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Movement of the soul-02



遅れて大変もうしわけありません。


作者本歳19歳を迎えるに当たって保育士を目指しており学業の合間に執筆しておりますが、なかなか筆が進まず、未だにこの駄作を読んでくださる読者に迷惑をかけてしまった事をここで謝罪します。


と、まぁ硬い文章は程々に。


お楽しみください。



戦いの末に誕生した新たな観察者がその世界を離れてからどれだけの時が経ったのだろうか…


その世界に引き寄せられるように1人の人間が落ちてきた。



真っ白で湿り気のある綿の様な物をすり抜けて行く。

背中がそれを掻き分けながら進むからなのか、既に背中は服を濡らす水がしたたっている。


その違和感に気が付き、目をわずかに開く。

かつてのカーデイリアの世界で俺は、いつもに魔法と異常な身体能力の恩恵で風を切り裂いて進んでいた。


その時に感じていた鼓膜を震わすような風の音。

轟々と鳴り響くその音は背中から目線の先へと流れていく。


目線は今しがた突き抜けた雲をみている。

俺が突き抜けた跡は既に他の雲が埋めている。


ここは空…なのか?


俺は酸素量が圧倒的に少ない事から、ここが地上ではないと確信に至った。

だが頭が働かない。


度重なる限界以上の魔法の使用により俺の脳の処理機能は半ばシャットダウンしていたのだ。


ゲームで言えばMPもSPもHPでさえも限りなくゼロに近い状況。

俺は空から落下する物体にもれなく訪れる終焉の情景をなんとかぼやける思考の中記から手繰り寄せた。


「かはっ…マズイッ!」


呼吸がしやすくなればなるほどに自らの死期を近く感じるようになる恐怖感。

魔力も限界。

体力も精神力も思考能力も全てが最低ライン。


それに、欠けた魂のせいなのか身体は言うことを聞かなかった。


俺の身体はなす術なく地に触れた。


瞬間。大地の核がめくれ上がるような衝撃と振動をもって、俺は仰向けで地面に大の字に埋まっていた。


「ガッ!?」


だが、何秒経とうが俺の体には鈍い衝撃以上のダメージは現れなかった。


「…なんだ…痛みを、感じない…」


俺は呆然とし、現実逃避を始めることにした。


この世界は、カーディリア。

ここに来た理由は分からなくもない。


僅かな可能性に賭けて行使した魔法が、求めた結果を手繰り寄せたということになる。

第六階位魔法、世界転移(ワールド・ムーブ)という魔法は、十まである階位からすれば簡単に行使できる魔法と思われがちだ。

実際に俺は先の魔法で第十階位魔法を行使した。

使えるはずがないと誰もが思っただろうが、魂を魔力に変換した時に得られる濃度は、体内の魔力許容量の比ではない。

人間の魂は、それだけ高濃度なのだ。


だが第六階位魔法での転移は、飛ぶ場所を明確に指定できないという欠点がある。

八階位や十階位まで行くと正確に飛ぶ場所を指定できる魔法も出てくるのだが、咄嗟に撤退を選んだ俺にはその魔法を行使しようという発想がなかった。

実際に最後に放った第十階位魔法、北欧の神剣(エッテタンゲ)は俺自身予定していなかった物だ。


だが、咄嗟に放った魔法にしては上出来だったと思う。

VRMMO時代の魔法形態と、俺自身が編み出した魔法を組み込んで作り上げた階位制の魔法。

その中でも北欧の神剣(エッテタンゲ)はVRMMO時代の光属性の必殺技に属するものだからだ。

もちろん威力には自信がある。


だが階位分けした魔法形態や、自らが確立し

満足していた詠唱方法は、あの黒い敵との戦いで全てとは言わないが、無駄な努力でもあったと言える。


この世界でもう一度魔法と向き合わなければならないだろう。



思考を柔軟にした場合、階位制の魔法形態を一度全て解体し、今までおれがカーディリアで培ってきた概念魔法や既存のVRMMO時代に使っていた魔法を使う事になるだろう。

と言うより、その可能性の方が高いと言える。

しかし、カーディリアにいた時よりも詠唱は高速化している。

あの世界に一度帰れたことは無駄では無かったのだろう。


だが、俺は今すぐにでもこの世界を離れ、地球に戻り仲間を助ける必要がある。


幸い、元々が観察者たる俺にとって、世界を跨いだ魔力探知は力を発揮すれば不可能ではない。


僅かに回復した魔力を使い、俺は魔力の網を世界を超えるように伸ばして行く。


だが、そこで俺はあることに気がついた。


「ま、まさか…と、閉じ込められたのか…」


最悪の可能性であった事が、俺の中で現実味を帯びて行く。

地球で敵対した存在が、地球の管理に携わる者である可能性。

そして黒い影の発した言葉。


『コノ不安定ナ世界ノ輪ハ、小サナ特異点デスラ歪ム…』


この言葉からして薄々感づいていたが、やはり俺をこの世界に閉じ込める力があるとなると、かなり力を持った存在なのかもしれない。


それこそ、神と呼べるものである可能性すらある。


力の限り握る拳は、自らの握力によってギリギリと危なげに軋みをあげる。

行き場をなくした苛立ちが俺の体内で張り裂けそうなほどに膨れ上がるが、俺になすすべは無い。

世界に閉じ込められた以上、俺にできることは無かった。


今の出来たことといえば、弱々しく、死んだ大地に地面に拳を打ち付ける事ぐらいだった。




死んだ大地と言ったとおり、東京ドームほどに陥没したクレーターは、何かの隕石が落ちてきたのではないかと言うほどに荒れ果てた荒野を作り出していた。

果てのない森の中に突如して出来上がったクレーター。

そこにいた生命はことごとくチリと化したのだろう。

これはどれほど、広大な森なのだろうか。


何度目かの確認になるが、空気中に含まれるマナの懐かしい感覚からここはカーディリアで間違いないらしい。


それに、真上を見上げれば広がる空。

あの時、最初に見上げた様に、雲ひとつない空とは言えなかったが、荒野のクレーターの中心で仰向けになる俺から見えるこの空は、何処までも哀愁を感じさせるものだった…


今でも思い出せる。


仰向けに寝そべった状態で目を覚まし、周りに青々とした草の感触を味わったあの時のことを。


俺は世界をもう一度世界を渡って見せる。

更なる力を手に入れ、あの黒い敵だけで無い、敵対する全てを打ち滅ぼす力を体得した時、この世界を覆う様に張り巡らされた蜘蛛の巣の様な網をぶち破って、世界を超える。


たとえそれが手遅れだとしてもやらなければならないと自分の中で決めたことくらいは出来る人間で居たい。


「俺はまた、この世界に来てしまったんだな…」


帰ると決意したからか、このカーディリアに来たと言う事を尚更実感した。




何時間にも感じる数分が過ぎ去り、俺は行動を開始した。


空から落下してきた時に感じた倦怠感は殆ど感じない。

この世界を作った観察者の役目を引き継いだ俺だ。

この世界は俺のものであると仮定してもいいのだろう。


生意気ではあるが、その俺がこの世界に来て調子が悪いなど多分あり得ないことなのだろう。


そして、俺自身が今体感した肉体の凄まじい耐久性。

それの説明がつかないが、取り敢えずは後回しだ。


この森に招かれざる客として現れた俺を、彼らは排除すべき敵と認識したらしい。





VRMMO時代魔物と呼べる生物のヒエラルキー最下位に属していた生命体。


混沌小鬼(ゴブリン)


「ギギッ!グギギガッ!!」


「ギッ、ギガガ!」


目の前に現れたゴブリンは2匹。

だが、VRMMO時代と大きく違う点は存在に生々しさがあり、瞳に映る色は生きていることを示すかのようにギラついていた。


そいつらは俺自身が最初にこの世界で接触したゴブリンとよく似たドロドロと欲に濁った

瞳をしていた。


俺の視線と、ゴブリンの視線が交錯した瞬間。


本能的に思い出すこととなる。


どの世界が、俺に対して優しかったか(・・・・・・)を。


それは、かつての地球での絶対の不自由と、この世界で最初に感じた開放感から比べれば、一目瞭然であった。


俺は自然と口角が吊り上がるのを抑えようともせず、嗤った。


「キガガガッ!」


迫り来る2匹のゴブリン。

2匹とも似たような長剣を持っている点では、ゴブリンにありがちな厄介な武器の多様性を奪っていた。


両サイドから迫るゴブリンを前にして、俺は驚くほどの処理能力で冷静に状況を整理し、悟る。


「やっぱ、この世界は…厳しい」


2度目のチャンスをくれたこの世界で、俺はもう一度、やり直す。


迫り来る二筋の斬撃。

この世界である程度回復した俺は全身の力を抜き、手をだらりと垂らした。


僅かだが、まだ身体を重く感じる。

この世界に俺が最適化するまで、まだ少しの時間を要するのだろう。


その思考を振り切って、瞳を閉じる。


コンマ以下のスピードでステータスを確認。

やはりというべきか、魂の欠如に合わせるように、レベルや経験値、職業などのステータスは初期化されていた。


種族も魂の器が減ってしまったせいなのか、殆ど人間と言っても変わらない魔人に近いものになっていた。


スキルが残っていたのが救いだ。


まず、俺は超思考加速ハイ・アクセラブレインで思考を加速する。

ゆるりと流れる映像を見ながら、目の前のゴブリン2匹の筋肉の動きを把握してやや余計に見積もって後ろに飛ぶ。


そしてその中で今のステータスを全て読み取る。



[種族]

:【人魔】


[レベル]

:【LV.ーー1】


職業(ジョブ)

:ナシ


名前(ネーム)

:【雪埜(ユキノ) (カナデ)


[経験値]

:この機能は存在しません。


能力(スキル)

:【戦舞技(センブギ)補正:強】

【体力/筋力補正:強】【解析(アナライズ)

弱点解析ウィクネス・アナライズ】【縛りの咆哮(バインド・ロア)

竜種の咆哮(ドラゴ・ロア)】【第六感(シックスセンス)

【下克上】【隠密(スパイ)】【暗視(ナイトヴィジョン)

魅了(チャーム)】【砂塵の爪甲】

【並列思考】【超思考加速ハイ・アクセラブレイン

色素調整ピグメント・アジャストメント】【瞬間移動(ワープ)

予測の眼(ヴィジョン)】【血分体(ブラッド)

【下位従属】【被害遮断(ダメージカット):強】

【粘糸精製】【識字】【剥ぎ取り補正:弱】

異次元収納(アイテムボックス)】【状態異常無効】

【全属性耐性:中】【武器作成:ⅠⅠ】

【格闘術補正:中】【幸運補正:中】

虐殺者(スローター)】【古の戦士】

【剣豪:ⅠⅠ】【魔力抵抗(レジスト)】【見切り】

【食いしばり】【明鏡止水】

【全能】使用不可

魔狂神(デダイヴァシス)】使用不可


【祖なる魔導師:Ⅲ】〔9〕

:【全属性魔法オール・アトリビュート・マジック

:【魔法威力補正:強】

:【魔法命中率:強】

:【魔法操作:強】

:【魔力量増大:強】

:【魔力探知:強】

:【消費魔力半減】

:【魔力回復速度上昇:中】

:new!【詠唱短縮】


---------------------------------------


[クラン]

:【七光】


[Point]

:【ー】


所持金(エル)

:【測定不能】


[称号]

:【神殺し】

:【力無き観察者】

:【足掻く英雄】



[!]種族がグレードダウンしました。


[!]魂の欠落によりレベルがリセットされました。


[!]経験値システムに以上あり、数値での測定不可となります。


[!]職業(ジョブ)がリセットされました。


[!]スキルが最適化/整理されました。


[!]【解析の眼(アナライズ・アイズ)】→【解析(アナライズ)】に最適化。


[!]【体力補正:強】/【筋力補正:強】→【体力/筋力補正:強】に最適化。


[!]【野生の本能ワイルド・インセィティクト】→【第六感】に最適化。


[!]【毒耐性:弱】/【麻痺耐性:弱】→【状態異常無効】にレベルアップ。


[!]【超回復(ハイ・リカバリ)】→【被害遮断(ダメージカット):強】にレベルアップ。


[!]【雷耐性:弱】/【炎耐性:弱】/【氷耐性:弱】→【全属性耐性:中】にレベルアップ。


[!]【幸運補正:弱】→【幸運補正:中】にレベルアップ。


[!]【魔狂神(デダイヴァシス)】が使用条件を満たしていない為使用不可。


[!]【全能】が使用条件を満たしていない為使用不可。


[!]【祖なる魔導師:Ⅱ】→【祖なる魔導師:Ⅲ】にレベルアップ。


[!]【詠唱短縮】を獲得しました。


[!]【魔力回復速度上昇:弱】→【魔力回復速度上昇:中】にレベルアップ。


[!]pointがリセットされました。


[!]【神殺し】以外の称号が消滅しました。


[!]称号【力無き観察者】/【足掻く英雄】を獲得しました。




ステータスを開いた瞬間、今までに見ることができなかったステータス上下の知らせが一度に脳内に響き渡る。


俺はそれを気にすることなく全てのステータスに目を通し、僅かに考える。


(スキルが減っていたり使用不可になっていたり、増えているのは分かるが、何故スキルが強化されているものがあるんだ?一度観察者になったことが鍵ではあるはずなんだが…それに、経験値が存在しないと言うのか?いや、数値的な視覚効果がなくなったのか?システムから本格的に解放されて来ているのかもしれない。だが、レベル制度が残っていると言うことは、やはり数値で見ることができなくなって来ているのだろうか…謎が多いな…)


スキルが増えた理由としては、俺が地球で習得した能力なのだろう。

だが、他は考えたところでらちがあくような問題でも無い。

この戦闘が終わったら時間のある時にでも考えてみようか。


俺はすぐにその思考を置き、アイテムボックスから取り出した武器を握りしめた。


VRMMO時代からの愛剣である、【古代天魔の剣(エンゲフェル)】だ。


あの武器は世界に数える程しか無いと言われている【神話武器(ミソロジーウエポン)】の1つだ。

運営のアップデート後にはそれを更に上回るレベルの武器が現れるだのなんだの聞いていたが、神話級の武器は現状の最高ランクである。


握りしめた柄の感触に思わず笑みがこぼれる。

嗚呼、懐かしい。


この剣を握るのが何ヶ月ぶりだかも忘れ去ってしまうような興奮を覚えながら、大幅なレベルダウンによって融通の利かない身体にずっしりと重みを伝えてくる古代天魔の剣(エンゲフェル)を握りしめ、脱力した状態で駆け抜ける。


2匹のゴブリンは、急に纏う雰囲気を変えた俺に戸惑いながらも僅かに錆び付いた長剣を構えようとした。


「遅い」


その言葉がゴブリンに理解できただろうか、

ゴブリン2匹に狙いを定めた俺は、一瞬で足に魔力を集中させる。

発動するのは概念魔法コンゼプト・マギの応用。

足の裏一点のみに極端な魔力を集中させ、圧縮、魔力に方向性を持たせて解放。


この3工程だけで済む為、一瞬の効果ではあるが加速した俺の思考領域では造作もない。


「ァ…ガッ…」


「ァ”?」


足の裏から解放した魔力の塊は俺に加速する力を与える。

一瞬でゴブリン達の懐に入った俺は、だらしなく垂れ下がった剣を振り抜き、ゴブリン達の間を駆け抜けた。


ゴブリンは胸から血を噴き出して膝から崩れ落ちた。


森からクレーターにでてこようとしていた他の魔物たちは、今の戦いを見て実力差を悟ったのか、引いていくようだった。


久しぶりのゴブリンとの戦闘だったが、やはり殺すことに対する忌避感はなかった。


だが肉を裂く感触が不思議と手に残った…




次の更新も不定期な為、読者様方にはご迷惑おかけ致しますが、

作者の力になってくださるかたは、ささやかな応援や物語に対する感想などくださると嬉しいです。

励みになります。

ではまた

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