第六十九話 ジャスティス=デストラクション
世界は残酷だ。
この世界で私は生きている。
これは、私の中でのゲームのようなものに過ぎない。
つまりは
「世界の破壊、正義とは常に悪を破壊する事を意味し、そして私は悪とは世界を意味すると思うのです」
この基地もまた…世界の破壊には、欠かせない…
「ジャスティス…デストラクション」
私は、カプセルにストックしてあった血を、注射針から体内へと入れる。
その瞬間に、体全身にまるで痺れるような感覚が襲う。
直後、目に写る世界が変色し、赤く染まる。
そして最後に元の通りに戻る。
これが、準備。
「この名のとおり…”正義を破壊する”わ」
「世界を…破壊する…能力…そうか」
こいつの能力…吸血鬼の能力は、”破壊する”能力だ!
だが、わかった所で、その能力の対処法が浮かばない・・・。
「破壊能力の規模がどのぐらいか・・・まだわかってもいないようなの、
まず私が知る範疇で言うと、手で触れたものが破壊の対象となるようだわ」
手で触れたものが破壊対象・・・!?
いやいや…ありかよそんなの!
まだメリュジーヌのが優しかったぜ…
「要するに、近くに寄らせたらその時点で即死なわけだ…冗談じゃないぞ…!?」
そう言いつつ、彼女はゆっくりとこちらへ近づいてくる。
躊躇している場合じゃない!
これ以上近づければ、俺たちは死ぬ前にあの龍のように消滅するだけだ。
”イールグ”で対処をするか、いや違う…そもそも消滅してしまうなら、
風すらもそれに当てはまるのではないだろうか。
「とにかくやってみる必要があるな…」
俺は手のひらに風をためてから
"イールグ"を放つ。
だがその"イールグ"もやはり彼女の手によって消滅した。
軽く手でぱっぱっと払われ、
そこには粉々に気体から固体へと変貌して黒く変色した風が散っているだけだった。
「くそ…なんか知らんが、かなりピンチだな」
完全無欠の強さを誇る何かだろ絶対…
ジャスティスの攻撃は単調なものが多い。
何故ならその手で触れたものが対象となるのであって、それ以外に”手で触れないものは対象とはならない”だろう。
ならば、全方向からの攻撃を仕掛けるべきか…?
いや、そもそも先ほどの四頭黒龍が喰らわない、無傷で済んでいる時点で、こいつに物理的な攻撃も、
間接的な攻撃も通らないと考えていいだろう。
「じゃあ…どうすれば…」
「彼ら吸血目が、何故血を求めるのか…それは、能力が段々と弱まるからよ」
吸血目は、吸血した後に、能力を持続できない!?
…そうか、シェイノやムサイと違って、彼らは元々トライアングルアイズですらないのだから、
血が体にいくら適応していても、その効力の期間というデメリットがあるわけだ。
「つまりは…」
「逃げるが」
「勝ち!」
そして、俺たち三人は逃げ出した。