71話≫〔修正版〕
よろしくお願いします。
俺はソラと周囲を警戒しながら薄暗い階段をゆっくりと下っていた。
今まで下層に降りる為の通路に魔物は出てこなかったが、イレギュラーと言うのはどこにでもつきまとう物だ。
油断など出来ない。
俺が今から向かう3階層はボス級魔物としてBランク魔物が出るらしい。
3階層のボスの適性ランクは、少人数のBランクの冒険者やパーティやBランク個人の冒険者だが、Bより上の冒険者は数がかなり少ない癖に個性が強く、あまり徒党を組む事が無い。
それが理由でBランクでもしょっちゅう死ぬ為、ランクが高い人が少ないのだが…
そういう理由があってか、高ランクの個人の冒険者はダンジョンと言う物自体にあまり潜らないらしい。
だからこの3階層は大人数のCランク冒険者のクランなBランクの個人が数人まとまってくる以外は人が来ない魔物の巣窟らしい。
一応これはビックワームに食われかけてた4人組みがくっちゃべってた情報の断片を纏めただけなので信憑性や情報の確実性には欠けるが。
そうこうしている内に階段で魔物に遭遇する事なく、俺とソラは3階層に突入する。
だが、扉を踏み越え通路に入った瞬間、【野生の本能】が最大の警鐘をならした。
咄嗟に上方に気配を感じ、地面に転がったが、背中を強く殴られたようで肺から空気が押し出され息をするのが辛い。
「……ぐっ…がはっ…………」
「……あるじっ!?…………」
ソラは俺の後ろについてきた為か被害はなかったようだが、切羽詰まった声が聞こえる。
あ、俺を心配しているのか。
直ぐにスキル【超回復】と【弱点解析】と【予測の眼】を同時発動する。
手札を出し渋っている状況ではない。
僅かに顔を挙げると天井に張り巡らされたツタを掴む大きな猿のようなシルエットが見えた。
直ぐに解析で出てきた敵のステータスを覗く。
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[軍巨猿]lv:26
[解説]
基本的に2匹で行動し群れが合わさるとどんどん2の倍数で増えていく
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体長は2mを越え、
盛り上がった筋肉のついた巨大な2本の腕は先程俺の背を殴る事に使ったのであろう。
その腕から視線を移せば見える胴は、
金属のような赤銅色の毛に覆われていて簡単に剣を通す事は難しそうだ。
そして目立つのはその拳。
武器こそ持たないがその手の甲はまるで岩のようにゴツゴツしているガントレットの様に見える。
スキルがビックアーミーモンキーの頭部を赤く光らせ、俺に弱点を知らせた。
(この魔物が3階層の主流の魔物なのか!?)
…だとしたらロゼッタさん達が言っていた3階層からの魔物の強さが異常すぎると言うのも納得できる…
………ガリッ……
後ず去れば足元から聞こえてくる何かを踏む音。
それに僅かに目を移せば、周りに広がるのは沢山の人骨。
多分ここで待ち伏せを食らいなす術なく殺されて行った冒険者の山だろう。
そうなると一回ここまで来た【ピアロマイアスの麗槍】のメンバーはレベル以上の実力者集団だった訳か。
そして、ビックアーミーモンキーの数は2匹、こればっかりは運が良いとしか言いようがない。
突如、発動していたスキルが反応した。
〈左右から2体に殴られる〉
それと同時に【野生の本能】が警鐘をならすのを聞きながら、
俺は咄嗟にスキル【全属性魔法】を発動
岩属性下位盾魔法発動
更にもう一度、岩属性下位盾魔法発動
「【岩の双盾】!」
左右から両拳を振り上げながら迫るビックアーミーモンキーに、俺は近くに居たソラの手き俺と敵を阻む様にして生まれた盾の内側に引き込んだ。
いきなり自分の目の前に出来た岩の壁に驚愕し、ひたすらに壁を殴るビックアーミーモンキーに知能がそこまで高くない様だと判断したが、やはり猿。
すぐに油断する事は出来なかった。
「…私のレベルでは3階層は確実に無理です。主」
確かにこれじゃあダメだな…
おっさん助ける前に俺が死ぬ可能性の方が高くなった。
「ソラの言う通りだ…ここは引くし…ッ!?」
その時、右側の岩の盾がボロボロと崩れ去った。
その先には赤い魔力の残滓を残すビックアーミーモンキーの拳が見える。
(まさかっ…戦舞技で砕いたのかっ!)
そして追い打ちをかけるように左の盾も同じくビックアーミーモンキーの戦舞技で砕かれたのが見えた。
戦舞技ー【殴打】
それは鋼を纏った5発の拳は同じ所にひたすら打ち込まれ、4発目で魔力でできた岩の盾を砕いた。
その戦舞技の最後の1発が狙うのは左右のビックアーミーモンキーに挟まれる2人の人間。
久しぶりに来た人間にビックアーミーモンキー達の殺戮衝動は全力で答えた。
左右から同時に繰り出される拳は俺とソラのわき腹に1発づつめり込み、ソラは一撃で赤黒い血に戻り壁に血が撒き散らされ、俺はソラと逆の方向の壁に叩きつけられ盛大に血を吐き、地面に倒れ伏した。
「…ガハッ…………」
殴られる瞬間に【予測の眼】で拳の起動を予測し、衝撃を殺す為に後ろに下がったが、
その後に壁に半身を叩きつけられた為か左腕に力が入らない。
2体のビックアーミーモンキーは自分の勝利を確信し、悠々と歩いてくる。
朦朧としてくる意識の中、ソラの発動を解除する。
戻ってきた血により僅かに晴れた意識で俺は考え、ビックアーミーモンキーの隙を突きスキル【超回復】を発動した。
そして腕と脇腹のダメージを回復させるが、ここに敵の増援が来たら確実に死ぬ。
こいつらの阿吽の呼吸とも言える連携は厄介すぎる。
それに何回も拳を受けて回復できるわけでもないし、これ以上敵が増える前にこいつらを倒すか動きを止めるかして2階層まで戻らなきゃ、下に転がる骨の仲間入りだ。
各、ボスの間には4階層以外の出口にダンジョンの外に直通で繋がる転移魔法陣がおいてある。
これはボスを倒すと使用する事ができ、
まだ俺がサイクロプスを倒してから5分も経っていない。
他の冒険者はまだ来ていないはずだし、転移魔法陣も起動している筈だ。
俺はスキル【粘糸精製】を発動させる。
俺の手の平の中心から勢い良く糸が発射され、人間のその行動が予想外だったのか、ビックアーミーモンキー達の反応は遅れた。
粘着性の糸はビックアーミーモンキー達の足を絡め取り動きを一瞬固定させた。
俺はそのまま逃げる為に魔法を発動した。
スキル【全属性魔法】を発動
炎属性下位槍魔法発動
動きを止めたビックアーミーモンキーの足元に狙いを定め発動キーを唱える。
「【炎の槍】!!」
その炎の槍はビックアーミーモンキー達の足元に着弾、そして炸裂して辺りに爆風と熱風を撒き散らした。
そしてあたりは巻き上げられた砂埃や煙で視界が悪くなり俺はそこで手から伸びた糸を切り入ってきた来た扉に向かってひたすら走った。
分かった事がある。
1つ、同じランクの魔物でも徒党を組んだ相手には油断するな。
1つ、外界より迷宮に棲む魔物の方が強く、それは高いランクの魔物程顕著である。
それは常夜地帯と同じく常に日の光が入らない魔の領域だからなのかもしれない。
1つ、俺の実力はまだこの世界のトータルの半ばにすら達していない。
俺は自惚れていたのかもしれない。
夢見ていたのかもしれない。
ダストファングバードを倒せた自分が強いのだと。
よく思い出せばあのダストファングバードの体表面は傷だらけだったにも関わらず。
【SideOut】
『半人族[lv:25]』 :【剣士】/【戦舞技師】/【全属性魔術師】
雪埜 奏
取得経験値/必要経験値:1600/2600
能力:【戦舞技補正:強】【鈍感:中】
【剣術補正:強】【魔力探知:中】【体力補正:強】
【解析の眼】【弱点解析】【縛りの咆哮】
【野生の本能】【下克上】【全属性魔法】
【魔力量増大:中】【隠密】【暗視】【魅了】
【砂塵の爪甲】【魔法操作:中】【思考加速】
【瞬間移動】【予測の眼】【血人形】
【下位従属】【魔法威力補正:中】
【魔法命中率:中】【超回復】
【粘糸精製】
残存Point:[3]
加護:なし
称号:【魂を鎮める者】
ダストファングバードは体表面の傷が多く、
タイミング良く砂を纏っていなかった。
カナデの魔法は凝縮され、
最後の一太刀は、顔を真っ二つにして氷ごと砕いた。




