第四十話 黒いグングニル
混沌に染まりし、マラリア。
夕闇に落ちし、エディアルカ。
・・・そして。
「うわぁああああああああああああああぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
体中を黒く覆い尽くす文字の羅列。
一秒一秒・・・刻んでいくこの黒文字が、全て・・・読める。
「・・・我が、名を唱えよ、我が名は・・・」
-----黒死蝶-----
そう放った言葉は、俺をさらなる闇へと誘った。
俺は、包み込まれていく中で・・・自分を・・・段々と失っていった・・・。
「ハ・・・ハハハ・・・アッハハハハハハハハハハハ!」
「ろ・・・ロシルせん・・・せい・・・?」
「ロシルさん!しっかり!」
抑えきれない・・・この感情の数。
何が・・・どうして・・・止まらない。
トマラセナイ
「グングニル・・・我が槍となれ」
と、俺が言うと、手のひらに黒い文字が集まって・・・黒い長槍が生まれる。
俺は、それを目の前のオリブルへと投げた。
すると、その槍は、物凄い勢いで飛び出し、オリブルへと突撃した。
黒いグングニルは、回転を強めて、オリブルへと向かう。
「や・・・やば・・・」
強烈な爆音を出して、オリブルは小声でそう嘆いたが、グングニルは容赦なく襲いかかった。
グングニルは、伝説によれば必ず狙った相手に突き刺さるとされる槍。
神々しきグングニルの輝きは、無く、闇のグングニルとして生まれたそいつは、ただ暴発にしたに過ぎないのではないだろうか、そう俺は思って、少し様子を見ようとするが、
次に俺は四頭黒龍を伸ばし、オリブルに突き刺す。
「ククク・・・ヒヒッ」
「ロシル先生・・・も、もうやめ・・・て・・・」
俺に飛びついて、腕をしっかりと抱きしめるイユ。
・・・どうして、邪魔をする・・・。
俺は・・・君たちの敵を・・・。
そう、か・・・君たちは・・・君たちは、俺を・・・そうか・・・。
「放せ」
「え?キャッ」
俺は、腕をブンッと振るってイユを突き飛ばす。
すると、イユは尻餅をついて、そこを手で撫でる。
イテテ・・・と声を出しつつ、俺を睨んだ。
同時に、俺はイユに左手をかざす。
「俺の邪魔・・・するな・・・」
”イールグ”を唱える。
仲間であったイユに対して。
俺の憎悪の矛先をイユに向けている・・・のか、俺は。
「ロシルくん!やめなさい!」
ムユがトライアングルアイズを使って、俺を止める。
オーガを呼び出した後に、そのオーガに俺の腕に握らせた。
「・・・君も・・・なのか・・・俺を邪魔するのは・・・」
「邪魔をしてるわけじゃない!そのまんま、闇に飲まれたら・・・あなたじゃなくなっちゃう!今、あなたは誰を背負って生きているの!?ノエルを守る、そう決めたはずでしょ!」
ムユは、俺に対して・・・泣き顔でそう言った。
ノエルを・・・守る・・・。
俺は・・・そのために・・・力を・・・。
「教えといてやるよ、小僧・・・守る力っつうもんは・・・ただ強いだけのもんじゃない」
オーガに握られた腕を見下ろしつつ、そいつは言った。
俺は、驚いてそっちを見る。
「てめぇの根性が、根っこから張り付いて始めて守る力っつうもんが出るんだよ、諦めない、めげない、そんな・・・根性がな」
「ガリッ・・・ツ・・・?」
「王都フォーミル直属暗部・・・ガリッツ=オーデェス・・・どうして、あなたがここに!」
直属暗部・・・!?
どういう事だ・・・?そんな奴が、俺たちを襲って・・・
「小僧、闇に飲まれてぇか?」
俺は、そう問われ、首を横に振る。
すると、ガリッツは、右腕を俺の頭に乗せ、髪を洗うようになでた。
妙なくすぐったさがたまらなく、どこか懐かしさを味わっていた。
そして、手を止めると、
「んじゃあ、闇とはよ決着つけんとな、おら行くでよ」
と、次に黒い左腕を俺に向け、その腕の目を見させられ、俺は・・・気を失った。