第三十九話 エクスクロス
「やぁ・・・今日は特別にあんたら雑魚に、私自らが制裁を下してあげようとしている・・・喜べ」
突如現れて、いきなりそんな事を言い出したタキシード姿の男・・・。
なんなんだ・・・あいつ。
妙な雰囲気と共に、罵倒を飛ばすそいつ・・・どこかでそんなセリフを聞いたことがある。
・・・まるで、操られていたラグナのような・・・。
「私は、オリブル=ドゥ=メリュジーヌだ」
そいつは、堂々とした態度で、シフォンの横に降り立つ。
やがてそこに何かの魔法陣が敷かれ始める・・・。
「早速お出ましかよ・・・8人のメリュジーヌの一人・・・か、能力を使われる前に、叩く!いくぞ、来い!グラム!!!」
俺は、思いっきり地面を蹴って、右手を横に出す。
そして、そこに強烈な風が吹き荒れ、剣が現れた。
その剣を俺は握るわけでもなく、その風に舞い上がらせ、かつその風の中で回転させ、オリブルへと飛ばす。
回転していくグラムを目で追いつつ、その軌道がオリブルへ届くと仮定した上で、俺は手のひらに風を貯める。
「あたれぇええええええええええええ!」
俺は、”イールグ”を唱える。
言葉にならぬ、言葉でなき言葉を発する。
同時に俺の手のひらに風が集まって、大きな渦が丸まっていく。
また、それを放ち、一直線に飛んでいく。
”イールグ”によって生成された風の塊は、勢いがあり、段々とオリブルに近づいていく。
「どうだ・・・!?」
俺は、激しい風によって煽られて、吹き飛ばされてしまう。
オリブルの周りに現れた、三つの黒い星。
それが俺を吹き飛ばし、かつその黒い三つ星が俺に襲いかかってきた。
一つは、火を、一つは、雷を、一つは、風を。
それぞれの攻撃手段が違う中、同時に来たそれを、俺は動けずにただ見ていた。
「(やら・・・れる!)」
体がついていかない。
妙に張り付いた地面についた足が、憎らしく震えている。
多分、さっきの風でひねったんだ。
痛む足を抑え、どうにか立とうとするが、立つことすらできない上、動けないので、よけられない。
そんな時・・・ムユがトライアングルアイズによって、火の黒い星を止め、
イユがトライアングルアイズによって、風の黒い星を持ち前の速さで逆風をふかし、
サユがトライアングルアイズによって、雷の黒い星が逆にオリブルへと跳ね返った。
「トライアングルアイズの三姉妹・・・か、フフフ・・・面白い、実に面白い!さぁ・・・楽しませてくれよ?ガッカリさせないでくれよ?ここからが、正念場だあああああ!!!」
俺は・・・俺は・・・。
「もっと・・・もっともっと力を・・・グラム・・・来い・・・来い!来い来い!グラムゥゥゥゥゥゥウウウウ!!!!」
俺は、自分自身の魔力が段々と薄れていくのを感じた。
先ほどの”エディアルカ”の傷が癒えない以上・・・魔力がその傷口から漏れ出している可能性がある。
魔力源・・・つまり、生命力が、だ。
メリュジーヌという名が、俺が脳裏に焼きついて、それが俺の中に憎悪の塊となっていく。
なんなんだ・・・この感情は・・・。
俺の中から溢れんばかりに出てくる力・・・否、何か。
それらが俺を包み込み・・・言葉として、何かが囁かれる。
「うぁ・・・ぁあああああぁぁあああああああ!」
「体中に文字が・・・ロシル先生!どうしたの!?」
体中に力が入っていく・・・怖い・・・怖い怖い怖い!!!
「うあぁあああぁあああ・・・・ぁあああああああ!なんなんだよ・・・これ・・・」
スゥー・・・という音と共に、その文字が黒刀とかしていく。
それが二つの黒刀となって、さらにそれぞれ二つに分かれて、4つとなった。
「四頭黒龍・・・!?どうして・・・ロシル先生が、エドワードの力を・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・くそ・・・なんなんだよ・・・体中に力があふれる・・・」
溢れんばかりの憎悪が、俺に降り注ぎ、それが俺の体から黒色の文字として溢れてきたのか・・・?
わからないが、妙なオーラが俺を包み込んで・・・きた。
「闇に体を売ったか、雑魚よ」
「はぁ・・・はぁ・・・わけわかんねぇ・・・こんなの・・・ぐぁああああああ!!!」
手のひらに、黒点が集まって、放たれた。
やばい・・・ヤバすぎる・・・なんだってんだ・・・これはああああ!!!
放たれた黒点は、大きなビームのように直線上を進み、近くの建物を大きく包み込んで、溶かすように飲んでいく。
恐ろしく・・・おぞましい光景に、思わず息を飲む。
これが・・・俺から放たれたもの・・・だと・・・。
うそ・・・だろ。
補足説明
闇の売買:自身を悪魔に売る事によって、力を得る方法
エドワードが、その力に一度溺れた結果、魔術師や魔道士の中で最強クラスとなる。
ロシルの使った四頭黒龍は、エドワードの生み出した攻防手段の一つ。
全身に描かれし文字:黒とは闇を示し、文字は呪いを指す。
呪いが溢れんばかりに出てくる事は、その人物に取り付いた悪魔が憎悪を引き出し、力を増幅させているに過ぎない。