦いより前から、我々を影ながら助けていたのだ。
だがこの集められた情報の後の足取りが掴めておらず、難航していた。
(どうしたものか…)
そういえば、我は自らが個人的に親交のある近衛騎士を従者を使い呼び寄せていた。
鎧を着ているのに音を鳴らさずに走り寄ってくる1人の女性。
我の前で立ち止まり、片膝を地面に付け、騎士の礼をするその女性は近衛騎士の甲冑を纏っていた。
「王子、エリザベス・フレニドール只今参りました」
白銀の鎧を身に纏う赤髪赤目の女性。
トリステイン王国近衛騎士団、
その近衛騎士団のトップに君臨し王族の護衛も務めるのが、
団長エリザベス・フレニドール
赤に輝く髪は肩甲骨あたりまで伸び、
赤色の瞳はひたすら武を突き進んできた事が伺える純粋な輝きを放っていた。
魔法も魔術師級。剣術も最高峰。
我が王国が誇る【護国八剣】の一角、
序列四位【双麗剣魔】。
そして腰に刺す剣は、
彼女がオーガキングを殺した時に腹から出てきたとされる【鬼剣ヴィラヴェン】。
ダストファングバードの時に出張った精鋭兵士30人が最初から全力を出して同時にかかり、やっと拮抗できると言われる、
剣と魔法を完璧に扱う近衛騎士団最強の戦士。
「近衛騎士から数人借りたいのだが…暇な奴はいるか?」
因みにエリザベスや他数人の団員の騎士は多少所属が違うが、基本的な近衛の騎士はロイヤルナイツと呼ばれている。
まぁ、大まかな分類ではエリザベスもロイヤルナイツの団長なのだが。
「修練中の騎士なら数人…しかし何にお使いですか?」
エリザベスは怪訝な顔をしている。
まぁエリザベスならば武人であるし口は硬い…話しても良いだろう。
「我は直々に黒髪の英雄を探しに行こうと思ってな。顔もみているし、そう時間はかからない筈だ。だから近衛を護衛につけたいのだ」
「な、なるほど!」
エリザベスは戦う事が好きな部類の人間である為、強い人間が王城にくると良く試合を持ちかけている。
所謂戦闘狂、バトルジャンキーと言う者である。
もちろんエリザベスはその者達には今の所無敗である。
王城に来た強い人間、まぁ王城にこれる身分の物達は皆エリザベスの餌食となっているのである。
騎士団長がそれで良いのか?とも思った時期もあるが、【護国八剣】でまともな人間が少ない事を思い出し諦めた。
もちろん我はまともな部類だ。
だからエリザベスは【黒髪の英雄】を連れてこれたらすぐさま試合を申し込むだろうな。
なんやかんやあり、エリザベスは快く近衛を数人手配してくれた。
それに父上に許可を取りに行ったが、やはり人手が欲しかったのか、直ぐに許可をもらう事が出来たのである。
我は第2王子故、第1王子の様に城に強く縛られる必要はないのだ。
だからと言って出歩いて言いわけではないがそこらへんの弁解は割愛する。
それにしてもエリザベスが派遣してきた近衛の騎士は男と女の1人ずつだった。
あまり多く連れて行くと目立つらしい。
わ、我もそう思っておった…
男の騎士は青髪を短く切り揃えていて精悍な顔立ちだが、
口元に張り付いた笑みがそれを台無しにしており、更に唇には赤い口紅が塗られていた。
顔は良いのに…女がよりつかなさそうだ…
精神的な面でまず男かどうか怪しかった。
女の方は水色の髪を腰まで伸ばした切れ目の女性。
やはり近衛とあって相当な美人だと思ったが、無表情すぎて怖い。
表情筋が死んでいるかのように無表情であった。
なぜエリザベスはこんな部下をよこした?
「近衛騎士団隊員、ナフタ・レイ・プレイドラです。只今貴殿の元へ参りました。王子よ…今日も惚れ惚れするお顔で…」
うふ。そんな擬音が聞こえた…
我は震え上がる魂を押さえつけ隣の女にも自己紹介を促した。
「……近衛騎士団………アイラ・マグザヴェル……見参…」
そして我は頭を抱えた。
なぜ我が王国が誇る【王国三大兵団】の一角である近衛騎士団にゲイがいるのだ…
そしてもう1人は明らかに会話の成り立たない人間では我は何をすれば良いのだ…
このゲイの男を頼れと言うのか…
我の叫びは声に出る事なく心の奥に響き、反響し、消えて行った。
だがお供が変わる事などなく、
仕方なく我が気になった報告を頼りに巨鳥部隊の兵舎の元へ、
特徴のある2人の近衛騎士を連れて向かった。
【SideOut】
『人族[lv:30]』 :【王子】/【剣士】/
【炎魔法使い】
アイゼント・ノイン・トリステイン
必要経験値/規定経験値:860/2900
能力:【剣術補正:強】【体力補正:中】
【物品分析】【魔法操作:弱】
【魔法命中率:中】【威圧】
称号:【護国八剣】序列八位【剣聖王子】
加護:炎神へスティナの加護




