第五十一話 二人のウード
「・・・おい、まったく・・・世話かけさすな、馬鹿弟が」
「兄・・・!」
俺たち3人が出くわしたのは、メリュジーヌの血を受け継ぐ者・・・その二人組だった。
兄、弟共に名は同じウード=メリュジーヌ…。
しかし、その力は…
「紅き鮮血の闇!」
兄が詠唱を唱えた。
そのスピードは、人力を超える。
人ならざるもの、 ”蛇”の血が見せる究極の美でもあろうか。
力及ばず、弟とはそういうものであろう。
されど、弟は動く。
「兄ばっかりに、いいかっこさせてあげねぇよ…蒼き黄昏の光」
彼らの行う詠唱は、共に人知を超える。
そして、はるか向こうへ、続く”世界”となる。
「こいつら…固有結界を…!」
「待って!…固有結界は同じ固有結界とは干渉を受けて弾けるはずよ!…あれは、無意味…!」
「けれど、このまま見過ごすのは嫌だよ!今すぐにでも…」
詠唱速度からして見ても、おそらくはあと数秒で完成するであろう固有結界。
もしもそれが拘束するタイプなのであれば、高速で動く特攻タイプのイユを失ってしまい、攻め込むチャンスを逃すのだと、シェイノは悟った。
こういう戦いの中では常に冷静に事を運ぶことが重要なのだ。
…しかし…。
(固有結界ならば、もう空間ができているはずよ…一体どういうことなの…?)
そう、本来の固有結界の構築は、段階を踏んでいくものであり、
1、空間調整
2、空間維持
3、空間創造
4、空間投影
と、この4つの工程を終えてようやく完成するものだが…
「…!!!ロシル!次元蛇穴を…!早く!」
「「今更気がついても遅いんだよ!」」
シェイノは、圧倒的なる絶望の声を荒々しくあげる。
気づいたのだ。
これは投影…そう、空間的なものを扱う固有結界ではなく・・・
単純なる召喚投影!
「いでよ、闇の皇帝!」
「いでよ、光の巨神兵!」
そこに現れたのは、大きな魔法陣が二つ。
そして、周囲が砂嵐に包まれる。
「シェイノ!…離れてろ…!!!」
俺は、現れた砂嵐の中に潜む影に…。
3年後の俺から受け取った"力"を使おうとする。
経験を自分に浴びせる事はできても、使った事すらないんだ。
見たことすらも。
だが…これしかないと、直感的にわかる。
「いくぞ!これが、俺の出せる本気の力だ!!!」
体中に風を纏い…そして
「王者の大嵐!!!!」
放った。