第七十九話 キーン=フォート
メリュジーヌと共に、森の拠点へと向かった。
その途中、僕たちはあるものに遭遇した。
「…これは…血?」
血痕だ。
木にべっとりと…周りの木々からして、ここで争ったようだが
「どうやらここで争いがあったようね…拠点とやらは大丈夫なのかしらね?」
このすったような後が拠点の方へ向かっている。
どうやら負傷者は傷を負いつつ、拠点の方向へと向かったようだ。
…となると、負傷者と負傷させた加害者が、拠点へと向かった事になるな…。
おそらくそのことだろう。
「となると、クリスたちが危ない!早く行かないと!」
俺たちは、急ぎ拠点へと向かった。
(ーーー森の拠点ーーー)
俺たちは森の拠点に辿りついたが
「一足…遅かったか」
「けれど、皆ここでやられたわけではないようね、どこか別の所へ送られたのかしら」
「何故そう言い切れるんだ?」
俺はそう質問した。
するとメリュジーヌは
「だって、そこにあるのは、吸血鬼の旗…それも破れてる」
という事は・・・敗者は吸血鬼・・・?
反吸血鬼派が勝ったって事か。
という事は拠点は移動した…のか。
「俺たちもそこへ向かうか?」
「いや、私たちは吸血鬼との戦いを外側からサポートするわ、それなら動きやすい」
そうか、メリュジーヌはフォーミルの件で・・・
「メリュジーヌ…名前長いな…短縮してジーヌとかでいいか?」
メリュジーヌっていう文字数は稼げるが、どうも長いのは気に食わない。
「名前…ね…それなら、キーン…キーン=フォートとでも名乗りましょうか」
キーン…?
それにフォートって…。
「ええ、私自身、元々フォートという名だったからね」
メリュジーヌの本当の名…か。
俺も…本当の名すらも思い出せずに、かれこれ数ヶ月がたった。
俺の記憶はいつ戻るって言うんだ…その欠片すらも見つけられず。
ただ彷徨うだけ。
…だった。
今はその記憶の一部を知るであろうメリュジーヌがいる。
いつだって記憶の一部を知る事だってできる。
…けれど、俺は記憶が戻ったらどうするつもりなんだ…?
元の世界に戻りたいと願うのか?
わからない、けれど…それも段々と薄くなりつつあるのも事実だ。
本当はその世界に戻るより、この世界に留まる事を望んでいるんじゃないのか?
…だとすれば、俺はこのまま記憶がないままの方がいいのかもしれないな。
ロシル=フォートとして。
フォート…砦や城壁という意味がある。
この世界でフォートとは、守護者と言われる事もある。