Movement of the soul-01
駄作ですが新章です。
キーンコーンカーンコーン…
校舎内にゆっくりとしたリズムで、スピーカーから終了を告げる鐘の音が流れる。
時刻は三時十分を回ったところ。
太陽は頂点を過ぎて、暖かさは次第に冷たさへと変わっていく。
周りが暗くなるのは少し早く、季節は夏を過ぎ秋へと向かっていた。
ガヤガヤと教室内が騒がしくなる。
ある者は机の横にかけてあった鞄を机の上にあげて、中に教材や手紙をしまっていく。
ある者は近くにいた人と当たり障りのない世間話に興じる。
ある者は何か用事でもあるのか、そわそわとしながらひっきりなしにiPhoneや教室の黒板の上にかけられた時計をチラチラと見ている。
そんな当たり前の光景。
これからも繰り返される尊い日常の中で俺、
雪埜 奏は退屈そうに、だが何処か幸せそうに日常溶け込んでいた。
体内に残る魔法という因子は異質なままで。
「あ、あの…ゆ、雪埜くん、今日は暇?」
「ん?あぁ、暇だよ?どうかしたの?」
編入という形で入ったこの学校だが、暫くするとクラスに馴染めるようにしてくれたのか、今話しかけてくれている女の子がしきりに俺に声をかけてくれるようになった。
彼女の名前は戸ケ崎千尋。
確か、クラスの中でもそれなりに人望のある人だったと記憶している。
短くカットされた髪の毛は戦闘でも…
いや、運動でも邪魔にならないだろう。
片側を耳にかけているのが特徴的だ。
運動の邪魔にならないだろうと言ったのは、彼女が運動部に所属しているからだ。
確か陸上部だったと思う。
健康的な肌は日焼けによるものが元来そういう色なのかは分からないが、こんがりとしたおいしそうな、いや、健康そうな肌色だ。
ぱっちりとした瞳は僅かに勝気な性格を彷彿とされる。
実際に彼女は負けず嫌いらしく、陸上部でもトップの成績を維持しているらしい。
そんな彼女だが、今は勝気な性格がなりを潜め、しおらしい一輪の花を連想させた。
「き、今日なんだけど、陸上部の部活が休みだから、クラスのみんなでカラオケに行こうってなって…暇な人を誘ってたの…その…雪埜くんも、どう?」
彼女の後ろでは、野次馬のつもりなのか、数人の男子がヒューヒューだの騒ぎ立てている。
それに「う、うるさいっ!」と頬を赤くしながら突っ込む彼女はなんだ。
ツンデレの類なのだろうか。
うん。実にポイントが高い。
俺は特に断る理由もなかったので快く快諾した。
うちのクラスの女子は美人率も高く、みんな彼氏がいるだろうに随分と男の絡みに寛容なんだな。
そんなくだらないことを思いながら俺は彼女の後に続いた。
今後は脳内でも戸ケ崎さんと呼ぼう。
「いいよ。今日は俺も暇だしね」
「あ、本当!?ありがと!じゃあHRが終わったら行く人で集まるからクラスに残っててね!」
「わ、分かった。ありがとう戸ケ崎さん」
「い、いや、わ、私こそ…あ、ありがとうだよ…」
「え、それってどういう…」
問いただすよりも早く、教室のドアを明ける音が教室内に響き渡り、教師の声がその音を追って響き渡る。
「ホームルームを始めるぞー今日の連絡は…」
つつがなくHRを終え、教室を勢い良く出て行く生徒の数人を目線で見送りながら、俺は早速戸ケ崎さんの周りに集まる人集りに足を進めた。
「あっ、雪埜くん!こっちこっち!」
呼ばれるままに戸ケ崎さんの下へ行けば、今からすぐに近くにある駅の前にあるカラオケに向かうらしい。
料金は財布的にも問題はなく、俺は反論を挟むこともなく流れに身を任せた。
教室を出ると、人集りから1人の見慣れた顔が現れた。
質量を感じさせぬ金髪をふわりと浮かせ、俺の横を通り過ぎて行くユーカリアはすれ違いざまに小さく唇を動かした。
その動かし方に見覚えがあった俺は、その後に頭に流れ込んできたユーカリアの声に意識を向けた。
『今日の昼頃、何処からか視線を感じタ。敵対的な視線だっタ。一応気をつけておいた方がイイ…』
魔力に乗せて放たれたのはテレパシーのようなもの。
俺とユーカリアの魔力の波長を一時的に似せる事である程度の距離をおいても意思の疎通ができる。
無属性の下位魔法の一つ、心意疎通だ。
距離が近ければ魔力の消費も米粒程度なので、周りに人が多い時によく使っている。
敵対的な視線というものは感じなかったが、警戒に越したことはない。
だが、ここ数ヶ月警戒を続けてきたが、この世界で俺たちの特異性に気がつく人間がいるとは思えなかった。
『大丈夫だろ。多分クラスの誰かじゃないのか?ユーカリアはモテるから女子が嫉妬したんじゃないのか?』
俺は僅かに周囲に張り巡らせた警戒心のレベルを上げつつも、おどけた調子で言った。
だが、現実となったカーディリアの影響もあってか、心も多少繋がってしまうようになった心意疎通により思考を少し読まれたのか、ふっと笑ったユーカリアは「それでイイ」と肉声で小さく呟いたのが聞こえた。
「雪埜くん…どうかしたの?」
「いや、なんでもない。カラオケって行ったことが無いから、どんな所か気になるな」
前にこの世界に居た時は、外に出ることすら出来なかったから行ってないだけだが、そこを言う必要もないだろう。
「へぇ、以外…結構行ってそうに見えるのに」
「え、そうかな?」
たわいない話を交わしながら、俺はさりげない日常を感じていた。
三時間に渡る初めてのカラオケを終え、
喉を枯らしたクラスメイト達はそれぞれの家の方向に向かって手を振りながら帰ってゆく。
それに合わせるように、俺も夕焼けに背を向けながら帰路についていた。
今日も一日終え、満足感と僅かな喉の痛みを感じながらアスファルトに覆われた道の上に少しぶかぶかしたローファーを交互に下ろしていく。
もうすぐ家に着くといったところで、俺は背後に不意に現れた魔力反応に咄嗟に跳躍し、刺さるような殺気を込めた目線を感じた。
それ程までに明確な殺意や魔力から鑑みて、俺は即座に敵対する存在が出現したと判断を下す。
一瞬の気の迷いが死を招くあの世界での戦いで身につけた感覚に従い、俺は振り向きざま、反射的に懐のナイフを魔力でコーティングして全力で投擲した。
後先など考えない。
たとえそれが人であろうとも、俺自身に敵対する存在はこの世界では俺自身の特異性の露見に繋がる可能性があるのだから。
「…シッ!」
「ギョエッ…」
短剣を眉間に突き刺したまま、白目を向いていたのはこの世界ではあってはならぬ異形。
近くの電柱の影から現れたと思われるそいつは、刺々しいフォルムをした人間のような形をしていた。
だが、全身から盛り上がるようにして自己主張をする筋肉が人というフォルムの弱々しさを打ち消していた。
「人じゃないだと…ならこいつらは…」
息の根を止めたと、影から消えゆく魔力の反応を魔力探知で理解した瞬間、その謎の敵はチリになって姿を消した。
「何者なんだ…」
それと同時に、四方八方から同じタイプの魔力が湧き上がってくるのを感じた。
数は8。手持ちのナイフは0。
その全てが俺に向かって明確な殺気を向けていた。
俺は手のひらに圧縮させた極少量の魔力を集中させた。
「概念魔法…」
懐かしい単語が、紡がれる。
あの世界での後半の戦闘を支えてくれた重要な魔法。
消費魔力が多い反面、絶大な威力と多種多様な種類を持つ自分の持つ考えに基づいた魔法。
それは、この世界に戻ってきてから、より効率と発動速度、そして正確性をもたせるために改良された。
だがこの魔法は、魔法はゲームの技という先入観しかないユーカリアには使用不可能だった。
あの世界で記憶を失って這いつくばった経験と、この世界においても上位の魔力を内包する俺であるから使えるオリジナルの魔法。
だが、かつての魔法は、ここから形を変える。
「…空間把握20%解放」
これはいわば第一段階。
この世界に戻り、肉体の潜在能力や身体能力、防御能力に始まり反射神経や生存本能が大幅に低下していることに気がついた俺は、それを補うために脳のリミッターを一時的かつ段階的に解放することで空間把握の能力を上昇させ、空間をより立体的に捉える為の魔法を開発した。
そうすることで、ただ概念を頼りに敵に向けて放つような、燃費を無視した非効率な魔法の運用は改善され、狙いへと最短距離かつ無駄のなくスムーズな動きを可能とした。
空間把握により把握した空間内であれば脳内での高度な演算が可能となるから、自動的に全てにおいて最も効率的な答えが生み出される。
自動的にだ。
「多重詠唱…接続…属性は光芒」
眼球の裏側には絶えず解読不能な原初の記号が羅列し、脳内に秘められた領域で敵対生命体への攻撃手段を検討して行く。
そして、出された結論が半無意識に言葉にされる中で、俺は空間把握に繋げるようにして次の魔法を発動されるために魔力を紡ぐ。
この世界で時間をかけて魔法も向き合う中で、俺は魔法をつなげ合わせることで魔力は消費量が少量ながら変化することに気がついた。
つまり魔法を一回一回作り出して使用するより、魔法の組み合わせを作りパターン化させ発動した方が良いと言うことだ。
空間把握から、すぐに攻撃に繋げると言う事だ。
これで最初の一回の攻撃のみだが、消費を抑えることができる。
空間把握に繋げるようにして重ね合わせた魔法は、無意識に敵を把握した脳が瞬時に弾き出した相対する属性。
とげとげしい人型の影は、やはり闇属性に連なる者だったらしい。
宙空に集まるのは輝かしい一つの光点。
眩いほどに発行したその光点は光属性を極限まで凝縮した光球。
俺はその光球に最後の命令を課す。
「聖堂を這う蛇起動」
ある漫画からとった階位という区分けによって、自身の中で明確に魔法の強さを明確にした。
第一階位が最低ラインの魔法だ。
第十二階位を現時点で不可能な、あの世界での実力で全力を出した場合の理論上の最上級の魔法とし、細かく作り上げたのだ。
今の魔法は第二階位魔法、聖堂を這う蛇。
光の球を薄く糸のように伸ばし、それを蛇のように操ることによって最小限の魔力と簡単な操作性を追求した魔法だ。
攻撃力は第二階位にもかかわらず第三階位にも及ぶ。
理由は単純。全ての攻撃力を光球から生み出した糸の先端に集中させているからだ。
それよりも後ろは操作性を向上させるための魔法陣が書き込まれる余剰部分と、ただ虚空線を引く光の残滓に過ぎない。
そして0.9秒後、光の蛇は消え去る。
8体の影の消滅に合わせるように。
「ふぅ…解除」
戦いには慣れていた。
この世界での実践はなかったが、身体と魂が覚えていた。
そして、戦いやスキルで培った勘もだ。
「嫌な予感がする…それも凄まじく」
俺は戦いの中で生き延びてきた自分の勘を信じ、家に向かって最速で駆け抜けた。
「概念魔法空間把握常時20%に固定…多重詠唱…接続…属性は無」
「限界突破起動」
第二階位魔法限界突破は補助魔法に属する魔法だ。
第二階位に属するだけあって一階位の補助魔法より魔力消費が多い分、強力であり、宙空に描き出される魔法陣回路も複雑怪奇。
目の前に投影された薄灰色の魔法陣と己が重なる時、俺は風と化す。
全身の筋肉にかかる負担が減り、身体が地球の支配下から抜け出したような錯覚に陥る。
コネクトにより抑えられた消費分を、階位の高い魔法の行使によって打ち消してしまっているが、魔力の消費は、この際考えてはいけない。
散髪的に現れる黒い影人間を限界を超えて強化された肉体の行使によって吹き飛ばしながら進む。
本来ならば、血流に魔力を乗せて循環させた方が、効率良く魔力運用ができ、なおかつ体内組織を活性化させるために自然に強化できる。
だが、今はそのような新しい戦い方を自然とすることができなかった。
今はただ、染み付いた戦い方が無意識に出てしまう。
それほどまでに、俺の感じた嫌な予感は大きかった。
道端に置き去りにされたナイフが、夕焼けを、反射して橙色の揺らぎを灯していた。
「キヤァァァァァァァ!!!!」
聞こえる声は、馴染んだ声、
かつての純白の檻で、常に心配げに声をかけてくれた大切な声。
俺ははち切れんばかりに脳に集まった血液は行き場をなくし、血管外へと溢れ出す。
それが頭を痛めることも厭わずに、ただひたすらに前を目指す。
家に着くと、最悪な予感と共に瞳にたまる雫が零れた。
何かの圧力に吹き飛ばされたようにひしゃげた扉が玄関から続く廊下の奥に突き刺さっている。
その奥、キッチンとつながるリビングから出てきた影は、今までの者とは外見以外の何もかもが違った。
俺は久しぶりに、存在の差を体感した。
「優先順位ヲ…間違エタカ…仲間ガ2体ヤラレタト聞イテ此方二来テミレバ其方デハ既二9体…各方面二差シ向ケタ仲間も全滅…」
その影は、全身の各所に生えた棘など意味を持たないと言わんばかりの筋肉の鎧に覆われていた。
全体的に人に近いフォルムだが2mを超える巨躯から溢れ出るオーラは人を一欠片も連想させない。
そして感じる魔力は絶大。
漏れ出た黒い魔力が、周囲の空間を歪めていた。
「お前…その血はなんだ…」
表面上の魔力を見ただけで俺の現時点の魔力の300倍を超える敵に、頭に血の登った俺は僅かに落ち着きを取り戻しつつも、敢えて愚かな突貫をした。
「コノ不安定ナ世界ノ輪ハ、小サナ特異点デスラ歪ム…赦セ」
だが、その影の手についた真っ赤な血を見てから、俺の意識は自分の手から離れた。
「ふざけるなぁぁ!!概念魔法空間把握100%解放、…多重詠唱…接ぞ…ッ!?」
俺は空間把握を100%まで上げ、人体に掛けられたリミッターを強制的に外し、人を超えた全開の状態まで上げた認知能力。
その認知能力ですら上限ぎりぎりで認知できるかどうかの速度で迫る何かを、限界突破で強化された全身をフルに使ってなんとか避けた。
瞬間、頬の肉が裂けた。
一瞬でも反応が遅れれば、俺の喉は貫通していたに違いない…
俺は背筋を伝う汗すらも目視しているかのように感知できる認知能力で、自らの目の前を掠めて行った死神の鎌を幻視した。
「サッキノ女ヨリハ強イナ」
それは影が放った手刀だった。
感知できない速度で迫られた俺はすぐに対応を諦め、苦し紛れに魔力を解放する。
「ハッ!!」
咄嗟に前方に向かって魔力の塊を放射し、衝撃波を作る。
「グオッ!?」
そして自分も吹き飛ばされながらも、出来た距離で僅かな魔力を練り上げた。
足りない分を、生命力を無理矢理マナに変換することによって補完する。
現段階で行使できる最高位の魔法は第三階位まで。
しかもそれを放ってしまえば行動不能になるのは必須といったレベルだ。
カーディリアの世界の基準に言い換えると、
下位魔法が一階位。
中位魔法が二階位。
上位魔法がやっと三階位から四階位の序盤といった所だろう。
つまり、今の実力はカーディリアで上位の魔法を行使する魔術師程度のレベルなのだ。
「ガハッ…!世界転移起動!!」
目の前に迫る強大な気配を感じながら、俺は片腕を前に出してせめてもの反撃として磨り減った魂を更に魔力に変換した。
「ぐ…ッ!!くらえぇぇぇぇぇ!!!!!」
第六階位魔法世界転移は今の自分からすれば限界を超えた限界に位置する魔術の極至れり。
生命力を削り紡ぐその魔法は、
世界の定めた線すら超える。
背後に開く裂け目の向こう側から漏れ出る濃密な魔力を内包した空気。
別世界の空気が漏れ出すその裂け目を背にして、そこに沈み込む俺は、包み込こむ別世界の空気が僅かに体内のマナを回復させてゆくのを体感した。
そして俺は紡いだ。
更なる限界の壁をも、削った魂から捻り出した魔力を引き換えにぶち破って。
「…ッ…北欧の神剣起動!!!!!!!」
第十階位魔法。
それは、存在の差をまざまざと見せつけられ、生存本能がままに撤退する己を攻めながらも、己が魂を極限まで擦り減らし、カナデが放った怒りの一撃であった。
カナデの扱う魔法はその者の概念を汲む。
綯い交ぜになり、ぐちゃぐちゃの思考から放たれたそれは、光の剣の中に様々な感情を渦巻かせて強引に顕現した。
俺は身体から抜ける魂のカケラを名残惜しく感じながら、俺の意識は彼方へと飛んだ。
◆
「ナッ!?何ダコノ魔力ハ!」
影に向かって放たれたのはカーディリアがゲームの世界の時。
魔法形態の上位に存在した光属性神聖系統上位魔法の上位20個の中の一つ。
カナデが魂を消費した限界の限界の状態で放てる魔法だとしても、あり得ないほどに最高位の魔法だった。
それは概念の成せる技なのか、裂け目の向こうの世界が、カナデの意思を汲んだのだろうか。
裂け目に消えるカナデを貫こうと瞬間移動に近い速度で空中に躍り出た影は、目の前に突如として精製された信じられぬ光景に唖然とした。
現れたのは強烈な閃光を纏う、いや、その全てが光によって構築された巨大な一振りの剣。
それは裂け目が閉じると同時に影と同じような速度で迫ってきたのだ。
「ガハッ…油断シスギタカ…コレハ不味イ…」
咄嗟に身を捻ろうとも、あまりの不意打ちに脳の処理が追いつかず、光り輝く光剣を右半身に受けた影は、光を伴って爆発した光剣の爆風に飲まれ、身体の殆どを失っていた。
「ア、アリエナイ…」
その影は地面に伏せ、近くの影に沈んいった。
とある場所、地球という世界である事は確かなのだが、何処か視点をずらした世界。
そこで、暗闇から一つの影がぬるりと現れた。
そこで、光源から一つの光球がするりと現れた。
「これは随分と手痛いしっぺ返しを喰らったようだな」
「異物ヲ…排除セネバ…」
「我らは感知せぬ。地の世界の些細な変化など、我らには関係のないこと」
「ダガ、古ノ誓イ違ウ事ナカレ!!」
暗闇からぬるりと現れた影は生物的なフォルムを模り、頭部と思われる所から二つの赤い光を灯した。
全体的に刺々しいフォルムをしたそれは、形こそ二足歩行の人間と同じだが、明らかに人とは違った。
全身を漆黒の棘に身を包んだその影は、溢れ出る黒いオーラを全身に従えていた筈だった。
だが、その首から下は凄まじい戦闘の跡を残すように抉り取られ、血液のような影が地面に滴っていた。
光球からは、純白のヴェールに包まれた鎧を纏った騎士が現れた。
兜の隙間から除く青い瞳はすぐに視線を外し、凄まじい威容を放つその騎士は興味なさげに手を振った。
「貴様ッ…」
中空にプラプラと浮かんだ首だけの影は、苛立たしそうな雰囲気を隠しもせずに言った。
黒く刺々しく、生物的なフォルムをした影は残った顔を苛立ちに歪めたが、すぐに暗闇に溶けた。
「アノ凄マジイ特異点ハ壁ヲ超エテ逃ゲタ。モウコノ世界二影響ハナイ…」
そんな声が、辺りに霧散した。
「仕方あるまい。ノリはしないが、仇討ちをしておくのが筋であろうか」
白い騎士は、やる気を感じない青い両眼はそのままに、思い腰をあげた。
「反応が8つ…さぁ、何処へ行こうか」
◆
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