131話≫〔修正版〕
【アルメリアSide】
トリステイン王国
王都WohlKrone中心部rotWeiß城
全長200メイルにも昇る赤と白のコントラストが太陽の光を反射する。
そんな綺麗な外観の城は王族として生を受けた私が住まう城。
帝国の帝都にあると言う真っ黒な白とは大違いのこの城は美しさを限界まで追求している。
我々王国に生きる人々の誇りでもある。
勿論外観を気にしすぎて防衛能力が疎か、なんて事も無く、
ロートヴァイス城の周りを囲む城壁の高さは6メイル、厚さは3メイルもあり、城壁内部には5つの魔導具が埋め込まれている。
【拒絶の宝玉】
それが5つ。
その魔道具の効果は魔法の拒絶。
神話の時代、強力な魔物に稀に見られるスキル魔力抵抗を参考に作られたとされる古代の装置だとされている。
ちなみに発動するには王族の血が登録されてある為私たち王族でないと発動できない。
その装置も合わさってこの城壁は建国以来破られた事は無い。
私は王族としてのこの暮らしに不満は無い。
無いのだが、強いて言うなら…
英雄譚の様な心沸き立つ冒険がしたい。
私は平民の子供と変わらず、小さい頃から英雄譚が好きだった。
物語に出てくる英雄は王国のお姫様と恋に落ち、
『魔の者を討つ事が出来たら君を迎えに行く』
そう言い残し城を去り、最後の戦いに赴いたとされる。
そこまでの物語を纏めて書かれた書籍は年頃の女の子に大人気で現在も増版に増版を重ねている。
要するに誰もが一度はしてみたい憧れる恋愛のお話と言うわけだ。
そんなわけで年頃の私も物心ついた時に母上に読んでもらった英雄譚に興味を持つ。
そして今は、外面は模範となるべき淑女そのものだが、
性格は国民の模範となる王女らしくないと言うわけだ。
それが【三美姫】と名高いトリステイン王国第二王女
アルメリア・ノイン・トリステイン、つまり私の本性である。
姉である第一王女は外交に優れ、その類稀なる美貌と政治の手腕を十全に生かしながら諸外国を渡っている。
だがその手腕を持ってしても帝国の周辺国への侵略を御せないのは帝国にこちらと和睦する気が無いのか、侵略がしたいのか、分からないが多分どちらもだろう。
妹である第三王女はまだ12歳だが既にその美しさの片鱗を見せ始めており、将来は容易く私たちに並ぶ美しさを誇るだろう。
王位継承権を持つのは現在、第一王子、第二王子、第一王女、第二王女、第三王女の5人だが私も含めた女性陣と第二王子のアイゼントは特に継ぐ気が無い。
この前もアイゼントは俺は兄上を補佐する武官になるだのと言っていた。
そうなれば私達【三美姫】は政治の道具として他国の王族と婚姻する事になるだろう。
姉上はそれを既に割り切っている様だが私や妹はまだ決心がついていない。
【四大国】である帝国も法国も共和国も…帝国以外の国のトップに悪い噂は聞かないけれど…割り切れない。
王族として生まれたからにはそれが義務である事は分かっている。でも…でも…
理性では理解していても本能が嫌という。
私は自由になりたかった。
その夢を諦めきれなかった。
そうして私は今日も足掻いて城を抜け出す。追っ手の兵士に捕まらない様に今日も今日とて居るはずの無い英雄を探して。
王族の直轄地である【癒しの林】に私は追っ手を振り切り逃げ込んだ。
個々は定期的に迷い込む魔物の駆除が行われている為危険性は極めて低い。
それに魔物に遭遇してもDランクの上位程度なら私でも戦える。
炎神ヘスティナ様が授けてくださった赤い髪に淡い赤の瞳、その色は私に確かな力を与えてくれた。
それは魔力。
今の私は【炎魔導士】。
中位の魔法を行使できる職業。
いつ英雄と会っても良い様に私は訓練を怠らなかった。
そしてこの歳でやっとここまでこれた。
魔物と戦わせて貰える事は殆ど無かったからあまり強いとは言えないけれど、
兵たちと魔法や剣で打ち合った経験だけならそこらの冒険者には絶対に負けない。
そう自負している。
私は林の中をゆっくりとすすむ。
ここはとても心が洗われ優しい気持ちになれる。
ファァァァア………
唐突に髪を撫でる強い風が吹く。
いきなりの風にびっくりして目を閉じてしまう。
そして次に目を開いた時、
木々の合間から男が降りてきた。
顔こそ向こうを向いていて見えないが1人の女性を抱えているように見える。
前にアイゼントが興奮して話していた事があった。
黒髪、氷魔術師、圧倒的な戦舞技。
英雄の再来とはしゃいでいたアイゼントの無駄に整った顔が浮かぶ。
そう思いながらも林に入りこんだ不審者には変わりない。
私は高まる緊張を抑えこみ声をかけた。
「ちょっと!貴方たち!何をしているの!」
そうすると声をかけられた男はビクッとなった後ゆっくりと私の方に振り向いた。
風になびく黒髪、隠しきれず漏れ出す底知れぬ魔力、そして目が合う。
二つの黒目が私の淡い赤の目と合わさる。
心が奪われた…
まさしく目の前に居た男は神の作った造形としか思えなかった。
吸い込まれるような深淵を映す双眸に、
髪は濡れ羽色に艶めいている。
だがその男から掛けられた声は予想だにしない物だった。
「………綺麗だ……」
(は?私が?この男に言われたの?)
その言葉を脳が理解した時、見とれていたこ事も合わさり顔や耳があり得ないほどに熱くなるのが実感できた。
「き、綺麗…ッ!?…」
私の歩みは止まり口をパクパクさせる事しかできなかった。
うわべだけの綺麗だなんて言葉は正直聞き飽きていた。
貴族に毎回会うたびに言われる媚びた言葉には嫌気がさすほどだった。
だが今はどうだろう、目の前の男に言われた綺麗がこんなにも心を高鳴らせるなんて…
「あの、貴方は?」
私はこの男の素姓が分からなかったし既にいろいろと遅いが名前を聞いておく。
「私はカナデ、隣は姉のウツハ、と申します。一応この王国で冒険者をしております。王都に向かっていたのですが道に迷ってしまった様です。」
このカナデと言う冒険者風の男がここまで礼儀正しい返答が出来た事と
柵で囲まれた王族直轄地に迷い込んだ事に驚いた。
思えば出会いからおかしかったのだ。
カナデはウツハを抱えて空から降りてきた。
あんな技は魔道具にも魔法にも、スキルにもない。
私はカナデに興味を持った。
最近巷で有名な噂の1つにある黒髪の英雄。
彼はもしかしてそれなのではないだろうか。
「カナデ…ね……まぁ!それは大変!よければ私が王都までご案内致しますわ。」
そして良い返事も頂け、(返事の時の笑顔にはクラッと来たけれど)
私も自己紹介することにした。
「ええ、よろしく。私の名前は…アルメリアよ。よろしく」
勿論本名なんて言わない。
王族だと気がつかれたら王城まで連れていかれると思うだろうし、黒髪の英雄はダストファングバードとの戦闘後、直ぐに森に消えたと言う。
権力による縛りを嫌う人間かも知れないからだ。
「えぇ、よろしくお願いします。ほらソラ姉も挨拶挨拶。」
「むーっ…ウツハです。よろしくお願いします。」
その男の隣には黒髪の美しい女性がいたのを今思い出した。
顔立ちは僅かに似通っており種族的な物が同じだと思われる。
だがこのカナデという男と同じくウツハという女性も相当美しかった。
下手すると三美姫にも匹敵するのではないか…
私も適度に挨拶を返しカナデの隣を歩く。
やがて林を抜けると、私を追って来た城の兵が数人居た。
だが好都合、私は兵士達にこの者達は害はないと宣言し、迎えの馬車に2人も一緒に乗せて王城に向かった。
こうして私は1人の男に出会った。
カナデという不思議な魅力をもつ男に。
【SideOut】