142話≫〔修正版〕
よろしくお願いします。
【エイラSide】
嬉しかった、
君が私の涙を止めると言ってくれたから。
嬉しかった、
私の頭をくしゃっと撫でで、
俺が守るから、と言ってくれたのが。
カナデさん…
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いつも笑顔を絶やしてはいけない受付嬢達も、今日ばかりは表情に華が無い。
ギルドの元気印と呼ばれる私でさえも元気が出ず、表情に影がさしていた。
魔物の侵攻、それも数日前から森と平原の境に陣取って、街には絶え間無く魔物の叫び声や足踏みが聞こえてくる。
そんな状況でいつも通りにいられるでしょうか?
私がため息をつこうとした時、受付の向かいから懐かしい声がかかりました。
「やぁ、久しぶり。エイラ」
「…ふぇ?…カ、カナデさん…?」
その声は、ついこの前にウォルテッドを旅立った冒険者の声によく似ていた…
顔をあげれば胸には暖かな気持ちが湧き出てくる。
胸がきゅっと締め付けられ、頬が熱くなり、目尻に涙が浮かんでくる。
「あぁ、加勢しに来たよ。ギルドの職員は戦いが始まったら前線に物資を運ばなきゃ行けないんだよな…大丈夫か?」
あぁ…やっぱりこの人は…
そのセリフは周りにいた受付嬢達や私には天使の囁きに聞こえました。
街から冒険者が逃げ出して行ってしまう現状での噂に聞く強力な迷宮攻略者であり、私が専属で担当しているルーキーの冒険者。
まぁ専属で担当しているのは他の職員に無理言って(ご飯奢ったり)変わってもらってるのですが。
「は、はぃ。冒険者の皆さんも戦うんですから、私も役に立ちたいんですっ!」
目尻に溜まった涙を拭い去り精一杯笑った。
今、私は笑えているでしょうか?
いや、笑えていないですね。頬が引きつってる筈です。
私たち冒険者ギルドの職員は前線に赴く冒険者の物資補給や治療の補佐など多岐に渡り、そのほとんどが前線の一歩手前で活動することとなる。
ギルドの職員は相当に危険な場所に置かれてしまうというわけだ。
もちろんギルドの職員はある程度の戦闘能力をもつ者が多い。
私の種族、兎人族は見た目とは裏腹に強靭な脚力を持ち、ある程度訓練をうけた私は5メイルくらいなら跳躍できるし、走る速度も人族の数倍は早い、
そして獣人族は総じて視力が良い為、特に戦場では嫌な物も人族よりも多く視えてしまう。
「でも…怖いです。」
怖い…怖い…
「死にたくない?」
「私は死にたく無いです、でも街の友達とか冒険者の人達には…もっと死んで欲しくないです!!」
閉じ込めていたのにカナデさんの言葉でせきを切ったように溢れ出す感情。
私は死にたくない、
でもいつもギルドに来てくれる冒険者の人や隣に座っているシナモンさんや受付嬢の皆、それに街の皆も、
そしてカナデさん。
誰かが欠けたら私の日常は元に戻ったとは言えなくなってしまう…
そんなのは嫌だ、私は目から溢れ出る涙を止めることが出来なかった。
「大丈夫。俺が守るから」
顔をあげれば凛々しいカナデさんが私を見つめてくれている…
その言葉を理解するのには数秒の時間を要した。
「…ふぇ?…でも、魔物があんなにいっぱい…」
「問題ない、涙の原因を止めて来るだけだしな。」
あわわわ…カッコよすぎますカナデさん…
そんな歯の浮くセリフが似合うのもカナデさんらしいですね…
本人は無自覚のようですが…
恐ろしい…まさに天然たらしましーんですね!!
「カ、カナデさんには1番しんで欲しくないんですからね!!…あっ…」
それを聞いたカナデさんは呆れたように笑って私の頭をくしゃくしゃと撫でてくれた。
冒険者とは思えない程に綺麗な手が私を撫でてくれる。
私は急に恥ずかしくなってしまった。
ま、周りには人がたくさんいるんですよっ!?
ちょ!シナモンさん!そんな暖かい目で見ないでくださいって!
私は気がつけば泣き止んでいて、赤くなる頬を必死で冷ましていた。
そしてカナデさんは冒険者ギルドを後にした。
戦場に夫を送り出す妻の気持ちがわかったような気がした…
できればカナデさんとはそういう関係になれたらいいなぁ…なんて
ぐへへ…
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見えた…
見えてしまった。
遠くで真っ黒なヒトガタの魔物に胸を貫かれるカナデを…
「………あ……ダメ…………
……や…め………て……カナ…さ…
…ィ……イヤァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
「ちょ!どうしたのエイラ!!!」
シナモンさんが心配そうに駆け寄ってくるが、今回ばかりはいつも遠くの音まで聞こえる自慢の兎耳でさえ、届かなかった。
そんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんなそんな………
き、君が大丈夫って…
君が…守るから…って………
「…カナデさんの……………嘘つき…」
私はショックで精神が壊れる前に、
身体が揺らめき、意識が遠のいた。
死なないで…カナデさん。
【SideOut】