第六十一話 重なる敗北
外は雨が降っていた。
そして、三人の娘が倒れていた。
「おい…嘘だろ…あの三人が…?」
イユ、サユ、ムユは、服をボロボロにされ、意識を損失していた。
船に外傷はなく、争った形跡がない。
少なくとも…今まで以上の敵だ。
俺は見上げる。
黒雲に包まれた空に浮かぶ黒甲冑の物体がいた。
そいつには頭がなく、不気味な黒い霧がそいつを支えているかのように漂っていた。
「なんだ…こいつは…」
「デュ…デュラハン…!?どうしてこんな上級召還獣が…」
デュラハン…そいつは、そう呼ばれた。
いや、詳しくはないが、そいつ自体にすごい悪感を覚えるものがあったのは確かだ。
そのせいかはわからない…けれど、俺は
「あいつの顔を…知っている…」
「デュラハンは元から首から上のない化け物だ、その顔を知っているだと?」
ガリッツは、そう言った。
当たり前だ。
誰も知らないはずのことを知っていると言い出したら、それは信じない。
だが…確かに知っている。
「お前の顔だ…ガリッツさん」
俺は、ガリッツを指差す。
「…何を言い出すんだロシル…俺が…あのデュラハン…だと?」
俺は、手を伸ばし、そして
「来い…グラム」
グラムを呼んだ。
「…ガリッツのその魔王の左腕…それは、あのデュラハンの左腕だ…黒い甲冑の左腕であって、魔王のものではない」
俺は…ガリッツを信じていたのか?
…俺は…今、自分自身を信じているだけだが、それを…他はどう思うだろうか
「何をしているロシル!そんな事をしていては…」
「デュラハンに首を取られる…か?シェイノ…俺は、3年という後の記憶がある…でもな」
グラムを構える。
次元琥牢の構えだ。
「俺は、このガリッツが”最後に味方だった”という事を知らない!」
そうだ、未来の記憶を持つ俺の記憶に、ガリッツがいない。
というか、いたとしても、味方についていなかったんだ。
未来の記憶は、既に戦争を終え、ボロボロになった大地に一人、俺が残っていただけだった。
ノエルも、シフォンも…ましてや、あのメリュジーヌさえも、皆絶命した世界だ。
俺は、グラムを振るう。
ガリッツは左腕をかざす。
「…お前さえいなければ…うまくいっていたのにな」
ガリッツは構える。
俺自身は既に動いていた。
不思議と動きは柔らかい。
なんだ、まるで風に乗っているように
「支援する!お前が叩け、ロシル!」
「シフォン!?」
そのオールバックの男は、バルディッシュという鎌の上に俺をのせて、振るった。
「ガリッツ自身、あの黒いのを纏った奴が本体だとしても、操れてないって思う…そもそも、デュハランに物理攻撃なんてものは効かない」
シェイノは分析し、そして動く。
「炎なら、焼ける…という話か?」
「ボクの炎は、空間をも燃やすよ、覚えておいてね、ロシル」
船、海、そして…黒い空・・・。
そこは、まるで、あの日を思い起こすようだと、シフォンは感じた。
…が、そこにはあの時とは違う者が、
ロシル、シェイノと、倒れてはいるが息のある三人の少女がいる。
心強いそいつらと、今…あの日の復讐を果たす。
悪夢から解き放たれれるのだと、確信すら覚えた。
「いくぞ、ガリッツ!」
俺たちは…そこで、戦い始めた。