5話≫〔統合版〕
修正版。
修正版→全体の表現や描写を詳しく書き、肉付けしました。
よろしくお願いします
13〜15話の統合
数日が過ぎて、
今日はこの世界で俺が目が覚ましてから5日目の朝
前回のゴブリンとの戦闘から3日が経った
もちろんこの3日間は何もしていなかったと言うわけでは無い、
ここら辺一帯を歩き回って色々なことを調べていたのだ。
まずは3日間で得た事を軽く説明して行こうと思う
ゴブリンが芋虫を囲んでいた広場から更に進んだ所で、
俺は周囲に生えていた少し周囲と違う数本の樹木を見つけた。
そしてその木の上を見たら…
なんと実がなっていたのだ。
まず2日目に悩んでいた食糧問題がこれで一先ず食べ物と言う物が確保出来た。
そう、それが最初に見つけた食材候補の1つ
リンゴモドキ
リンゴに非常によく似ているのに紫色でピンクの斑点のある何とも言えない色合い
まさしく狙ってるとしか思えない色合いだ
試しに気が乗らないが生きる為なので仕方なく、
たまたま遭遇した1匹の芋虫をターゲットにして、目の前に放り投げて食べるかどうか実験してみる事にしたのだが、
芋虫は最初こそいきなり飛んできたリンゴモドキに警戒してその場を離れようとしていたが、
次第に罠では無いと判断したのか、
やがてその複眼でリンゴモドキを凝視した後に恐る恐ると言った雰囲気で噛り付き、
ゆっくりと咀嚼しはじめた。
もしゃもしゃもしゃ…
これだけ見ていれば3日前の芋虫のバイオ的な何かなど忘れ去ってしまいそうだが
直ぐにバイオの怖さを思い出し自制する。
そして数十秒にわたり
美味しそうにもぐもぐしていたので俺も手にもっていたもう一つのリンゴモドキを齧ろうとした時、ドサリと音がした。
ギギギギ…
と擬音がつきそうな程ゆっくりと視線をリンゴモドキから外すと、
茂みの向こうでは先ほどまで元気にリンゴモドキを咀嚼していた芋虫がピクピクと痙攣し、
数秒後にはひっくり返り、生き絶えたのかゆっくり弛緩していった…。
ビクッ!
…え?
ピクッ…
……ちょ…
…ピクピク…
………これは昆虫が死後によくやるピクピク現象ですか?
うそだ、そんな、まさかと思い慌ててステータスを開く
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『半人族[lv:4]』 :【剣士】
雪埜 奏
内包経験値/必要規定経験値:460/500
能力:【戦舞技補正:強】
【鈍感:中】【剣術補正:弱】
加護:なし
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ステータスを開けば分かっては居たがすこしいたたまれない気持ちになってくる。
知らぬ間に経験値に入っていた芋虫、
こういう経験値の獲得方法もあるのか…
もちろん実践する気はない。
ここまでやったら外道の極みな気がするし、
強い魔物には効かなさそうで直ぐにやられてしまいそうだ。
もし口元まで持ってきていたリンゴモドキを俺が食べてたら…
と思うと身体中に鳥肌がたってきた。
こればっかりはあの恐怖の芋虫に感謝しよう。
実験なんかに使ってしまったが、
結果的にリンゴモドキにリンゴモドキには遅効性のかなり強力な毒性があったも言うことが判明した。
それに芋虫を間接的に毒で倒した場合にも
経験値はしっかりと入っていたのだ。
これで敵は間接的に倒そうとも経験値が入る事までもが偶然にも判明した…
気を取り直して別の食糧を探す事して、
更に歩くこと1時間程度、
周囲を入念に探索していると今度は、
木に巻き付く蔦に実がついているのを発見したのでよく観察してみる。
その実はキウイフルーツの様な形で、
色も茶色く
まさに生前にキウイフルーツと呼ばれていたうましな果物であった。
だが、ここで安心してはいけない。
中には某ぶどう農家の悩み事のように虫のマイハウスと化している可能性も否定出来ないのだ。
俺はおそるおそる中身を割って確かめてみることにした。
絶妙な力加減でその身を割れば中身は鮮血をぶちまけたように赤く、一瞬生き物だったのか!?
なんて思ったが次第に辺りに充満する甘い香りにその可能性は否定された。
結局キウイフルーツと果実の色位しか変わらないこの果物は、
キウイモドキと命名する事にする
ネーミングセンスがない?
気にしない方がいい。
厨2病を経験した人間に言わせればこんな所でいちいち格好つけて
『堕落に導く終焉の………果実ッ!!!』
なんて名付けたとして、
後で色々と大切な何かを失うのは目に見えている。
甘い匂いもする為食べられそうだと思うのだが、もしリンゴモドキを食った芋虫のようにヤヴァイ感じに痙攣し始めたらたまったもんじゃない。
数日後には魔物の餌になるのが関の山。
なので念の為に辺りを見回す。
数百m先に見えた芋虫にゆっくりと近づいて行き気がつかれないように慎重に
芋虫の目の先程中身を確認したキウイモドキの片割れを投げつけてみた。
投げつけてみた所、コントロールがすこしずれてしまったが無事に
………ベチャリ…ズル……
キウイモドキは芋虫の頭の部分にぶつかり嫌な音を立てた。
……あーうん。やっちまったなぁ…
いや、無事な要素は一つもない。
作戦は失敗した。
嫌な擬音がマッチするような当たり方をしたキウイモドキは
芋虫が頭から血を流している様にしか見えなかったな…
芋虫は突然の衝撃に警戒し、
慌てた様子で周囲をキョロキョロしていたが、
やがて周囲に危険は無いと判断したのか、
頭部についたキウイモドキを舐めようと(舌無いけど)
首を(無いけど)頑張ってひねっていた。
やはり弱い魔物だとは思っていたが、それに比例するかの様に知能も相当なバカさを誇る魔物と考えられる。
話を本題に戻すが、
頭部から滑り落ちたキウイモドキの残骸を
芋虫は普通に食べていた事から、
キウイモドキには毒素が無い事を確認できた。
特に無駄な殺傷はする気がないし、リンゴモドキでの負い目もあったので…
もちろんバイオの時の事もあるので油断ではないし牙を向けられれば俺も剣を抜きはなつだろう。
が、今は関係ない。
実験に協力してくれた芋虫に手を振りつつ
俺は生前からの悲願である食料を前にして
溢れ出る感情を頑張って抑制していた。
残った半分のキウイモドキを齧り、咀嚼する
何度も何度も何度も、
噛むたびに口の中に広がる強い酸味、
それに負けず劣らず存在感を主張する
甘みは酸味と絶妙に溶け合い
俺の口の中を蹂躙していた。
噛む事に激痛が走らない…
飲みこむ筋肉の動きが食べる事を拒絶していない…
胃に落ちたキウイモドキは数年振りに俺を満たしてくれた。
食べる事は楽しい、
俺は感情を抑えるのを諦め、解放する事にする。
「うぁっぁぁぁぁあ!!うまいっ!!!
うまい!!うまい!!うまぁぁぁぁい!!」
甘過ぎず、酸っぱ過ぎずの絶妙なバランスを維持した鮮血のように赤い果実は噛むたびに新鮮な甘酸っぱさを届けてくれる。
堪らなくクセになる。
そして纏めてしまえばこの一言で片付いた。
本当に久しぶりにお腹を満たした果物は、
とても瑞々しく、俺の心にも潤いを与えてくれた。
クセになるほどに美味しかった為、
気に巻きついていた蔦になっていたキウイモドキを5個程もぎ取って
ポケットに押し込んでおいた。
後は肉があればこのサバイバル生活は満足度のハードルの低い俺的に満点なのだが…
生で肉を食べると危なそうだし、いまだに小動物を1匹も捉える事が出来ていない。
今は知らないが、
生前の基準で行くと、生は却下だ。
どうにかして火を確保出来るまでは肉を食べるのは難しいかもしれない。
干し肉の作り方とか知らないし、火の調達が可能になるまでは捕まえても腐らせてしまいそうだからな…
そんなもったいない事になるんだったら、
狩らない方が良さそうだな。
それに肉を調達することが出来たとしても
時間が経ち腐らせたのを食べてしまい
密林で食あたりなんかしちゃったらもうジ・エンドだ。
取り敢えず一応の食糧は確保する事に成功したので良しとしよう。
これからも避けられない戦闘の中では傷を追うかも知れない。
なので薬草とかそういった類の野草も、
見つけられるといいかもしれない。
そしてもう一つの重大案件。
それはここら辺一帯に棲息する魔物の種類を調べる事だ。
俺がこの世界で目を覚ましてからは、
やけに巨大な七色の鳥と、
まだ[混沌小鬼]と
[芋虫]の
3種類の魔物しか見ていないし、実際にこの森で見たのはゴブリンと芋虫の2種類だけだ。
他の魔物はまだ見ていないし、この森の中に生息しているのかすら怪しい。
それに魔物の種類を把握することが出来れば、ある程度は安全に眠ることも出来るだろう。
いずれこの森から出る事になっても、この森の事を詳しい情報として調べるのも大事だからな。
そうして俺はまだ見ぬ魔物達を探す事にして、
探索の範囲をすこーしだけ広げる事にした。
××××××××××××××××××××××××××××××××××
俺は捜索範囲を広げて辺りを警戒しながら慎重に探索した。
その結果、カナデしき探索網に引っかかったのは
アンデッド種に属する1体のゾンビだった。
バイオバイオバイオと言っていた俺にバチが当たって世界に細菌が…
なんて思ったが違うみたいで安心した
俺は気がつかれないように
木の影に隠れながら顔だけを覗かせて
ゾンビの様子を伺う事にする
そのゾンビはテンプレな冒険者のデザインにありがちな革製の胸当てを着ていて、
右手には少しだけ汚ならしく汚れた剣を握っている。
髪は肩まで伸びた綺麗な金髪で、生前はさぞ
サラッと髪の毛をなびかせていたのだろう。
顔は目が白くなって舌がだらんと垂れているが、それなりに整っている様に見える。
体はそこまで腐敗が進行していないことから分かるように、
死亡したのはつい最近だな。
ふと視線をゾンビの左手にやった瞬間、
俺は自分のifの未来を見た。
そして究極になんとも言えない気持ちになりました…
ゾンビが左手に持っていた物は…
1口分の齧られた跡がある
リンゴモドキだった。
リンゴのカラーリングを神様がミスったとしか思えない程に全体が警戒色の紫色で、
ピンクの斑点がある明らかに食べちゃいけない事を警告しているあの…芋虫を死に至らしめたヤヴァイ果実
冒険者と言うのは頭があれなのか?
いや、冒険者なのだ、そう言う知識には人一倍達観した物を見せるはずだ。
こいつが、この金髪整顔ゾンビ野郎が例外なのか…
ならばこのゾンビはここに棲息する魔物には分類されなさそうだな。
これはあくまでイレギュラーな事態なのだろう
それにしてもここら辺にも冒険者が来るのだろうか、このゾンビは死語それ程経過していないように見える
近場でリンゴモドキを齧って死んだのか
どこか遠い所でリンゴモドキを齧って、移動中に死に、ここまで歩いてきたのか、
今のなってはゾンビは物言わぬ動く死体だから分からないが、冒険者のゾンビが居るって事はやはり人のいる領域はそこまで遠い所にあるわけではないのかも知れない。
このゾンビが生前は何処かのジャングルの狩猟民族でした、なんて事だったら話は違うが、服装や装備からみてもそれは違うだろう。
ある程度の文明をもち、剣を使うような年代……
嗚呼、中世ファンタジーの世界観しか思い浮かばない自分のファンタジー脳を呪いたいッ!
まあそんな事は置いといて、
もし今森を抜けられたとして、
人に接触出来た場合俺は何をする?
まず情報を得る為に動くだろう。
この、貧弱な身体で
いや、ダメだダメだ。
情報以前に情報を得る為に活動する下地が出来ていないじゃないか…
今の俺の実力はレベルを見る限りでも
この世界の中でかなり低い所に位置するだろう。
まずはレベルをあげないと話にならない…
だけど、レベルを上げる為には戦いを避けることは出来ないし、今置かれた状況が好転するとも思えない。
そして、まずどの方向に進めばこの鬱蒼とした森を抜けることが出来るのか…
それが分からないのだから、どうする事も出来ない、下手に長い距離を移動すれば更に森の奥に行ってしまうかもしれないし、俺が対応出来ないような敵と遭遇してしまうかもしれない。
この世界は魔物を見ていれば何と無く弱肉強食の世界なのだろうと推測される。
今のレベルの状態でこの森を生き抜くのは、大変難しいだろうし、今まで生きているのは奇跡に近いと言っても過言ではない。
取り敢えずノロノロと歩き回る冒険者ゾンビの腰に括り付けられている小さめのポーチが気になった。
もしかしたら何かこれからの生活に有用な物が入っているのかもしれない。
そう思い慎重に観察していたのだが、
冒険者ゾンビはこちらに気がついたのか大きく首を捻らせ俺の方に身体を向けた。
何故だっ!?
足はその場から動かしていない為、
足音は聞こえるはずもない。
気配も極力消していたし、
ゴブリンや芋虫の時は気がつかれなかった筈なのに。
何が奴に俺の存在を気がつかせた?
生きてる人間に反応するとか言うあの眉唾物の馬鹿げた探知能力でもあるのか?
まぁこればっかりは考えていても分からないだろう、
冒険者ゾンビはその考えている間も、
ゆっくりと俺の方に近づいてくる
剣を抜き放ち木の影から飛び出し、
冒険者ゾンビの居る方向に向かって
地面を蹴り距離を詰める
冒険者ゾンビの動きは遅い、
眼球が死んでいる事から、
目が見えている気配も感じられない。
なのにだ、いきなり人体の機動を超越した訳の分からぬ動きで冒険者ゾンビは動き出した
両手を遠心力に任せて振り上げ、
先程の動きからは想像もつかない程の速度で
剣を持った手を振り下ろしてきた。
遠心力に任せた様な強引な振り下ろし、
その直線的な剣筋は簡単に見切る事が出来るが、当たればリミッターの外れた肉体から繰り出される斬撃は高性能なコートに身を包んでいるとは言え簡単に俺を吹き飛ばすだろうし、受け止めるか受け流すかしても技術の足りない今の俺では太刀打ち出来ない。
よって俺は、剣を強く握りしめていた右手の力を解いた
身体を半身に逸らし、最小限の動きで左に回避する。
ブォン!!!
あまりの速度に回避しきれずに
頬を剣が掠めて血が滲む
俺は避けた動きと繋げる様に
軸足を固定、体重を乗せて横薙ぎを繰り出した。
戦舞技を使わずに放つ一撃は初心者にしては上出来と言えた。
回転の速度を乗せた剣は速度によってある程度安定した軌道を描いた。
だが、所詮は初心者の一撃にしては上出来であっただけ。
冒険者ゾンビの革の胸当ての防御を破り切れずに表面にやや深い傷を刻むだけにとどまった。
だが冒険者ゾンビは横薙ぎの衝撃で大きく飛ばされ地面をゴロゴロと転がる
戦舞技を使わない斬撃の威力は
生身の相手なら有効そうだが、
鎧の上からだとまだダメージを与える事は出来ない…
となると、
強い魔物や鎧を着た人間との戦闘では…使い物にならない…か
だけど最初よりかは随分とマシになったと言えるだろう。
俺は立ち上がりの遅い冒険者ゾンビとの距離を一息に詰め、
首を刎ねるために戦舞技を繰り出す。
「…【一閃】!!」
青い燐光を周囲に振り撒きながら
刀身は青い軌跡を残し
冒険者のゾンビの首に吸い込まれて、
おおきく宙を舞った。
戦舞技ー【一閃】
前にゴブリンを両断した時の抜き放つ瞬間だけの発動では無く
しっかりと踏み込み、
技の発動をイメージして剣に体重を乗せる事が出来れば、
剣をどの位置に置いても発動する事が分かっている
血を噴き出す事のない動く死体は
そのまま倒れこむ
体内の何かが溢れだし満ち足りた様な感覚が身体中を駆け巡った。
そして同時に、俺は天命は潰えているのに、なお、人と同じ様に動く死体。
それを手にかけた。
生前の世界に横たわっていた絶対的で不便な法則はこの世界では役に立つ事などなかった。
だが、不思議と手は震える事は無かった
また、生きている物を殺せばこの手は…
この手は震えてくれるのだろうか…
俺は首と胴の離れた死体を横にして
空を仰いでいた。
数分後、俺は行動を再開した。
先程起こった現象
体内の何かが溢れだし満ち足りた様な感覚が身体中を駆け巡ったと言う物。
俺は心当たりを頼りにステータスが浮かび上がるように念じた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
『半人族[lv:5]』 :【剣士】
雪埜 奏
必要経験値/規定経験値:1/600
能力:【戦舞技補正:強】【鈍感:中】
new!【剣術補正:中】
new!【魔力探知:弱】
加護:なし
ーーーーーーーーーーーーーーー
※規定経験値を超えました。
Levelupします。
必要経験値がresetされます。
※1Pointが溜まりました。
【剣術補正:弱】→【剣術補正:中】
脳内に文字が浮かび上がり俺の身体が作り変わった事を知らせる。
作り変わった…
そう、作り変わったのだ。
身体が軽い、気持ちの良い感覚の麻痺を全身が味わっている筈なのに、
脳内麻薬が限界まで役目を果たしてくれている様だ。
そうして、俺はレベルを上げる事に成功した
冒険者のゾンビを倒した事で得られた経験値41。
殺したという事実に反比例するかの様に実りは少なく、このシステムを作った人間の見えない悪意を感じた。
この冒険者ゾンビの装備が革製の胸当てだった事から推測するに、
名の売れた冒険者や有名な冒険者、強力な冒険者には当てはまらないと思われる。
アンデット、特にこの様な生前の姿形を保っているタイプの魔物は、
やはり生前の実力やレベルに依存するのだろうか。
俺はそこでふと、手に握る剣の感覚に違和感を感じた。
強く握る、弱く握る。
剣を一回手から離し、逆の左の手で握ってみる
レベルが上がり身体が作り変わったから?
脳内麻薬やアドレナリンの効果の名残だろうか…
手に持つ剣がほんの少しだけ、
軽くなった気がした。
それに、スキルも強化されたようだ
【剣術補正:弱】だったスキルは
この戦いを経て【剣術補正:中】へと変化した。
どうやらこのスキル【剣術補正:中】はある程度だが、剣の扱いが巧みになった。
剣を両手で持ち、正面に構えながら振り下ろせば、生前にTVで見た様な剣術の達人の程の技量はなくとも、
ある程度の経験者と同党程度に剣を振るう事を可能としたのだ。
剣を扱えば、
筋はぶれる事なく、
流される事は無くなった。
ちなみに【剣術補正:弱】は見てくれはともかく、剣を振る事が出来るようになる程度だと推測される。
そうなると納得だ。
剣すらまともに握ったことのない俺ですら
最初から其れなりに剣を構えることができ、
紛いなりにも戦儛技を発動出来たのだから
まぁ戦舞技を発動する事が出来た理由の一つには大きく【戦舞技補正:強】が関係しているとは思うのだが。
そして新しく手に入れたスキルを見たとき、俺は冒険者ゾンビのとある能力をラーニングしたのだと悟った。
【魔力探知:弱】
このスキルは自分の意思で発動状態と待機状態の、
切り替えが可能だと判明したのだ。
使って分かった事は【魔力探知:弱】での探知範囲は大体半径5m程度だと言う事。
これが、あの冒険者ゾンビが足音を消し、気配を希薄にして尚、俺の存在を認識する事を可能としたスキルだと思われる。
と、なると1つ、気になる事が出てくる。
冒険者ゾンビの魔力探知に引っかかったと思われる俺には…
魔力があるのだろうか?
分からないが、
火を起こしたり水を生み出したりする魔法系のスキルが存在する事なら、
絶対に取得するべきだろう。
それに火や水以外の魔法でも、
護身用として取得する事も考えておけば、
攻撃の選択肢が増える。
そうすれば必然的に生存率の上昇にも繋がるだろうと判断した。
※1Pointが溜まりました。
これは始めて見た表示だ。
俺には意味が理解出来ない為に
何か詳しい事が判明するまでは置いておく事にした。
いずれこのPointと言う物が溜まっていけば、
どういう用途の物かが分かるだろうし、現状問題は無いだろう
うつぶせに倒れ、動かなくなった首無しの冒険者のゾンビ、その腰に括り付けられたポーチをはずした。
ポーチの中に入っていた物は、
黄緑色の液体の入った小瓶が4つと、
赤い液体の入った小瓶が2つ。
そして文字が刻まれている何かの金属で出来たカードが1枚と、
最後に手のひらサイズの鉱石が1つだった。
そして他にも何かを所持して居ないかと冒険者ゾンビを仰向けにしてみる
ゴロン……
…革製の胸当ての上に見えたのは
肩から掛けられた小さな5つの剣帯に、
短剣が3本しまわれていた。
それを丁寧にはずしてゴブリンから手に入れた短剣も刺しこみ、
自分の肩にかける。
黄緑色の液体は回復薬だろうか?
そうすると赤い液体は…何だろうか?
確認する術は何個かある。
まず1つ目はただ単に飲めばいい、だがこれは液体の効力が例えば毒薬だった場合は目も当てられない。
よって俺は消去法でもう1つの方法で確認する事にした。
黄緑色の液体の入っている瓶の蓋を開けて
仰向けになった冒険者のゾンビの肌の露出した場所、腕に一滴だけ垂らす。
これは頼りになるか分からない【異世界wiki(笑)】の情報の検証も兼ねている。
ゾンビの倒し方初級編にあった記述。
そこで記憶した知識でもあり、
俺自身も何回か小説で見た事のある物、
ー回復薬の回復効果はアンデット種のモンスターにダメージを与える事が出来るー
これが回復効果のある液体だった場合、
この冒険者のゾンビは例え動かない状態であろうとも幾らかのダメージを受けるはず。
勿論全部かける、なんて言うのは勿体ない、
そして俺は回復薬と思われる黄緑色の液体を一滴だけ、冒険者ゾンビの腕に垂らした
すると、重力に従って落下した一滴の液体が冒険者ゾンビの腕に当たり弾けた瞬間。
ジュヮァァア
紫色の煙と強烈な腐敗臭を辺りに撒き散らしながら液体の落ちた所がドロドロに溶けて行った
嗅覚が一瞬で麻痺仕掛ける強烈な悪臭と目を焦がす様な紫の煙が立ち上がる
腐った匂いが煙に乗ってもろに呼吸器に入ってしまい肺を刺激する。
思わずむせながら俺はこれが回復薬だと言う事を理解し、【異世界wiki(笑)】の記述が嘘では無い事も同時に証明した。
もちろん全ての記述を信じた訳では無いが、真実か虚実かはいずれ時間が経つに連れて分かって行くことだろう。
赤い液体は今の俺では確かめようが無いし、
どの様な効果をもたらす液体かも分からないので調べるのは保留とした。
俺は瓶に随分と残っている回復薬をまずは一口だけ口に含み舌で味わう
そして思わず吐き出そうになるが我慢し嚥下した。
途轍もなく苦い、まるで草をすり潰し抽出した液体をそのまま瓶に詰め込んだ様な口当たりの最悪な味だった。
だが、効果は折り紙付きであった。
頬の痛みが気が付けば消えていて、紫の煙を吸引した事による肺を侵していた痺れも治まった。
同じく目の僅かな痺れも綺麗に消え去り、身体に溜まっていた疲労も僅かに抜けたような気がした。
もしかするとこの回復薬は傷だけで無く、他の効果も多少含まれているのかも知れない、
そう推測して、実際にそれはあっていたと言える。
俺は軽くなった身体に異常がないか確認し、最後に冒険者ゾンビの握っていた齧りかけのリンゴモドキを、
身体の調子を確かめるのも併せて
森の彼方へと思いっきり投げた。
リンゴモドキは彼方へと消えて行きすぐに見えなくなった。
そうして手に入れた荷物をポーチにしまい直して、この場を後にした
【SideOut】
『半人族[lv:5]』 :【剣士】
雪埜 奏
必要経験値/規定経験値:1/600
能力:【戦舞技補正:強】【鈍感:中】
new!【剣術補正:中】new!【魔力探知:弱】
加護:なし
××××××××××××××××××××××××××××××××××
寝心地は良く無いが意識が覚醒した瞬間の、
一回目の呼吸がとても気持ちいい。
清涼な空気を全身で浴びながら、
朝露に濡れた草が雫を落とす音が森に響き渡る。
目を覚ましてから7日目の朝。
俺は覚醒した意識の次に、身体の覚醒を促す為に手を組んで頭の上に持って行き伸びをした。
「……くぁ〜っ……ふぁぁっ………」
欠伸も生前では激痛ゆえに出来なかった事であり、この世界ではまだ数える程しか出来て居ないが、
欠伸をしながら足をピンと伸ばしてうーんとやるのはとても気持ちいいと言う事を知った。
うん、擬音が入った所為で説明文として成り立っていないな。
何故俺がこのような危険な森で安眠しているか知りたい人も多いだろう。
実際に昨日までは俺も浅い眠りを繰り返し、数時間ごとに起きたり、寝る事すら出来なかった初日の夜の様な事もあった。
だが、新たに手にいれたスキル魔力探知を使う事によって、
魔力を持った存在が範囲内に侵入して来ると、俺の意識が勝手に戦闘状態に近い状態になり自然と意識が覚醒する。
つまり起きる事が出来るのだ。
そして魔力探知によって新たに判明した事が一つ、
それはこの世界の全ての物質は魔力を持っていると言う事だ。
朝露を垂らす草も、朝露の雫も、空気も、
木も、葉も、実も、芋虫もゴブリンも人間も。
例外なく、どんな物でも少なからず魔力を持っているのだ。
勿論、魔力探知に常に全ての魔力反応が写っているのは不便で仕方が無い、だがそこら辺はしっかりと考慮されていた様で、
一度認識した反応、つまり草や木の反応は意図的に消す事が可能だった。
よって俺は森の中でも比較的安全に眠る事が可能になったのだった。
俺は木から飛び降り、
足首の高さまで伸びた自然の草のクッションに足を付けた。
身体の調子は万全だ。
今日も俺は森の中を探検しながら食料を探し、
近辺の森で遭遇する魔物の種類を把握しなければならない。
そうして俺の一日は幕を開ける
××××××××××××××××××××××××××××××××××
今は7日目の昼頃であり、
俺は魔力探知に引っかかった事で先に気がつく事が出来た3匹のゴブリンの後をつけている。
3匹のゴブリンをつけていると、
視界の先に見つけた1匹の芋虫に駆け寄り、
棍棒や剣を力任せに叩きつけて集団で嬲り殺しにしていた。
そして3匹の内の1匹のゴブリンがその死体を引きずり、ゴブリン達は来た道を戻って行った。
(このゴブリン達は…餌をとっているのか?)
そうなると、このゴブリン達の帰る先には今まで見つからなかった何かしらの新しい発見、この場合はゴブリンの拠点となる物を発見することが出来るかもしれない。
死んだ芋虫を引きずるゴブリンをびこうすること数分。
前をみれば先の方に木で作られた柵の様な物が見えた。
俺はそこでゴブリン達の尾行を停止させ、周囲を警戒しながら木に登り、
木々の上を移動することでゴブリンの目を掻い潜った。
柵が見えた時、一瞬だけ人間の集落の可能性も考えて少し気が高まったが、ゴブリンが我が物顔で集落に入ろうとしていた時点で諦めた。
もし人間の集落だったら何かと交換でご飯をご馳走になりたかった。
例えば、用途の分からない拳大の鉱石とか、
回復薬とかね。
まぁここは森の中だ、人間の集落がこんな所にあったとしたらよほど防御のしっかりとした村だったのか
相当強い人が住んでいたのか
何十年もの昔に放棄され、森に呑み込まれた村くらいだろう。
流石に人が居るとは思ってなかったけれども…
多少期待してしまった故にゴブリンの集落だと分かると少しショックだった。
そんな淡い期待はマッハで破られたが、直ぐに気持ちを持ち直し木々の葉の合間から視界の先に広がる集落を見渡す。
既に馴染み深い夜のお供である木の上から
慣れた様子で眼下のゴブリンの集落と思われる場所を観察しているしているのが俺である。
長さの違う木や枝で粗く組まれた木の柵は強い衝撃にはそこまで強いとは思えない
その柵に囲まれている家々は
随分と昔に打ち捨てられたであろう
人間の集落の跡のようだった。
柵の外側にも点々と元々家だったであろう木材の残骸が散乱している事から、
この柵はゴブリンにとって大きかった村を自分たちに合わせた大きさに変える為に、
ゴブリンが作った物であると分かった。
柵の内側に存在する家屋の数は7つ。
そして時折、家の扉や立てかけられた木の板をずらしてゴブリンが出たり入ったりしていた。
「……や…めて…や…め……」
その時だった。
風に乗って女性の弱々しい声が耳に届いたのは…
7つある家の何処かから、
微かに、本当に微かに聞こえるか聞こえないか程度の声、
だが俺の耳には確かに届き、今こうして木の上で立ち上がっていた。
この世界で始めて耳にした女性の声は切羽詰待っているようだが、とても弱々しい僅かな意思しか感じられない声だった。
【異世界wiki(笑)】にもあったし、誰でも知っているテンプレ的なゴブリンの生態の1つに。
ゴブリンは他種族の女性を攫うと言う物がある
それは次代の子供を産ませるためとも言うし、
ただ単に性欲の捌け口にする為だとも言われている。
ゴブリンにとって他種族を犯す事は、
人間で言う麻薬を打つのと同じだと言われ、
一度他種族の女性の味を知ってしまったゴブリンは人里に頻繁に降りて来るようになるのだ。
そうしてゴブリンに捕らえられてしまった女性は、
その一生をゴブリンを生む為だけに犯され続けるのだ…
そうしていくうちに捕まった女性達は心が壊れ、
人形のような存在に成り果てると言うのだ。
俺は、例え関係の無い人でも、目の前で困っている人を見捨てられるほど達観した思考を持つ事が出来なかった。
俺は、やっぱり偽善者なのかもしれない。
全くもって醜く、愚か。
俺は所詮、檻で育った何も知らない日和見患者でしかなく、これだけの不確定要素を孕んだこの状況で、
感情のままに暴走してしまった。
病室で読んだ小説の主人公の正義漢な性格を罵倒していた俺は結局、
少し力があると言うだけで賢い生き方をしようとせずに、愚行に走る、
そんな意味の無い非生産的な事を俺は今からしようと思う。
俺を囲んだゴブリンの歪んだ笑顔が頭に浮かぶ、
芋虫を虐殺しようとしていたゴブリンの優越感に浸ったような顔が頭に浮かぶ、
何故、命ある物にそこまで残虐な事が出来るんだ?
ゴブリンは人間から理性を抜いたような生き物だと良く言われる。
食欲、
性欲、
嗜虐、
野蛮、
人間の根底にある要素しか持たない種族。
そこまで考えた時、
俺の足はすでに木を蹴り、
胴体は宙に躍り出していた。
俺はこの集落のゴブリンを殲滅する事を決め、
それを行動に移す事にした。
これは本当に都合の良い事、
俺も心では分かっている。
どこまで俺は日和見な人間なのだろう。
だが同時にこうも思う。
まだ俺の根底には前世と言う、
人間として生活して来た、
人間として自我があるのだと言う事を。
半分しか人間ではないこの身体、
もちろん俺という存在の残りの半分を形成する物質が何なのかは分からないが、
でも、心だけはいつまでも人間でいたかったのだ。
だけどどんな事を考えていようとも、
一度表層に出てきた怒りは収まるまで相当の時間を要するか、
怒りの要因を駆逐しなければならない。
まるで子供の癇癪のように幼く、幼稚に、
俺は癇癪の原因に向う。
宙に放り出した身体を調整しつつ柵の入り口を見張っていた2匹のゴブリンの首を、
「……………フッ!!…」
「「ギ………」」
声を出させる前に撥ねた。
スキルが【剣術補正:中】になったことで、
防具をつけていない生身のゴブリン程度なら、
今の俺でも切り殺せた。
次は怒りと反比例する様に、冷めて視野の広くなった感覚に従い、入り口に1番近い家の扉を前蹴りでブチ破り、中に一歩踏み込む。
そこには薄汚い頭まで隠れたローブを被ったゴブリンが5匹、
狭い家に固まるようにして立ち尽くしていた。
ゴブリン達はいきなりの事に反応出来ず、
ただ俺の方を呆然と見ていた。
部屋の端には汚らしく汚れているが、明らかに人間の手で作られたと思われるロッドや杖がたてかけてあった。
ゴブリン達の装備をみる限りは剣や短剣などの刃物は見当たらない
その特徴から大まかな分類を判断すれば、魔法を使うゴブリン、
[混沌魔法鬼]と言った所か。
硬直から抜け出し、ロッドや杖を手に取ろうと動き出したゴブリンの動きを止める為、
俺は戦舞技を発動する。
「【蒼斜一閃】…ッ!!」
次の瞬間、扉と反対側の壁を視界いっぱいに収めながら、
一瞬でゴブリンの背後に回った俺は、
背後で5つの胴が宙を舞い、
地に落ちる音を聞いた。
数日前の狂う様に押し寄せていた吐き気は既になく、胃が軽く引き締まるだけの反応しか無い。
やはり人間とはどの様な事でもいずれ慣れてしまう生き物なのであると身を持って体感した。
だがわ唯一俺が慣れる事が出来なかった物がある。
永遠と続いていた病室での生活だったのだが、
この話は今するような物では無い。
俺は余計な思考を切り離し、家を出て駆け出した。
2軒目、3軒目、4軒目と続き、
次々と家を周る。
そして自分達の拠点だからと油断していたゴブリン達や、
俺の存在に気がつき戦う為に武器を手に取ろうとしたゴブリン達を全て殺した。
そう、殺したのだ。
怒りに任せてしまえば俺のもっていた忌避感は薄れていく
その時に、ステータスのスキルの欄にある、
1つのスキルが点滅していた事など俺には知る由もない。
家の外で鉢合わせたゴブリンも勿論存在したが、
全ての個体を喉を一突きすることで命を奪った。
次だ、次だ、次だ。
スキル、【魔力探知:弱】を使い周囲の敵の存在を感知する。
周囲に広がる探知網にかかる魔力の反応、
その数は全部で7つ。
騒ぎを聞きつけ駆け寄って来たであろう7匹のゴブリンに俺は躊躇いなく剣を振り下ろした。
左の敵を薙ぐ、腹が避けて臓物が撒き散らされた。
右の敵を薙ぐ、俺の手に胸の筋肉が断裂する感触を残した。
後ろの敵を薙ぐ、首に吸い込まれた剣は頸椎の間に侵入し首を飛ばした。
前の敵を薙ぐ、下腹部皮膚が弾け飛び血肉が露出する。
俺は濃密な血液の霧が辺りに舞う空間の中で、魔力探知に映る反応を探し更に駆け抜けた。
最後にたどり着いたのは集落跡の1番奥にあった家、今までに侵入もとい突撃した家は全てゴブリンしか居なかった。
だから多分ここに声を発した人物が居るはず。
【魔力探知:弱】を使い周囲にゴブリンの生き残りが居るか確認した後、家の中に探知の範囲を伸ばして行く。
ソナーのように俺を中心にして半径5mくらいの範囲にポツポツと魔力の反応が浮かび上がった。
家屋の中に数個の反応があった、
その数は僅かに4つ。
全てこの家の中からの反応であり、内2つはゴブリンの反応であった。
落ち着け、落ち着け、
いま単純に突っ込めば、
これから起こることは簡単に想像できる。
大きく息を吐き、身体の力を抜く。
ゆっくりと、だが油断する事無く、
慎重に……ドアを開ける。
ギイィィ…
立てつけの悪くなった扉は軋んだ音を立てて開いて行く…
部屋の中に視線を向ければ、所々にかなりの埃を被ったテーブル、
脚の折れた椅子、
一部の木が腐った床、
全体的に薄暗く嫌な雰囲気が充満している。
簡単に言ってしまえば、質素な部屋だった。
まず、この部屋は無人だった。
反応は位置からしてもう1つ奥の部屋だと思われる。
その反応のある方に目を向ければ、
地面に打ち捨てられたようなドアであったもの、木の残骸が落ちていた、
そのドアのあったであろう場所をくぐり抜ける前に、壁に背を付けて慎重に頭だけを覗かせる。
そこには少し予想とは違ったが、概ね予想通りの光景が広がっていた。
今まで見たことの無い、
赤い肌をしたゴブリン。
それが人間の女性に無我夢中といった様子で腰を叩きつけていた。
赤い肌のゴブリン…
今までに見た事の無い個体は俺の生存本能を引っ切り無しに刺激する。
絶対に油断出来ない相手、本能がそう訴える。
俺の存在を認識されては勝てない。
今の俺では力量が違いすぎる。
ゆっくりと部屋に入り、慎重に、慎重に、
気がつかれない様に近寄る。
俺の目の前で相変わらず自分の腰を必死に叩きつけている赤いゴブリンの目は、酷く濁っていて、
涎を垂れ流しにする口は大きく歪んで笑みを作っている…
ゴブリンの目線の先を見れば、その先に居たのは2人の女性。
1人は今尚、赤いゴブリンに犯されている20代後半の女性、感情を映す事のなくなったその瞳は、既に意思を見せる事を諦めているように見えた。
その腹部は大きく膨れていて、
中にいる生命は、俺の探知により、
"どちらの種族かも"判明していた。
女性の腹が膨れているにも関わらず、
赤いゴブリンは自分の欲望のままに、
なりふり構わず腰を動かしていた。
その奥に居るもう1人の女性、と言うよりかは少女に見える10代中盤の女性。
年齢は俺と大して変わらないように見えるが、
その少女の瞳も感情が薄く、
髪も手入れなどできるはずも無い為かボサボサで実際の年齢など分からない。
腹の膨れた女性よりはまだ感情があるようで、
ときおり赤いゴブリンの方を見ては、
小さく悲鳴をあげていた。
俺はゆっくりと、だが着実に赤いゴブリンに近づいて行き、
背後から赤いゴブリンの首に剣を置いた。
「…【刺突】…」
赤いゴブリンの背後から上等そうに見える革製の胸当てを突き破り、
心臓を一突きして一息に命を刈り取った。
「……….…ァ…ガ…?………」
赤いゴブリンの濁った瞳からすうっと光が消えて行くのを見届けて、俺は胸に突き刺した剣を抜き取った。
それを見ていたであろう少女が小さく悲鳴をあげたが、
怒りの矛先を消し去った俺には、
それどころではなかった。
この世界で目を覚ましてから、
始めてあった人間と思われる生命体。
それは腹を膨らませ、
既に自我を壊され虚ろな瞳をした女性と、
僅かに自我の残る頬の痩けた少女だった。
「…こ…ころ…し……て……」
少女が発する絶望に満ちた声が静かになった部屋にやけに響き渡った…
「…………ッ!?…」
その瞳を、その声を、見た瞬間、聞いた瞬間、俺は息を飲んだ。
とても俺と同じ年頃の少女が発する声とは、
思えなかったから…
「…すまない………」
俺は理由もなく溢れ出る涙を袖で乱暴に拭い、
壁に力なく寄りかかる少女と目を合わせた。
最後に見た少女の瞳は、
最初に見た意思の無く、焦点の合わない瞳では無く、
壊れる前の優しさを持った瞳に見えた。
俺は剣を水平に構え、
痛みを感じず、
一瞬で楽に死ねるよう剣に握る力を強めた。
まだ、死ななくても良いんじゃないの?
そう、聞きたかった。
でも、そんな事をしても、
彼女が幸せになれる様子を、
不思議と想像する事が出来なかった。
「…【一閃】」
今まで美しいと思っていた戦舞技の青い輝きは、
この時だけは悲しそうに揺らめいていた…
そして悲しそうに輝く剣は、
穢れ切ってしまった少女の身体と、魂を、
浄化して行く様に、
その首に吸い込まれていった。
首に剣が触れる瞬間、
少女の口が僅かに動いた気がした。
ーーありが、とうーー
声には出さなかったが、
その言葉は確かに俺の目を通して届いていた。
彼女がせめて、
来世で幸せに過ごせるようにと願う。
最後に残ってしまったお腹の膨れた女性も、
出来るだけ苦しめないように、
戦舞技ー【一閃】で首を撥ねた。
…ゴロッ………
頭部の転がる音、背骨を伝う寒気を振り払い、魔力探知にかかった最後の反応。
首から上の無くなった腹の膨れた女性の下腹部あたりに、
未だ存在するその小さな魔力の反応。
俺は一息ついて、気が変わる前に腹部に剣を突き立てた。
そして腹部にあった反応が、ゆっくりと消えていくのを…確認した。
これから始まるはずだった小さな命の一生を絶った感触を、
剣の血を払う事で一緒に拭い去りたかった。
心なしか探知範囲が広がっている気がするのは、またスキルの方に何かしら動きがあったのだろう。
俺は怒りに任せてゴブリンの集落を壊滅させた。
年老いて、腰の曲がったゴブリンも、
小さく歪んだ顔で一生懸命に生きるゴブリンも、
男よりもふくよかな体型で、顔も心なしか女らしいゴブリンも、
全て残らず、殺した。
【SideOut】
『半人族[lv:7]』 :【剣士】
雪埜 奏
必要経験値/規定経験値:531/800
能力:【戦舞技補正:強】【鈍感:中】
【剣術補正:中】new!【魔力探知:中】
new!【体力補正:中】
加護:なし
称号:new!【魂を鎮める者】
※規定経験値を超えました。
2つLevelupします。
必要経験値がresetされます。
※2Pointが溜まりました。
【魔力探知:弱】→new!【魔力探知:中】
new!【体力補正:中】
[!]新しい称号を手にいれました!
new!【魂を鎮める者】
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