第四十七話 アーク
くそっ・・・このままじゃ、やられる!
どうすれば・・・いい・・・!?
”イールグ”は、その大量な風量を手元に貯めるまで、2秒必要だ。
その間に体をずらせれば・・・
「くらえっ!」
俺は、体をずらし、手から”イールグ”を放つ。
「どうかな…闇よ、力を貸せ!来い…バレッド・オブ・ジャッジメント!」
闇…!?
これは俺も知らない。
こいつは、左の目を思いっきり開け、そして何かを放った。
俺は反射的に腕を交差して、体を守る。
「ぐあっ・・・?」
俺は、体に何か…されたというわけではない。
しかし、周囲は弾け飛んで、爆風でも来たのではないかと思われるようなぐらいにめちゃくちゃになっていた。
「まさか…始祖がここまで身につけてくるとはね…唯一ループの籠から抜けた逸材か…それとも…」
「なんだか…よくわからんが、こりゃ…すげぇな…」
俺は、今自分の体を見てわかった。
そう・・・体から溢れんばかりの黒い炎。
そして、赤い電撃。
さらには、身軽に感じる自分自身の動き。
何かが解き放たれたかのような開放感。
これは・・・闇?
いいや・・・俺は、闇を払ったはずだ。
じゃあ、なんだ・・・?
「けど、欲張りなんだよ…君は!僕は失う世界なのに、君は得る世界だ!不幸だ…君の世界を…だからこそ、君の世界を…僕の世界に塗り替えてやる!」
「やってみろよ!俺は、ぜってぇ負けねぇ!俺は!」
ノエルを…
「守ってみせる!」
異端者?
そんなもん、関係ないね!
俺は、ここにいる。ただ、それだけだ。
俺は己の力を…全力でただ、
「ただ、己の力を信じるのみだ!」
言い切った。
俺は、言い切ってやった。
ざまぁみろよ、俺。
どうだ…悔しいか。
なら、やり返してみろよ…。
俺は、受けてやるぜ。
教会にひびが入る。
そして、吹き飛んだイスや教会のヴァージンロード。
机も何もかもが、白い光と共に消えてゆく。
「時間がもう少ない…これで決着をつけるよ、”僕”…いや、言葉を改めよう…ロシル=フォート」
改めて、今の状況を整理しよう。
俺の服は、赤いマントに、黒い紐。
そして相手の服装は、ボロボロではあるが、その色が逆になって、黒いマントに、赤い紐。
互いに力勝負のできる程の体力は・・・あることはある。
俺のこの力をどうやって使うのか、全然わからねぇ…その分、相手のが分がある。
「この一撃で…終わらせる」
「そりゃ、こっちもだ…行くぜ…」
互いに構える。
グラムを構える俺と、黒く赤い水玉が舞うグラムを構える”俺”。
認めてやるよ…俺と、お前は…”同じ”だ。
けど、俺は…昨日の俺でも、さっきの俺でもない。
俺は、今の俺だ。
誰にも似つかない、それが俺だ。
前を超えて、俺自身を…そして、ここからの一歩を…強く大きくそして…高く!
ザッ!ザザッ!
大きく出た間合い取り。
そう、この瞬間から…確定していた。
俺は…グラムを投げ飛ばし…。
”イールグ”を唱えた。
それも…手のひらからではなく、飛ばしたグラムにだ。
風の力を得たグラムは、勢いを増す。
思いっきり地面を蹴って、こちらへ踏み込んできた”俺”は、その攻撃を読み切っていたかのように先ほどから見せているあの薙ぎ払いを見せる。
「予想通りだ!」
このまま、こいつを…ぶつける!
「くそっ!これじゃあ、身動きが!」
そう、今の状態は、”俺”は、体が浮いた状態。
この状態から、すでに一手打っている。
…ここから…叩き込む技は…!
「牙突!」
さらに体に纏った”イールグ”で加速し、通常の数倍の速さで突撃する。
これによって、相手は次の行動予測をまっすぐに飛んでくると確信させるが、
そのタイミング、バランス、いかにしてかわす事を、反射的に行動してしまうのがミソだ。
牙突は、その面において、もっとも速く、もっとも避けるに避けられない攻撃!
「くらええええええええええええ!」
直撃!
単純なる頭突き。
されど、その威力は、常人には到底逆らえぬ痛みと加速した分の上乗せしたものが加わって、まるでトゲが刺さったような痛みへと変わる。
「ぐぁっはっ・・・」
そして…俺たちは…倒れた。
バキィ・・・ピキッ・・・
段々と崩れていく空間。
勝者と敗者の上と下。
敗者は…。
この教会と運命を共に。
そして勝者は…二つの世界を…得る。
「くそがぁ!」
俺は、そう叫び…戻って来た。
本当の戦いは…ここからだ。
「こちら、ロシル、応答してくれ」
{…シル…}
反応がある。
俺は、そのまま無線機で、シェイノに話しかける。
「シェイノ、状況は?」
{…げろ…や…あつ…}
「どうした!」
無線機に雑音が入って、うまく声が聞き取れなかった。
しかし、次の瞬間。
{逃げろ!速く!あいつら、集まってきてる…私たちを外側から覆ってた!}
な・・・んだと・・・!?