カナデ・ユキノ
四千程度です。
カナデの後日談。
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ありがとうございます。
雪埜 奏
カナデ・ユキノではなく、雪埜 奏。
それが俺の名前。
あれから半年が過ぎて、俺は高校三年生になっていた。
病院と自宅からそこまで離れていない都立高校に転入と言う形で入学させてもらった。
学力的には編入試験で既に規定の値をかなり上回っていたので問題はない。
半年の間にリハビリと並行して進めていた学習が身を結んだ様だ。
俺は今、その高校に向かう為に歩いている。
徒歩で25分程の距離にある都立朝日野高校への交通手段はリハビリの延長線では無いが、身体を鍛える為に徒歩にしている。
歩いていると、後ろから自転車のベルが鳴らされる。
振り向くとそこには赤い髪の毛先を僅かに巻いた朝日野高校の制服に身を纏った女子生徒が自転車を漕いで走って来ていた。
「カ、カナデ!おはよゥ」
「ん?あぁ、おはようユーカリア」
その特徴的な話し方をする女子生徒の名前はユーカリア。
赤い髪と良く似合う蒼い瞳がが魅力的だ。
瞳は垂れ目になっていて、アバターと同じく下まつ毛が僅かに長かった。
アバターからして成人女性かと思っていたが、まさか学生だとは思わなかった。
半年前、この世界で俺たちと同じように目を覚ましたユカナは両親を強引に説得して日本へ訪れ、この学校に強引に転入してきた。
その頃の俺は魔力の制御と称して様々な初級の魔法をこねくりまわしていたので、ユカナの探知網に引っかかったのだろう。
そうして今に至るのだが、ユカナことユーカリアはアバターに負けず劣らずの美人だった。
西洋人特有の陶磁器の様な白い肌にスラリと伸びた四肢、均整の取れたスタイル。
制服を着ているのにくびれを強調する様につき上がる胸。
編入して二日で全校生徒の半分。
つまり男子連中を虜にしただけはある。
「ん。やっぱりカナデはリアルでもアバター通りの顔だよネ」
「そんな事言ってるユーカリアだってアバター通りじゃないか」
「はは…照れル」
ユカナは何を使ったのか俺の家の近くに親ごと引っ越してきたこともあり、こうして登校時間になると自転車で俺と登校する。
俺の歩くスピードに合わせる為に自転車を降りたユーカリアは手で自転車を押しながら俺の横に並んだ。
未だにユーカリア以外の七光とアマツキの消息はわからない。
だが、ユカナと会えた事だけでも既に偶然の域を超えている。
最初に蘇生した事もあいまって何か縁を感じてしまう。
半年前。
星羅さんに病気が治った事を打ち明け、
俺が自力で起き上がっていた事に腰を抜かしてしまった星羅さんが途中三回程転びながらもなんとか担当医の下に辿り着く事が出来て、そこからこれまた腰を抜かした担当医によって精密な検査を重ねること三日。
病気など欠片もなかったかの様に完治した俺は、病院側に謎の伝説を残して病院に併設されたリハビリセンターに通う事になった。
両親に報告した星羅さんが言うには、
お母さんはあまりの奇跡に気を失ってしまったらしく、
お父さんは顎が外れたように口を開き切ってしまい、看護師に何処かに連れていかれてしまったらしい。
そんなハプニングもあったらしいが、
今はどちらも落ち着いていて、興奮から覚めた為か俺の無事を純粋に祝ってくれた。
そして、この世界ではこうなっていた。
俺が死んだと言う事がなくなり、
あの日に深い昏睡状態に陥ったと言う事になっていた。
そして俺は数日後に意識を取り戻して不思議と病気は完治していたという具合に。
同時に家出をしていたソラ姉も警察に保護された事になっいてる。
何事もなかったかのように…
そうして俺は暫くの間、
リハビリセンターに行くために星羅さんに車椅子を押してもらっていた。
眠って今全身の筋肉を活性化するために簡単な日常動作をして、硬直した筋肉を解すなどの運動を行い、まずは運動する為に必要な筋肉を戻していくらしかった。
「はいはーい♪カナデくんは今日は何をするのかなぁー?」
治った当初こそびっくりしていた星羅さんだが、治ったこと自体は相当嬉しかったらしい。
ちっ…カナデくんが自力で動けるようになったら私の合法セクハラが…
そんな言葉が聞こえた気もしたが、多分親身に接してくれた星羅さんを自分が信頼し切れていないのだろう。
「俺にだってそれくらいは分かりますよ…前回の反復練習でしょう?」
俺は苦笑した。
感情は観察者の居た空間からこの世界に帰還するまでの間に完全に修復された。
観察者の空間に訪れる前、七光とアマツキに別れを告げた時から芽生えていた欠片。
それは育てるだけでかつての俺に戻る事が出来た。
観察者たる力を行使する事で容易く異世界の事象を歪め、自らの存在を割り込ませた。
更にカーディリアに連れ去られた全てのプレイヤーも同じようにこの世界に戻し、
更に七光とアマツキ以外のプレイヤーはカーディリアで殺された記憶を遮断した。
その事により観察者たる魔力の大半が失われた。
大半と言っても、観察者の物差しでの話だが。
俺は今すぐにでも外の世界を見て回りたいと言う欲求を抑え、精力的にリハビリに励んでいた。
足りないのだ。
全くもって退屈なのだ。
災害指定級と呼ばれた魔物の攻撃さえも回避出来てしまう程の反射神経が疼く。
このままじゃ耐えきれない。
俺はそう思い、
一層精力的にリハビリに取り組んだ。
そしてなにより苦労したのは、
「ばかっ!カナデくんの為に頑張ってたのに!か…勝手だよ…で、でも…死なないで良かった…」
ソラ姉をどうやって宥めるかと言う事だった。
数日前の出来事ではあるが、
病室に駆け込んで来たソラ姉は泣いていた。
これに関しては全面的に俺に比がある。
あれだけ感動的な別れをしておいて、
勝手に神を殺して力をつけていたソラ姉を強引に帰還させてしまったのだから。
「いや、ソラ姉。あの…ごめん…」
ソラ姉は心が壊れてしまう前の外見が変わらない俺しか知らないけれど、そのような事は言い訳にすらならないだろう。
「本当に心配したんですから…ウォルテッドを拠点としてずっとエスナでレベルをあげていたのに…いきなり現れたお婆さんみたいな話し方をする小さな女の子拉致されて、気がついたらこの世界にいたんですよ?」
「す、すみません…」
確かにあの場に居なかったソラ姉には何が起きたのか分からなかっただろう。
それとリグザリオ婆は拉致したのかよ…
「ソラも居なくなっちゃったし…」
ソラとはブラッディドールのソラの事だろう。
仲良くやっていたみたいなので心苦しいけれど、こっちの世界で彼を出す訳にはいかない。
「ははは…また機会があればソラも召喚してあげるから…」
「もうっ!そういう問題じゃありませんっ!」
俺とソラ姉は自然と笑が漏れていた。
今、ソラ姉はブラッディドールのソラと接した事が影響しているのだろう。
保育士や幼稚園教諭を目指し始めたようだ。
来年には保育の専門を受けようとしているらしい。
俺は半年が経ち、この世界での生活に慣れ始めていた。
こうして学校に通うと言う事も日常となってきている。
だが、俺には魔力がある。
観察者の力を失ってしまったが、カナデ・ユキノとして鍛え上げたステータスの半分程度の魔力と能力は未だにこの貧弱な身体の中に眠っていた。
今でこそある程度の魔法は行使できるが、
半年前であれば身体でスキルや魔法などを使った瞬間に、
肉体にかかる負荷に耐えきれずに爆散してしまっていたであろう。
それでも下級の魔法から練習を再開してなんとか使えるように身体を慣らしたが。
それはソラ姉も同じようで、僅かに鍛え上げたステータスの恩恵が残っているらしい。
今では大分使いこなせているようで、
家事がはかどると言っていたけれど、
どんな使い方をしているのやら…
ユーカリア以外の七光のメンバーもそこかしこで魔法を使っているのならば、近づけば弱り切ったとは言え魔力探知に引っかかるかもしれない。
会えない道理はないのだ。
俺は特に意識する事なく、なんとなく空を見上げた。
不思議と上空に広がる青空は雲一つなく、ガーディリアの空と変わらなかった。
「どうしタ?カナデ?」
「いや、空、変わんないなって」
「カナデは嫌な事以上にあそこで楽しい事経験したんダロ?」
「あぁ、いつかまた顔を出すくらいは良いかもしれないな」
「え?行けるノ?カナデ」
「ん?あぁ、ちょっとな!ってもう時間がやばいぞユーカリア!後ろ乗るそ!」
「うわっ!ちょ!カナデ!学校の奴らに見られたラ!!」
「いいから!早く!!」
「うぁぁー!もう分かったから!腰に手を回すナ!!」
「ほら!加速するぞ?…風の加速」
「ちょちょちょ!!!待っテ!はやい!漕いでないの二!カナデェエ!!」
俺は訪れなかった当たり前をやっと享受している。
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ソウルムーブを書き直しています。
ストーリーに大差なしです。
読みやすく書き直せるように頑張ります。
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