第七話 魔導師
「さて、そろそろ動くぞ…」
この島の城の王、ラグナ・フォーミルは、二人の使者を用意した。
彼らは、魔導の道を進む者、魔導師。
そのエキスパートだ。彼らは、それぞれに持つ武器を自由自在に扱う。
オールバックの黒と白の縞々の髪型に、緑のフードコートを身にまとい、大鎌を片手で軽々と持つ男の名は、シフォン・ノイスクランチ。
黒いスーツ姿に、白髪の男の名は、エイピロ・ヤングマン。
彼らの使命は、ロシル・フォートの監視。
そして…エイピロはその使命を得たとき、ニヤリと白い歯をむき出しにし、ほほ笑んだ。
まるで、待ち浴びたかのように…。
ラグナは、それを見て、確かにほほ笑んだ。…が、一人シフォンだけは、それをしなかった。
「…ほう、貴君があの魔導師に。ですか、ふぅむ、またもや面白い方に…フフフ」
「るっせぇ!行くぞ、ノエル!」
「え、ええ!シフォン!」
シフォンは、しばし、空を眺めここに至ったまでの経路の内、ノエルとの共闘を思い出していた。
城壁に囲まれた城、フォーミル城…。
そして、それをさらに囲む城下町…。
それらを見下すようにシフォンは目を細めて、こう言った。
「覚えてるか…ノエル…ここが、お前と俺の理想郷だったんだぜ…こんな…薄汚れた大地が…!!!ああ、くそ、チクショウ!くそ、くそ、くそ!俺たちは、何のために…ノエル…くそ・・・」
「な、なんだ?」
俺は、窓辺を見る。
妙に微動する窓。
そして…その先に…人の影。
「まさか、敵!?」
俺は、腰のベルトにつけていたハンドガンを手にする。
投げ捨てた後、ノエルが拾ってくれたのだ。
…そして、このハンドガンには、魔弾という魔力を使った弾が入っているらしい。
それは、持ち主の魔力を弾に変換することで、弾丸を供給する仕組み。
『我が洗礼を受けよ、ラ・ビネスチェ』
と、俺がそれに気が付いたのは、吹き飛ばされた後だった。
壁を鉄球が通ったようにぽっかりと開け、そいつらは現れた。
「魔導師、と~じょ~…なんてな?」
大鎌を持ったオールバックの男と、黒いスーツ姿の男が、こちらを見下してそういった。
かという俺は、吹き飛ばされて、家の壁で吐血してぼやける視界からそいつらを見た。
…確実に、やり手だ…。
「エイピロ、こいつは任せる、俺はやることがあるからなぁ…」
「わかった、十分に楽しんで来い、シフォン」
そういって、シフォンと呼ばれるオールバックの男が、開けた穴からさっきノエルたちが向かったところへと歩んでいった。
「ぐふっ・・・お前ら…一体…」
「フフフ、なるほど…君は知らな、なんだ…だけれども、君は知る必要はない、大人しく呪文を渡せ、それが君が生き残る唯一の手段だよ、ロシル・フォート君」
俺が…持つ…呪文…なんて、…ないぞ…。
「さあ、早く。ああ、そういえば手渡しはできないシステムだった…では、強制的に抜くとしよう…」
そういって、物凄い早さでこちらへと飛び込んでくる。
咄嗟に俺はそれを横へと転がって避ける。
…壁からは、ボロボロと壁に使われていたコンクリートが零れ落ち、かつそこには平然と壁に腕を突き刺すエイピロの姿があった。
避けなければ、…ああなってたわけだ。
「ちょこまかと…動くな」
「あ、生憎・・・俺はそんな趣味はないんでな…」
ノエルたちが戻ってくるまで…待つ…か。
いや、待てよ…さっきのシフォンってやつがあいつらの足止めをしてる可能性も…
「って、うわっ!」
俺は、またもや襲い掛かるエイピロの猛進からスレスレで避ける。
やはり、早い。
…けれど、見切れる…。
「このスピードについてくるとは…いいだろう、ではこうだ」
次に、エイピロは手と手を合わせて、ゆっくりと左右に伸ばしていく。
すると、そこから電撃が生まれ…。
「形勝とは、このことだろうかな、私は君から残り数歩でたどり着き、かつ君は壁に追い込まれている、これはもはや…死を覚悟する所だろう」
電撃の中から、弓が生み出されてゆく。
それも、広げた分だけ。
「私は、このラ・ビネスチェを扱うアーチャーの魔術師・・・これぐらい明かせばわかるだろう?」
「…なるほどな、つまり俺はここから動くとその弓でやられ、動かなければ…貫かれるわけだ」
たとえ一撃をかわしても、次の攻撃では身動きは取れない。
つまり、連撃が来てしまうとやられるという事だ。
「そういうことだ。諦めろ」
「殺してまで奪えるものなのか?これ…まあいいや…俺も俺でこいつを使ってやる」
そういって、ハンドガンを強く握る。
「ふむ、投影武装とちがって、実物武装の方が有利…なぜなら、反魔力効果があって、魔力を相殺してしまうから…だが、有限ゆえにそれは投影に劣る!」
弓を構えるエイピロ。
俺は、それに対してハンドガンを構える。
…そして、銃弾は銃口から跳ね、そして…。