第六十二話 黒騎士ガリッツ
黒き煙のようなものが、ガリッツに纏う。
それ自体が意思を持つようだ。
その意思を持つ、黒き煙は、ガリッツの意思に関係なく、動いている。
俺は、次元琥牢を放とうとする。
蛇とは違い、それは固有結界を無効化するだけだ。
…だが
「デュラハンを写し出しているだけという可能性もある、一度次元琥牢を放つ、俺の合図の後に続け」
「わかった、ロシル…お前の魔力は未だ未知数だ…だが、無理をすれば…魔力を失いすぎて、足でまといになられても困る」
俺は、二人に告げる。
その後に、シフォンが続いてそれをいうと、シェイノもあいづちをした。
俺は、次元琥牢を放つ。
大きく振るったグラムから、衝撃波が生まれ、そしてそれは波状に広がっていく。
だが、デュラハンと黒き煙は消える事はなかった。
「固有結界じゃないのか、行くぞ!」
白き波紋を追うように、俺たちは走り始めた。
船の上で響く木の音。
大きく、そして鈍く。
「クエイク!」
ガリッツがそう叫びながら、船を叩くように、下を左腕で殴った。
すると、船全体が大きく揺れた。
普通、そのまま叩けばそんなに揺れず、それどころか板をブチ破るはずだ。
が、そうではなかった。
先ほどのように、波状に広がり、だんだんと大きく…それこそ、名のとおり地震のように、
始めの揺れから、大きくなっていく。
「くそっ…これじゃあ、動こうにも…足場が安定しない…!」
俺たち三人は、身動きがとれず、足場に意識を集中してしまっていた。
そのため…
周りを囲む黒き煙に気がついていなかった。
「みろ!ロシル!シフォン!ボクら、囲まれてしまった!」
「わぁーてるよ!くそ…シフォン!なんとかできないか!?」
続く揺れ。
もう立っているのがやっとだ。
グラグラと大きく傾く船に気を取られ、さらにはガリッツすらもいた場所から離れていた事に気がつかなかった。
「この船から離れるしかない…!あまりにも揺れが大きかったら、この船自体が持たない!」
船自体も、この揺れでひびが入りつつあった。
確かにこのままではまずい。
「まず、囲まれてるのに、どうやって!?」
「ロシル!お前、エアルは使えないのか!?」
"エアル"。
以前、ノエルが使い、フォーミル城までひとっ飛びできたものだ。
…だが
「無理だ!あれ自体はできても、安定しない!暴発して、結局は落ちる!」
そう、唱えても、コントロールが下手で、安定しないのだ。
つまり、不安定になって落ちるだけ。
ただのトランポリンか空気の抜かれたバルーンでしかない。
「あの黒い煙、もうこんなに近くに…」
俺たちを囲んでいた黒い煙も、もうすぐそこまできていた。