第三十七話 逆さのトライアングル
「くらええええぇええええ!」
「フ、速度、威勢・・・まずまずだ・・・しかし」
俺の猛進に全く体を動かさず。
単純に突っ立っているだけのエドワードは、目を瞑る。
そして、俺は風を操って、体を回転させつつ、エドワードの懐へ飛んでいく。
「天吏・守護輪転」
「なっ・・・」
俺は、攻撃をかわされたわけでもなく・・・防御されたわけでもない・・・。
単純に攻撃に攻撃をされ・・・中和させられた。
「な・・・なんだってんだよ・・・」
「お前の攻撃・・・俺の天吏の前では、無に等しいってわけさ・・・これで、終幕だ」
「いや・・・!」
俺のこいつを受け止められるのか・・・?
師匠に教わった、この呪文・・・”イールグ”を。
体中の風が、手のひらに集まり、球体となる。
圧縮に圧縮された風の塊・・・くらいやがれ!
「うぉおおおおおおおおお!」
「な、なんだよ・・・それは・・・!」
エドワードは、それを受け止めようと、グラムを構えるが、あまりの暴風にグラムを持った手が弾かれる。
そして、がら空きになったエドワードに圧縮したそれがぶつかろうとした瞬間。
また・・・カーン・・・という鐘の音のような音が鳴り響いた・・・。
俺は、静かに目を瞑る。
そして、次に目を開けた時・・・また、あの教会のようなところに来ていた。
「・・・なんだってんだよ・・・一体」
「答えを探しているのか、君は・・・いや、君は私だ、つまりは私・・・というべきであろうか、さてさて・・・」
「また・・・俺・・・か、答え・・・ってなんだ、俺が求める答えって・・・」
俺は、目の前にいるステンドガラスに照らされる影にそう言われる。
それに対して、俺は自分に問う。
俺の求める答え。
・・・今思えば・・・俺自身・・・記憶・・・ないんだよな・・・。
俺・・・何してんだろ。
自分の求める答えって・・・それなのか・・・!?
「・・・答えは、わかったか・・・望んだ結果、望まぬ結果・・・君に、それは託された」
「なんの・・・話だ・・・!」
「いづれ・・・わかるだろう、答えなんてもの、本当はいらないかもしれないからな」
「くそ・・・なんだってんだよ・・・おまえは!」
しかし、その問いに、そいつは答えない。
・・・代わりに、俺に手のひらを見せつけ
「プレーステール」
と唱えた。
・・・唱えた・・・?
言葉に発したものは、まるで”イールグ”のように渦を巻き続け、そして・・・”イールグ”よりも大きな風となった。
「やるってか・・・来い!グラム!」
俺の声に呼応して、俺のグラムが生成される。
そして、体中を風が纏う。
「グラム・・・覚醒・・・か・・・面倒だ、これで一気に決める」
奴の手のひらに溜まった大きな風。
それが俺に向かって襲いかかってきた。
俺は持っていたグラムをブンッと振るう。
すると、目の前まで来ていた暴風が真っ二つに切れた。
「はぁ・・・き、切れた・・・!」
「・・・そうか・・・君は・・・まあ、楽しみにしているよ・・・じゃあね」
カーン・・・カーン・・・。
カーン・・・。
響く・・・あの音が。
俺は・・・目を・・・とじた。
次に目を開けると・・・そこは、元いた崩壊した街・・・アビスパラだった。
「戻って来れた・・・か」
安堵と同時に、不安がよぎる。
シフォンは!?シェイノは!?
俺たちの戦っていたガリッツ・・・は?
その時、俺の背後で声がした。
「ロシル!」
「シフォン!」
俺は、その声に反応し、そちらへ向いた。
しかし・・・俺は、喜ぶべき所で・・・喜べなかった。
「すまないな・・・俺・・・こんな事は・・・した・・・くねぇんだけどよぉ・・・手が・・・体が・・・勝手に動いちまうんだよ・・・」
「シフォン・・・お前・・・」
シフォンの目に、輝きはなく・・・。
あるのは、黒き逆さのトライアングルだった。