47話
後半です
よろしくお願いします
【アイゼント王子side(後)】
ある瞬間、紫髪に紫の目をもつAランク冒険者
オリエールが声を上げた
「おい!ダストファングバードの砂が切れた!降りてくるぞ!」
「「「「「おおぉぉぉぉ!!」」」」」
それに呼応するかのように周りの冒険者達の士気が否応無く上がる
今まで魔法を上空に放ち、滑空して攻撃してくる砂塵鳥爪獣の纏う砂に苦戦しつつ隙をつき横からの一撃離脱をしてきた冒険者の負傷者や死者は既に数えられない程だ。
砂塵鳥爪獣が砂を調達するために地上に降りると分かれば、
それは士気も上がるだろう
砂塵鳥爪獣が巨大な翼をはばたかせながらゆっくりと降りてくる
魔法を鬱陶しく思い、見事に凹の間に降りたったダストファングバードは次の瞬間王国兵の猛攻を受ける事になる。
我は力の限り叫んだ
「今だぁぁぁぁ!!重戦士部隊!前方の敵を押しつぶせ!!
歩兵部隊は左右から叩け!!
魔法剣士部隊!冒険者に続き遊撃せよ!!
軽戦士部隊は回復部隊の護衛に回れ!!
魔法部隊!!各属性槍魔法の詠唱用意!!」
重戦士部隊がその重厚な鎧には似合わぬ速度で疾走する
そして口々に叫ぶ
戦舞技ー【必中突貫】
青い閃光を纏ったランスを前方に突き出しタワーシールドを横に構え、そして砂塵鳥爪獣の着地と同時に接触する
戦舞技により強化された筈のランスが僅かにひしゃげ、
タワーシールドは衝突の衝撃に耐えきれず砕け去った…
だが重戦士部隊の兵士達は構わず各属性の盾魔法詠唱をし、展開しながら身を護る。
そしてそのまま砂塵鳥爪獣の横を抜けていく
戦略も戦法も無い捨て身の突貫
ひしゃげたランスや砕けたタワーシールドの破片が鎧の隙間から肉体に突き刺さり動けなくなった重戦士部隊の兵士達が砂塵鳥爪獣の翼で凪飛ばされていくのもちらほらと見える
「放てぇええぇぇぇぇ!!!」
背後で我が敬愛する王子の声が響く
その数秒後、後続から自らを飛び越えてゆく魔法の槍達を尻目に生き残った重戦士部隊達はほくそ笑む
翼で吹き飛ばされた重戦士部隊は
己の犠牲は無駄では無い
そう感じながら死んだ
その重戦士部隊の戦士達は幸せだろう
それはなぜか
砂塵鳥爪獣には目立つ程の疲労こそ見えないが
体を覆う岩の鎧の様な素材、身体の表面に纏う砂が長い時間を経て顔に付着し続け、硬質化した物と言われているそれは
長時間の魔法の波状攻撃により表面が僅かに溶けていたからだ。
そこにランスが突き刺さればどうなるか?
ランスやタワーシールドこそ衝突の衝撃により砕けたがその後に被弾する魔法の槍によって傷口は開く。
あとは砂塵鳥爪獣に砂を供給させる隙さえ与えなければ光明が見えるのだ
「ギャァァァァァァァァァァァァァ!!」
岩の様に硬い顔は並の剣士では傷すらつかないと言われているがその瞳は黄色く濁り前を見ていない
だが表情の無い筈の顔が僅かに痛みに歪んだ気がした
だが、次の砂塵鳥爪獣の行動で人類の優勢は脆くも崩れ去る事となった。
砂塵鳥爪獣が軍を見据えた後、その首を上げた。
我は嫌な感覚が背を伝い、思い切り叫んだ
「な、何かくるぞ!全軍備えよ!!」
その勘は、当たってしまった
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!」
王子の出した決死の指示が地を裂くような爆音でかき消される
魔力の乗った音の洪水は
砂塵鳥爪獣のスキル【衝撃波】
前方に拡散する音の暴力はすぐ前に居た兵士達の鼓膜を回復魔法が必要な程に破壊し耳からは血を流しながら吹き飛ばされていく
左右や後方にいる兵士達でさえ動きを止め耳を塞いだ程の爆音。
我はギリギリで反応し剣を抜き戦舞技を発動した
戦舞技ー【刹那三斬】
瞬間的に三の斬撃が宙を切り裂く
刹那三斬
それはどんな物であろうとも三の斬撃が切り裂くという単純故に強力なもの
だが手数が多いが一撃の威力は魔物に対抗するためには少し足りなく、数発しか放てない為に砂塵鳥爪獣には向かなかった
その斬撃は音すら裂く
三の斬線は真空すら生み出し音の暴力をかき消した
背後に控えていた魔法部隊や回復部隊は護る事が出来た、特に回復部隊を失えば各自に戦線は崩壊する
だが前線の兵達の被害は甚大だった
砂塵鳥爪獣の前方に居た兵士達はほぼ全てがうずくまり
痛みに悶えている者もいる
指揮官クラスの人間まで耐えきれず顔をしかめている
だが周りの兵士達程では無いようだ
すぐに立ち直そうとしている
その立ち直そうとしていた指揮官の1人
歩兵部隊の指揮官
ゴルエント・ブロンズウェイトの
オレンジのオールバックの髪型に同じ色の瞳をもつ首が
我の足元に転がってきた
「……………は?」
その先を見れば我々の長い硬直の隙に砂を纏い終えた砂塵鳥爪獣が名にある通りの翼についている巨大な爪を振り抜いていた
(まずい!このままでは歩兵部隊が瓦解する…ッ…!)
それから先の展開は分かり易かった
殺戮衝動に狩られているとはいえSランク
次第に軍の統率者を見つけて行き
爪で、サンドボールで人に似た顔の口で的確に刈っていく
自らも前線で指揮をとっていた重戦士部隊の指揮官
ゼントハルト・ヒュートンハイトの胸に砂の球が撃ち込まれ重厚な鎧をブチ抜き穴が穿たれる
チャラくて軽薄な軽戦士部隊の指揮官
ローチェルド・ベールフェイトは爪の薙ぎ払いを受けかけた部下を庇い右肩から先が無い
そしてローチェルドがやられた事に怒り狂い自らも遊撃に加わっていた魔法剣士部隊の指揮官
水色のショートヘアの髪と瞳をもち抜群のスタイル
隊のアイドルでもあった
エールェン・アクアカレント
その頭部を噛みちぎろうと迫る砂塵鳥爪獣は、人間が見れば無表情だが、魔物から見たらその顔は愉悦に歪んでいただろう
全ての兵士がアクアカレント指揮官の死を悟る
そして次々と指揮官の首を討ち取られていく部下の兵士達の士気は
地に落ちかけた
アクアカレントの首がもがれる瞬間
頬を撫でる銀の粒子
そして周囲の空気が凍りついた…
「……今度はなにが………」
一瞬何が起こったのか分からなくなる
だが流石は戦士でもあり王子
アイゼント・ノイン・トリステインはすぐさま指示を出そうとするが
声が続かなかった
否、眼前に広がる幻想的な空間に声が発せなかったのである
一面を銀世界が覆う
(何が…おこった…んだ…?)
我は周囲を見渡し更に驚愕する
砂塵鳥爪獣が凍りついていた
アクアカレント指揮官の頭めがけて首をもたげたまま
自身に起きた異変を知る事無く凍りついていた
その下にいたアクアカレントは目をつむり気絶している
そしてそのアクアカレントを抱き上げた人物
光を反射し幻想的な風景を作り出すダイヤモンドダストのその先
黒髪の人物が目に入った
(…何だ…この氷の魔法は…この規模の魔法…なのに詠唱が聞こえなかった……それに……この大陸には見ない黒髪だと……)
周囲の兵士達も某然とその人物を見ている
空中を踊り舞い散るダイヤモンドダスト
その幻想的な空間の先砂塵鳥爪獣の氷像の真下
その人物が我に振り返る
それはまだ幼い雰囲気を残した黒髪黒目の"青年"だった
(…なっ…我とたいして変わらぬような人間ではないか!?……)
その"青年"はアクアカレントを大事そうに凍りついた地面に寝かせ
砂塵鳥爪獣の氷像の前に立った
直後、"青年"の気配が何倍にも膨れ上がったような感覚に陥った…
そして手に持つ剣が青い閃光を纏い始め
振り下ろされた
その斬撃を受けた砂塵鳥爪獣の氷像は砕け散った
その光景はまるで神話の一説を見ているかの様に全ての兵士達の網膜に深く焼き付いた
「黒髪の…英雄…………」
「助かった……のか……?」
「……………ぽっ……」
兵士がざわざわと騒ぎ出す
最後の1人はやや別のベクトルで騒ぎそうだったがまぁいい。
『『『『『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ』』』』』
そして一拍おいて起こる歓声
大地を揺らす様な喜びの叫びを背景に黒髪の"英雄"はその歓声に一瞬目を見開くが
直ぐに表情を元に戻し
森の中に去って行った
王子が声をかけ呼び止めようとした時には黒髪の"英雄"は消えていた
【SideOut】
ローチェルド・ベールフェイトが
後に語る彼の談は
チャラく軽薄な噂を払拭するのに片腕を損失するのは
高い代償だったとか。
4/17[修正]




