ムカつく事
俺はどうしても、あの一言だけは許せなかった。
絶対に口にしたら駄目な言葉をアイツは平然と言ってのけた。だから俺は右手でアイツの顔面を殴り飛ばした。
あいつの考え無しに話す物言いは昔から癪に障っていたが、まあガキの頃からの付き合い、要するに幼なじみだから何とか堪えられた。
多分、今のクラスの大半はコイツを好きじゃない奴で、新しい奴らは初っ端からコイツと仲良くしないし、友達になれない。いやなりたくないのが正しいか。
コイツに近づいて、話して数分後、もう相手の顔つきが違う。コイツはあんまし変わらない。いっつも面倒臭そうな、ボーっとした顔。目は殆ど合わせない。顔を上げるのが怠い、全てが怠いんだとさ。
中学生からそうだ。コイツは昔から全然変わってない。
相手は口角をぴくぴくさせながら俺達に『木本も渡辺も苦労してんな』と労りの言葉をかけてから仲の良いグループに戻った。いや、同情か。
今の奴はコイツと同じ係で、相談に来た。だが早数分、あんな感じで踵を返したわけだ。早かった早かった。
俺[木本 輝]や、隣に座る委員長の[渡辺 隆太郎]とアイツの父親くらいの広い度量がなければ、アイツとの交流は困難だ。
先程から俺が『アイツ』とか『コイツ』と呼んでいる奴は[橋 透]。前髪が伸びてきたからそろそろ切らねばなるまい。後ろ髪は美容院に行かせるけど、前髪は手先がまあまあ器用な俺が切ることになっている。
透の親が『輝ちゃん透の髪うっとうしいから切ったって。』と言い出したのが始まりだが、あれで受け答えた俺も俺だ。
透の目にかかった辺りくらいに、週末透の家で髪を切って、最終的にはシャンプーで頭を洗う。俺には二つ下の弟がいるから慣れたもんだが、コイツは弟より手がかかる。慣れって本当恐い。
「…輝、輝?」
「ん?あーリュウ。何?」
クラス委員長の隆太郎。隆太郎は長いから男子のほとんどは『リュウ』や『リュータロ』って呼んでる。
リュウは何かと相談されやすい体質だから流れで委員長になった奴。先生もたまに愚痴を零したりしてる。俺もしょっちゅうアイツの相談をする。感謝してます、リュータロ様。
俺が机に俯せ状態で悶々と考え事をしていると、左斜め前に座っていたはずのリュウが俺を呼んだ。頭に乗せてた手を挙げ、俺の横に立つリュウを見上げる。
リュウはブレザーをキチッと着ていてネクタイは少し緩めてる。ズボンもベルトを締めてカッチリ優等生。
俺はネクタイを若干緩めてカーディガンを羽織り前は閉めてる。ズボンもちょっと下げてるがそんな大差はない。
こんなもんで性格がだいたいわかるだろう。
リュウが俺の右斜め前を指差すから、その方向に顔を動かす。で、俺の顔に影が出来る。顔を引き攣らせて、わなわなと肩を震わせる。
何故ならアイツ…アイツが、
ガタッ!
「アイツ何処行きやがった!?透ー!!お前先に帰るなら一言俺に言いやがれ!!」
「いや、まだ帰ったかどうかはわからないぞ。」
「いや!アイツは帰った!何故なら鞄がねぇからだ!!
クソッ!アイツ追い掛ける!リュウじゃーな!またメールするわ!」
「おう。気をつけて帰れよ。」
ダダダ!と勢いよく教室を飛び越すと廊下の隅に今から階段を降りようとするアイツの横顔。人がちらほらいる廊下を全速力で掻き分けながら避けながら走る走る。教室にいた教師に注意されても速度は落とさない。バスケ部の奴に褒められた反射神経。アイツを捜し走る事数年で身につけたモノだ。誰にも譲るつもりはない。
――やっと辿り着いた時、
奴の腕を掴む時、
怒鳴り付けようと息を整えてる時、
俺が頭を上げた時、
目を見開かせた時、
俺は信じられないものを目撃してしまった。
「あ、あたし先に帰るね。バイバイ。」
「うん。」
パタパタ…
目の前には同じクラスの[平野 ゆう]に手紙を渡された俺の幼なじみ。
平野は背中まである長い黒髪に、よく見ると美人な顔。口を開けると毒舌だけど。女子高生なのに、化粧も髪にアイロンもしない変わった奴。けど、影ではファンがいるっぽい。よく[火上 瞳]といる。
火上は平野と一緒にいる世話焼きで、情報が早い奴。薄茶色のふわふわした短髪に表情がコロコロ変わる顔。俺とはそこそこ仲が良い。
最近火上が透の事を頻繁に聞いてくるのに疑問を抱いてて、まさかとは思ってたが…こっちだったか。前に一度、透の家族関係にまで首を突っ込むから強めに叱ったのが記憶に新しい。
ずっと腕を掴んだまま手紙を直視してると、前からうっとうしそうな声が。
「痛いんだけど。離して。」
「あ、ああ。悪い。」
透の腕をパッと離し、しどろもどろ、自分でも不自然だとわかる俺の動きを透は気にするでもなく、手紙をしげしげと眺める。コイツが“恋文”を“果たし状”と変な勘違いをしていないか、俺は透の性格を思い出して心配になった。思わず透の肩に手を置くがコイツは無反応。
「お前、流石にそれが何かわかってるよな?わかってくれるよな?」
「白い封筒に入った手紙。」
「確かに見たまんまはそうだけど、その手紙の意味をわかってるか俺は聞いてるんだよ。」
「まだ中見てないし。ウザイよお前。何?」
トス、と鉄製の下駄箱に背を預け、俺の顔を『早くどっか行け』とでも言うかのように一睨みする。可愛いシールを剥がさず、あえて上を破いてしまう俺の幼なじみ。中の手紙まで床に捨てたのみたいにビリビリになるんじゃないかと心配するくらい、おおざっぱに破る破る。
…コイツ、本当にわかってんのか?いや、邪魔した俺も悪いけど。もう少し大切に扱えないのか。
封筒を床に落として、無事だった手紙を目で読む。俺は内容が気になりつつも靴を履き替えた。横の奴はずっと黙って文字を目でなぞる。
トントン、とつま先を整え、履き心地を確認し、ちらっと奴の顔を盗み見る。すると、眉を寄せた透が下唇をキュッと噛み締めたのを俺は見逃さなかった。
次の瞬間、
ビリイィッ!!グシャグシャ!
予想外の出来事に俺は唖然としてしまった。
目の前で苛つきを紛らわすかのように手紙を無茶苦茶に破り捨て、手に残った大きな部分は片手で握り潰し、叩きつけるように床に腕を振り下ろした。ヒラヒラと舞い踊るように空中に浮かぶ紙屑を、俺はジャケットにつくのも忘れて、見開かせた瞳に透を映した。その透は『フゥー、フゥー、』と肩で呼吸を繰り返している。歯が折れるんじゃないかというくらいギリギリと音を鳴らす。
「気色悪い…」
自分を守るように肩を抱き締める透。
異変の理由は直ぐにわかった。…わかってたけど、俺はまだまだ子供だった。
理性よりも本能が上回り、右手に全ての力を込めて、透の顔面を殴り飛ばした。
―ダン!ヒュゥッ、バキイィィィッッ!!
「ツッ!!」
「…お前さ、『気色悪い』って、何?」
ドサッ!
コンクリートの上に倒れた透を俺はそのままの形で問う。
シィン、と静まり返る下駄箱は俺の氷河のように冷たく、果物ナイフのように鋭い声を一層響かせる。外で運動部の掛け声が小さく聞こえた。
俺は顔を上げずに、手の平に額を押し付け、前髪を下から乱雑に握る。透は切れた唇の端を手の甲でグイッと拭い去る。睨んでるのが確かめなくてもわかる敵意剥き出しの視線。
暫くの間、お互いこの状態で何も口に出さない。不満も、疑問も、苛立ちも、怒りも、悲しみも、後悔も、今の想いも。何も相手に伝えない、伝わらない。同じ考えだけが、グルグルと頭の中で繰り返される。
透が何か話す前に、先に言った。消え入りそうな震えた声で。
「お前、その手紙は平野が一生懸命書いた手紙だぞ?お前宛ての平野の気持ちだぞ?精一杯の告白だぞ?」
「俺にはただの押し付け「お前は人の好意を無下にして、そんなに独り者になりたいのか!!?」……ああ。」
「……。」
「……。」
怒鳴り付けるかのように叫んだ俺の投げ付けた質問に、透は真っ直ぐ見据えたまま肯定した。
一番否定してほしかったのに、奴はそれを認めた。悔しい気持ちが手の力を更に強める。同時に、自分自身が情けなくなった。
今まで人一倍頑張ってたのに、コイツには何一つ届かなかった事、無謀な事に無駄な努力をし続けたのだと思い知らされて、馬鹿らしい気持ちになった事に。嗚呼、俺は今まで何してたんだろう。
―ザリッ、
鞄を肩にかけ直して、静かに透の横を擦り抜ける。透も俺も、決して相手の顔は見なかった。今見てしまえば、俺は二度と透を『友達』だと言えなくなりそうになると予感したから。
頬が凍えてしまいそうな季節の中、俺は一人で正門を通り抜けた。ポケットに突っ込んだ手は、まだ痛かった。
――隣町のぽつぽつと店が肩を並べる商店街の内の一つ、少し洒落た小さなイタリアンの店の前。俺は植物が植えてある煉瓦の花壇の縁に腰掛ける。
冬が近づいてるのか日が暮れるのは早い。5時半なのに夕焼けがほとんど沈んで夜空に変わっている。吐く息の白さが寒さを物語る。俺の前には老若男女様々な人が通り過ぎ、店の前に座る俺にチラッと気分が悪くなる視線を向ける奴らは少なくない。店に出入りする奴らは特に。
仕方ないよ。だって俺もどうして此処に来たのかわからないんだから。
みっともない姿はあまり見せたくないけど、本心はあの人に会いたがってる。顔を見たがってる、声を聞きたがってる、触りたがってる、[若見]さんを求めてる。…惚れた弱みだなぁ。若見さん、休憩何時だっけ。
商店街を吹き抜ける北風がめちゃくちゃ寒い。
「―おい、[楓]。若見 楓!露出狂女。」
「店長、何ですか?」
輝の後ろの店内の奥の厨房。店長と呼ばれた男がフライパンを操る女性に声をかける。二回もシカトをされたからか最後は酷い言葉で呼んだが、若見と呼ばれた女性は気にした様子はなく普通に返事をした。
若見は大きめの猫目に薄化粧した顔の妖麗な女性。左目下の泣き黒子が美しさを際立たせる。豊かな胸は仕事着の上からでも丸わかりで、スタイル良さそうな身体を持っている。身長は女性にしては高い方。両耳にピアスをしていて、推定20代前半。
化粧をする奴が厨房に立つのはどうかと文句を言いたい店長だが、料理の腕と彼女の性格から何も言えてない。しかも『支障ないなら良いか』と諦めかけてたりもする。
そんな店長は、ボサボサの長めの黒髪を仕事の邪魔にならないよう適当に後ろで結んでいる。お客に不潔だと思われないよう毎朝剃っている髭。伏し目がちで目つきの悪い人だが、料理の腕はそこそこなので、そこそこ常連客に人気がある人物。推定30か40代。
店長は親指でグイッと出入口の横の窓を指し示す。若見は目だけで示された方向を確認する。
すると、小さく笑い声を零した。細められた目は本物の猫のようだな、と店長は思った。
「あは、輝君何してるんだろ?」「さぁな。ウェイターがさっき俺に教えたから俺もさっき知った。
そういやお前、あの坊主の事苗字でしか呼ばないんじゃなかったか?」
「ええ、苗字でしか呼びませんよ。」
若見は新人にフライパンを頼んで、料理の盛り付けにかかる。店長も調理を進めながら話の続きを待つ。
若見はウェイターの一人に料理を渡すと、手を洗って次の料理に取り掛かった。鍋のお湯を沸かしながら、楽しげに『彼の前では、ね。』と語尾を上げて言った。そんな若見に店長は呆れながら、
「あの坊主も苦労すんな。ご愁傷様。
若見、仕事は最後までやれよ。」
「わかってますってば。店長♪」
「オウェェ。」
「まあ、酷い。」
大袈裟に肩を竦め、二人は再び仕事に向き直るのだった。
しかし、仕事終了の22時半まで終始若見の鼻歌が止む事はなく、店長と新人はそっと溜息を零したのは余談。
ぼーっと夜空の星を見上げていると、誰かが顔を覗き込んできた。
「こんな寒空の下、なーにしてんの?青年。」
「あ、こんばんは若見さん。お仕事お疲れ様でした。
さっき自販機でココア買ったんですけど、貰ってくれませんか?」
「ありがとう木本君。」
渡したココア缶を両手で受け取り、『寒いねぇー』と若見さんはココアに頬を寄せながら隣に座る。俺もスペースを作る。
ココアは数十分前に買った物だから冷めてるかもしれない。そう思った俺は、寒いのに胸元を開かせた服にコートを羽織っただけの彼女に、首に巻いてたマフラーを肩にかけてやる。寒いっちゃ寒いけど、彼女が風邪をひかなくて済むと思えば我慢できる。
霜焼けの手で鼻を擦り、若見さんに小さく頭を下げる。
「ココア冷めてますよね。すみません。」
「んーん。そんな事ないよ。」
「ありがとう、ございます。
あの、若見さん。」
「なーに?」
「ココアの代わりと言ったら変ですが、相談にのってくれませんか?仕事の後で申し訳ないんですが…お願いします。」
感覚が麻痺してる手でココアを隣に置き、若見さん顔色を伺うように見上げる。
マニキュアを塗った綺麗な指先でココアを包む彼女の横顔はあの時と変わらず、とても綺麗だ。いや、前よりも綺麗になったかもしれない。つまり、若見さんが綺麗なことに変わりはないのだが。
彼女は横目で俺と視線を交わせ、夜空を仰ぐ。そして、残念そうに大きな溜息を空に吐き出した。
「なぁんだ。今日は私目当てじゃないのか。残念。
でも、若見さんが聞いたげるよ。ココアのお礼にね。」
「あ、ありがとうございます。」
顔を近づけて優しく微笑む美しい人。俺が惚れた人。
思わぬ不意打ちに一瞬で真っ赤になった俺は慌てて顔を反らした。
しかし、相手にはバレバレなようで、
「プ、照れてる照れてる。耳が真っ赤。」
「…不意打ちは卑怯ですよ。しかも、片思いしてるガキには。」
「アハハッ!君のそういう飾らないトコ、私好きだよ。正直で、真っ直ぐで、ついからかいたくなっちゃう。」
「高校生で遊ばないで下さいよ。…俺も若見さんの明るいところ、好きです。」
「それだけ?」
「ハハッ!んな馬鹿な。
まだまだ俺の知らない色んな若見さんを引っくるめて、若見さんが誰よりも好きですよ。
…ちょっと気取ってみました。」
だんだん照れ臭くなって、最後は本音を言ってしまった。
頬がますます朱色に変わる。耳は元々寒さで赤かったのに、今度は熱で赤くなる。
顔を見られないよう頭を下げるという無意味な抵抗をしたが、耳に蓋をする事を忘れた俺は隣でクスクス笑う若見さんに更に恥ずかしい気持ちにさせられる。本当に男子高校生を弄って楽しいのか、俺にはわからん。…てか、まだ笑ってるし。
キッ!と素直に睨む事なんか出来ない俺は、眉間に皺を寄せて相手をジトッと視線で訴える。それでも止めてくれないから『勘弁して下さいよ…』と苦笑した。彼女は俺の肩に軽く顔を当てながら、
「ごめんごめん!っふふ、ヒヒヒヒ…」
「全く、しょうがない人ですね。貴女は。
家の近くまで送りますから、歩きながら相談にのって下さい。
ほら、立てますか?」
「はーい。あ、まだ晩御飯食べてない!」
先に立ち、彼女に手を差し出すと大切な事を思い出したかのように大きな声を出したが、内容はたいしたことない。貴女の思考は〔俺の相談<今日の晩御飯〕ですか。そうですか、そうですか。
さて、この哀しみと晩御飯負けた悔しさを何処にぶつけようか。
俺は盛大に大きな溜息を肺から吐き出して、俺の手に自分の手を置いたまま期待に満ちた眼差しを向ける若見さんを見下ろす。この人には一生勝てない気がする。
「…ハァ。じゃあ、あのファミレスで良いですか?」
「木本君の奢り?」
スクッ、とやっと立ち上がる。わかりやすい人だな。可愛い。
けど、
「ご期待に添えられず誠に残念ですが、割り勘です。今日は財布に沢山入れてませんから。
後ちょっとでバイトの給料日ですから、日曜日まで待って下さい。」
「日曜日が楽しみでーす♪」
若見さんは上機嫌で俺が貸したマフラーを首に巻き、俺達は軽く手を繋いだまま、そんなに離れていないファミレスへと直行する。冷めたココアを彼女が鞄に入れたのに俺は気づかない。
一人、右手に感じる温もりの喜びに、静かに浸っていた。
その頃。一階が仕事場、2階が住居の造りになっている小さなイタリアンのお店兼住宅。
店長は風呂上がりの髪をタオルでガシガシ水滴を拭き取りながら店先を窓から見下ろしていた。片手には焼酎の瓶。部屋の隅に置かれた地デジテレビには深夜番組が流れている。深夜のテンションで司会者もお客さんも変なテンションで盛り上がっている。
店長は遠ざかる二人の背中を見送りながら焼酎を煽る。そして、独り言をボソッと呟いた。
「アイツら、ああやって並んで歩いてっと、恋人に見えなくもねぇな。姉弟にも見えるが。
あの様子じゃあ、まだ付き合ってねぇか。楓もまだ口にしねぇしな。」
返事をする者はおらず、店長も二人の影が見えなくなると窓から離れた。
ファミレスの奥の方の席に二人は腰掛ける。夜中だということもあって、客も店員も賑やかな昼間より少ない。
温かい店内、若見さんがコートを脱ごうとしたので慌てて止めた。
コートの上からわかる露出度に中が予想以上だという事が簡単に知れる。いや、彼女に出会ってからの俺の脳内データを読み返せばわかる。絶対わかる。断言しよう。
「ちょ、ちょっと若見さんストップ!!」
「ん~?青年どうした?私暑いんだけどぉ。」
「コート脱ぐくらいなら俺のジャケット着て下さい!冷たいですから!」
「えー、嫌。」
「そんな格好、世の中の男の目に毒です!俺には保養だけどああああああああムグッ!!??」
「煩いよ。周りに迷惑。
しょうがないなぁ、前開けるだけで我慢してあげるよ。」
プチ、と上のボタンを一つ開ける。次に二つ、三つ、だんだん露になる中身。俺は口を抑えられ、両手を伸ばそうとするも腕が上がらない。驚きと理性と野性がごっちゃ混ぜになった俺は、動けば何をするか自分自身わからない。
真っ赤っかになる俺の反応を楽しむかのように、目の前の彼女は艶めく下唇を舌で色っぽく舐めた。コートの中を凝視する動揺した瞳は目を離す事を許さない。
スッ、と俺の足の間に入れた黒いタイツに包まれた細長い足。その行動をする意味は問うに値しない。俺はキッと睨みつける。口に押し付ける手を掴んで離した。
ったく、こんの人は。弄ばれてばかりの自分自身が情けない。
「…露出狂さん、高校生を煽るのは止めて下さい。本気で襲いますよ。」
「あら、私は構わないけど?それに、最初に言ったじゃない。
『私、こうみえて露出狂歴長いわよ?捕まった事はないけど。私を楽しませられるなら襲って良いわよ』って。」
「……それについては『俺が若見さんと対等になって、付き合えるまでに成長するまで待って下さい』ときちんと返しました。
俺、チリドックで。頼んでおいて下さい。」
ガタッ。
掴んでいた彼女の手を壊れ物を扱うようにそっとテーブルに置く。制服のジャケットを脱いで若見さんの横の通路を早足で歩く。
その時、若見さんは俺のマフラーの先を弄りながら呑気な声で問い掛けた。
「あら、トイレ?」
「はい。貴女のおかげで我慢の限界です。
まだ寒いですから、俺が戻るまで前閉じてて下さい。」
早々に言い放つと今度こそトイレに直行した。表面は冷静だけど実際は切羽詰まってる。
俺はさっさと相談したいのに、あの人はわざと長引かせてる。クソッ、今にみてろよ。良い男になって絶対見返してやる。惚れさせてやる。
―っとその前に。トイレに誰もいないよな。確認しとかないと。
「ふぅ、あんな調子じゃあ賭けには勝てそうにないわね。」
注文したコーヒーを口に含み、ほうっ、と熱気を外に出す。店員は女性が対応したが、若見は男性が対応してもコートを脱がなかっただろう。本気で怒った彼の言葉に従って、今は店に入る前と同じ状態。
けれど、冬らしからぬ格好に周りの視線はくぎづけ。欲情を含んだモノも少なくない。だが、若見はこの状況を楽しむかのように笑い、髪の毛を人差し指で巻いた。
ブー、ブー、ブー、
突然テーブルの携帯電話が震える。若見の私物ではない。トイレに消えた青年の忘れ物だ。
若見がトイレの方を振り返るも輝が出てくる様子はない。今頃個室できっと難しい顔して自問自答しているのだろう。トイレから出るタイミングを。その光景を思い浮かべ、若見は小さく笑った。
「あの子は自分に素直だからな。しかもプライド高いし、今頃スッゴク悩んでるだろうなぁ。ヒヒッ。」
ディスプレイに女の名前が表示されても、彼女は余裕の表情で見下ろすだけだった。
早足で戻った俺は取り敢えず本題に入る。邪魔をされたらどんどんどんどん時間が長引いて、結局は話せずに終わってしまう、という結果が目に見えているからだ。前に何回かあった。同じ過ちは繰り返さない。
カルボナーラを食べる彼女の前でホットドックを頬張り、飲み込んだところで喋り始める。
「今日、透のした事が許せなくて、透を殴りました。俺は全く関係ないんですけど、相手の気持ち考えると…無意識に体が動いてました。」
「木本君が暴力を振るうなんて初めてじゃない?何があったの?」
若見さんはビックリした顔で俺を見る。俺は彼女に嘘をついた事はないし、冗談ならすぐバラす。
そもそも嘘を吐く事自体、俺は嫌いだ。自分につく嘘なら尚更。それは自分の弱さを隠すように思えて、ヘドが出る。
この俺の性格を知っているからか、彼女は余計驚いたみたいだ。
口の周りについた食べカスを払い、話しを続ける。
「今日の放課後、毎度の事ながら下駄箱まで透を追いかけたんです。そしたら、中学から同じ女子が透に告白してる最中で、謝る前に女子は慌てて帰ってしまいました。
透の手には白い封筒が渡されていて、俺が靴履く間に透は中身を黙読してました。俺は気になってチラチラ様子を伺ってました。
けど、俺が履き終えると同時に、突然、ラブレターをビリビリに破り、ぐちゃぐちゃに潰し、床にたたき付けた。女子生徒が一生懸命思いを込めて書いた、ラブレターを。
……あいつの気持ちは、あいつの家の事情とか知っているのは俺だけだから、誰よりもわかってるつもりです。透があんな行動したのも、あんな顔をしたのも、あんなに恐がったのも、理由はわかってる。“女性が苦手”な原因も知ってる。
…だけど、だけど俺は、俺だけは“あいつを嫌いたくない”という自分勝手な理由で、殴りました。あいつをあのままにしておくのは、俺のプライドが許さなかった。」
「それで、君はスッキリした?」
「…全く。けど、後悔はしていません。
すみません、器の小さい男で。本当、すみません若見さん。」
俺は自分の惨めさに若見さんに『すみません』と繰り返す。
こんな小さい奴が、まだまだ青い餓鬼の俺が、貴女に迷惑かけて、貴女を、好きになってしまって...。
並びたいのに自ら遠ざかってしまう己の愚かさに、ただ先を歩く貴女の背中を見送るしかできない。こういう時は柄にもなくネガティブになってしまう。こんな自分は嫌いだ。
「「……。」」
お互い食べ終わった皿を見下ろす。さっきので会話は途切れてしまい、二人の間に沈黙が流れる。店内に流れる音楽がやけに煩く感じた。
店員が皿を下げ、代わりに若見さんにコーヒーを置いて行った。コーヒーの良い香りが鼻をくすぐり、気が緩んだ俺は『ハァー』と肩の力を抜いた。テーブルにうなだれ、頭をガシガシ掻き回すと髪はボサボサなる。今は気にしない。そんな俺の様子を観て、若見さんは俺の髪の先を指で遊ぶ。少しくすぐったい。
「で、悩める青年よ。すべき事はあたしに言われなくても、もうとっくにわかってるんでしょ?」
ツン、と人差し指で額を軽く押される。大人びた笑顔の彼女は相変わらず綺麗で、故に卑怯だ。
若見さんには何でもお見通しで、追い付くのはまだ難しい。ヒラリヒラリ、まるで蝶のように、捕まえようとすれば彼女は俺の手をすり抜けて軽々と逃げてしまう。“掴めない人”とはまさにこの人を表す言葉だろう。この人は狡い。
パシ、と手を優しく払いのけ、上半身を起こす。彼女はまだあの笑みを浮かべている。俺は知らないフリを決め込もう。
「そろそろ出ましょうか。もうそろそろ零時になります。
結果は後日、日曜日にでも。」
「ありゃ、もうそんな時間か。
うん、楽しみにしてる。電話しても良いから。」
「会いたくなるのでしません。当日まで待ってて下さい。」
「わかりましたー。」
彼女の隣に立ち、ジェントルマンのように手を差し出す。その上に彼女によく似合う色でネイルされた爪を飾る手が乗せられ、俺はそれを軽く引き上げる。
そのままレジに行き、宣言通り割り勘した。その時彼女は『君らしいね』と笑った。俺も『そうでしょう?』と歯を見せる。
それから店を出て、駅まで手を繋いだまま歩いた。あまり喋らなかったけれど、苦にはならなかった。それ以前に、若見さんといて俺が退屈するわけがない。変態だけど、ペナルティだと思えば甘く見れる。度が過ぎるのは流石に怒るけどな。
ザリッ。
家の前。深夜のクソ寒い時間帯だってのに、玄関先に居座っている馬鹿が一人。今日俺が殴った頬には湿布が貼られている。
あまり着込んでいない体は見るからに冷えており、若見さんが来た時の俺の手のよりも酷く、霜焼けで赤く腫らしていた。見るからに痛々しい。
けれど、透は膝に額を着け、今もなお俺を待っていた。
透の家は離婚して、父親が透を引き取り、母親は知らない野郎と妹を連れて家を出てった。父親もすぐに再婚して、新しい母親と姉が今の家に移り住む。
透の両親はとっくに冷めた関係だったけれど、透はどこかで信じていた。仲の良い家族に戻れる事を。
…だが、出て行く時の母親の今まで見たこともないくらい幸せそうな面と、父親の再婚と新しい家族が、純粋な子供の夢をぶち壊した。
その日、透は俺の部屋でおもいっきり泣いた。全てを吐き出すように、俺の胸に縋り付き、叫ぶように泣きわめいた。それが小五。まだまだ餓鬼だ。
俺にはまだよくわかんなくて、取り敢えず背中を撫でながら黙って透の言葉の中身に耳を傾けるだけしかできない。
泣き疲れて眠る透を前に、どうしてあの人達はこんなになるまで透をボロボロにするだろう、どうして子供の透や妹の気持ちは汲まなかったのだろ、と考えては悲しくなった。
疑問をいっぱい抱いて、透の頭を優しく抱いて、俺だけはコイツを見捨てないと決めた。絶対、俺だけはコイツを泣かせない。
そう心に誓った、幼い日の思い出。
カタカタと震える体の前に立ち、毎度同じ言葉を投げ掛ける。
「そんな所にいると風邪ひくぞ。中入って待ってろ、って何回言えばわかんだよ。」
「煩い、不良。お前がさっさと帰れば済む話だ。早く入れろ。」
「んな事言ってんと家入れないぞ。
ったく、しゃーねぇな。ほら、退け。」
扉の前にいる奴を立たせて横に動かす。服の上からでも透は氷のように冷たかった。顔は赤みを通り越して白くなってしまっている。寒がりなのに馬鹿だな。
コイツはずっと俯いたままで、俺は自宅の鍵で扉を開けて入った。手首を引いてコイツを中に入れ、内側から鍵とチェーンをかける。靴を脱いでさっさと俺の部屋に行く野郎に呆れながら、俺はリビングの晩飯を電子レンジで温めて、自室に持って行く。
タンタンと階段を上がり、すぐ右の扉が俺の部屋。扉が少し空いている。
中に入ると暖房機の前に居座る奴がいて、部屋は真っ暗。月明かりと暖房機の明かりしかない。
俺はテーブルの上に晩飯を置いて、背を向けて着替える。着替える最中に奴の方に振り向くと、案の定、晩飯を頬張っていた。食べてから来れば良いのに。コイツも大概変わった頑固者だ。
リュウにメールしようとするけど1時をとっくに越えており、自重しておいた。明日話を聞いてもらおう。
制服をハンガーに掛けて、ケータイをポケットにしまう。
晩御飯を食べ終わったのか、透は再び暖房機の前でジッと体操座りをして温まる。占領されてしまっているが、俺はそこまで寒くないから別に構わない。
こんな時間だし、シャワーは朝に浴びよう。コイツもずっとあの寒い場所にいたのだから絶対疲れてるだろうし。今日はコイツにしてはよく喋ってたし。
許せない事をしたけど、俺は放っておいたりしない。ちゃんと居場所を与えてやる。
「透、寝るぞ。今日は疲れた。」
「…。」
先にベッドに潜り込む。ヒンヤリして冷たいが、時期に体温で温まる。
寝返りをうち、壁側に体を向けて目を閉じる。頬に当たる壁は枕よりは冷たくない。
すると、パチンと暖房機の電源を消し、のそのそと透もベッドに潜り込む。シングルベッドに男子高校生二人は狭いが、昔から何かと透が泊まってくから慣れてしまった。
背中と背中が当たっている部分がベッドより温かくて、透の寝息が聞こえるまで俺は寝たふりをする。たまに本気で寝る。仕方ないさ、俺も疲れてるんだ。
俺が寝たふりをしていると、コイツは決まって一度俺を確認する。
「おい、輝。」
何時もは『お前』なのに、この時だけ名前で呼ぶ。理由はわからないが、透に名前で呼ばれるのは好きだ。『お前』なんかよりはずっとな。
透が呼び掛けるが、俺は寝たふりを続ける。そうしないと、コイツはずっと眠らない。俺と同じように、俺が寝るまでコイツは起きている。徹夜明けしたことが何度もあるから実証済みだ。
アイツが後ろでモゾモゾと動き始めた。体の向きを変え、俺にくっつくようにするのは毎度の事。背中の服を握って、額を首筋に当てる。本音はくすぐったいが我慢。
握られた服に皺ができてるだろうとわかるくらい、背中に軽く当たる拳は固い。表情は見えないけど、きっと難しい顔をしてるだろう。なんとなくわかる。
ポツリ、暗い部屋に小さな声が染み込む。手放すまい、と俺の背中にすがり付くように腕を掴む。
行く先を見失った迷子が容易く出てこない本音を絞り出し、俺の背中にぶつけては一人泣く。誰も起きてないと勘違いしているからこそ吐き出せる。
「何であんなこと言うんだよ。意味わかんねぇ、くそったれ。お前は見捨てるなよ。置いてきぼりにするんじゃねぇよ…。
まだ顔痛いし。寒かったわボケ。早く帰って来いよ不良。あんな家に居場所なんかねぇの、お前が一番わかってんだろうが。飯クソ不味いし。
バカバカバカ、バカ輝。お前は俺についてればいいんだよ。バカ、バカが…。」
「お前も充分バカだよ。
おやすみ、透。」
背中に当たる寝息を確認して、俺も眠りについた。明日は透と一緒にバイトに行って、終わったら沢山構ってやろうと思いながら。
放課後の本屋のバイト。これなら接客も少ないし一人作業が多いから透を誘った。
初めこそ面倒くさがっていたが、独り暮らしする時の貯金だと促せば、ちょっと考えから頷いた。
黙々と働く透はレジとかの接客はしないが、店長からは好かれている。半年も続けば周りも透を少しずつ理解してくれるし、アイツがここまで続けられるのは透を嫌う人間が少ないからだと思っている。後、貯金のため。
バイト始めてから俺達はずっと同じシフトを入れてるので、たまにリュウが遊びに来たりする。読書家だからよく贔屓にしてもらってる。喜ばしいことだ。
今日も透は本棚のスペースに本を入れ、俺が[美代先輩]とレジ打ちをする。基本こんな風だ。
大学生の美代先輩は美人だけど男っぽくて、趣味が合うから仲良い方。よく若見さんの相談にのってもらってる。
隆太郎には若見さんの相談はできない。だって、若見さんの性癖が性癖だし。『露出狂に惚れた』なんて、真面目な隆太郎には言えない。
美代先輩は昔、色々と遊んでたみたいだから相談できた。最初は驚かれたけど、すんなり受け入れてくれた。アドバンスもくれるし、応援もしてくれる。凄く良い人。
今日もバイトの合間に昨夜のことを話す。するとクツクツと喉を鳴らして笑われた。
「しっかしお前、可愛い反応すんだな。そりゃからかいたくもなるわ。」
「真面目に聞いてくださいよ。こっちはこっちで困ってるんですから。」
「悪い悪い。
んー、俺はそんなに焦らなくてもいーと思うけどな。
若見さんと付き合う条件が“大学卒業するまでに振り向かせる”んだろ?なら気長にやんなよ。恋に焦りは禁物だぜ。」
「それはわかってますけど…ハァー。何か一生振り向かせれない気がします。」
その場にしゃがみこんで盛大に溜め息を吐き出す。美代先輩に苦笑されながら宥められ、渋々腰を上げる。
店先で掃き掃除をしていた透に『サボってんじゃねぇよ』という視線を向けられた。アイツに睨まれたのは久しぶりで、素直に頭を下げて謝る。
当初と比べ今じゃアイツの方が信頼されている。学校とバイトじゃ大違い。よく動き、よく働く。普段もこうならいいのに。…叶わぬ夢か。
客も少ないのでレジの金額を調べていると、隣で接客し終わった美代先輩が思い出したように喋り始めた。
「そーいや、昨夜お前にメールしたが返信こねぇぞ?何かあったか?」
「え!?すみません!
送ったの何時頃ですか?」
「日が変わったくらいだから、十二時半前か。重要なことじゃなかったから気にしてないけど。
メール着てねぇの?」
「すみません、着てないです。その時間は確か若見さんと一緒でしたから起きてましたけど…寝る前に確認しましたが一件もないですね。」
「若見さんと一緒、ね。
ふぅ~ん、なるほどねなるほど。そういうことか。」
「?」
ニヤニヤ顔の美代先輩にちょっと違和感。あまりその顔はしない方がいいかも。正直、怖い。
悪魔のように笑う先輩に逃げ腰で後退り、レジから遠ざかった。他のバイトに一言告げて休憩所兼事務室に入る。
事務室で正社員と一緒に書類整理していた透の隣に座る。目だけで文句を訴えられたが、今さっきのと比べればとても居心地良く感じた。
平穏って幸せ。
●後日談●
「若見さん。」
「なにー?」
「俺が店先で待っていた日を覚えていますか?」
「うん、覚えてますよー。真っ赤なお顔の木本君は可愛かったなぁ。」
「…余計なお世話です。それは今すぐにでも忘れてください。
あ、すみません。コーラとアイスティー一つ。」
「後、チリドックと厚切りサンドイッチで。
それで、水曜日に何かあったっけ?」
「あ、はい。水曜日の丁度このファミレスにいる時、美代先輩っていうバイト先の先輩からメールが着たらしいんですよ。」
「ふーん。」
「多分俺が席を外している間だと思うんですが、もしかして消しました?」
「へ?何で?」
「バイト中にその話題になって、帰り際に美代先輩が教えてくれたんですよ。」
「何を?」
「『もしかしたらヤキモチ焼かれたかも』って。」
「誰が?」
「美代先輩が。」
「誰に?」
「それは教えてくれませんでした。でも、話の内容的に、あ、すみません。」
「ありがとうございまーす。
さ、食べよ食べよー。」
「いただきます。はい、半分どうぞ。」
「一番大きいのどうぞー。うん、美味しい。」
「サンドイッチも美味いです。でも、やっぱり一番じゃないですね。」
「んー?何がぁ?」
「俺が今までで一番美味いって思ったのは、あの日、若見さんが手渡してくれたココアですから。あの味は一生忘れないし、きっとずっと俺の一番です。」
「…君はさ、」
「はい?」
「たまに不意を突くね。柄にもなくドキってしちゃった。」
「え!?本当ですか!!」
「…プッ。無意識にやってるっていうのが、将来タラシになりそうで怖いわー。」
「な、俺はタラシにはなりませんよ。好きな人を一途に愛す予定ですから。」
「えー、好きな人って?」
「若見さんです。」
「本当に?」
「嘘はつきません。」
「本当の本当に?」
「若見さんだけです。」
「…。」
「…。」
「輝君。」
「!!?わ、わか若見ささん、ん!?」
「あは、やっぱり面白いよ。君は飽きさせない反応をしてくれる。」
「か、からかったんですか!?」
「しーらない。ほら、コーラの炭酸無くなっちゃうよ?食べよ食べよ。」
「…やっぱり五枚も上手だ。勝ちが見えない。
美代先輩の話は可能性無し、だな。」
「何の話?」
「いえ、こちらの話です。
これ食べ終わったらどうします?今日は財布に余裕がありますから、好きな所に行けますよ。」
「じゃ、裏路地でドキドキプレイ♪」
「何も聞こえません。」