第五十四話 大いなる情景
目の前にいるこいつが…ゼス…
「うぉおおお!」
攻撃が、当たらない!
くそっ!なんなんだ…こいつはあああああ!
冗談じゃないぞ…。
「残念だ」
大気が舞う。
力をみなぎらせたゼスは、俺たちの前でさらに猛威を振るい始めた。
それは…敗北感だった。
その圧倒的差に、俺は…
「くそぉおおおおおおおおおお!」
叫ぶしかなかった。
弱い…まだ…弱いんだ。
自分は…まだ…。
守られてる側なんだ…。
俺たちは、目の前にいる大物…いや、王ガレーを…倒せない。
手が…届かない…。
「君が掲げる大いなる情景は…高かった…ああ、高い理想ほど…儚く散ってしまう…ククク…」
遠い…果てしなく…空が…遠く見えやがる。
なんて…ひでぇ…色、してるんだ…。
真っ赤じゃないか。
ドクン…。
トクッ…。
ゾクッ…!!!
立ち去ろうとするガレーに対して…放つ…。
「待てよ!!!」
こちらを振り向くガレー。
同時にゼスも振り向く。
無表情でこちらへ攻撃を仕掛ける。
それを、俺は一か八かで受け止める。
両手をバネのようにして、相手の拳の衝撃を抑え、そして…止めた。
「うぉおおおおお!」
俺は、次の攻撃が来る前に、ゼスを押し倒す。
この巨体で、この体勢…いける。
俺は、手のひらを天へ掲げ、風の球を作る。
”イールグ”だ。
これを、思いっきりこいつにぶつけてやる!
「くらええええええええ!」
直撃…し…た…?
少なくとも、攻撃を避けたそぶりはない…。
いや、むしろ無抵抗だった…。
「…こいつ…」
「気づいたようだな」
目の前にあるもの…それは…ただの死体だった。
…動きは…もうない。
ただの操り人形だったのかもしれない。
くそったれ…俺は…何をさっきまで相手にしていたんだ…。
「しかし、改めて感謝するよ…ゼスの力を改めて確認できた…ククク…」
「流石はマッドサイエンティストだな…」
ガレーは、手を天へとかざす。
「ふはははは!その言葉は、私にとっては褒め言葉だよ…キキキキキ!…しかし…」
ここで、ゲームオーバーだ。
と、口で形を作った放った言葉の後、ガレーは消えた。
…どこだ…?
ここ…は…?
いや…待て
そもそも、どうして今の今まで戦っていた…?
…誰と戦っていた…?
…そうだ、俺は…
「シェイノ、イユちゃん…ここで、待っててくれ」
「どうしたんだ?いきなり…」
「いいから…」
そういって、俺は一人で先へと進んだんだ…。
そこで、ゼスとガレーの罠に…そして…閉じ込められた。
閉じ込められた中で、外でさらにシェイノとイユちゃんが捕えられ…
俺たちは、絶望的な状況となっていた。
「ここから、ショーの始まりだぜぇ…侵入者諸君」
「…何を…する気…だ…?」
「この隣にいる私の相棒…ゼスと…君たち三人を戦わせる」
そして…俺以外が倒れ、俺も攻撃が通らず…という中だったんだ。
じゃあ…俺は…俺はそのゼスを…殺した…のか…?
いや…俺は、ずっと死んでいたやつと戦っていたんだ…。
死人と戦って、倒した…?
死人は…機甲隊…。
機甲隊は…まさか…
「…気が付いたようだね…そう、機甲隊だよ…死人を作り…死人からさらに作り上げた人形軍隊…それこそが、機甲隊…年々増加を続ける死者は、ここ…『死の町』へと送り続けられ、いつの間にか墓場とも呼ばれるようになった…私は…私は、死者に命を吹きかけるものとして、この機甲隊を作り上げた」
「…結果的に言えば…あんたは、間違った方向へと進んでいるわけだ、死者を冒涜し、あげく人形とまで呼ぶ…」
「・・・かもしれないな…私は、私の正しいと思える事をしてきた、ああ…まったく、そうだ…正しいと思える事を、ただ貫き、一点に絞って、あの男のように…偉大なる名を残そうとすら思っていた…それが、これを見れば、悪名だけが残ったのかもしれない」
ガレーは目の前に横たわる死体を見て、そういった。
俺は、単純思考での怒りをぶつける事しかしなかったが、ガレーの表情にある一粒の光の線が…
次の言葉を無くさせた。
「ロシル…だったか…頼みがある」
ガレーは改まって言う。
「これを、受け取ってくれ」
と、言って投げ渡されたのは…
「…飴玉…?」
「アルフェグラという名のな…後に、国としての名を得た…エドワードによってな」
エドワード…フォート…。
脳裏にその名が響く。
そして…俺はひらめく。
「ガレー…受け取るために、条件がある…」
「なんだ?」
「【アルフェグラ】を集めてくれ」
第二章の話がわからなくなりそうなので、予定とは違うのですが、次から第二章~第三章へといきます。