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Soul-Move -新章開始-  作者: 癒柚 礼香
【深淵の密林】
2/145

2話≫〔統合版〕

修正版→全体の表現や描写を詳しく書き、肉付けしました。



先日同様短いですがよろしくお願いします


4〜6話の統合。








自分の意識と言うものを認識する事によって、周囲をなんの無くだが把握する事に成功した。



俺は…暗い闇の中を漂っていた。



闇、闇、闇、闇、闇、闇、闇、



純粋な闇、でも何故か視界が不明瞭ではなく、

先の見える不思議な闇。


ただ先が見えないほどに広い闇の中を漂流する様にぷかぷかと漂いながら、


どこまでも続く果ての見えない暗闇を彷徨う。


………あ……うぁ…………ぁぁ………


不意に意識が鮮明となり、

周囲の情報がしっかりと眼球を通して脳に焼き付けられていく、


すると不意に上下の感覚を認識する事が出来た…


だが上を見ようとしても、

次は眼球を認識出来ず視点を変える事が出来ない。


次に手足の感覚が戻った。

力を入れる事が出来る。


手足に力が入るようになり、

やや拙いが自由に動かせる様になった腕を折れない程度の力で懸命に動かしてみる。


そんな事をしていると、

不意に意識が浮上する感覚に襲われ、

視界の先にほんの僅かだが光が見えた。





ーそこで意識が途絶えたー





意識が再び覚醒する。


意識が途切れてからさほど時間は経ってない様に思える。


一度認識出来た場所は気絶しても変わらないらしい。


まだ浮上する意識の先に先程よりもハッキリと光が見えるからだ。


気がつけば眼球の認識もできていた。



俺は視界の先に見えている僅かな光、

そこに届く事など無いと思いながら、

無意味であろうとも。





それでもなお、手を伸ばした。






【SideOut】




数奇な転生せし魂魄ルミーンズ・ソウル・リエンカネィション


 雪埜(ユキノ)(カナデ)


残存内包生命力/内包生命力:0/0


必要経験値/規定経験値:0/0


能力(スキル):解放不可


加護:なし



残存内包生命力/内包生命力:5/9000



6/9000



70/9000



71/9000



1554/9000



3555/9000



5000/9000



7000/9000



9000/9000




身体が足場と並行に持ち上がる様な感覚と共に意識が浮上していく。




[!]時空転移しました。世界の法則に基づきステータスの表示を改変します。




××××××××××××××××××××××××××××××××××







………んっ……ん………………んんっ?……



瞼の裏が赤く見える。


太陽のように暖かな光が当たり身体がとてもホカホカとしている。


(もしかして…これが死後の世界なのかな…)


だとしたらこれは楽園だな、

春から夏に移る時の平原に寝っ転がっているような感覚だ。


もちろんそんな感覚知らないが…


目を開けば圧倒的な情報量が脳に侵入してくる。


そして周囲を見渡すと、

自分の置かれている状況を次第に理解してきた。


今俺がいるのは木々の合間にぽっかりと空いた空間で視界に映るのは木、木、木。


全方位は木に囲まれていて林道や獣道は見回す限りにはなさそうだった。



そして下を見ればくるぶし程の草がまんべんなく生えていて、

俺の身体を包み込んでいる。


数年ぶりの外気に触れた皮膚はツヤがあり、

生前の触っただけで折れそうな生気の感じられない青白く死人の様な身体は見る影もなかった。


俺の視界が捉えたのは、


肉付きの良い…

まるで病気になる前の小さかったあの頃の様な身体に、

健康優良児のようなしなやかな体躯だった。


もちろん俺の下半身にどっしりと鎮座している見事な愚息は、

病室で見た干からびたレーズンの様な面影は無く、

泣く子も濡れる強大なオーラ、

もとい色気をはなっていた。


だが、生前の全快の愚息など見た事が無いからか、

一般的には異常なオーラ、

もとい色気を放つ愚息に気がつく事は無かったが。



そして、数年振りに外気に全身を晒した状態は病室にいた頃とは違って、

死んでいる筈なのに、


とても生きていると(・・・・・・)感じた。



真上を見ればいつも病室の窓越しに見ていた青い空が見える、

あの箱の様に窮屈な部屋とは比べ物にならない。


部屋の湿度調整器や温度調整機器による人口の温度や湿度ではない、

自然な暖かさや、

森独特な湿っぽさ、


空気清浄機による塵一つない綺麗すぎる空気ではない、

自然な森の香りを運んでくれる風を頬に感じながら、

俺は感慨深くなり気がつけば頬を涙が伝っていた。



どのくらい時間が経っただろうか、


いや体感時間が長かっただけで実際は数分だったかもしれない、


そんな曖昧な時間の中で、

久方ぶりに目元を濡らした零れ落ちる雫を懐かしげ見て、

俺は涙を拭おうとした手を止めた。




気持ちも少し落ちつき、

涙も収まってきた頃、



俺は重大な事を見逃していた事に気がついた。


ゆっくりと見違えた脚にかける負荷を上げていく。


そう、俺は久しぶりに、

本当に久しぶりに、

自分の脚で地に立とうと思ったのだ。


腕にかける負荷も増し、

体が健全であっても、

長年動かなかったと認識している脳が身体を動かすのを拒む…


立ち上がるのに何分かかったか…


まだ膝が嗤っている。


だが、今はその膝の嗤いでさえ愛おしく思えた…


「あぁ…立っている…俺は…立っているんだ……」


落ち着いた筈の涙が溢れ出るのを止められなかった。


いや、止めたく無なかった…


何度夢見たか…


俺がもう一度立ち上がり、地を歩く事を…


そうだ、俺は歩きたかったんだ…


この空の下に広がる、


ちんけな病室の区切りなんて無い、


昔に諦めたどこまでも広がる世界を歩く事を…




××××××××××××××××××××××××××××××××××



暫くして空を見上げれば、上空には鳥が…


「………なんだ…あれ?……」


首が2本生えている鳥が空を悠々と大空を駆けている。

体毛の色は七色に輝く極彩色で、

大きさはは飛んでいる所が高くて良く分からないが、

良く窓から見た空を飛んでいたヘリと大体同じ様な気がする。


(死後の世界だし…そう言うのもあり…だよ……な…)


体感数時間にも昇る全裸で感動の涙を流す自分を客観的に見て羞恥を思い出したのか、


俺はそんな現実と剥離した事態を淡々と解説していた。




取り敢えず……いくら身体つきが良く健康体に見えるといっても、


このままで居ると風邪を引きそうだ…


俺は未だに冷めない感動に打ちひしがれながらも、

動かし方を忘れてしまった筋肉たちに必死に電気信号を送りながら、


一歩一歩、着実に大地に足跡を刻んでいった。





ー1時間後ー





俺が目の覚めた周囲を木々に囲まれた空間、

そこから数分も離れていない場所をゆっくりと捜索する事1時間。


ふと上を見た時に見つけた黒い布の様な物を、

俺はじっと見つめていた。


(あれ…何かの動物か?だけど…動かないし…何か…横に剣も置いてある…)


俺は数分の間考えた後、

これ以上裸でいる事になにか人間的に手遅れになってしまう気がしたのを感じたので、

木に登ってその黒い布の様な物をゲットしてみる事にした。


1時間くらいだろうか、

歩いているうちに辛うじてスムーズに歩く事ができるようになった。


あと数時間程歩けば走る事くらいは出来るかもしれない…


ゴツゴツとした木の幹、

その出っ張った部分に手を掛け足に、手に、

ゆっくりを力を入れながら足を地面から離す。


脳は身体が動かないと判断していても、

どうやら身体の方は万全以上に動いてくれるようだった。


それからナマケモノの様にゆっくりであるが、

着実に木を登り、

黒い布の引っかかった枝に着く事が出来た、



その黒い布を広げて見ると、

それは真っ黒な服だった。


木の上は広がっていてスペースがある。


俺は降りるのも面倒なのでここで試しに着てみる事にした。


誰かが置いていった物だとしても、

着ていればシラを切る事も出来るだろう、

そんな腹黒な思考が頭をよぎるが、

これは死活問題なのだ。


人と相対した時にまず見られるのが外見だ、


人のイメージとは外見で8割が決まると言うのもあながち間違ってはいないのかもしれない。


つまり俺の言いたい事は、

フルツィンで人と会ったら終わりでしょ?

と言う事だ。



まず黒っぽいインナーを着てみる。

いつも病院の部屋に置かれている服は看護師さんが手取り足取り、

残念ながらナニは取らないが、

まぁ取られても激痛なのだがな、はっはっは………




丁寧に着替えさせてくれる薄い若葉色の浴衣の様な物しか無い為か、

シャツ一枚でも何か嬉しい。


インナーのシャツのサイズは自分の身体のサイズにピッタリだったようで、

妙な圧迫感も無いしダボダボな感じもしない。


まるであつらえたかの様にピッタリで逆に誰かの作為的な何かを勘ぐってしまうな…


ズボンは少し赤みがかった黒い一般的な物、に見てとれる


パンツまで真っ黒と言うのは些かどうかと思ったが、パンツを履かないでズボンを直穿きという思考はない。


靴も素材不明の黒い革で出来ている、合成革では内容だが…分からない…



一通り着る事が出来た、後はこの靴と同じ素材不明の黒い革製のフードが付いたレーザーコートだった。


俺はコートなんて着た経験など無いが、寒さをしのぐ布団代わりにでもなれば御の字だろう


その程度の感覚で袖を通しておく事にした。


オール黒であるが不思議と嫌な感じはせず、むしろ懐かしい感覚がすると、脳の何処かが言っていた。


コートを持ち上げて袖を通した後、服が引っ掛けられていた所、つまりコートの下にあったのだ。


死後の世界だとしてもなんでこんな所にあつらえたように服と剣があるのだろうか…


コートの下に隠れていた剣の刀身は80cm程と生前の俺からしたら十分に大きく、持っていたならば持ち上げる前に腕の骨が折れていただろう。

この剣が柄の部分が少し長く、

片手でも両手でも扱えるタイプの両刃剣のようだ


もしかすると死後の世界と言うのは俺の想像以上に危ないのかもしれないと思った。


剣を取ろうと身を屈めた時、俺は身体のバランスを崩してしまった…


反転する視界の中、俺は諦めたような、達観したような

なんとも言えない感情を持て余していた


(……死後の世界で死ぬ俺って……)



ゴスッ!!!



「…ゔっ……ゴバッ!?…」


3m程の高さから一気に落ちた俺は思いっきり頭から地面に打ち付け、頭頂部に割れるような痛みを残して


…いく筈だった。


「あれ…そんなに…痛くないのか…?」


確かに頭から地面に衝突した、それは強い衝撃こそ残したが

まるで痛覚が麻痺した様に痛みの伝わり方だけがヘルメット越しに殴られたかの様に鈍い痛みのみだった。


ゆっくりと起き上がり、手に握ったままの剣を地面に置く、


そして俺は身体に異常がないか服越しに触ったりして確かめた


全くと言っていいほど今の衝撃によるダメージが見当たらない事に違和感を抱きつつも、俺は違和感の正体を突き止める事を放棄した


生前、俺は全ての行動に激痛が走るほど症状が進行していた。


まさに綱渡りの様にギリギリの毎日、

最後の方は自由に身体を動かす事も出来なかったし、

何かに触れるだけでも激しい、それこそ脳内の回路が焼き切れるんじゃないかと言うほどの痛みが身体を襲っていたのだから、


干からびた様な身体は瑞々しさを取り戻した

弱り、過敏になりすぎた痛覚は逆に鈍くなったと言えよう…



でも、死後の世界とは言えど自由に地面を歩ける、身体が自分の思った通りに動く、


夢にまで見た自分の足で地面を踏みしめることが出来た



いつも霧かかって淀んだ湖の様にドロドロとしていた頭も今は軽く思考も澄み切っている為か十全に機能している


生前は毎日の様に感じていた脳の動きの悪さも綺麗さっぱり消えていた



それにさっきから視界の端に浮かんでいる文字、


なんだろう…まるでゲームの画面のようだ。

最近の死後の世界はずいぶんとハイテクな技術を取り入れているのかもしれない。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



半人族(デミヒューマン)[lv:4]』


雪埜(ユキノ) (カナデ)


必要経験値/規定経験値:0/500


能力(スキル):【戦舞技(センブギ)補正.強】

加護:なし


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



見間違える筈も無いが、名前はどうやら生前の俺の名前のようだ。


そうするとこの文字は俺の事について書かれているのかもしれない


俺はゆっくりと視線を下に移動させながら心の中で文字を読んで行った。



半人族と言うのもギリギリの理解できる、多分これは人としての分類なのだろう。


普通の人や、ちょっと違う人、そう言うのを区別しているのだろう


なぜ俺が純粋な人間では無く、半分しか人間でない事の意味が分からず困惑するが…



[lv:4]と言うのはそのままの解釈の仕方をすれば

俺の現在のレベルなのかもしれない。



だけど必要経験値と規定経験値と言うのは?


必要経験値の方は俺の今の経験値を示しているのだろうか、そうなると規定経験値の方は何だ?

ここまで貯めると何かあるのだろうか?


俺の脳裏にはよくあるRPGの経験値を取得してレベルアップする制度がよぎった。


(ははは……何だこの妙な死後の世界は…)


鬱蒼とした森の中を木々に囲まれた空間の位置が分かるように一定の方向に向いた矢印を木の幹に刻みながら進んでいく。


なにかあった時にあの場所は逃げ込める事も不可能では無いし、問題は無いだろう



能力(スキル)は自分の持つ能力などを文字として表記した事なのだろう


何故かスキルの横に【戦舞技(センブギ)補正.強】と書いてあるが、これはどんな条件で手にいれたのだろう、正直な所だと気が付けば追加されていた。


何となしに煩わしいと感じたステータスの表示を、目障りだから消えろ!と念じると幻のようにフッと消えてしまった。


まさかもう見る事は出来ないのか?

すこし戦慄していたが始まらないと思いまた見たいとおもえば

視界の端に再びステータスの表示が現れた。

思考制御の様な技術を使っているのだろう

もしかしたら生前の俺の世界の技術よりも上だな。


知らぬ間にマイクロチップでも植え付けられたのかもしれない

頭に縫い目が無い事からその可能性は真っ先に否定できるのだが…


しかし、本当にこの森はなんなのだろうか…


まるで…違う世界、要するに異世界に来てしまったかの様な感覚に陥る…


まぁ死後の世界も分類上は異なる世界、異世界になるのだろうけども。


それにしてはこの森の中での体験は現実味がありすぎて違和感がある


分からない事が多すぎる、

違和感が多すぎる、

でも決定的な証拠が見当たらない…


俺は悩む事を一旦停止させると、

薄暗い木々の中を進み何かこの違和感の正体を暴いてくれる物を探す事にした。



【SideOut】






半人族(デミヒューマン)[lv:4]』 雪埜(ユキノ) (カナデ)


必要経験値/規定経験値:0/500


能力(スキル):【戦舞技(センブギ)補正.強】

戦儛技発動時の威力.速度[強]上昇

加護:なし




××××××××××××××××××××××××××××××××××









先の見えない森の中をどのくらい歩いただろうか…


左右の茂みがガサガサとなった。


そして挟むようにして森の茂みの奥から現れたのは2匹のゴブリンだった。




少し時間を遡る事、数分前。





剣術に関しては素人であるし、

まともに剣を振る事など出来ないだろうが、

こう言う武器は持っているだけでも随分と心が落ち着き余裕が生まれると言う事を実感した。


余裕が出来れば必然的に気になってくるのは空腹。


ぐぅぅぅぅ……


生前は希薄だった人間の3大欲求の1つが唸りをあげた。

生前はお腹などなる事は無かった。

点滴で栄養分を摂取していたあの頃は、

弱り切った胃は収縮し、


野菜を溶けるまで煮込んだスープも、

丁寧に作られたお粥も、


全て胃が拒絶し、嘔吐した。


もしかしたら今なら何かを口に含んでも大丈夫かもしれない。

そんな希望的観測をしながらも、

歩く事に慣れ始めた足は前へと進み続ける。


この世界で目が覚めてからと言うもの、

やけに身体が軽いような感覚がある。


何故かは分からないが、

今おもえば木を登る事が出来たのも、

夢中で気がつかなかったが俺の歩きの拙さから考えれば違和感が残る。



木々の合間にぽっかりと空いた空間を中心としてあまり離れる事はせずに、

近くに口に含んでも大丈夫そうな木の実や、

食べられそうな草、小動物が見当たらないか、そう思いながら周囲を探索もとい歩くのが楽しいのでやめられない、なんて事ををしていると


視界の端に何か大きめの物体が倒れているのが見えた。


俺はその方向に恐る恐る首を向けた。

そこに横たわっていたのは体長が1mもある巨大な芋虫…のような生物の亡骸と思われる物。


引きつる頬を抓ってほぐし、

命令を無視して本能的にバックに掛け出しそうな足に鞭をうつ、

次第に好奇心の方が勝ったのか、筋肉の硬直が和らいだ。

ゆっくりと忍び足で近づいてみるとやはりこの謎の物体は無駄に巨大な芋虫にしか見えなかった。


身体の色は全体的に黄緑色をベースとしている。

頭部は固そうな楕円形の黒い殻のような物が付いていて、

その殻の上には紫水晶のように光を吸い込み薄紫に透ける眼球の様な物が3個並んでいた。


だが亡骸と言った通り、

その芋虫はお腹の辺りをバッサリと、

切れ味の相当悪いであろう刃物で切り裂かれていたようで、

痛々しい傷口からは紫の体液や紫色に染まった内臓のような物が飛び出しとても無残な事になっていて、

紫の体液はあたりにばしゃっと飛び散っていた。


まだ紫の体液が乾いていない事から死んだ後にそこまで時間が経過していない事を伺わせる。

芋虫は既に息絶えているようで、

悲しいかな初めてあった生物は死んだ芋虫となった。



お腹が減っていて今なら何でも口に出来るかも、

とか思っていた俺だが流石にこの芋虫の死体は食べる事は出来なさそうだ…


芋虫さんの冥福を祈り、

腰を下ろして手を合わせて南無南無していると、


前の茂みが不意にガサガサと騒がしくなり、茂みの方から下卑た笑みを浮かべながら踏み出してきたのが、


冒頭で軽く説明した2匹のゴブリンだったのだ。



身長は1.2m前後と小柄だが、

体格はそこらの成人男性よりもがっちりとしている。

太く逞しい腕と脚、腹は膨れているが肩や胸にかけての筋肉は決して脆弱さを感じさせない。

ゴブリンの身体中の筋肉は腹を除いて、

全身がはちきれんばかりに膨らんでいた。


茶色い何かの動物の皮をお情け程度に腰に巻いてある事から、

最低限の知能はありそうだが、

その皮は既にボロボロになっているし汚れが張り付いて周りからみても汚らしさを晒している。


しかもその隙間からチラチラと見える干からびたフ○リピン産のバナナのようなバナナが非健康的な吐き気を運んでくる。



前の茂みから出てきたゴブリン達は、

俺を挟み込むように左右に展開し始めた。


俺は辛うじて頭を働かす事はやめていないが、無意識に剣の柄に手をかけていた。


足は震えている、

腰は引けている、

背筋は腰が引けているのに比例してへっぴり腰、

柄に手をかける手は小刻みに震えている、


この時のカナデは知る由もないが、


片方のゴブリンが右手に持つ刃渡り10cm程度の短剣は、

ゴブリンが持つ物にしては綺麗な錆びの少ない物であった。



もう片方のゴブリンが持つのは、

カナデと同じくらいの刀身の長さを持った剣であった。


こちらは手入れを怠っていたのか乾いた血が付着していて、

錆びついた所は赤茶色に変色してしまい、

所々にはヒビまで入っていた。


ゴブリンにしか見えない2匹はその歪んだ顔を更に歪め、

下卑た笑みを浮かべている。

それはこれから嬲り殺す弱者を嘲る表情かもしれないし、

髪の少し長い俺を女だと勘違いしてこれからの楽しみに顔を歪めているのかもしれない。


ゴブリン達は黄色く濁った白目の中心に位置する黒い双眸をギロリと俺に向けていた。


一瞬その濁った眼光に竦みそうになるが、

隙を見せた瞬間に殺されてしまいそうだ。


ここで今まで溜まってきた違和感が少し解けた気がした。


ここは死後の世界じゃ無いのかもしれない。と、

そう思うと今までのモヤモヤとした感覚は上空に広がる青空のように晴れ渡り思考がある程度クリアになった。


目の前にいるのは、

どこからどう見てもテンプレなファンタジー小説にGの様に無限に出現する雑魚キャラの代名詞、ゴブリン。


だが、目の前にいる筋骨隆々とした黄緑色の2匹のおっさん顔のゴブリンは、

とてもじゃないけど今の俺には雑魚キャラと決めつける事は出来そうに無い。


自分は使えないとは言え、

武器を持っていて、

ゴブリンは俺を殺すタイミングを今か今かと見計らっている。


…ここは戦うしか道はなくないか?


ゴブリンの足の筋肉を見る限りとても今の俺の拙い走りで逃げ切れるとは思えない。


多分背中を向けた瞬間には俺の命は…


また、終わってしまうだろう。


ゴブリンは相当体力があると何処かで聞いた事があるし、

逃げるのは得策ではないだろう。


痺れを切らしたのか、

右手に短剣を握りしめたゴブリンが急速に接近してきた。


ゴブリンは短剣を上から斬り下ろしてくる。


あわててその斬撃を身体を捻る事によって避ける。


間一髪だった。

やけに身体の反応が良かった気もするが、

次にあれを受けたらよける事は出来ないだろう。


俺は次の攻撃をされる前に反撃をする事を決め、

腰の剣帯にくくり付けた剣の柄に手をかけて、


勢いよく鞘から抜き放とうとしたその時。


(戦舞技(センブギ)ー【一閃(イッセン)】)


へ?


突如として脳裏に浮かび上がってきた漫画でしかお目にかかれないようなシンプルな技の名前の様な表記。


本能的に、声に出せば何か起こるんじゃないかと思った。


俺はその本能を頼る事にした、

こう言う絶体絶命な状況こそ1番頼りになるのは自分の勘であり、

本能であると、

何処かの人がインターネットに書いてあったのを思い出した。


そして焦らないように気を鎮めながら、

早すぎず、遅すぎず、

意識しすぎて失敗しない程度に身体の力を抜く。


その不思議な言葉を紡ぐ為に肺に空気を溜め込み、


抜刀前の柄を握る手に力を込め、


肺の空気を一気に吐き出し、



声に出しながら全力で言葉を紡ぐ。



「…【一閃(イッセン)】!!!!!」


声と力を剣に乗せて、

一息に降り抜こうと鞘から剣を放とうとした瞬間、


身体の奥から何か分からないが暖かな力が湧き上がる感覚に襲われた。


そして鞘から抜き放たれる剣は青い"閃光"を伴いながら引き抜かれていった。


(……は?……なんだ…これ……)


一瞬で最速に達した"閃光"を纏う剣は俺のへっぴり腰な構えなど気にした様子も無く、

まるで決まった起動をなぞっているかの様に、

短剣を振り上げた状態のゴブリンの胴体に吸い込まれていった。







ゴブリンの意識は貧弱そうな人間が先ほど狩った獲物におびき寄せられてきた事に嬉しがり、


仲間と共に殺そうとして短剣を振り上げたが、

その直後に胴体に燃えるような熱さを感じた直後。


頬に当たる地面の感触を感じた所で途切れた。






今の現象に驚き、「これもファンタジー世界っぽい」などと場違いで現実逃避気味な事を考えていた。


何故か、それは今目の前に意識を移せば、俺は吐いてしまうから。


俺はもう1匹のゴブリンがいた事などとうに忘れ、小刻みに震える手のひらを見つめていた。


ゴブリンの肉体を斬り裂いた生々しくも不気味な感触が手に残り、手の痙攣が伝播して行く。


今さっき斬ったゴブリンから出来るだけ目を逸らし、吐きそうな胃を意識して腹に力を込めて、ギリギリで吐き気を抑えた。


そして俺は本当に運がいいのだろう。


未だ驚き冷めやらず、硬直した残る1匹のゴブリンに向かって手に残る生々しい感触を振り切るために駆けた。




生前はとにかく暇を持て余していた。


只ひたすらに白い病室で暇を持て余していた時の記憶に残る


【異世界wiki(笑)】というサイト


良く思い出せないが(・・・・・・・)有志によって投稿される情報サイトだったと記憶している


こんな出処の知れない情報が当てになるかどうかは分からないけれども、


確かゴブリンの倒し方は……



俺は立ち止まり抜き身の剣をそれっぽく半身で構える。


今は余計な事など考えなくていい…


そして錆びついて赤茶色に変色し、ヒビの入った剣を持ち、未だ仲間の突然の死に唖然とするゴブリンの首の一点を狙う。


(戦舞技ー【刺突(シトツ)】)


不意に脳裏に浮かび上がる文字、


またかと思いつつ頭の片隅ではこれもファンタジーか、と割り切って思い再び脳裏に浮かび上がった文字を声に出してみる。



「…【刺突(シトツ)】!!!!!!」



フラフラとした軌道でなんとか首を狙い、半身の身体から無理矢理繰り出そうとしていた剣は。


青い"閃光"を纏い一気に加速した、

あり得ない軌道、修正される狙い、


その剣の行く先はゴブリンの喉元。


眩い光を纏ってからブレなくなった剣筋は、

ゴブリンの喉に寸分違う事なく吸い込まれて行き、


再び肉を斬る感触を剣越しに伝えてくる。


「……グ…ギ……ァ………」


ゴブリンは喉を幅のある両刃剣で貫かれ、

苦悶に顔を歪め俺を必死に睨んでいたが、


ついにその生命力にも限界が来たのか、

大声を発する事なく息絶えた。


俺は吐きそうになる身体の反射をその死体から目を逸らす事で無理矢理停止させ、

ゴブリンの仕留め方があっていた、と言ってもどんな生物だろうと首を貫かれたら終わりか…とも思いつつ仕留め方を思い出していた。



仕留め方


仲間を呼ぶ叫び声が厄介

仲間を呼ばれる前に喉を潰すか肺を潰す事←これが重要



あのwiki本当に役に立つとは思わないし、

首を貫いて即死に近い死に方をしたゴブリンに役立ったかはハッキリとしないが、

とっさに浮かんだ選択肢の1つとして直ぐに剣を前に出して首を突けたのはあのwikiのおかげかもしれないと思った。


伊達に病室生活長くなかったからな、

病院の玄人程嬉しくない称号は無いのだけれど…


あの謎のwikiは完全に覚えてしまっているし、他にも役立つ事があればちょくちょく思い出すのもいいかも知れない。


俺は早々にこの場を立ち去りたい一心で剣に付着した血を払い落としながら早足で距離をとった。


そして鬱蒼とした森の中、比較的苔の付着の少ない木に腰を下ろし、血生臭い空間に充満していた反射的に吐いてしまうような空気から解放された肺を十全に機能させた。


森の空気に晒され、木を落ち着ける事数分。


そういえば気になっていたことが一つ、

ゴブリンを倒せば経験値はたまるのか?

と、いう疑問。


あのステータスの様な表示を見る為に開け!と念じてみれば視界の端に浮かび上がる文字の羅列、ステータス。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


半人族(デミヒューマン)[lv:4]』:new!【剣士(ソードマン)


雪埜(ユキノ) (カナデ)


必要経験値/規定経験値:121/500


能力(スキル):【戦舞技(センブギ)補正:強】

new!【鈍感:中】


加護:なし


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



やはり経験値の欄にある数値は増加していた。



121



ゴブリン1匹は大体60くらいの経験値が得られるのだろう。

でも個体差とかの関係もあるのかもしれない。


取り敢えず経験値を貯めるのは精神衛生上あまりよろしくない…


取り敢えずこのステータスについては、

後回しにして生きる為に食糧を探す事にする。


勿論今さっきの事があるし、何にも遭遇せずに食糧が手にはいるとは思って居ない。


だから俺は進む事を阻もうとする心を押さえつけて、ゴブリンの死体の転がる方に足を向けた。


首に大きな風穴を空け、白目を向いて仰向けに倒れるゴブリンの周囲に広がる草や木には、血がベットリと付着していた。


上半身と下半身を別の場所に横たえたゴブリンは表情こそうつ伏せで見えないが、臓物を撒き散らし辺りに排泄物特有の臭さとむせ返るような血の匂いをばら撒いていた。


俺はそこで限界を迎え、胃の中に溜まっていた胃液を吐いた。


胃には何も入っていなかったが、何度も何度も胃液を吐き続け。


気がつけば辺りは血の匂いと吐瀉物の匂いと、排泄物の匂いが充満する最悪な地帯と化していた。


「…ぁ…ガッ………急がないと……」


急がないと血の匂いにつられた他のゴブリンやまだ知らない物達が寄ってくるかも知れない。


俺はゴブリンの死体と向き合い、再びせり上がってくる胃液を抑える。


吐き出す胃液すら無くなった胃は縮まり、もう吐く事は無くなった。


2匹のゴブリンだったものに手を伸ばす。


震える右手を左手で押さえつけて死体の服を(まさぐ)る。


そしてやっとの事で腹の下敷きになっていた

短剣と予備で持っていたであろう短剣の中でも比較的綺麗な物を数本だけ拾った。


他にめぼしい物は見当たらず、俺は食糧探しを再開する事にする。


鼻は血生臭い空気を吸った事により麻痺してしまい機能しない。


俺はお腹が減ってきたのを我慢しながらゆっくりと歩みを進めた。



流石にゴブリンを喰おうとは思えなかった。




【SideOut】




カナデはこの時気がくことが出来なかった。


人外とは言え、命ある者の生命を奪ったことに反射的に嘔吐したとはいえ、


これといった罪悪感を抱かなかった事を。





半人族(デミヒューマン)[lv:4]』:new!【剣士(ソードマン)


雪埜(ユキノ) (カナデ)


必要経験値/規定経験値:121/500


能力(スキル):【戦舞技(センブギ)補正:強】


new!【鈍感:中】


効果:感覚麻痺



加護:なし








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