123話≫〔修正版〕
よろしくお願いします。
【アイゼントSide】
我が名はアイゼント・ノイン・トリステイン。
トリステイン王国の第2王子である。
エリザベスから味のある2人の近衛騎士を預けられてから数日。
そしてロヴィスキィの惨劇があってから早くも2週間が経とうとしている。
未だ我が父上でありトリステイン王国の国王であるドヴォルザーク王の出した命令である
カナデの捜索は難航しており、
ウォルテッドにいた事までは掴めたがその後の足取りがいまいち掴めなかった。
我も父上に貰った子飼いの隠密達に頼んで独自のルートで情報を集めていた。
すると面白い事に、
先日城塞都市ガルテンで起こった魔物の侵攻。
それを打ち破ったのが黒髪の青年だと言うではないか。
その情報はウォルテッド方面に隠密を集中していた父上にはまだ知られていないようなのでいまのうちに色々と情報を集めておくことにした。
報告に上がったカナデが使ったとされる魔法の属性が若干食い違ったが、
黒髪黒目という身体的特徴が一致する人間は今のところ我は知らない。
そうなると城塞都市ガルテンに現れた黒髪黒目の青年はカナデとみて間違いないだろう。
しかもその後、定かではないが黒髪の青年が王都の方向に発ったという目撃証言まである。
これはもう、王都で待っていた方が早いのではないか?
そう思った我は、語尾に「うふ」と幻聴が聞こえる短髪青髪の男性?近衛騎士ナフタ・レイ・プレイドラと、
無口無表情の水色髪セミロング切れ目の女性近衛騎士のアイラ・マグザヴェルを後ろに引き連れ、
気になっていた黒髪の青年、
カナデと接触したと思われる王国所属戦闘飛行部隊、
巨鳥部隊の少女兵に会いにアルゲンタビスの鳥舎の横に設置されている兵士の寮にやってきた。
なぜ会うのがここまで先延ばしになったかと言うと、
父上が事情聴取で長々と身柄を拘束していたからだ。
まったく、我と考える事は同じと言う事か。
王国所属戦闘飛行部隊の寮は王国の城の裏手にある巨大な広場の端に建っている。
鳥舎もその横に併設されており、
部隊はそこから飛び立ち周辺の街にある詰所を経由して森や周辺の領地を巡回している。
そして有事の際には戦闘部隊の名の通り、
戦争や魔物との戦いに参加するのだ。
だが、アルゲンタビスの飛行部隊は偵察や巡回がメインな為、
直接的な戦闘には向いていない。
精々滑空と同時に石や物を落とす事だが、
逆に偵察や巡回の任務においては他の飛行系種族の追随を許さないのだ。
「王子よ…今日も惚れ惚れするお顔で…」
「うるさいぞナフタ!我にその気はないと何度も言ったではないかっ!」
「うふふ、照れ隠しする王子も…食べてしまいたいです。うふ」
「………」
「……はぁ…幸先が怪しすぎるぞ。…なんて奴を押し付けたんだ……エリザベス……」
ナフタは手こそ出してこないが、
セクハラに一生を費やしそうな勢いで我に絡んでくる。
そしてアイラは沈黙、
まったくもって何を考えてるか分からない。
どうすれば良いのだ…
…まぁ、アルゲンタビス部隊の少女と合流すればなんとか落ち着くだろう。
仮にも近衛騎士、下々の兵士には良いところを見せたがるだろう。
××××××××××××××××××××××××××××××××××
「そ、そうなんですよ!カナデさんはあたしを
【深淵の密林】の外まで連れてってくれて…」
「くれて?どうしたのかな?…うふふ」
「…少し……気になる……」
「あ、はい…それで、もう一回会いましょう?って約束したんですけど、あたしはあの事件の後で余計仕事が忙しくなっちゃって時間が無かったんです。
それにどこでいつ会うとかは約束してなかったので…」
「わからないと言うわけね…うふふ」
「……どじ……」
「だって…話してると緊張してきちゃって…」
「忘れちゃったというわけね。うふ」
「……理解……」
「はい…」
そこの3人、王子の前でうちとけるのが早すぎると我は思うのだが…
「ゴホゴホッ!、良いかな?2番隊隊員エミリー・アーミアル君」
「あ!?す、すみません王子!」
今更我の存在を思い出したのか一気に悪い事をしてしまった!
みたいな顔になり平伏し始めた。
「まぁ、よい。ガールズトーク?が盛り上がっていたので我が入るのが憚られただけだからな」
「まぁ王子は嫉妬「だまれナフタ」…うふ…」
「…………」
「でだ、エミリー・アーミアル。君がカナデについて他に知っている事は?」
そう聞くとエミリー・アーミアルは少し考えるような仕草を取ったあと、
直ぐに何かを思い出したかのように頭を上げた。
この返答でもしかしたら王がカナデの処遇を決めるかも知れないのだ。
といっても既にカナデを各地で英雄と視る者が増えているらしい事から酷い罰を与えた場合、
国民の心が国から離れて行ってしまうかも知れない。
よって王は褒美や取り込みしか出来ない状況なのだ。
「あたしが森に落ちた後、カナデさんに会うまでに数回妙な事があったんです…」
その後のエミリー・アーミアルの話は噛み砕き要約するとこういう事であった。
エミリー・アーミアルがカナデと遭遇した河原のポイントの近くにあった巨大なゴブリンの集落は全滅していて、
捉えられた女性の墓が作られていた。
切り刻まれ、素材が剥ぎ取られていない強力な魔物の死骸が所々に散乱していたなど、
ゴブリンの集落を依頼無しで殲滅した事、わざわざ危険な森の中で女性の為に墓を作った事、
それは既に上がっている情報と同じだった。
そこから判断するに、
倒した魔物の素材を剥ぎ取らない事からカナデはその時点では冒険者じゃ無い。
もう一つ、農民でもある程度の価値は理解している魔物の素材を放置したという事は、
カナデが常識に疎いと考えられる事。
そして最後に今まであの森でそのような奇妙な報告は上がっていなかった事から、
カナデはつい最近森に来たのでは?と推測できる。
「……するとカナデとやらは何処から来たんだ?」
我の呟きが聞こえたのか、エミリー・アーミアルはその問いに答えた。
「たしか…今は無い遠い国…と…」
その時、そのフレーズが脳裏を掠め我の記憶が何かを思い出せと叫んだ。
「…今は無き遠い国…皆、聞き覚えはないか?」
「…お役に立てず、すみません。」
「え?どういう事ですか?」
「……ッ!?」
ナフタには心当たりが無かったようだ。
同時にエミリー・アーミアルもそのままの意味で捉えていた様だった。
だが、1人だけ、周りと違う反応をした者がいた。
「…アイラ?心当たりがあるのか…?」
「…嘘だ…でも…黒髪黒目……今は無き遠い国…
…桁外れの魔力…………そんな…………」
珍しくアイラが饒舌?になり、焦った様な雰囲気を醸し出していた。
もちろん顔は無表情なので怖いが…心なしか頬と耳が朱に染まっている気がする。
どうやらアイラの隠しきれなかった反応は何か心当たりがあるようだ…
「ほうほう…何やら面白い話をしているようじゃの…?妾も混ぜて欲しい物だ!」
不意に背後から現れた新しい気配に我は即座に反転しながら飛び去り剣を引き抜く。
だがそこにいたのはちんまい幼女だった。
「なんじゃ!これ、剣を向けるでない。怖いじゃろーが!」
「なんだ、リグザリオ婆か…」
「だまれー!婆言うでない!妾はまだピチピチじゃ!」
殆ど透明に近い金、
もう白金と言っても過言では無い髪を腰まで伸ばし、
ぱっちりとした目、
瞳は透き通った金色をしていて、
小ぶりな鼻は可愛らしく唇は薄く色付き桜色をしている。
肌はまるで陶磁器のように白く人形のようだ。
身長は140メイルも無く小柄で、
シュン…キュッ…キュッなスタイルを持つ見た目10歳に満たない幼女である。
だが年齢は100歳を超えたあたりから数えるのを辞めたらしい。
故に実年齢は本人ですら知らず、
周りにも知る者はいないと言う。
だが、少女は人間である。
何故、少女は人間の寿命を超越しているのか…
理由は単純であった。
ー魔力量ー
これだけである。
体内に内包するマナや変換される魔力、これは、
生命力の余剰分と言われている。
それを上手くコントロールする事が出来れば、余剰分の力を生命力に転換できる。
あくまで理論上だが…
これに成功した者は賢者、と呼ばれるのだ。
もちろん魔力量が多いだけの人間がすべて賢者になれるわけではないので歴史上2〜3人程しか確認されていないが…
そして目の前の賢者、リグザリオ・ホーリライト、
数百年前の歴史書にその存在がちゃっかり確認され、
人々の度肝を抜いた生ける伝説。
かつての戦乱の世で、
【戦乃巫女】と呼ばれていた少女である。
「その単語…妾にも心当たりがあるぞ?ふふふ
これは数百年振りに面白い物を聞いたのぉ。」
我はどんどん厄介な事に巻き込まれる体質なのかもしれない。
そう思い肩を落として諦めた。