第七十六話 赤闇
「確かこの辺だったはずだ…」
俺は、浮力を使って、あたりを探した。
すると、数十人の無残な死体があった。
…皆焼け焦げて、誰が誰だかわからない程であった。
「これはひどいな…くっ…」
そして…一人の少女が、その真ん中に。
…あの時のジャスティスのように…。
「シェイノ…か?」
「…!」
その少女は、俺の声に気がついたようだが…そいつは、シェイノではなかった。
…いや、厳密にいえばシェイノなのだが…面影がほとんどない。
体は血だらけ。
顔は先ほどまで泣いていたのかと思える程ぐしゃぐしゃで、それなのに、今は万遍の笑みだ。
「どうしてしまったんだ・・・シェイノ!」
「男…この島に、男がいると聞いてはいたけれど…そう、あなたが…」
「おい!シェイノ!!!」
頭でも打ったのか・・・?それとも・・・
「うるさいな・・・始末してやろうか」
「ちょ、ま・・・うわっ!」
攻撃を仕掛けて来たシェイノに対し、俺は両手を交差し受ける。
体を前転の形で空中で回転させ、かかと落としを俺の頭に仕掛けて来たのを、俺は受けた。
案外重かった。
俺はその足を交差した両手で押した。
そしてそのままシェイノはバク宙を繰り返し、地面に手をついて体を回転させて、四つん這いでようやく体制が落ち着いたようでピタリと動きが止まった。
…いや正確には…違う。
これは…準備だ。
次の攻撃への…そう、ここの数十人を黒焦げにしたアレが来るわけだ。
水のカーテンを作り、どうにかこの場を乗り切るか!?
いや…まて…。
その状態だとあの体制からの突進に近い攻撃…要するに近距離による打撃を受けるための防御体制まで追いつかない…
ではどうする…!
「赤闇目!」
来た・・・これでどうにか動かなければ・・・やられる!
「あいつの見ている的から離れれば、かわせるか!」
俺は呪文の”スペント”で一瞬だけそこから消えそしてまた姿を出した。
案の定俺の後ろが黒き炎で焼かれていた。
「かわしたか・・・では、これなら!」
「両手の手のひらから目が!!!」
そう、俺の前でシェイノは両手の手のひらに目を出して見せた。
…どう考えてもこれは…
「4つの目…これがよけられる?」
4つの目…これをどうやって避ける…?
どこにかわしても、おそらくはその目に見られる…。
単にデタラメに動くわけにも行かない…。
「…はは、そうか」
俺は・・・避ける必要がないんだ。
何故ならば…この技があるから。
「目を閉じ…ゆっくりと…そして素早く!」
俺の動きは…もはや常人のそれを超える勢いで動いた。
目で捉えられぬ動きならば…あの目は使えないはずだ。
見えない打撃…。
それが俺が得た力だ。
「くっ・・・見えないと攻撃が…できない!」
俺の動きは全て見えていない。
そして、俺はグラムをシェイノの後ろから刺す。
だが
「俺の動きは見えなかったようだな、シェイノ」
「…私の事をそう呼んでいるのだろうが…ちょっと違う…な…」
グラムは生命力を奪う。
そのまま生命力を奪い続ければ…いづれ、シェイノは倒れる。
それを狙う・・・べき・・・か?
目は魔力を使わない。
ただ、生命力を失い続ければ動くことはおろか立つことすらできなくなるはずだと思った。
だが、次の瞬間、俺は驚きを隠せなくなった。
「おまえ…!?」