3話≫〔統合版〕
修正版上げました
修正版→全体の表現や描写を詳しく書き、肉付けしました。
随時修正版を書き上げて行きますので
ご了承ください。
よろしくお願いします。
7〜9の統合
【"少年"Side】
入ってはならない禁断の森。
人々に昔から【深淵の密林】と呼ばれる森に面した平原を"少年"は全速力で走っていた。
入ってはならない禁断の森に入ってしまった、1人の友達を追いかけて。
鬼ごっこに近い、逃げる者が人間で、追いかける側がゴブリンの遊び。
"少年"は追いかけていた、
ひたすらに逃げる友達を。
タッチすれば交代と言えど子供は全力を尽くすもの。
"少年"は川沿いの岩場に来た、
逃げる友達を追いかけて。
"少年"は全速力で飛ばして来たからか、足に疲労が溜まり、足を前に出す頻度が少なくなって来た。
「……わわっ!?…いたっ!………」
追いかけるうちに木の根に足を引っ掛け転んでしまう。
重心は前に大きく偏り体制を立て直す暇もなく倒れこむ。
ズザザザサー
まさにヘッドスライディングの容量で頭から盛大にずっこけた…
ううっ…
"少年"はそこで気がつくいた。
自分は今…友達を追って入ってはならない禁断の森の中にいる事を…
"少年"は知っていた、
ここにはお世辞にも人とは呼べない姿形の魔物達が居ると。
不意に目線を前方に向ければタイミング良くその方向から大きな音がして、
聞き間違えるはずの無い、友達の声で悲鳴が聞こえた。
ダメだ…まって…間に合って…
"少年"は足の怪我も身体にこびりついた土の事も忘れ声のする方に全力で駆けた。
自分ですらハッキリと分からない何かが手遅れになる前にその場に行かねばならなかったから。
全力で走った、先ほどまでの疲労なんて吹き飛んだ、多分家に帰ったらお母さんやお父さんに怒られるんだろうな…
走りながら頭に浮かぶのは友達との思い出や、両親の事…
木々の合間を縫って未だ散髪的に響く悲鳴に向かって走るが、気がつけばその悲鳴も聞こえなくなっていた…
そのとき、耳を塞ぎたくなる様な咆哮が森の中に響いた。
「グォォオォォァァォォォオォォ!!!!!!!!」
"少年"の生存本能が今までに無い程の最大の警鐘を鳴らす。
この先に進めば確実に命は無いだろう。
やばいやばいやばいやばいやばい!!!
分からなかった感情が焦燥感となり自分の頭で理解した瞬間、
焦りとは違う感情が自分の中で爆発した。
怖い、恐い、逃げろ、逃げろ、
逃げなければ死ぬ、生きたければ逃げろ。
だが、"少年"は混濁する意識の中、
無意識の内に一歩踏み出していた。
本能で恐怖を感じようとも、
自分自身の心の中に僅かに残った理性が、
この先で助けを呼んでいるであろう友達を捨て置いて逃げる事を許さない。
それは12〜3前後の子供特有の正義感かもしれないけれど、"少年"今だけはその意地っ張りで見栄っ張りな正義感に感謝した。
"少年"は危険だ、逃げろと警鐘を鳴らす本能を振り切り友達を助けに走った。
「待ってて…今行くから」
行ったあと何をするかなんて考えていない、考えなしの行動、でも行かないよりはマシと言い聞かせ、駆ける、駆ける、小石に躓こうとも片手を地面に付けてバランスを取り直しまた駆ける。
それでも運命は"少年"に辛く当たる事を是とした。
木々を抜けると木々が途切れ小さな広場程度の大きさの草地があった。
右を見ると赤い何かが草や合間に見える茶色い地面にに染み込んで、緑に囲まれた森の中ではやけに不自然に感じた。
その血を口から吐いていたのは"友達"だった。
手足に力は無く、蹲った体制のまま動かない…
"少年"は膝を落とし、両手を頭に当てて叫んだ。
「そんな、そんな、そんな、そんな、そんな、そんな、そんな、そんな、そんな、嘘だ、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!!!!!」
僕が君を遊びに誘わなければ!
僕が遊びの範囲を指定していれば!!
僕が追いかけられる立場だったならば!!!
僕がもっと早く追いついていれば!!!!
僕が…
僕が……
……あぁ………
零れ落ちる後悔の雫を袖で拭いながら、"少年"は雫でぼやけ視界の悪い中、前を見やった。
そこには、横たわり動かない"友達"と、
人とは呼べない異形の生物、魔物がいた。
"少年"はゆっくりと立ち上がりフラフラとした足取りで友達に近寄ろうとした。
その時、友達は僅かに目を開き、焦点の合わない瞳で、確かに少年を視認した。
そして"少年"のいる方を見ながら、焦ったような雰囲気の掠れる声を発した。
「……は…やく………に…げ………て……」
声を出すために肺に大量の空気を入れた友達は苦しそうに血を吐いた。
"少年"は友達が生きていてくれた事に対する喜びなど感じる暇は無く、一瞬持ち上がりかけた気持ちは友達の吐いた血を見て再び冷めた。
友達の血は赤かった。
友達の血は朱かった。
友達の血は紅かった。
赤かった…
"少年"は友達をこんな目に合わせた魔物を視界の端に避けて、どす黒い感情に染まれと騒ぎ立てる感情を抑えて友達を良く観察する、
医師の心得など無い"少年"だが、目に見える怪我があればすぐにわかる筈。
どうか死なないで…
友達の身体を見て、大まかに見た限りでは外傷は見つからない。
脇腹から胸にかけての部分を手で抑え蹲っていたであろう友達と魔物の位置関係からして、友達は横から殴り飛ばされたのだろう、
さっき吐いた血を見て、
内蔵や肺が潰れて血が出ているのかもしれないと思った…
そして"少年"は暴走しそうになる怒りの感情をギリギリで抑え込む為に視界の端に追いやっていた左側に首を回した。
そこにはやはりと言うべきか、魔物がいた。
正確には[混沌小鬼]
身長は"少年"とあまり変わらない1.2メイル程と小柄で目線は大して変わらない。
だが、体格は"少年"など比べ物にならない程の筋肉に覆われていて、腕などは少年の胴にも届く太さがあった。
右手に持つ鉈は錆び付いていて所々刃こぼれしているが、木々の合間から差し込む太陽の光を反射して鈍く光っていた。
胸には頑丈そうな革の鎧を付けていて、
例え懐に潜る事が出来て、殴れたとしても"少年"の腕力ではとてもじゃないがダメージは通りそうにない。
ゴブリンは下卑た笑みを浮かべながら、
黄色く濁った白目の中心にある黒い双眸で"少年"を視界に捉えた。
何故、ゴブリンが今まで動かなかったかなんて、分かり切っている。
舐められている、それも"少年"がゴブリンを見据えて相対したとしても変わる事はない。
目があった瞬間に膝が震え、
身体の力が抜けそうになった。
そして疲労の限界を越えていたであろう膝が、ガクッと折れた
「………あっ…………」
その隙は"少年"からすれば致命的で、
ゴブリンからすれば笑みを深める要因となった。
その隙を逃がす程甘くはなかったようで、ゴブリンは右手に持つ鉈を腰の辺りまで持ち上げ、
"少年"に駆け寄りながら下から切り上げようとした。
左脇腹から右肩に抜ける軌道が目に見えたのに、
"少年"の身体は反応する事が出来ずに思わず目を瞑ってしまった。
(あぁ……終わった……リリー…)
友達の笑顔が、両親の笑顔が、村の人達の顔が脳裏によぎる。
再び目を開く事はもうないだろう、
"少年"目を閉じた事を後悔し、
死を覚悟した。
………数秒。
いつまでたってもあの錆び付いた鉈が身体を切り裂く痛みを感じない。
まさか痛みを感じる事なく即死したのか?
そんな馬鹿な事などある筈がない…
未だにガクガクと震える膝も、
転んだ時の傷も心臓の鼓動も、
感じる事が出来るんだから。
何か様子がおかしいと思い"少年"は目を開き、
目の前で起こった異変を目に収めた。
「……【蒼斜一閃】……」
開いた瞳に映ったのは、
何処からか聞こえた声と共に鉈を振り上げたモーションのままのゴブリンが、
血を撒き散らしながら宙を舞っている光景だった。
「……………え?…」
一瞬何も考える事が出来なくなり、頭がフリーズし、真っ白になる。
"少年"はそこでやっと異変の原因を見つける事が出来た。
ゴブリンの身体から噴き出る血飛沫が宙を舞う空間の奥、
ゴブリンを挟んで3メイル程離れた所にいる、
青い光を纏う剣を持ち、
その後点滅しながら消え去った光の消え去った剣に付着した血を払い落とすモーションで停止する。
黒髪の青年の背中だった。
礼を言おうと一歩踏み出した時、視界の端に"魔物"が見えた。
青年の横に見える木々の合間から力の限り弓を引くもう1匹のゴブリンが、
"少年"はまだゴブリンの生き残りがいた事に驚くが、すぐにゴブリンは2匹以上の群れで行動する事を思い出し、急いでこちらに歩み寄ってくる青年に知らせようとする。
「………あぶっ!……………」
「…【一投刹那】…」
知らせ終わる前に青年の剣を持たぬ手が青く煌めいた。
先程光っていた剣と同じように。
"少年"には弓を引き絞ったゴブリンがいきなり後ろに吹き飛び、木に縫い付けられたようにしか見えなかった。
力の抜けたゴブリンの弓から放たれた矢は狙いを大きく外れてあらぬ方向へ飛んでゆく。
何が起きたか分からなかったが、弓を放ったゴブリンの事を見た瞬間、更に驚く事となった。
気に貼り付けられた弓を持っていたゴブリンをよく観察すれば、
額には青い光を放つ短剣が突き刺さり、背後にあった木にまで貫通していた。
数秒後、その短剣を包んでいたそれは役目を終えたと言わんばかりに先と同じ青い光は眩い粒子を周囲に拡散させ消えていった。
光を失った短剣はゴブリンに深々と突き刺さり、木に貼り付けられたままピクピクと痙攣していた。
青年は辺りを見回しやや吊り上がっていた目尻を下ろす、
"少年"の友達の元へ歩み寄った青年は懐から取り出した瓶をあけ、
一瞬躊躇うような素振りを見せたあと、
一つ頷き中に入っている透明度の高い黄緑色の液体を友達に振りかけた。
息を吸うのすら辛そうで時折血を吐いていた友達の表情は和らぎ、柔らかな表情となった。
やがてやや小さいがしっかりとした一定の呼吸をしはじめた。
青年が助けてくれる時に使った青い光を纏う剣技は多分…戦舞技だろう。
弱き人間が魔物に対抗する為に神話の時代に編み出したとされる奇跡の技であり、以後増やす事は出来ていないが、技の全容をつかむ事も出来ていない。
使える人間は冒険者や国に仕える兵士たちで、普通は1つか2つ、多くて3つ使えれば良い方らしい。
そう村長が得意げに言っていた。
勿論農民や一般の人々は鍛えたりしない限りは使う事が出来ない為、
この青年はかなり強い人なのだろうと"少年"は神と青年に感謝した。
たった今友達に振りかけられた液体、あれはもしかしたら回復薬かもしれない。
"少年"でも知っているその薬は、
冒険者と言う職業の人達がよく使っていると聞いた事があり、酷い傷でもたちまち治ってしまう薬と聞いていた。
実際に"少年"は村人が魔物に襲われ怪我をした時、村長がその人に回復薬を使うのを見ていた為に青年の使ったそれがポーションだとすぐに気がついたのだ。
だがポーションは"少年"達村人からしてみればかなりの高級品なのだ、冒険者にとっても命を預ける物であり、おいそれと他人に使うような物ではない。
青年は踵を返し森の中に消えて行こうとする。
「あ!あのっ!ありがとうございます!!
是非お礼をさせてください!
僕達の村に来てくれませんか!」
"少年"は感謝の言葉を伝え村に呼ぼうと、慌てて青年を引きとめて声をあげた。
「いや、お礼はいらないよ
たまたま悲鳴が聞こえただけだからね。」
青年は特に気にした様子もなく見返りを求める事もなく、再び森の奥へと去っていこうとした。
「待ってください!じゃあせめて村に来るだけでも!ご飯をご馳走します!!」
"少年"は命の恩人である青年を食事に招待すると言った。
その瞬間、青年の目が煌き飛びかかるような勢いで駆け寄って来た。
「是非!!!ご飯だけでいいので!!」
もしかしたら名のある冒険者の方かもしれないと思い話ずらかったなんて気持ちはどこへ行ったのやら
取り敢えず青年に幾分親近感の湧いた"少年"は、
名前を知りたいと思った。
いつまでも青年だと呼びづらいからである。
「あの…あなたのお名前は?……」
「俺の名前は…カナデ……君の名前は?…」
「僕の名前はルーデンス。あっちで寝ているのはリリーです。わざわざポーションまで使ってリリーを助けていただいてありがとうございます!」
僕は青年、カナデさんを連れて森を出て村に向かう事にした。
リリーは疲れたのかぐっすりと眠っていて起きる気配は無かったのでカナデさんが背負ってくれた。
「お礼はご飯だけだからな?」
「わ、分かってますって…」
カナデさんは粗暴な冒険者というイメージの似合わない、優しげな表情の似合う人だと思った。
【SideOut】
『Unknown』 カナデ
必要経験値/規定経験値:Unknown/Unknown
能力:Unknown
加護:Unknown
××××××××××××××××××××××××××××××××××
異世界での生活2日目に入り、
食事の取れない残念で嬉しくない生活の2日目が幕を開けた。
そして俺にも今置かれている状況に対する認識の変化と言う物があった。
それは今、俺は生きていると言う事だ。
グロテスクな光景を目の前にして吐く事もあったが、なにより最初に目が覚めた時に感じたあの感動が、俺が死後の世界とか考えるのをやめようと思った最初のきっかけになったのかもしれない。
それにもう死後の世界だと思う事は出来ないだろう。
極彩色の双頭の巨鳥とか大きな芋虫とかゴブリンとか、皆生きている。
そして皆、死ぬことが出来るのだと分かったからだ。
それにゴブリンなんてイメージの産物である筈なのに、
…どこから見てもあの場所に確かな質量でもって存在していた。
これを見て、感じて、しかも実際に剣を交えてみて、その存在を否定する気にはならなかった。
そこで俺はひとまずこの世界を異世界と仮定して行動することにして今も警戒心を最大して周囲を警戒しながら辺りを散策している。
昨日は血生臭くなった服や髪、それに自分の吐瀉物の臭いに耐えきれなくなり、必死で水のある場所を探した。
その結果、探索は見事に実を結び、ゴブリン達と遭遇した所から少しした数十分歩いた所で少し離れた場所から聞こえる水の音を聞き取ることが出来た。
サラサラサラサラ…
餌に飛びかかる猿の様な機動でそこに向かうと、
川幅が2m程の小川が鬱蒼とした森で過ごしていた精神に一種の癒しを与えてくれた。
そして俺は身体中にこびりついた返り血と吐瀉物と汗、その他諸々を川の水で綺麗に洗い落とした。
それはもう服の繊維がちぎれる程、肌が赤くなる程にだ。
この世界の現在の気温は比較的温暖な気候の様で、今現在の気候は大体夏の終わりごろ、丁度秋に入った頃だと思われ、とても快適に過ごすことが出来る為、激しい運動をしなければ汗臭くなることは少なさそうである。
川の水の温度も俺の基準から言えば最適で、
病室で看護師さんに拭かれるだけだった身からすれば冷水だろうが熱湯だろうが、
水に浸かれると言うだけで天国であった。
川の水温は冷んやり冷たい程度でとても身体や頭の中がスッキリとし、気分が凄まじく爽快となった。
だがしかし、全ての体験が新鮮な俺にとっては大きなデメリットもあったのだ。
それは水浴びに夢中になって食べ物を探す事を忘れた事である。
そこでまた新たな事実が発覚した。
昨日は何も食べてない、なのにそこまでお腹が減っていないのだ。
なんかこう…一般的な大人が摂るカロリーの半分しか摂取しなくても生きていける様な燃費の良さをこの愛しのマイボディから感じ取れる気がしなくもない。
まぁ燃費が良いのは事実だとしてもアホな思考は置いておこう。
どうやら俺は病室での生活が長すぎて人間の危機を感じ取る本能的な部分がアホになっているのかもしれない。
そして俺は本当に今更だが決意した。
今日こそは食べ物を探そう、うん。
先日同様食べられそうな木の実や草、それにお肉を食べたい為、小動物をさがす。
できれば襲ってこないウサギのような草食系の動物に遭遇したいものだな。
そうして体感時間で歩くこと15分程経った頃だろうか、
水浴びをする川を挟んで逆の方向に進んで行くと次第に密集していた木々がまばらになってゆくではないか。
そして光の差し込み具合から前方には結構大きく開けた土地がある事に気がついた。
ついにこの森にも終わりが見えたか、そうしたらこれからどうするか。
そんな事を考えつつついつい早足になってしまうのを抑えながら歩いて行く。
森を抜け開けた土地に出ようと最後の一歩を踏み出そうと足をのばした時だった。
その声が聞こえたのは…
「……………ギャアギャアグァギャ!」
「………なっ!…ゴブリンか!」
突然目の前から聞こえた汚らしい声は森に響きわたり奥に吸い込まれて行く。
俺は踏み出そうとしていた足をギリギリの所で停止させ反転、急いで近くの木に背を預け
、開けた場所から姿が見えない様に木の影に隠れた。
慎重に、気配を出来るだけ消して、
気がつかれないように声のする方に視線を向ける。
目測だが木々が無く縦横が7m程の円形に開けた場所に、
耳障りで特徴的な声を発するお馴染みのゴブリンが4匹、何かを囲むように周囲に展開していた。
目を凝らしてゴブリンの向こう側にいるであろうものを見れば、ゴブリン包囲網の中心に居るのは先程死んでいるのを見つけた1m程の芋虫達だった。しかも数は6匹とゴブリンよりも2匹多い。
芋虫達は背中合わせになってゴブリン達を威嚇しているのがここからでも分かるが、俺から見えるゴブリンの余裕そうな顔を見る限り芋虫の方が実力が引くそうに見える。
(さっきの芋虫の死体はあのゴブリン達が殺したのか…そうするとあの芋虫はゴブリンより弱いから殺戮対象なのか、食糧なのかの2択か…)
暫くの間じっと見ていると、どうやら芋虫達の方に動きがあったようだ。
少しづつ包囲網を狭めるゴブリンに追い詰められた芋虫達は2匹を除き、
丁度1対1になるように一斉にゴブリンに突進していった。
だが力量が違いすぎるのか突進した芋虫達は善戦する事すら出来ずに全て一刀のもとに切り伏せられてしまった。
ずいぶんと弱いな芋虫ェ…
4匹のゴブリンの内1匹は剣を芋虫に刺した時に相討ち狙いの突進を受けて右の腕が折れてしまったようだが、
ここから見える他のゴブリン達は余裕の表情を崩す事なくじわじわと包囲網を狭めていた。
これじゃあ、芋虫が余りにも不憫すぎる。
俺はこの時、偽善だとしても助けたいと思った。
それは多分、日和見な国に生まれた俺の起こした数あるミスの最初の一つだったと後々反省する事になるだろう。
昨日倒す事に成功した2匹ゴブリンの持っていた比較的錆の少ない短剣を1本取り出す。
そして握りを確かめながら短剣の柄を握る。
昨日、ゴブリン2匹を倒した後に水浴びをして身体の汚れと心の淀みを洗い流した後、
俺は戦舞技と言う物が何故発動したのかをずっと試していた。
その結果判明した新しい情報は、
1度発動した戦舞技は頭の中に文字が浮かぶ事は無かったのだ。
しかし文字が浮かばなくなったからと言って戦舞技が無くなるわけではなく、
戦舞技の名前を声に出し、
大まかに決まった位置に剣を構える事で正常に発動する事がわかった。
そうして戦舞技がどういう構えで発動するかを試していた時に偶然にも発見出来た戦舞技が2つあった。
1つは懐にしまった短剣を引き抜こうとした時に偶然にも頭の中に技の名前が浮かび上がった戦舞技。
その後も何回か試す事でその戦舞技について分かった事は、
肩の上に短剣を持っていくモーションでも発動する事が出来ると言う事、
そしてその後も試し続ける事で投げる動作なら基本的に大体の動きに対応している事が判明した。
戦舞技としての能力の分類は短剣の投擲だと思うのだが、如何せん威力が高い。
木くらいなら突き抜けてしまう威力があるのだ。
もちろんそれを発動したあとはそれなりに疲労するので体力が無い場合はそれほど多用は出来ない。
俺はその戦舞技を発動した。
「…【一投刹那】…」
懐から取り出した短剣は青い光を纏い、
青白い軌跡を残しながら高速で1匹ゴブリンの後頭部に突き刺さった。
これが2つの戦舞技のうちの1つ、
戦舞技ー【一投刹那】
「…ギャッ!!…」
まずは1匹、俺は既に吐く物など一切ない胃の収縮を思考から外す。
ゴブリンの背後から後頭部を貫き、
脳を確実に捉えた短剣は淡い燐光を拡散させ輝きを失った。
ゴブリン息絶え、うつ伏せに倒れると同時に、
腰を落とし右足を後方に出し半身に構え、
残る3匹のゴブリンのうち、芋虫の特攻によって片腕を損傷しているゴブリンを正眼に見据える。
抜き放った剣を右手に構え、何度も何度も試した技の発動から軌道までを強く、強くイメージした。
「【蒼斜一閃】…ッ!!」
戦舞技特有の青い光と同じ、
蒼の名を冠する戦舞技の名が俺の口から
紡がれてゆく…
それに呼応するかのように、刀身が閃光に包まれ、
同時に一歩踏み出し、踏み込み終えた時には既に、
背後でゴブリンの断末魔が響いていた。
これが新たに発見した残る1つの戦舞技、
戦舞技ー【蒼斜一閃】
踏み込みと同時に最速まで加速し、
敵をすれ違いざまに袈裟斬りの一閃で切り裂く戦舞技。
青い閃光が斬線にそって残光を残し、
青い軌跡を描く、
まさに…
戦場を舞う為に編み出された究極の技
ー戦舞技ー
カナデは戦場で身を震わす武人の感覚を肌で強く実感すると同時に、生命を絶つ感覚をその身に強く刻みつけた。
『半人族[lv:4]』:【剣士】
雪埜 奏
必要経験値/規定経験値:244/500
能力:【戦舞技補正:強】【鈍感:中】
new!【剣術補正:弱】
加護:なし
××××××××××××××××××××××××××××××××××
左右には硬直した2匹のゴブリンが立ち尽くしている。
目の前にはこれまた硬直した生き残りである2匹の芋虫がそう呆然と言った感じで震えていた。
明らかにゴブリンの方が戦闘力が高く、強靭な事は既にさっきの魔物同士の戦闘を見ていた俺は十全に把握していた。
そして俺は何故か芋虫を助ける選択をした。
それは生前、自分が弱者だった故の同情かもしれないし、
只、考えなしに突っ込む馬鹿なだけかもしれない。
でも、一度始めた事はやり遂げる。
俺は生前の記憶の紐を解いた。
【異世界wiki(笑)】
森林放置スタート時の生き残り方
参照:脅威の排除
今思えばあのwikiは俺の様に異世界で困っている人、居るかどうかも怪しいが、そういう人の為にあるのかもしれないと思う。
と、言うよりそう辻褄を合わせないと俺がバカみたいでやってられない。
俺は背後に跳躍するために腰を落とし膝に力を入れた。
まだ筋肉の全てを自在に動かせるわけではないが、これくらいなら問題ない。
強く地面を蹴り上げ目の前の芋虫からバックステップで距離をとりゴブリンとも多少の距離を取る。
着地する時に片足が小石を踏んづけてしまい
バランスを崩してたたらを踏んでしまったが、未だに予想外の事態に混乱したゴブリンと芋虫は硬直が解け切っておらずもたもたとしていた。
たたらを踏んだあたりでやっとゴブリンが硬直を抜け出し鉈を構え出したり各々で武器を握りしめ出す。
やはりゴブリンの方が全体的な能力は上のようで硬直から抜け出すのにも種族の差や精神的な面での個体差があるように見える。
それが尚更この人と剥離した姿形の魔物を生命体だと認識させるが、今はそんな事を考えている余裕はない。
いずれは戦舞技だけに頼らず自らの剣の力のみでゴブリンと戦わなければならない
この技に頼っていればいずれ俺は魔物に食い散らかされ殺されるだろう。
この戦舞技と言う手段は体力の消耗が凄まじく激しい。
走る事のない一般人が100m走をダッシュした時くらいの疲労が戦舞技を1〜2回使った時の疲労だと考えて貰えばいいだろう。
無理して発動する事も出来るが、必然的に発動後の硬直時間が増えて来るという当たり前の事態に陥る。
そんな事をしていれば多数の敵や強力な敵と戦った時に必ずツケが回ってくるだろう。
まぁ今はとてもじゃないがそんな余裕はなさそうだから勿論保留となるが…。
2匹のゴブリンは離した距離をその逞しい脚を使い急速に詰めてくる。
バックステップで離した3m程の距離はみるみる内に失われていき遂に片方のゴブリンとの距離が潰れた。
右側から迫るゴブリンが持つ武器は、
木を粗く削って作ったような70cm程の粗悪な棍棒、だが殴打する為の武器としては十分な殺傷力を秘めている。
それを頭の上に掲げながら歪みきった顔を
恐怖でさらに歪ませながら接近してきた。
ゴブリンにも感情がある、その表情はそれを嫌という程に分からせてくれた。
だが、俺も一度やると決めた事、
それにお前達のしていた事はただの虐殺にすぎない筈だ。
勿論こんな言葉は偽善の中の偽善。
それは現代人に特に顕著に現れる、
人と同じ形をした物を殺す事に忌避感を持つくせに、
小さな生物や自身より弱いと断じた生物や種族をいたぶる事に本能的に快楽を感じるのだから。
それは現代のいじめのシステムとなんら変わりない事であり、
ゴブリンが芋虫にした行動もそれに当てはまる。
だが、それは所詮俺も変わらない。
生きる為には他者を蹴落とすし、
食べる為には生物を殺すしかない。
俺は汚い考えの人間だ。
汚れた自己中心的な思考が人格の根底にある
俺の人格を形成する土台がそれなのだ、
偽善的で自己中心的。
結局人とはそういう物なのだ。
そして俺は生きる為に戦舞技を放った。
そして俺は偽善を貫く為戦舞技を放った。
「…【刺突】!!!」
青い閃光を纏った刀身が突き進む先にあるのは、
無防備に外気に晒された黄緑色の胸の肌の奥にある物。
生物の動力機関、心臓。
不可視の力によってブレまくりの軌道は無理矢理修正され、剣術の手本の様な軌道を描く。
そして加速した刀身は、
ゴブリンの黄緑色の肌を食い破り、
肉を食い破り、
骨を断ち、
生物の動力機関を破壊して、
背に穴を穿ち1つの命を刈りとった。
多少遅れて左側から迫るゴブリンが持つ武器は、錆びが侵食する細剣、
のこる最後のゴブリンは自分以外の仲間が
全て殺された事に余程の恐怖を持ったのか、
やけくそにレイピアを振り回りながら迫って来る。
ゴブリンはレイピアの使い方を理解する知能まではないようだった。
すぐさま息絶えたゴブリンの胸に刺さったままの剣を抜き、
抜いた力を利用して左側から迫るゴブリンに回転切りを放つが、
戦舞技ではないその斬撃は案の定、
勢いに乗らずに刀身はブレて、剣術とは呼べない物となった。
それがゴブリンにとっては奇跡を呼び寄せる。
ゴブリンの振り下ろしたレイピアが横から迫る剣と接触し、
全体重をかけ振り下ろしたレイピアが素人の放った回転切りを真下に叩き落とした。
地面に剣がめり込み、レイピアの方は衝撃に耐えきれずに半ばから真っ二つに折れ、あたりに破片を撒き散らす。
その事で恐怖から立ち直り正気に戻ったゴブリンは、
防げた事に歪んだ笑みを浮かべ
半ばから折れたレイピアを持ち上げ直し真上から振り下ろしてきた。
頭に直撃する軌道をなぞる折れたレイピア
俺は反射的に左腕を頭の上に持ってく事で何とか頭への衝撃を守ったが、
ぶつかった衝撃で後方に飛ばされる。
「……………あれ……?……痛みが……」
なかった。
衝撃が服を通して腕に浸透して行ったのは分かる、現に腕が痺れているのだから…
だが、何故怪我をしていないんだ。
あれ程の速度で振り下ろされた折れた剣とは言え、紛いなりにも金属である。
ゴブリンの筋力をもって振り下ろされれば骨折以上の怪我を負ってもおかしくない筈なのに…
まさか………このコートと服のおかげなのか…?
素材の分からない革製のレーザーコートはもちろん何も言わないが、違和感がありすぎる…
この装備の事は時間のある時に詳しく調べるしか無いと思った。
いきなり発生したアクシデントで奇跡的に手から離れる事が無かった剣を強く握りしめ、
俺は再びゴブリンに相対する。
下卑た笑みをしていたゴブリンの顔は再び恐怖に歪んでいた。
戦闘ばかりで今日は精神的に疲れた。
俺は無意識の内に体力を極限まで節約した動き、つまり最小限の動きで身体を動かしていた。
剣を小さく構え、前に思いっきり身体を投げ出す。
「…【刺突】!!!」
身体の力を抜いて放った青い閃光を放つ高速の一撃は、音速の壁を越えて敵の胸に吸い込まれた、
武器を失った後に慌てて腰の短剣を抜こうとしたゴブリンは、
俺の不意打ちにより胸の中心に剣が突き刺さり死亡した。
ここまでにかかった時間は体感時間で1分半程、余りの手際に1番驚いたのは自分自身であり、
助ける筈だった芋虫2匹には感謝などという複雑な感情など無く、
逃げる間もなく震えていた。
【SideOut】
『半人族[lv:4]』:【剣士】
雪埜 奏
必要経験値/規定経験値:368/500
能力:【戦舞技補正:強】【鈍感:中】
new!【剣術補正:弱】
加護:なし
ご感想お待ちしております。