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Soul-Move -新章開始-  作者: 癒柚 礼香
【栄華七光】
135/145

152話≫【目覚める麗憐】

これから七光編かもしれません。


更新おくれて本当に申し訳ありません。










地面に音も立てずに降りたち、崩れ去ってゆく城を見つめる。

地面の僅かな弾力さえも敏感に感じ取り、

足の裏の感覚を伝って脳に届く。


埃の混じった灰色の煙が収まった時、

迷宮に堕とされ、黒々しく染まっていた城は…

昔は純白で清廉な威容を誇っていた懐かしい城は…

もう…何処にも無かった。


摩耗した脳が必死に記憶をフラッシュバックさせる。

思い出す記憶は断片だが、その断片を認識するたびにふと思い出すようにそこから記憶が広がった。


俺の中に占めていた記憶の大半は現実となったこの世界の記憶だった。

でも全てを思い出した時、俺の中に現れた懐かしい記憶は、現実となったこの世界の記憶と比べても劣らない程に分厚く、濃い密度を持っていた。


その全てが俺の大切な記憶であり、思い出である。

記憶を封じていた観察者の存在も、あの突然の悲しい別れも。

どれもこれもが今となっては思い出と成り果てようとしていた。

でも、それは許されない事だ。


戦いに身を置き、心をすり減らせた俺はもう後戻りできない。

そして今、安らぎに身を任せ、眠っているかもしれない仲間までも巻き込もうとしている。


だが、後悔などという言葉は使わない。


後戻り出来ないのなら、俺は進もう。

観察者を倒すその時まで歩みを止めない。


進み続ける。


今まで意図的に避けてきたフレンドリストを開いた。


「…なっ……………」


摩耗した筈だった。

擦り切れた筈だった。

だが、名前の隣の文字を見た瞬間、鼻をツーンと貫く様な感覚を味わった。


波打たない心の湖とリンクしない別の動きをする瞳から二筋の水が流れ落ちる。

だが、それすら気がつかない俺は七光のメンバーの下、フレンドリストに乗っていた名前を見ていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


所属CLAN:

【七光】

所属MEMBER:

R.【カナデ 】LOGIN

M.【シルフェさん】ERROR

M.【アルシェイラ】ERROR

M.【カムチャッカ】ERROR

M.【キバ 】ERROR

M.【ユカナ 】ERROR

M.【ソフラン 】ERROR


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


FRIEND.LIST


【アマツキ 】LOGIN(ログイン)



「居るのか?アマツキ…この世界の何処かで、生きているのか?」


あの時、俺は自身が死ぬ代わりにアマツキを逃した事を悔やんでいた。

俺自身の事はどうでもいい。

あの時の選択はあれがベストであった。

傷を負い、先の短い俺が逃げるよりもアマツキを逃がしたほうが良かったのだから。


悔やんでいたのは彼に復讐に染まった運命を強要してしまった事。

アマツキは復讐に一生を費やし、志を達することが出来なく死んでしまったのだと思っていた…


だが、俺はここで効率を優先した。

より効率的に、未だ無意識に生じる感情の名残に流される非効率的な行動を出来るだけ今の起伏のない精神で発見し、正す。


まずは、アマツキへの連絡は後回しにして七光を再びこの地に呼び戻す。

それこそが観察者を倒す為に一番必要な事であり、独力では決して辿り着けない頂を引き摺り下ろす為の…一歩となる。


俺はアイテムボックスから一枚の羽を取り出した。


【黄泉還りの羽】


このアイテムは対象の蘇生というゲーム内ではよくあるありふれた蘇生アイテムだった。


だが、現実では奇跡を更に超越した神威的な能力となる。

だが、ゲーム時代はその能力の代償として数個の条件がついていた。


【黄泉還りの羽】

・指定した対象を蘇生させる。


これはこのアイテムの効果である。


・アバターがホームに帰還していない事が条件。


これは現実になったこの世界に死体が残っている事から、骨であろうがなんであろうがホームには帰っていない。

だからこの制約はクリアしている。


・使用できる回数は1日に1回。


これはアイテムの過度の使用を制限する為のゲーム時代の名残だろう。


・他人への譲渡は非戦闘時に限る


つまりこれは戦闘中でなければ蘇らせた七光のメンバーに譲渡して蘇生を繰り返せば七光が地に降り立つまでの時間を大幅に削減できる。


七光を呼び戻す条件は揃った。

俺は【黄泉還りの羽】を地面に落とし、

ゲーム時代にはよく使っていた発動のキーとなる呪文を腹の底から声を出し、紡いだ。


「地に伏せし我が盟友…



天より降り注ぎし奇跡の羽根に照らされて…



舞い戻れ…



黄泉還れ…



思い出せ!!!



汝の名は…ユカナ!!麗しの槍の使い手よ!!」


金色の羽根が地面に触れると同時、地面が波打つように波紋を広げた。

そして地面を伝う波紋が五重の円描いた時、それが一つの魔方陣として力を持ち、光を放った。


金色の魔方陣が地面から浮かび上がり、黄金の粒子を空間に拡散させる。


まず、黒い装甲に包まれたスラリとした脚部が現れた。

次に布に包まれていない肌色の扇情的な腰のくびれまでが現れる。

そして黒く濡れ羽色の長髪が黄金の粒子と踊りながら現れた。

次第に黄金の粒子は収束していき、


あの時、最後に見たのと同じ姿形を象ってゆく…


「キミ…は…え…嘘だよネ……か……カナデ…?」


実にこの世界の時間で千年、

千年振りにこの世界の空気を震わせた懐かしい声は…

なんとも気の抜けさせる言葉だった。


「本当に久しぶりだな。何も変わってない…あの時のまま…」


その特徴的な話し方をする女のアバターネームはユカナ。

外見はストレートに下ろされた黒髪に深淵のように深い黒色の瞳。

やけに下睫毛のながい垂れ目が特徴的な成人の女性。


種族は上位人族(ハイ・ヒューマン)


今は失われし種族。


クラン【七光】の1人、ユカナ。


今は忘れられし時代の、伝説のクラン。


神話武器(ミソロジーウエポン)】、

【ピアロマイアスの麗槍】を扱う美女。


今は伝承に語り継がれる神の武器。


だが、彼女の手にはあの見惚れる程に美しい装飾の施された神話の槍は存在しなかった。


「随分とカッコ良い見た目になっちゃって…でも…生きてたんだネ。カナデ」


「あぁ、話せば長い事になるが、今はあの時から千年が経った。もう一度、俺と共に戦わないか?」


「千…年…だって…?そんなに…」


「過ぎた時間はどうでもいい。変わらぬ事実は、俺達を殺した奴がまだこの世界の何処かでのさばっていると言う事実だけだ」


「面白いネ…乗ったョ。その復讐劇!」


俺とユカナは、


ガシッ…


久しぶりに手を合わせた。



「もちろん、他の七光も来るんだよネ?」


「お前だけ蘇らせる程、俺はお前と仲が良かった記憶は無いな。当たり前だ…」


「変わったネ…」


ユカナは、とても…悲しさを感じさせる顔をしていた…


「お前もこの世界に1人で落とされていたなら分かっただろう。現実と言うものの苦しさにな。…七光は全員蘇らせる。誰がなんと言おうと必ずだ。黄泉還りの羽の使用限度は一日に一回」


「そうだネ。となると、カナデは今一回使ったから…」


「そうだ。残りのメンバーを生き返らせるのならばユカナに黄泉還りの羽を譲渡して蘇生させる」


「それにアマツキは入っているのカ?」


「あいつは生きている。今、どこかで」


ユカナは心底驚いたような顔をした。

最初に俺からこの世界はあの時の千年後だと教えられていたのだから。

いくらゲームの世界だった現実とはいえ、専念も生きていられるなど非現実的過ぎたのだろう。


ユカナは元は日本人だった筈だ。

いや、七光のメンバーは全て日本人である。

そいつらがこれから起こる事に耐えられず、

俺の様に心を壊す事は…


無いと断言しよう。


なぜなら、仲間とは。


真に信頼できる仲間とは、


現に隣にいるだけでこの世界が、


違って見えるほどに隣を温めてくれるから…


黄金の粒子を舞い散らせながら地面に脚を降ろしたユカナ。


俺は握り合っていた手を離した。


「【黄泉還りの羽】のストックはあるんだよネ?」


「勿論だ。そこまで行き当たりばったりではない」


「カナデ…やっぱり変わったって言われない?」


「あぁ、この短い期間で何回か死んだり心が壊れたり、色々と経験させてもらった」


「oh…クレイジーな人生だネ…治癒系統の最上位でも治らなかった?」


「いや、俺は元々治癒系統はそこまで得意ではないしな。そう言う事のプロはシルフェさんだろう」


第一、治癒系統の魔法がどこまで俺たちの身体に効くのか分からない。

あと時は身体が完全にアバターになりきれていなかったと考えれば、

治癒系統の魔法で傷が治癒出来なかったと納得できるが、俺は基本自然治癒やスキルにものを言わせた強引な治癒をしていた為か詳しく分からない。


「なら次はシルフェさんを黄泉還らせようョ」


「そうだな…」


俺はアイテムボックスから黄泉還りの羽を取り出し、ユカナに手渡そうとした。


「あれ、待ってカナデ」


「なんだ…?」


「ステータスが諸々空っぽになってるョ」


「あぁ、失念していたな。死亡時のステータス残量の再現か。なら今日は休もう。本格的な蘇生は明日からだな」


蘇生時には死亡した時のステータスを引き継ぐ。

つまりジリ貧で死んだのなら、蘇生してからもギリギリの状態から始まるのだ。


これには賛否両論あったが、戦闘中に蘇生していきなり万全な状態に戻れるのは反則行為だと主張する集団もいたためにこうなった。


「すまないネ」


「まぁ、気にするな」


「りょーかい。でも、ピアロマイアスがアイテムボックスにないョ…」


「…【天空城アトラレアレクス】あそこに置きっ放しだろうな…」


天空城アトラレアレクスは俺達が殺されたステージ。

大気圏にあるという設定のその城は、

まさに天空の城○ピュタを巨大化させて全てを白い大理石で作ったようなフィールドだ。

フィールドの大きさは半端なく平地は2km以上ある。

俺が最後にその大陸の平地の半分を破壊したが、多分残っている大陸に突き刺さったままなのだろう。


「まぁ、代わりと言っては随分とランクダウンするけど…これで良いネ」


そう言ってユカナが取り出したのは一本の槍。

古代武器(エンシェントウエポン)

【ライラントの機械槍】


神話武器(ミソロジーウエポン)よりもランクは落ちるが、

どちらにせよこの世界からしたら変わらないケタ外れ度合いだろう。


単純な威力だけで、ゲーム時代の破壊可能オブジェクトの城壁のHPを二発で吹き飛ばしていた記憶がある。

しかも武器のライラントの銘を語るスキルを使えば城壁も一発で破壊できるだろう。

まぁ、兵器とは使い手の力量が高ければその分だけ強くなるのだ。

他の使い手が使っても前述の様な効果は示さないだろう。


「じゃじゃーん。ライラントの機械槍〜どう?お気に入りの一つなんだョ」


自慢げに言っているが、

それをユカナ、お前にあげたのは俺だ。


口には出さなかったが、何故かこの他愛もないやり取りに心の奥の何かが疼くのはなんだろう。

俺はその何かを持て余す事しか出来なかった。


「ユカナ。ステータスは開けるか?」


「ん?愚問ダネ。開けるョー」


ユカナは俺の問いと同時に虚空に手をかざして指をスライドさせ始めた。

ステータスを見ているのだろう。

だが、他人からは見えないと言う設定を反映しているという設定は残っているのか、

俺からは何も見えなかった。


「レベルは何レベルだ?」


「ん?前と変わらない200だョー」


「…そうか」


「カナデは違うの?」


「あぁ、俺だけはリスタートさせられたようだな」


「うげ…それはめんどうダネ…今は?」


「今は105レベルだ…」


「え"〜それは酷い。でもよく頑張ったネ…」


「だが、前のステータスよりも数倍能力値高い」


「まじですかィ…?」


「まじ、だ。少なくとも今の状態でもスキルやその他の技を使えば最盛期にも追いつくだろうな」


だから、このまま鍛える事が出来れば200になる頃には最盛期の二倍、いや、三倍は強くなれるだろう。


「ところで、行く当てはあるの?」


「いや、無いな。セントラル・カーディナルの城下町の廃屋で寝ようかと思っていたところだ。ゲームの名残なのか家屋が千年経っても残っている時点で耐久性は問題無いだろうしな。徘徊している魔物さえ倒せば後は問題無いだろう」


「ん。だったら【神都の寝所】いこーよ」


「久しぶりだな。行ってみよう」


神都の寝所はクラン七光のメンバーがホームの次に良く使っていた宿だ。

酒場も併設されている為、リーオンの酒場の次にここで飲んでいた。


歩くこと数分、宿に着く前に建物の角から魔物が現れた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


人影(シャドウ)]lv:55


[解説]

Bランク中位。全長2m

思念体:人型

大量の人間が一夜で死んだ場所で現れるとされている。

【闇属性吸収】【影移動】

黒球(アーベント)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「うわ、ちょー珍しいじゃン…イベント限定じゃなかったっけ…」


「条件に当てはまったんだろう。イベントと同じ、大量の人間が一夜にして死んだ場所、セントラル・カーディナル」


「そうなの?…って、そうだョ!なんでセントラル・カーディナル滅亡してるの!?」


「何代目かの王様が常夜地帯を突ついたらしいな」


「あー。それで…なんかイラッとするネ…」


そこまで言えば分かったのか、ユカナは垂れた目を珍しく見開いて怒りを露わにしていた。

それもそうだろう。

あるかどうかも分からない常夜地帯の宝を求めて国を巻き込んで常夜に攻め込んだ王の所為で思い出の場所が滅んだのだから。


「鬱憤晴らしたいからシャドウは任せてョ」


俺の返事を聞く前に飛び出したユカナはライラントの機械槍を天に掲げて勢いよく叫んだ。


「死ネ。【爆震槍(バーストスピア)】」


ユカナはシャドウとの距離を一瞬で詰め、ライラントの機械槍を2mの体躯に突き立てた。


「爆ぜろ」


キュィィン!!!


キーと同時に駆動音が響き、ライラントの機械槍を象る金属の部品の隙間から橙色の熱が漏れ出る。

次の瞬間、穂先から爆発的な熱が噴き出し、爆発した。


「ちっ、手応え無しだったネ!」


だが、シャドウは影移動で建物の影を使って逃げたのだろう。

爆煙が風に乗って流されていった跡には抉られた地面だけしかなかった。

ユカナが周囲を見ていると、流された煙を突き破るように闇でできた球体が4つ飛来した。

闇属性でポピュラーな攻撃手段、黒球(アーベント)だ。

ダメージとしては闇5、衝撃5と言った所だろうか。


「ふッ、ほッ、ほやッ!今更だけど、霊体は相性わるいかもネッ」


「本当に今更だな。変わるか?」


「いや、ちょっと本気だそーカナ!【投槍砲(スピアーカノン)】」


手に持つライラントの機械槍が震えだし、ユカナが身体をブリッジのように限界まで逸らした。


「邪魔だョ!!!らあっ!」


槍の石突きは地面につきかかり、弓がしなるように限界まで曲げられ、次の瞬間にはその運動エネルギーの全てが槍に伝わった。


グァァァァァァァン!!!!


地面を抉りながら進んだライラントの機械槍は数百mを進んだ後、地面に巨大な傷跡を残して止まった。


「どーよ。これでもう影は出来ないョ。まぁ常夜だからあんまし意味無いけど。建物の影が無いだけ分かりやすいネ」


抉られた地面の真ん中辺りに黒い人影が居る。

それは人間ではない。

人の残留思念を糧に顕現する人影、シャドウ。


「あんまし魔法は得意じゃなかったんだけどネェ…【輝きの悪魔(シャイン・デモニック)】」


闇属性腐敗系統中位魔法【腐敗する天使フォイルニス・エンゼル】と対を成す

光属性神聖系統中位魔法【輝きの悪魔(シャイン・デモニック)】。


俺がフォイルニス・エンゼルを使っているのを見て対抗心を燃やしたユカナがゲーム時代に必死こいて習得した魔法の1つだ。


狐色に近い光の波動がユカナの手の平から溢れ出し、

障害物のなくなった大地を包むように強烈な光で照らした。


「………ag…………ァ"……………」


光の波動が凹凸の無いのっぺりとしたシャドウの漆黒の体躯に染み込み、侵食する様に白く染めていく。

シャドウは一瞬だけ苦しそうに身体を捩り、悶えたが、

すぐにその影の身体を保つ事が出来なくなり消滅した。

経験値は全てユカナに入ってゆく。

七光は今までパーティとして経験値を分割した事がないからだ。

それは今までも、これからも変わらない。

倒した分だけ強くなる。

単純な理論だ。


「…ふぅ…魔法はやっぱり疲れるネ。慣れなさそうだョ」


「よし、このまま神都の寝所に行くぞ」


「ソーダネ…あっ…来るョ…シャドウが」


ユカナの言葉を聞いた数秒後、まだ残っていた建物の影から5体のシャドウがゆらゆらと現れた。


「じゃあもう一回ライラントの…」


「ー【|汝光に切り裂かれよ《シュナイデン

》】ー」


幅5m長さ50mの光の道が建物の間から現れた5体のシャドウの上半身と下半身を別つように両断していった。


「え……?…」


「よし、終わったぞ。セントラルカーディナルの建造物はユカナが破壊してくれていたからシュナイデンも発動しやすかった。ありがとう」


「ちょ、ちょ、待ってカナデ!何今のめっちゃかっこいい技!おーしーえーてーョー」


「……無理だ。多分使えない」


使えないと言うよりか、使い方を理解出来ないと言うべきだろう。

記憶が戻る前に培ったこの世界での魔法の使用の経験と、概念というあやふやな物を利用した願いに近いイメージの力なのだ。

口頭で教えただけで習得できるような簡単な技ではない。


「ちっ、イジワル」


「なんとでも言え」


俺は見晴らしの良くなった道を瓦礫を踏み越えながら進み、神都の寝所を目指した。




「oh…ここがあの神都の寝所?随分ボロくなったネ…」


「流石に千年経っているのだし、文句はいうまい…」


「ダネ」


ユカナと俺は実にこの世界の年月で千年振りにセントラル・カーディナル随一の宿、神都の寝所の敷居を跨いだ。


内装は黒く煤けているが、所々にゆったりと落ち着きを持たせた赤い塗装の壁が覗いている。

内装の椅子やらソファやらは原型をギリギリ留めた状態で風化していたが、

他は全体的に黒ずんでいる事を除けば最後にみた宿の内装と大差無かった。


巨大なシャンデリアが吊るしてあった天井は物寂しくなり、床にはシャンデリアの破片と思われるガラスの破片が光を反射してキラキラと輝いている。

二回へと続く中央の階段は最後に見た時は両サイドの部屋に向かうためにY字になっていたが、今は俺からみて左側の階段が根元から崩れ、下の地面に木片か散乱していた。


「かなり…かわったネ………」


その言葉に込められていた感情は如何程なのだろうか。

ユカナのやや平坦な声からその心情を察するには、いささか俺の心は摩耗しすぎていた。


「あぁ…取り敢えず、二階の右を見て、泊まれそうな部屋を探そう」


結果、俺にはただ頷くユカナの前に立って先導する事しかできなかった。


幅広い階段を登り、残っている右手の階段も登り切る。

二階の右側のフロアの部屋のドアは全て締め切られていて、ドアの下から風が通ったりしていない事からも室内は密閉状態であると伺えた。


「なにか居るかもしれないから、ユカナがドアを開けてくれ。俺が一気に突入する」


「分かったョ…じゃあ、開けるョ…」


中には何もいない事は探知で判明しているが、もしもの事もある。

俺がドアの横でスタンバイしたのを見計らって、ユカナがドアを横から一気に開いた。


ブァァァァァッ…


「うっ……埃か…」


ドアを開けて中に侵入した俺は、部屋の中から一気に室外に溢れ出た埃を全身に受けた。

中の空気は千年前から変わっていなかったのだろう。

現実的な部屋ではなく、ゲーム世界で作られた家屋故に、ドアの下はよくみると一ミリの隙間も見当たらなかった。


「そうか…扉が閉まっている部屋は全て密閉状態なのか…」


「うっ…けほけほ…カナデ!大丈夫!?」


「あぁ、大丈夫だ」


だが埃の晴れた部屋の中の光景をみた俺は次の言葉を失った。


「これは…NPC…なのか?」


部屋にいたのは1人の人間。

仕立ての良さそうな服を身に纏った1人の貴族風の女性だった。


だが、生気は感じられず肌は乾燥し褐色に染まっていた。


「これって…ミイラ?」


「あぁ、密閉空間がこのNPCにどう作用したかは知らないが、これはミイラだろう」


貴族のミイラに手を触れた。


次の瞬間、そのミイラは砂の様に崩れ去り、

最後には仕立ての良さそうな服だけが残った。


「…風化した…?」


密閉状態で保たれていたであろう過去の時間は扉を開けた瞬間に崩れ去り、過去と現在の時間を合わせたのだろう。


俺は、いや、俺とユカナは、もう他の部屋を見る気にはなれなかった。

見てしまえば、またこの懐かしさを感じさせる時間の停滞が終わってしまうような気がしたからだ。


この国が滅んだのが約700年前だろうが、

今よりもあの懐かしい千年前に近い時代の遺物がこうして消えてしまうのを、見ていられなかった。

他人から見ればちっぽけな理由でも、

俺が失った激しい感情と懐かしき記憶と、

ユカナの過去への強い思い入れは、

簡単に歪められる様な事では無かった。


「カナデ…」


気がつけばユカナは顔を伏せていた。

感情の変化は隠れた顔のせいで伺えないが、

強く握り締められた震える拳をみれば流石の俺でも大方は理解した。


だが、次の言葉は予測できなかった。


「…ありがとう…本当に…ありがとう…蘇らせてくれたかラ…」


そこで言葉を区切ったユカナはゆっくりと顔を上げた。

その瞳は赤く、紅く、朱く染まり…

精緻な人形をやや崩して人間味を持たせた様な垂れ目が魅力的な顔は怒りに歪んだ夜叉のソレに変貌していた。


「…コロセル…いや、絶対にぶっ殺ス。私の心の拠り所と仲間を殺した罪は死を持って償わせル!!!!」


「俺も同じだ。記憶を取り戻す代わりに感情を失った今でも、俺は確かに感じている。そいつを嫌悪ような…吐く様な…臓腑を引きちぎるような感覚を…俺はこれに似た現象を何度も何度も何度も経験してきた」


「カナデ?」


「七光はそれぞれに圧倒的な人体強化スキルを持っていた。俺は【神格化】ユカナは…」


「【夜叉の血】…」


「そうだ…そしてソフランは【完全魔人化】、シルフェさんは【魔導主の秘密(アルカナ)】、カムチャッカは【魂の極地】、アルシェイラは【聖霊同化】、キバは【銀狼の末裔】」


「俺に神格化のスキルは存在しないが、他のメンバーが使えば全員の能力値は数分の間なら俺の全力に及ぶ筈だ。それも僅かなリスクでだ。俺より断然燃費がいい」


今述べたスキルは種族、職業別スキルの最終形態と呼べるものだ。

つまりゲームに存在するスキルで最高の威力を誇る物。

魔王に挑む時か同等のスキルを持つ者同士での戦いでしか使用されないという、真に高ランクのスキルなのだ。


種類は多岐に渡り、種族と職業の合わせ方によっていくらでもスキルはある。


例に上げると、俺は人間(ヒューマン)、職業は魔法や剣をバランスよく使っていた魔法剣士と呼べるものだった。


結果的に魔法や剣を使えて更に人間としての枷を外すスキル、【神格化】のスキルに辿り着いた。

一分前後しか使用できないデメリットの代わりに威力は絶大。

全てのスキルの威力が数倍に跳ね上がり、

他にも数多のステータス上昇効果が付属する。

まさに最終決戦に使う様なスキルだった。


今はデメリットの凄まじい魔狂神(デダイヴァシス)を使う事でそれと同じ程度までの力を手に入れる事ができるようになった。


現実らしく、


力に見合っただけの寿命を消費すると言ったリスクを背負う事で…


もちろん、それはユカナ達には言わない。

余計な波風を立てる状況ではないからだ。


「今日は寝るぞユカナ。明日は起床と同時にシルフェさんの蘇生を行う」


「そーダネ。しっかり休んでおかないと…今日はもう寝たいしネ…」


ユカナはこの数時間のうちに大分精神を持っていかれたようだった。


「あぁ、ゆっくりと寝ていいぞ。俺が起こしてやる」


「そこは千年前と変わらないね…カナ…デ……」


久しぶりのユカナの寝顔を見て、

俺は無意識にその頬に手を添えていた。


「おやすみ…ユカナ」


その顔を誰かが見ていたのなら、

僅かに瞳の奥に光った感情の欠片に気がついたのかもしれない…




【SideOut】



[種族]

:【上位魔狂神(ハイ・デダイヴァシス)


[レベル]

:【LV.100】

:【LV.ーー6】


職業(ジョブ)

:【剣士(ソードマン)

:【戦舞技師ダンズ・ワー・トリッグ

:【全属性大魔術師オール・アトリビュート・アークウィザード

:【虐殺者(スローター)

:【古の戦士】


名前(ネーム)

:【雪埜(ユキノ) (カナデ)


[経験値]

:【10065/20000】


能力(スキル)

:【戦舞技(センブギ)補正:強】

【体力補正:強】【筋力補正:強】

解析の眼(アナライズ・アイズ)】【弱点解析ウィクネス・アナライズ

縛りの咆哮(バインド・ロア)】【竜種の咆哮(ドラゴ・ロア)

野生の本能ワイルド・インセィティクト】【下克上】【隠密(スパイ)

暗視(ナイトヴィジョン)】【魅了(チャーム)

【砂塵の爪甲】【並列思考】

瞬間移動(ワープ)】【予測の眼(ヴィジョン)】【血分体(ブラッド)

【下位従属】【超回復(ハイ・リカバリ)

【粘糸精製】【識字】【色素調整ピグメント・アジャストメント

【剥ぎ取り補正:弱】【異次元収納(アイテムボックス)

【毒耐性:弱】【麻痺耐性:弱】【雷耐性:弱】

【炎耐性:弱】【氷耐性:弱】【武器作成:ⅠⅠ】

【格闘術補正:中】【幸運補正:弱】

虐殺者(スローター)】【古の戦士】

【剣豪:ⅠⅠ】【超思考加速ハイ・アクセラブレイン

魔力抵抗(レジスト)】【見切り】【食いしばり】

魔狂神(デダイヴァシス)】【明鏡止水】


【祖なる魔導師:II】〔8〕

:【全属性魔法オール・アトリビュート・マジック

:【魔法威力補正:強】

:【魔法命中率:強】

:【魔法操作:強】

:【魔力量増大:強】

:【魔力探知:強】

:【消費魔力半減】

:【魔力回復速度上昇:弱】

---------------------------------------


[クラン]

:【七光】


[Point]

:【36】


所持金(エル)

:【6102万3千6百エル】


[称号]

:【魂を鎮める者(クロムソウル)

:【英雄の国の者カントリーキングダムパーソン

:【心の枯れた英雄に華を、水を…】

:【限界突破】

:【歪みの昇華】



[!]経験値3000を獲得。


[!]レベル1上昇。


[!]ポイント1上昇。




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所属CLAN:

【七光】

所属MEMBER:

R.【カナデ 】LOGIN

M.【シルフェさん】ERROR

M.【アルシェイラ】ERROR

M.【カムチャッカ】ERROR

M.【キバ 】ERROR

M.【ユカナ 】LOGIN

M.【ソフラン 】ERROR


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


FRIEND.LIST


【アマツキ 】LOGIN










専門に行きたいと思っておりますので、


日常が荒れます←


更新が遅くなるかもしれませんが、

読んでくださる読者の皆様、

これからもソウルムーブをよろしくお願いします。





細部を修正。


詳しくは感想の読者様の指摘を読んでださい。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



振り絞っても出てこないSoul‥Moveのネタ…


なので他のネタでSoul‥Moveがでてくるまでのお暇を紛らわせたら良いと思います。


Soul‥Move以外に一つ書いてみました。


あ、それは完結のメドは立ってません…

本当にすみません…

取り敢えずよろしくお願いします…

http://ncode.syosetu.com/n7067bs/


僕と蒼のアルヴァイアです


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