147話≫〔修正版〕
5000字程度ですが、
よろしくお願いします。
今日は42日目の昼頃。
年季の入った濃い茶色に染まる木を至る所にあしらえた部屋をもつ小規模の宿屋、【猫丼亭】。
そのなんとも言えぬ異世界情緒漂う部屋に標準装備されたこれまた年季の入った椅子に俺は軽く腰を落としていた。
ギシィ…
僅かに椅子の素材である木材が軋む音がしたが、それもこの部屋の年季の入った趣に一役買っていた。
そして俺は視界の先にいる女性、
僅かに毛先がウェーブした艶のある黒髪に、
やや切れ長で官能的な目、
整った鼻にきめ細かく艶のある肌。
肌の色は日本人の特徴である黄色を薄くした儚げな白で顔立ちは可愛らしさを残してはいるが、どちらかと言えば綺麗系と呼ばれる分類に属すると言えよう。
その女性、ソラ姉に俺に問いかけた。
「この世界の事は前に説明したよね」
ソラ姉はベッドに腰をおろし、神妙な顔をしている。
「は、はい。この世界が昔は【VRMMO】の世界だった…でいいんですよね?」
多分、ソラ姉は俺がこの前、時間のある時に掻い摘んで説明したこの世界の話については半分も理解しては居ないと思うが、突拍子もない事なのだ。
オタク脳じゃない人が理解しきれないのは仕方ない事だろう。
だが、この世界が昔は【VRMMO】の世界だった事は、この話の導入部分でありあまり気に留めないでいい。
俺がソラ姉に理解して欲しいのはこの先に話した事、つまり俺が復讐に燃えている事だ。
そしてもう1つ、これから説明する事なのだが、それを達成する為に出来るだけ早く行動に起こすと言わなければならない。
それこそ了承を得たらすぐにでも…
「そうなんだ。そして俺はその【VRMMO】のプレイヤーだったんだけど…」
俺は話しているうちに暖かい感情と憎悪に歪んだドス黒い感情がない交ぜになるが、
不意に脳裏に浮かんだのは今は滅んだ街の情景やいつか見た【七光】のメンバー達だった。
『…最初にこの世界に来た時、俺は全てを失ったゼロだった』
灰色の全身鎧の男は珍しく饒舌にその過去を語っていた。
『…私はネ、いつかカナデの住んでいる国に行きたイ』
下睫毛の長い垂れ目の美女は顔を伏せ、表情の伺えない声色で呟いた。
そのアバターの向こうにいる彼女は何を思ってこの世界に来たのだろうか…
『…ワシはお前達に会うまで生きる活力を失っていた』
髭を蓄え、頭部が寂しくなった老人は苦笑いしながら言った。
今でこそ笑えているが、孤独の病室はどれほど無だったのだろうか。
……次々と現れては消えてゆく遠い昔の記憶は俺が記憶を取り戻してからというもの頻繁にフラッシュバックしていた。
その異変を感じ取ったのかソラ姉が話を続けようと頑張ってくれる。
「【VRMMO】の世界が現実になった時に…沢山のお友達を…こ、殺され…」
殺す。まだ人を殺した事の無いソラ姉にとってそれは蚊帳の外のように他人事に感じたのだろうか。
いや、違うのかもしれない。
対面しているソラ姉の顔は僅かに俯いていたが、視線を俺から逸らす事は無かった。
その視線、瞳の奥に僅かに宿り燃える炎には確かな憤りが混ざっていた。
多分俺達の運命を捻じ曲げ、あの絶望に満ちた事件を作り出した者に憤っているのだろう。
世界が変わってもソラ姉は変わらない。
大きく変わったのは俺だけ…
いや、変わったのではない。
忘れさせられていた記憶と共に壊れ始めた自分も思い出しただけか、
「言わないでいいよ。だから俺は復讐しなきゃいけない。アマツキだけにその重責を負わせて俺だけが1人死んだ事…」
【七光】やアマツキの事も話した。
共に仮装空間を駆け抜けた戦友だと。
「復讐が…カナデくんの…贖罪…だ、ダメです!ダメです…絶対に…」
ソラ姉は俺に罪滅ぼしなんてしなくていいと言う。
罪滅ぼしをしなければ俺にはどれほど幸せな時間が待っているのだろう。
「でも…アマツキの人生を縛った俺がのうのうと生きている事はできない。いや、したくないんだ」
いくら甘美なヴィジョンが見えたとしても、俺はもう惑わされる事はない。
目の前で起きたリアルすぎる仲間の死や同胞の死を目の当たりにした俺はあのシルバリオン・ソルダート達の先にいる奴を殺さなければならないのだから。
俺がこの件に関して絶対に引かない事を知ったのか、
ソラ姉は数分の間俯いた後、暫くしてゆっくりと顔を上げた。
その顔は何かを決意したような顔で、
あまりいい予感はしないが俺はソラ姉の口から出る言葉に耳を傾けた。
「か、カナデくんがそう言うなら…そうします。私はカナデくんが戦っている所を見て私が弱いのも実感したから…」
ソラ姉は見ていたと言った。
あの距離から…
確かに俺たちは何故か殆どのスペックが初期からこの世界の一般人を上回っている。
ゲーム開始時からいきなり死ぬのは辛いだろうと言う運営の配慮なのだろうが、そのせいで俺が殺された所を見られたとなるとスペックの高さをあまり素直に喜べない。
「…ごめん。でも俺はやらなきゃいけない事を思い出したんだ。もう一度忘れた事になんてできはい」
思考を戻し、俺はソラ姉を正面に見据えて一句一句しっかりと伝える。
この会話がソラ姉との最後のやり取りになる可能性だってあるのだ、表情にこそ出さないが大事にしなければ…
「分かりました。その代わり、一つだけ…一つだけ約束して欲しいです。私が強くなったら…連れて行ってください…」
俺がコンマ以下で断ろうとしたが、
がっつり睨まれた。むーっ、って感じなので怖くはないのだがいかんせんそれを断ったら罪悪感で旅に出るまえに死んでしまいそうだ。
俺は仕方なく折れる事にした。
「あ、あぁ、分かったよ。でもそれまではソラと行動してくれないかな?」
やはり保険としてソラをつけたほうが良いだろう。
俺は体内を流れているだろうブラッディ・ドールのソラに向かってお腹をポンポンとたたいた。
ソラ姉は俺の不思議行動とソラという単語に違和感を感じたらしく頭の上に???と浮かんでいたが、直ぐに表情を引き締めた。
「分かりました…追いついてみせます。絶対に…」
その言葉は上手く聞き取れなかったが、瞳に燃える炎が怒りから決意に変わっていたのを見てどうやら妙なスイッチをいれてしまったみたいだ。と思った。
スキル【血分体】発動
俺はソラ姉に目をつむるように言い、
見えていない事を確認してからスキルを発動させた。
俺の身体から血液が抜けていきやがて空中でうごめきながら人の形を形成する。
それは暫くすると輪郭がはっきりしていき、8歳程度の俺の外見を模して完成となった。
ブラッディ・ドール、ソラ。
俺の魔力と血で動く擬似人格を保持した魔法生物。
「わたくしの時代が来たと言う事ですか?主」
8歳の頃の俺の外見を模しているソラがドヤ顏をするとなぜか微笑ましいが、今はそんな駄弁りをするために呼んだわけではない。
「冗談はいいから、ソラ姉と仲良くするんだぞ?」
俺は既にブラッドを使用した目的を知っているだろうが、一応大事な事なのでもう一度言っておく。
「ご心配なさらず。準備は万端です。主」
何を準備したのか、全くもってわからないが別にソラの人格におかしな点は見受けられないから問題はないだろう。
「…なんの準備だか…」
その時、真面目に目を閉じ続けていたソラ姉がブラッディ・ドールのソラの声に反応した。
「…誰の声ですか?」
そういえば目を開けていいよとは言っていなかった。
声が聞こえた時点で目を開ければいいのに。
筋肉質な白髪の爺さんにもホイホイついて行ったみたいだし、これは色々と注意が必要なのかもしれない。
というかそれでよく前の世界で生きてこられたな…
「あぁ、もう目を開いていいよ」
目を開いたソラ姉はブラッディ・ドールのソラがいきなり現れた事にびっくりしたのか、目を見開いて震えていた。
「…か…………」
「…か?」
「何故か腕に鳥肌が立ちました。主」
ソラが何か言ったと同時にソラ姉がガバッと立ち上がり叫んだ。
「…かかかか可愛いっ!!な、カナデくんにそっくり!!い、いや!カナデくんじゃないのですか!!」
なるほど、ソラ姉はこの時の俺にこのような反応をしてくれるのか。
この頃はまだ調子が良かった事も多く、
1度だけ、病院内を車椅子で10分程度散歩する事が許されていた事があった。
その時にみた看護師さんはみな方を震わせて俺を嘲笑するかのようは態度をとっていた。
その頃はまだ星羅さんはいなくて、俺はその10分間、ずっと後ろをこそこそとついてくる看護師さん達にとても悲しい気分になった。
追いかけて嘲笑するほどに俺は嫌われているの?と。
だがソラ姉は違かったみたいだ。
それが今客観的にみると嬉しい。
「いやぁぁ可愛い!可愛いですカナデくん!!いつの間に小さくなったんですか!?」
「…救助を願います…あるじ」
「あ、あるじって言わせてるんですかカナデくん!!…ってあれ?カナデくんが2人?」
「私はいわば昔のあるじの姿を模した魔法生物です。あねご」
「…なんであねごなんですか?…」
「……」
よし、この2人は相性が良さそうだ。
俺は気兼ねなく旅に出る事ができる。
「じゃあ、後の分からない事はお互いに質問しあってくれないか?それとソラ姉達の今後の方針は…」
「強くなってカナデくんに追いつく。指針はそれがいいです」
ソラ姉は俺の言葉に被せるように珍しくわがままを言った。
その瞳は決意の炎がゆらゆらと揺れていて、その立ち姿は不思議と俺を安心させた。
「無理しない事。いいね?」
俺は力みすぎているようにも見えるソラ姉のおでこをかるくデコピンして、
焦りの見えた表情を崩させてから言った。
「焦り過ぎは良くない。俺より先に死んだら許さないからな」
それはソラ姉に死んで欲しくないから、
もう、仲間を失いたくないからだった。
「…あるじ……」
俺の心を読んだのか、ブラッディ・ドールのソラは俺を心配そうに見た後、ソラ姉に声をかけた。
「笑顔で送り出しましょう。あねご」
「…ぐすっ…はい。ありがとうございます。いってらっしゃい、カナデくん」
そうやって泣き出してしまったソラ姉とブラッディ・ドールのソラに送り出された俺はウォルテッドを後にした。
ここからは暫くすると1人の旅だが、まずは騎乗用の魔物をさがして騎獣にする。
ソラを常時顕現させているのでなるべく魔力を使いたくないからな。
魔力を切らせてソラが消えてしまうのも面倒だ。
とりあえず常時供給ではなくある程度多めに魔力を渡している為当分は問題ないが、念には念を入れておく。
【下位従属】によって従える事が出来れば実はステータスにその魔物が表示されて、アイテムボックスに収納できるようなのだ。
エスナでゴーレムくんを従えていた時は【VRMMO】の記憶は無かったからそんな事知らずにソラに処理させてしまった。
あの時の俺はまさか魔物をポ○モンのように収納できるとは思わなかったからな。
だから空を飛ぶアルゲンタビスタイプの魔物と地面を駆る狼のようなタイプの魔物を従えたい。
俺はウォルテッドから【深淵の密林】の方向に向かって歩き始めた。
まずは、【迷いの大森林】に行き、そこで足を確保してから帝国の真反対、
王国の東に位置する常夜地帯【禁忌の王国】に向かう。
そこにある、【忘却の眠り城】と呼ばれるダンジョンであり、セントラル・カーディリアと呼ばれていた元王城に向かう事にする。
なぜ俺がその【禁忌の王国】の名前を知っているか…
それはその王国が【Mythology.Kadiria.Online】
つまりゲーム時代の始まりの街だったからだ。
そして同時に、転移させられた2000人のプレイヤーがゲームの世界で最後に居た場所。
だが、その国は数百年前に愚王アーミリタイム・カーディリアの乱心と呼ばれる事件によって滅んだらしい。
その元城の最下層の宝物庫にあるかもしれないのだ。
俺の探し求めている【鎖の林檎】ともう1つ。
この世界を管理する者を倒す為の足掛かりとなるアイテムが。
【鎖の林檎】は愚王と呼ばれていた王様が使い道を理解していなければ放置されているはず。そうすれば確実に置いてあるだろう。
もう一つのアイテムは…まぁ取り敢えず百聞は一見に如かずだ。
行ってみなければ分からない。
【SideOut】
[種族]
:【上位人族】
[レベル]
:【LV.100】
[職業]
:【剣士】
:【戦舞技師】
:【全属性大魔術師】
:【虐殺者】
:【古の戦士】
[名前]
:【雪埜 奏】
[経験値]
:【1565/ーーーーー】
[能力]
:【戦舞技補正:強】
【体力補正:強】【筋力補正:強】
【解析の眼】【弱点解析】
【縛りの咆哮】【竜種の咆哮】
【野生の本能】【下克上】【隠密】
【暗視】【魅了】
【砂塵の爪甲】【並列思考】
【瞬間移動】【予測の眼】【血分体】
【下位従属】【超回復】
【粘糸精製】【識字】【色素調整】
【剥ぎ取り補正:弱】【異次元収納】
【毒耐性:弱】【麻痺耐性:弱】【雷耐性:弱】
【炎耐性:弱】【氷耐性:弱】【武器作成:ⅠⅠ】
【格闘術補正:中】【幸運補正:弱】
【虐殺者】【古の戦士】【鈍感:超】
【剣豪:ⅠⅠ】【超思考加速】
【魔力抵抗】【見切り】【食いしばり】
【祖なる魔導師:II】〔8〕
:【全属性魔法】
:【魔法威力補正:強】
:【魔法命中率:強】
:【魔法操作:強】
:【魔力量増大:強】
:【魔力探知:強】
:【消費魔力半減】
:【魔力回復速度上昇:弱】
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[クラン]
:【七光】
[Point]
:【15】
[所持金]
:【6102万3千6百エル】
[称号]
:【魂を鎮める者】
:【英雄の国の者】
次から新章かも。
感想おまちしております。