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見習い魔術師の100の呪文  作者: ユキカゴ
第三章 ミシェール
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第八十七話 摩天楼崩壊

「そうですか…わかりました」


私は悲しむ。

どうあっても、この現実から逃れられない事に。

目の前にあるこの左腕…。

この手は動かない。

まるでしびれて感覚がないように、手を動かすサインすらも、届かない。


「・・・どうすれば・・・」


医師に頼もうにも、お金がない。

そうして私は空を見上げ、ぼっとする。

左腕が動かない以上満足に生活すらできない。

何故左腕が動かなくなってしまったのか。

それは事故に巻き込まれて、だ。

なんにせよ、この腕は一生治らないらしい。


「使えない腕…なんなの…ただの付属品じゃない…」


私は、ひどく絶望する。

腕はぶらーんとしてしまい、格好が悪いので、骨折した人の腕を固定するように、

私はギブスをつけていた。

街中を歩いている途中、私はぱったり人とぶつかってしまった。


「す、すみません!」


私は即座に謝ると、目の前の人はひどく私に当たろうとしたのか睨み付けてきて、

私の腕を見ると、目をそらしてそのまま通りすぎてしまった。

…哀れんでいるのだろう。

悔しい、正常であった時はこんな事、なかったのに、

正常ならば、哀れんでいたであろう事が自分に降りかかると、

他人の目をつい気にしてしまう。

情けなくって、悔しくって、自分が、周りが、憎くって仕方なかった。



「左腕は!この左腕は!私の誇り!食らえ!」


「ぐっ…!」


攻撃がより重くなる。

拳にかける力は、その力だけで効果を発揮しているようだ。

『血のシールド』を貫通して、拳が見えた時、俺は


「…ありがとう…これで『血』の力を発揮できる」


血のシールドが液体状になり、それらが針のように鋭くなる。


「後ろを見たな、終わりだ」


すべての赤い針が突き刺さる。

そこから吹き出る血は、赤みを増して地面にかかる。


「ぐっはっ…」


そして、吐血し、俺はその血を浴びる。

ああ、血が染みる。


空中で身動きが取れない上、左腕の強化はもう意味を成さない。

このまま、地上へ下ろす。

俺は体を捻り、勢いよく左足でカカト落としをしてこいつを突き落とした。

これで再起不能だろう


「…さらばだな…キーン、やれ」


「ええ、これで…一国は落としたわ」


天に魔方陣が描かれる。

雷鳴が響く。

それら雷が地上に落ちると、無差別に建物を破壊していく。

地上にいる吸血鬼も反吸血鬼派も、何もかも。

埋め尽くすは瓦礫。

そして残った摩天楼に…最後の雷鳴が響く。


摩天楼は形を崩し、ぼろぼろと落ちていく。


「…ミシェール国、国王…元ヴィアーチェ王、ヴィアーチェ=クリス」


瓦礫から一つの影が、スッと動きを見せる。

その姿は、クリスを彷彿とさせず、全く別の…男のような雰囲気をかもちだしていた。


「おうおうおう、よくもまあオレサマをぉ…起こしてくれたぁなぁ!?」


吸血鬼の親玉。

それがこいつだ。


「なるほど、確かに親玉だな…雰囲気が違う、いや風格というべきか」


男のクリスは、こちらへと向かう。

そして、右手をこちらへ向ける。


「血のシールド!…なに!?反応しない!?」


俺は、吸血鬼の能力を使って、血のシールドを出そうとするが、発現せず、

血は元の形を保っている。

まるで吸血鬼の能力がないかのように。


「どういう事だ…吸血鬼の能力が…」


「てめぇは、オレサマの能力を知らなかったなぁ?オレサマは、吸血鬼のすべての能力を使える」


俺は”イールグ”を唱えて、放つ。

だが、無傷。


「ただし、発動できる能力は存在する吸血鬼の能力だけでな…オレサマはおさがりを使うってわけだ」


俺は、グラムを投げつける。

クリスは避けず、そのままグラムを受ける。

しかし、歩みを止めず、

そのままこちらへと何事もなかったように歩いてくる。


「な、なんなんだよぉ!お前はああああ!」


俺は叫ぶ。

それに対してクリスは、手をぎゅっと握り、横振りする。

何かを察した俺は、すぐに伏せ、その何かをかわす。

直後、背後の大きく伸びた建物が真っ二つになって崩れ落ちる。


「へぇ、避けるかぁ…おもしれぇ」


「くっそ!なんなんだよ!」


こんな奴、初めてだった。

今までこんなに圧倒的な大差を感じる、いや敵う訳ないという感情が沸くのは。


「んでだ…オレサマは、吸血鬼としての能力を二つ持ってる…冥土の土産だ、

聞いて逝けよ」


直後、姿が消え、次の瞬間には俺はクリスに刺さっていたグラムを腹に刺されていた。

そのままゆっくりと体が倒れる。

動かせない。

視界がぼやけ、やがて何も見えなくなっていく。

目を…瞑ろうとしているのか?

…そうなんだろうな…


「オレサマは、不死身の能力を持っているのと、他の吸血鬼の能力を消す事ができる…

まあ、その時はオレサマの能力として使えなくなるがな」


---もう、お別れだ---


俺は…深い眠りについた。

薄くなっていく意識の中、誰かがこちらへ向かってくる音が、洞窟の中で響く音のように、

脳裏に響いた。


…そして、そこから俺は意識を失った。

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