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Soul-Move -新章開始-  作者: 癒柚 礼香
【魔物の侵攻】
129/145

146話≫〔修正版〕


しっかりとした時間に投稿できずすみません。


書き上げたのでそのまま投稿します。


戦闘はありません。


あえていうならアフターケア編です。笑

上手くかけませんでしたが

感想おまちしておりますのでよろしくお願いします。








41日目の昼過ぎ。


小都市ウォルテッドの城壁に向かうまでに目にした死体は魔物のモノが多かったが、

それに引けを取らないくらい人間の死体も多かった。


もし、漆黒使徒人形ノワール・アポストル・ドール10体と

漆黒人形(ノワール・ドール)狂乱翼竜(マッド・ワイヴァーン)が街を攻めていたら、容易く人々は死に絶えただろう。


城門を潜れば中は負傷者や死者を除く殆どの人間が道路にひしめきあって喜んでいた。

まるでニュースでみた渋谷のスクランブル交差点のように混みあい、隙間が見当たらず取り敢えず俺は【瞬間移動(ワープ)】で【猫丼亭】に飛んだ。


コンコン…


「ソラ姉?入るよ?」


ソラ姉の無事を確認する為に宿のドアの前にワープした俺はノックをした後に扉を開く。

扉を開いた瞬間、俺の視界に入ってきたのはこれでもかというほどに涙で顔を濡らしてベッドの横で膝から崩れていたソラ姉だった。


「…ただい…ま…」


開いたドアの方に視線を上げたソラ姉は俺を見た途端に固まり、震える声で小さく呟く。


「……カナデ…く…ん…カナデくんなの?…」


「…あ、あぁ…終わったよ」


次の瞬間、ソラ姉は立ち上がり全速力で駆け寄ってきて、部屋の入り口に立っていた俺の胸に飛び込んだ。


「…えっ…?」


「ひぐっ…見たんです…カナデくんが死んじゃうところ…」


ソラ姉は俺に抱きつき、泣き腫らした目で俺の胸に空いた穴をツンツンと指差した。

既に装備に付いた自己修復により穴は塞がってきているが、まだテニスボール程度の穴が空いていた。


「…見たって部屋からでたの?」


「ごめんなさい。カナデくんが強いのは知ってたけど、でも心配で。それで街にでたら筋肉質な白髪のお爺さん声をかけてきて、

守ってくれるって言うから見に行ったの…」


なるほど、俺の事が心配になって宿をでたけど街の外にでたら危険だと思って街をウロウロしていたら筋肉質の白髪のお爺さんが、

『守ってあげるから見にいくかい?』と話しかけてきた。という事か。

そして俺とノワール・ドールの戦いをほへーっと見ていたら俺が貫かれてジ・エンドしたって所までを見ていたのか。


その後はショックで宿まで帰って泣いていたらしい。


「ごめん…心配かけさせちゃったね」


俺はソラ姉の華奢な身体を抱きしめ、ぽんぼんと優しく背中を叩いた。

ソラ姉は珍しく怒ったり泣いたりしていたが、暫くすると泣き疲れたのか安心したように俺の胸の中で眠ってしまった。


俺はぐったりとしたソラ姉の身体を抱き上げてベットに連れていく。

この1文だけを抜き取って聞けば変態の所業だが今はそんな気分は持って居なかった。

今日はギルドに言ってエイラやロゼッタさん達に会うのは無理そうだ。


それに筋肉質の白髪のお爺さんという単語に俺は心当たり"しか"ない。

やはりギルドにいく事は決定事項だろう。


街に攻め込まれていた様子は無かった事からも復旧は以外と早く終わりそうだが、兵や冒険者、それに志願兵にどれだけの被害がでたのかも聞いておくべきだな。


【魔物の侵攻】は人間側が陣地を守り切り、勝ち抜いた。

よってこのイベントでの最悪の結果、つまり拠点が破壊された状態で追い打ちをかけるように魔王の配下が襲ってくる事はなくなったのだ。


当面の目標は魔王を探しながら

最初の【存在昇華】をする為に必要なアイテムを手に入れる事となる。

必要な物は筋肉質の白髪のお爺さんに聞けば何かわかるかもしれない。


そのアイテムの名前は【鎖の林檎】。

設定では全ての種族の限界を決めている枷の鎖を1つ砕くと言われている。


【VRMMO】時代はとある常夜地帯の奥にあるダンジョンのラスボスを倒すと出てきたのだが、今はどうだろうか。

あのボスはレベルが100に到達しただけの個人ならば確殺される。

パーティならば半分が死ぬ事を覚悟すれば攻略できなくはなかった筈。

勿論【七光】であれば造作も無かったのだが…


現段階でパーティでいく事は出来ないが、ブラッディ・ドールのソラを連れて行けばなんとかなるかもしれない。

ソラは既に90レベルに到達したから戦力的には十分を通り越している。


ソラ姉は…本人には悪いが連れていけない。

連れて行けば確実に死ぬだろうからな。

いや、ならばソラ姉のお供としてソラを置いておくのはどうだろうか。

名前的にはややこしいがこの際仕方ないし、実力は文句ない。

そしてソラ姉を他人に預けなくても良くなるし、なんなら俺が居ないうちにレベルを上げさせるのも手だ。


決まりだな。


そうすると俺は1人になるのだが、当てはある。


【下位従属】で騎獣にもむいた魔物を手懐けた後、

【鎖の林檎】を探すついでにあるアイテムも探す事にする。

【VRMMO】時代は高価だったが、特に珍しい物では無かったアイテム。

1000年も経っているのだ、人のいる場所には確実に残っていないだろうがもしかしたら人数分、何処かに残っているかもしれない。


そうして気がつけば俺は夢の世界へといざなわれていた。




××××××××××××××××××××××××××××××××××




見覚えのある真っ白な世界にいた。


俺の世界とはその部屋を意味していて、その部屋からはパソコンを使い様々な外と繋がり、直接的な繋がりは窓と正反対の場所にある扉をから入ってくる少数の人との接触のみだった。


そんな真っ白な部屋。


不意に部屋の片隅に置かれた花瓶に生けられていた純白のササユリの花が揺れ、窓の手前には人がいた。


『…誰ですか』


声が部屋の隅々まで響き花瓶に反響する。

窓の手前に立つ人は話す事なく次第に輪郭を露わにしていく。

滲み出すインクのように徐々に濃くなっていくその輪郭はやがて年老いた男になった。

だが肉体に衰えは見えず、瞳は真っ直ぐに俺を見据えている。


そして始めてその年老いた男は行動を起こした。


ニンマリ。


と。すぐに年老いた男の表情は消えたがその時に流れ込んできた景色はなにを意味していたのか。


草の1本も生えていない枯れ果てた大地が続く景色。

草の代わりには無数の十字架が地面から生えていて、その十字架には全て名前が書かれていた。


その中にはかつての仲間達の名前もあり、

見覚えのある名前もあった。

そして不意に地面が盛り上がり1本の十字架が生えてくる。


そこに刻まれていた名前は、俺だった。


その景色はなにを暗示していたのか。

年老いた男は俺になにを伝えたかったのか。


だが、この男の瞳に宿る色は俺を見下したような、それでいて慈しむような矛盾した色があった。

この年老いた男がそうなのか…?


だとしたらなぜあの景色を見せたんだ。


なにを考えている?


だが、1つだけわかる事がある。


お前が、お前が…


『殺したんだな。』


その問いは簡潔で、簡潔で、完結していた。


年老いた男は始めて口を開いた。


『どうだ?己の創った世界は』


俺は間髪入れずに答えた。


『ニセモノだ。』


その時に一瞬、ほんの一瞬だけ年老いた男の顔が歪んだ。

そして年老いた男は俺を睨みつけながら言った。


『取り戻したのか?』


それは言外に記憶を意味していた。

俺がなぜこの年老いた男に質問される(・・・・・)のか、


それは心が壊れているから、俺の心の内が読めないのだろう。


いい気味だ、そうやってお前は今まで呆れるほどに人の心を弄び手のひらの上で転がしていたんだろう。

そうやって話し合いのペースを掴んで来たのだろうが俺はそうはいかない。


『なんのことですか?』




カナデは仮面をつけるのが得意で、もう呼吸をするように表情を変えて『分からない』と言った。

そしてその壊れた心からは何も読み取れず、

身近に居たわけでもない年老いた男には仮面に気がつかなかった。

その時点で年老いた男は負けたのだった。

カナデの未来への道を閉ざせなかった時点で。




年老いた男は無表情に汗を浮かべながら滲み出たインクを逆再生するように輪郭がぼやけ、消えていった。


その部屋に残ったのは俺だけで、取り敢えず嗤っておいた。

楽しい、楽しい、楽しい。

この世界ではスキルの影響力が弱い。

だから心を読まれなかったのだろう。


そしてあの十字架の乱立していた景色、

あれが俺の行く先を暗示していたのだろう。

年老いた男が俺の心を読めなかったとすれば、推測の域を出ないがあの年老いた男はこう言いたかったのだろう。

『お前が何をしようとしているのか知らないが無駄だ。先に待っているのは死なのだから』と。

そうやって釘を刺そうとしていたのかもしれないが、そんなもので俺を止められると思っているのならば大間違いだ。


俺はお前を殺す。


その目的が揺らぐ事は無いし変わる事は尚無い。




そして次第に白い部屋はゆっくりと歪んでいき、やがて水に溶けるようにして消えていった。




×××××××××××××××××××××××××××××××××




今日は42日目の朝、山場をくぐり抜け生き残った人々の1日が始まる。


意識が浮上し、俺の身体が何かによって拘束されているような…


そう思い今いる場所をみればベッドの上だった。


いやー良い天気だ。

窓閉じてるから天気分からないけど。


「…んっ………っ」


(…まさか…な…)


俺が左を向くと直ぐ2cmも離れていない所にソラ姉の顔があった。


(あぁ、また俺は寝たのか)


どうやらソラ姉をベッドに寝かせた後、ベッドに腰掛けてソラ姉を見守りながら色々と考えていた内に寝ていたらしい。


ソラ姉は俺を抱き枕にするのが好きなのか、はたまた前世では自宅に抱き枕でも置いてあったのかは分からないが、2回中2回ともこうされると自宅に抱き枕があった可能性が高いと見た。


俺はソラ姉が起きる前に拘束された身体をよじって抜け出そうとするが、どこにそんな力があるのか、全くもって抜けなかった。


もちろん全力は出していないからと言うのもあるのだが、全力で力を込めたら生身の人間は爆散してしまうかもしれないからそんな事は出来ない。

壊れた俺ならやりかねないが。


そんな訳で俺は【瞬間移動(ワープ)】を使いベッドの横に置いてあった椅子に転移した。

俺に巻きついていたソラ姉の腕と足がベッドに埋まる前には既に俺は椅子の上に転移し、近くに置いてあったカップに指から冷たい水を注いでいた。


ボフッ……


ソラ姉の腕と足がベッドに埋まり、


「……んっ…ふぁぁぁっ…」


ソラ姉はその振動で意識が覚醒したようだ。

ベッドの上で布団を巻き取りながらゴロゴロした後に伸びをして身体を逸らして胸を強調させ、そして尺取虫のような謎の動きで起き上がり俺の方を見て驚いたように目を擦った。


「…昨日の事は夢じゃなかったんですね…」


そう言ってソラ姉は泣きながら頬を赤く染め、再び布団をかぶって沈黙してしまった。

どうやら昨日の事が結構恥ずかしかったようだ。


ソラ姉に話しかけても「……」しか帰ってこない為、今日は俺1人で行動させてもらう。


まずはギルドに行き、エイラやロゼッタさん達の安否を確認した後にダインの元へ行く。


そして色々話す事もあるが、依頼の達成の手続きも頼まなければならない。

ドヴォルザーク王が今回の魔物の侵攻を阻んでくれた場合に渡すと俺に提示した額は金貨5000枚、つまり日本円で5000万円。

金額が金額だから受付で処理できないらしい。


英雄補正と言うやつだろうか。

ガルテンの時の5倍の額だった。

確かに一度死んだのだから妥当といえば妥当だろうが、金は使い道が分からないけどあって困る事はないし、なにか使い道ができた時に金があればいいだろうし。


そう思い部屋をでて一階に行けば、とてもよく出来た人格の残念系猫耳ドイノフさん41歳が既にホールの掃除をしていた。

ピンクのエプロンが少し汚れている事からはっきまで酔いつぶれていた奴を休まずに介抱していたのだろう。

俺の方に気がつくと箒を肩に担いで腰を当ててニンマリと笑った。


「おつかれ、守ってくれて有難うにゃ」


そう低音で重厚な声で言った。

その言葉は簡潔で、似合わなすぎる語尾さえなければソフランと重なって見えた。

それにしても、街の人には見られていない筈なのだが噂で広がってしまったのだろうか、

ガルテンでは酒でうやむやにしたが今回は難しいかもしれない。


俺は苦笑しながらドイノフさんに言った。


「まだこれからだよ、一段落ついただけ」


それ以上は言わなかったが、ドイノフさんもバカでは無い。

何を言おうとしたのかは気がついたようだった。


「…死ぬにゃよ。貴重な収入源が減るからにゃ」


もう一度言うがドイノフさんは低く男らしい声でいった。

残念な語尾さえ、残念な語尾さえなければ、

それはドラマのワンシーンのように感動出来ただろうに。


もう2回死んでますとは言わないし言う意味はもっと無い。

おれはそれに頷き、宿を後にした。


【猫丼亭】をでると、辺りには酔いつぶれた親父や兵士達がゴロゴロと転がっていびきをかきながらねていた。


まぁ、気持ちは分からなくもない。

ガルテンでも帝国という脅威が消えていなかったがそれでも誰しもが呑み明かしていた。


その点ウォルテッドは帝国の脅威が無いからここまでどんちゃん騒ぎが出来たのだろう。


と、なると死者を追悼するような行事は既に終わった後かもしれない。

だとすればこの時間帯で起きている人はかなり少ないだろう。


俺は足を早めてそそくさと冒険者ギルドに向かった。


数分走れば見えてくる冒険者ギルドは依頼を受けにきた冒険者がひしめいていた日常はなく、珍しく人が見当たらなかった。

それはそうだろう。冒険者達は魔物との最前線で戦っていたのだ。

俺のように人間から片足踏み外しているような奴でなければ激戦の後は祝勝会をして数日の休養を取るだろう。


ギルドに入ると受付嬢は平常運転のようで、前線の一歩手間で色々と頑張っていたであろう人達が疲れた顔をして座っていた。

(これは給料を相当あげさせるようにダインに言っておいた方がいいかもしれないな)


だが、ギルドに入ってきた俺を見た受付嬢達は皆驚いた様子で固まっていた。


もしや、君達もソラ姉と同じ感じなのか?

取り敢えず俺はシナモンさんのいる受付に向かった。


「よ、ようこそ…冒険者ギルドウォルテッド支部へ…何で生きているんですか?」


ご用件は何ですか?って聞くところじゃないのですかシナモンさん…

しかもそこだけ聞いたらドSの人にしか思えない。

もちろん口調は少し震えているから俺はそういう解釈はしなかったし、ただ単に胸を貫かれた筈の俺が生きている事に恐怖を感じているんだろうけど。


「あぁ、それなんだけど…死にかけた時に発動するスキルがあってね」


俺は詳しい事は言わずに怖がっていた受付嬢達に聞こえるように少し大きめの声を出した。

半分は納得したようで隣の受付嬢とコソコソ話していたが、数人の受付嬢やシナモンさんは少し訝しげな顔をしていた。


「そのようなスキルは確認されておりませんが…」


「まぁ言ってないからね。それより、ダインに会いたいんだけど取次いでくれるかな」


「はぁ、分かりました。現在ギルドマスターは会議室にいますのでそちらの椅子に座って少々お待ち下さい。10分程度で案内出来ると思います 」


ダインに待たされるのは癪だったが、誰かと話しているのなら仕方ない。

それと受付嬢達が怖がっていた事についてはエイラが俺の死を見た事で気を失ってしまい、エイラを運ぶ時にダインがついでにと職員全員を下がらせたらしかった。


エイラはギルドの職員用の休憩室で寝ているらしく、後で声をかけて来いとシナモンさんに命令された。

どうやらあの人は結構Sな人だったようだ。

俺は椅子に腰掛けながらぼーっと依頼の張り出された掲示板を眺めて時間を潰す事にした。


だが、ただぼーっとしていた訳ではない。

俺の眺めている先には掲示板ではなく、自身のステータスだった。

掲示板を眺めているのは受付嬢たちに違和感を与えないためだ。

まぁ普通にしていてもステータスは見れるのだが何と言うかぼーっとしているのは嫌いじゃない。

生前も窓の外に広がる空を眺めながらぼーっとしていた事は良くあった。


ステータスを見ているとやはり表示が変わっていた。

別にこれに関しては問題はないし、

今は【古の戦士】だが、元の名前は【リ・アバター】だったスキルが影響しているのだろう。


そして残るPointは【23】ポイント、

多いように思えるが、思い出した記憶を使えばこれだけか。となるくらいには少ない。

だが、もう【存在昇華】をするかボス級魔物を倒すしか手に入らないポイントだから慎重に使う事にする。


俺はステータスのスキル選択画面を開き、下にむかってスクロールさせる。


俺の視線の先に表示されていた他人からは不可視のステータスをスクロールさせていた視線が止まる。


今思えばこんな簡単にスキルの選択など出来なかった。

最初は1番効果の低いスキルから始め、それを使い続ける事でやっと派生したスキルに喜び、進化すればあまりの嬉しさに飛び跳ねていた。

新しいスキルをとるのも一苦労だった。

"15個しか取れない"スキル枠の中で必死に考えたのだから。

【七光】を設立し、【存在昇華】を経てスキル枠は30個まで増えたがそれでも今までと変わらずスキルは1から育てなければならなかった。

その時の仲間達と共に味わった苦労が昨日のように思い出せる。


俺はふつふつと湧いてきた怒りを必死で鎮めた。

スキルをこんなに簡単に取れるといるのはやはりあの年老いた男のやった事なのだろうか。

そうなればあのゲームの中で必死にスキルを磨いてきた俺らの努力を侮辱する行為だ。


俺の思い出の6割はあのゲームの中での出会いだった。

そこで経験したことは誰であろうとも侮辱する事は許されない。

貶める事は、あってはならない。


魔力抵抗(レジスト)】[3]


[効果]魔法の威力を半減させる。


このスキルだって、ランクの高い魔物こそ最初から持っていたが、プレイヤー達は皆、

【魔法抗体:脆弱】と言う1割しか魔法の威力を削れないスキルから始めたのだ。

属性の攻撃を無効化させるような【闇属性魔法無効】や攻撃を吸収する効果を持つ

【闇属性魔法魔法吸収】などのスキルは1から育てないといけないようだが、


レジストもたかが[3]ポイントなんかで取れて良いスキルではない…


だが、今は戦いにいくために必要なスキルだ。


俺は他にも数個、【VRMMO】時代に愛用していたスキルを選択していく。

まだまだ取得したいスキルはあるがまた次の機会に取得するとする。

そして奥歯を食いしめながらスキルの選択を決定した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


Point[8]を消費して以下のスキルを取得しました


残存ポイントは[15]Pointです。


能力(スキル)を確認してください。


魔力抵抗(レジスト)】[3]


【見切り】[2]


【食いしばり】[3]


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



スキルの選択完了画面が表示された後、シナモンさんから声がかかった。


「カナデさん、ギルドマスターの準備が整いました。ギルドマスタールームまでご案内します」


俺はステータス画面を閉じてシナモンさんの後に続いた。

階段をシナモンさんの先導を受けて登り、

5階のギルドマスタールームの前に着く。


コンコン…


「ギルドマスター。カナデさんがいらっしゃいました」


「…入っていいぞ」


久しぶりのダインの声を聞きながら俺はシナモンさんが開けてくれた扉をくぐった。


「やぁ、カナデ。久しぶりだな。ワシは待っていたぞ」


「俺は待っていない。取り敢えず早く要件を終わらそう」


「そういうでない。…まぁ良いだろう」


そう言ったダインに俺はドヴォルザーク王から請けた依頼書を渡した。


「ほう。何度見ても破格の報酬だな…」


どうやらダインでもこれ程の金が動く以来は滅多に見た事が無いらしく、それこそ多人数に払うような依頼しか無いような報酬額だそうだ。


「まぁ、この依頼に関しては問題ない。下に降りた時に用意させよう」


「ありがとう。所で、ソラ姉になにかしたのか?」


辺りの気温が2度程下がった。


「…ソラ姉?あぁ、あの黒髪の娘か。

まぁそう怒るな。ワシは何もしていない。ただうろちょろしてたから声をかけたら目的地が同じだっただけだ」


そういってダインは笑みを深くした。

この爺は俺と同じだと髪の色と目の色をしたソラ姉に興味が行っているのだろう。


「まぁ、何もしてないなら良いけれど、もうソラ姉には干渉するな。したら…」


俺は前回の失敗を生かしてダインを魔力で覆い、周囲に被害がないようにしながら威圧した。


ダインは頬を伝う一滴の汗をその太い腕で拭いながら苦笑いした。


「英雄たちはこんなにも早いのか…」


最初にダインと戦闘した時と力量が違う事に疑問を持っているのか…

この世界の一般の人が魔物を倒した時に獲得する経験値は知らないがエンシェントアンデットドラゴン戦ではカマさんとローランドの獲得した経験値と俺の獲得した経験値では4倍近くの差があった。

ダメージの量で変わるとしても4日戦い続けていたローランドと数時間の戦闘の俺の経験値が逆転するのは違和感がある。

となるとやはり俺たちの経験値獲得量は異常なんだろう。


「多分そうなんだろう」


俺の簡潔な回答に納得したのか、ダインはため息をついた。


「…ふぅ、まぁ英雄については謎の方が多いからな。気になり始めたらキリがない…ゆるせ、カナデの姉とやらに手を出す気はないさ」


それと同時に俺もダインを包み込んでいた魔力の圧力を解除して、話は自然と昨日の侵攻での話になった。


「どうやらカナデは被害状況も知りたいようだな」


「あぁ、俺が前線で戦っている間に死んでいった人達の数は知っておきたいからな」


「そうか……非常事態だからと言って街を野放しにしたくは無かったんだが全軍動員して2000人が戦闘に従事した。冒険者は60人、かなり押されていた為志願兵も500人投入した」


辺りを沈黙が支配し、鼓動の音さえ相手に届くかと思うような時間が過ぎてゆく。


「その結果、戦闘が終了した時点での生存者は兵士が1153人、冒険者は35人、志願兵は228人だった」


あれだけの魔物に攻められたわりには被害が少なかったと言えばいいのか、

俺が前線にいながらそれだけの被害がでたのだと言えばいいのか、

たとえガルテンよりも被害が少ないと言っても、ガルテンは奇襲だったのだ。

ウォルテッドは数日前から予告があった。


どちらが適切な表現だったのか、俺には分からなかった。


その後は一言二言、言葉を交わして部屋を出る。


最後に一つだけ、俺は口を開いた。


「あ、そう言えば。受付嬢の給料は上げておいた方が良いぞ?反乱がおきそうだ」


俺の言葉にダインは窓の外を眺めながら片手を上げながら苦笑した。


「…分かっている。シナモン達にはいつも迷惑をかけてばかりだ…」



カナデが部屋から出ていった後に呟いたその言葉はいつもより広く感じたギルドマスタールームの壁に吸い込まれて消えた。






俺は部屋から出て、先程の会話について特に意味もなく考えていた。


そして、2つだけ。

やはりか、と思う事があった。


1つは【鎖の林檎】についての事だがダインですら知らなかった。

まぁ知っていたら【存在昇華】した者もいた筈なのだがそれ程の力を持った者は確認されていない事からも本当に分からなかったのだろう。

これに関してはもう記憶を頼りに手さぐりで探すしかなさそうだ。


そしてもう1つ。


俺は、あの戦いであれだけの人が死んだと言われても、


何も感じなかった。


俺の目に入っていなかったからかもしれない。

なぜなら知り合いや友人、それに先の2つ程ではないが"目の前"で人が死ぬのは耐えられないからだ。


これはまだ人としての心が残っている証拠なのだろうか、それとも自分勝手なだけなのだろうか。


そんな矛盾を抱えて生きる俺はこの世界からはどう見えるのだろうか。


英雄に見えるのか?


それとも、ただの壊れた人間に見えるのだろうか…




××××××××××××××××××××××××××××××××××




ギルドマスタールームを出てシナモンさんのお尻をみながら階段を降りる。


いや、目線が仕方なくいくだけであって特にやましい気持ちはないと思うが。


俺はギルドの受付でドヴォルザーク王からの依頼の最終手続き、つまり報酬の受け取りを行う。

お金は受付の奥にある部屋の金庫にしまわれているらしく、高額の依頼はダインが判子を押した後に下で受け渡しがあるのだ。


「…こ、此方か報酬の5000万エルになります。ご確認ください…」


シナモンさんも心なしか声が震えているが、この金額を前にしたら仕方ないだろう。

目が少しお金のマークになっているのは…

まぁ気にしない。

渡された5000万エルを確認しながらぱぱっとアイテムボックスにしまいこむ。

それを目の当たりにしたシナモンさんは目を見開いて固まっていたが仕方が無いだろう、

アイテムボックスは持っている人は持っているだろうし、俺はこれから英雄の威をかりて行動する。

そこまで問題にはならないだろう。


俺は冒険者ギルドに来た時に言われたエイラの様子を見る為に固まっているシナモンさんの代わりに第3の受付嬢の先導を受けつつ受付の奥の休憩室に向かった。


「…終わりましたら一言声をかけてください。ではごゆっくり」


第3の受付嬢、名前はメリアさんと言うらしい。

休憩室にかかっているのれんのような物をくぐれば部屋の奥に設置されているソファの上にエイラらしきうさ耳が布団を被って震えていた。

扉の方向に背を向けているので俺の存在にはまだ気がついていない。

出来るだけ足音を立てていきなり驚かせないように近づく。


「だれでずか…?」


声は鼻声で、震えるうさ耳は見ている俺まで悲しくなった。


「エイラ、帰って来たよ」


振り返り布団からチラッと覗いた目は俺を捉え、停止した。


「…ゆ、ゆ、幽霊…ひやぁぁぁぁぁぁ!!!!カナデサンノ幽霊ガ…カナデサンノ幽霊ガ…あわわわわ…」


異様な脚力で布団から飛び出したエイラの頬は痩せこけていて、部屋の角にうずくまって頭を抱えながら震えていた。


「カナデさんカナデさんカナデさんカナデさん死なないで死なないで死なないで!!!!」


「幽霊なんかじゃない!カナデさんは生きてる!絶対にどこかで……」


そこで何かを思い出したのか、

いや、多分今の状態の原因になったであろうその場面を思い出したエイラは再び泣き崩れた。


俺はエイラをここまで追い詰めてしまった自分の失態をひどく悔いた。

そして守るといった自分の無力さを思い知った。


(最後に勝つだけが全てじゃないのかもしれない…)


始めてそう感じたのかもしれなかった。


俺はゆっくりとエイラに近づく。


「…ひっ……」


そして怖がるエイラを後ろからゆっくりと包み込むように抱きしめた。


「俺は死んでないよ。エイラ。ただいま、守りきれなくてごめん」


俺は頭から手を離したエイラの片手を絡めるようにして取り、残った手をエイラの首に優しく回した。

そして出来るだけ安心できるように、ぬくもりを伝えた。

俺は死んでいない。それの証明を出来るのはこれくらいしかないから…


そして、守りきれなくてごめん。

その意味が武力だけでない事も俺の貧相なボキャブラリーから必死に探して伝えようとした。

うまく伝わったとは思わない。

今まで自分には薄かった感情の1つなのだから。

でも、エイラから伝わるぬくもりは暖かくて、俺の壊れてひび割れた心の隙間に染み渡ってゆくような感覚を味わった気がした。


「…ふぇ…?………カナデ………さん…?」


俺の方を向いたエイラは後ろから抱きついていた事もあって唇が触れそうになった。


俺は胸の奥で高まる鼓動を感じつつ、ゆっくりと、そして朗らかに笑う。

俺のせいで失った笑顔をもう一度、


みたいから。


「…エイラにそんな顔は似合わない」


俺はエイラの首に回していた手を外し、

頬を伝っていた涙を拭う。


「俺は死なない。たとえ魔王が相手でも、神が相手でも。必ず死なない」


たとえそれが偽善で、

死ぬ運命が待っていたとしても。


「俺はもう一度、エイラの笑顔がみたい…」


「…か、カナデさん……」


拭った筈の涙が再びこぼれ落ちる。

だけど、俺は拭わない。


エイラは涙を流しながら、いつものように笑っていたから。


俺はエイラの涙を横目に立ち上がり、ゆっくりと休憩室を去る。


「次に会う時はまた涙のない笑顔を見せて欲しいな」


「…はいっ!」


涙に濡れている筈のその笑顔は、今までのエイラの表情の中で1番輝いているように見えた。


「…待ってくださいカナデさん…」


俺がのれんのような物をくぐる時、俺はエイラに呼び止められた。


ゆっくりと振り返ると涙を拭って綺麗な顔に戻ったエイラがいて、


「…大好きです。カナデさん」


その一言と共に唇が重なった…


触れ合った時間は数秒でも、俺には数時間に感じられる…


「…う…あ…」


一瞬の気の迷いだ。

気のせいだろう。


(…なんだ、この頬の火照りは…)


体が熱い、

胸が…痛い…


(…それよりも俺は目標を達成する為に動かなければ…)


俺は異常を起こす精神を一先ず棚上げにし、

用件が済んだ事を伝えに第3の受付嬢ことメリアさんの元へ向かった。


「…はわわわ……何をしてるんですか私は…いや、ぐっじょぶかも〜.でも…やってしまいました…」



カナデの去った休憩室では1時間ほど謎の声が聞こえたとか聞こえないとか。



【SideOut】



エイラは心の傷をキスで埋めた。




カナデの壊れた心の割れ目から芽生えた甘い香りを放つ感情の新芽。


それはまだ特定の個人に向いた感情ではなく、ただ壊れた心に暖かさを与えていた。


今はその事に気がつかないが、


いつかくるのだろうか…


そんな夢物語は。





[種族]

:【上位人族(ハイ・ヒューマン)


[レベル]

:【LV.100】


職業(ジョブ)

:【剣士(ソードマン)

:【戦舞技師ダンズ・ワー・トリッグ

:【全属性大魔術師オール・アトリビュート・アークウィザード

:【虐殺者(スローター)

:【古の戦士】


名前(ネーム)

:【雪埜(ユキノ) (カナデ)


[経験値]

:【1565/ーーーーー】


能力(スキル)

:【戦舞技(センブギ)補正:強】

【体力補正:強】【筋力補正:強】

解析の眼(アナライズ・アイズ)】【弱点解析ウィクネス・アナライズ

縛りの咆哮(バインド・ロア)】【竜種の咆哮(ドラゴ・ロア)

野生の本能ワイルド・インセィティクト】【下克上】【隠密(スパイ)

暗視(ナイトヴィジョン)】【魅了(チャーム)

【砂塵の爪甲】【並列思考】

瞬間移動(ワープ)】【予測の眼(ヴィジョン)】【血分体(ブラッド)

【下位従属】【超回復(ハイ・リカバリ)

【粘糸精製】【識字】【色素調整ピグメント・アジャストメント

【剥ぎ取り補正:弱】【異次元収納(アイテムボックス)

【毒耐性:弱】【麻痺耐性:弱】【雷耐性:弱】

【炎耐性:弱】【氷耐性:弱】【武器作成:ⅠⅠ】

【格闘術補正:中】【幸運補正:弱】

虐殺者(スローター)】【古の戦士】【鈍感:超】

【剣豪:ⅠⅠ】【超思考加速ハイ・アクセラブレイン

new!【魔力抵抗(レジスト)】new!【見切り】

new!【食いしばり】


【祖なる魔導師:II】〔8〕

:【全属性魔法オール・アトリビュート・マジック

:【魔法威力補正:強】

:【魔法命中率:強】

:【魔法操作:強】

:【魔力量増大:強】

:【魔力探知:強】

:【消費魔力半減】

:【魔力回復速度上昇:弱】

---------------------------------------


[クラン]

:【七光】


[Point]

:【15】


所持金(エル)

:【6102万3千6百エル】


[称号]

:【魂を鎮める者(クロムソウル)

:【英雄の国の者カントリーキングダムパーソン






new!【魔力抵抗(レジスト)


魔法攻撃によるダメージを半減させる。


new!【見切り】


近接戦闘での動体視力上昇。


new!【食いしばり】


即死ダメージ、及び死に至るダメージを受けた場合、

HPを1残して耐え切る。







感想お待ちしております。


待ってますからね!ʕ̡̢̡*✪௰✪ૢʔ̢̡̢

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