第七十三話 未来人
「…そろそろ、動く頃…ですかね…」
僕は重い背中をよっこらしょと声を出して起き上がる。
メリュジーヌ…彼女らに動かれると我々も動きづらい…
だとしたら、そろそろ対策をねるべきか
「珍しくやる気じゃねぇかよ、大将!」
大声で、しかもかなりうるさく吠えるこの大男は、ガリッツ。
この男は先ほどまで僕の指示でロシルたちの船を沈めさせ、帰還したばかりだ。
…それなのに、この元気…はぁ
「君の元気を僕もほしいよ…」
「お?あげやしょうか?」
と、僕に抱きついてこようとしているのを、すぅっと抜けて
「いや、遠慮しておくよ、僕はそういう趣味はないからね」
僕は、フォーミル城の上空で待機しているこの大和大空戦艦にいる。
…ニホン国軍軍事総司令部大将…マオ=リーディス…それが僕だ。
要するに大将ってわけだ。
「マオ司令!ラグナ=フォーミルの身柄を拘束いたしました!」
ラグナ…。
こんなにも早く出会えるなんてね
「…久しぶりだね、ラグナ=フォーミル…いや、フォーミル王よ呼ぶべきかな?」
ラグナは僕を見て、不思議そうにしている。
彼は両手を手錠で縛られ、またその上で兵士に拘束されている。
「僕を知っているのか…?マオ…君に一度会っていたという記憶はないのだが?」
「マビノギオンの裁定を知っているかい?君はその時にいたわけだ…勿論、君は知らないだろうね」
「何を言っている…?マビノ…?裁定…?わけのわからないことを…」
そう、彼は知らない。
この大地…フォーミルができる前。
ここではマビノギオンという本の裁定が行われた。
何故か?それはマビノギオンは誰からも不安要素であったからだ。
負をエネルギーとし、それらを吸い込み…願いを強制的に叶える願望本。
それこそがマビノギオン。
そしてその本に記載されていたもの…それを読めば…死よりも恐ろしいものを体感するのだという。
「っていうのはおいておいて…ラグナくん…これから行うことを、君に手伝って欲しい」
自分にはできぬ事ではない…。
だが
「どうして、敵である僕に頼むの?大体、君たちはこちらからすれば侵略者だ…その上で、判断している事なのかも、把握してる?」
普通に考えれば非常識だ。
だが
「これは、未来の事だ、そして今後必ず起きる事でもある」
「…まさか君は…いや、君たちは…」
我々の正体…を、ラグナに知らせるべきか悩んでいた。
…いや、メリュジーヌの事もあるか…。
「そうだ、我々は未来人に等しい…そして、メリュジーヌもまたそれに類している」
「未来人…?メリュジーヌもまた未来人…と?それを僕に信じさせて、何かのメリットになるというのか」
「その判断は、君自身に任せよう」
そう、重要なのはそこじゃない。
メリュジーヌの事というのが、あいつが未来人でありそしてその目的が重大なのだ。
我々ニホン国はメリュジーヌたった一人の脅威によって潰される。
そしてこの世界を地獄へと変貌させる。
…それが未来だ。
そしてそれまでに時間がもうない。
その前に、あいつを止め、この世界を平和にしなくてはいけない。
ロシル=フォート…あいつは、未来にはいなかった。
いや、現実にいたのかもしれない。
そして姿を隠しているだけで…。
考えにくいな。
だとしたら…
「さて、我々も動くべきだな、ガリッツ…皆を集めてくれないかな」
「了解した」
そして、僕たちは…侵攻の準備をするのだった。