第三十三話 エキスパート
「相手は、元々王であり、かつ・・・最高級の軍師と呼ばれた男だ」
「最高級の軍師・・・ねぇ・・・」
今の姿からは、一切そういう雰囲気は出ていない。
むしろ、バカに見える。
「一夜に、眠れぬこの今日を、誰が責めようか、今一様にせつに問う・・・何用か」
古風だな・・・おい。
俺は、グラムを掴むが、抜けなかった。
封鎖突破船・・・。
「嘘だろおい・・・軍師ってのは、こんなに力あるもんだっけか・・・?」
グラムを抜こうとしても、抜くことを許されない。
そのグラムには鎖が繋がれていた。
なんだ・・・これ・・・。
それに、この威圧・・・。
何もんだよ・・・こいつ・・・。
「唱えよ、俺に何用だ・・・応えようによっては・・・」
「答えるもなにも、そっちから攻めてきてんじゃねぇか!人質とっといて、よく言うぜ!」
俺は、単身で無意味と分かっていても、とりあえず動くしかないと踏んで突撃を開始した。
しかし、相手の攻撃は来ない。
・・・どういうことだ・・・?
「なめてんのか・・・!うらぁ!」
俺は、接近戦に持ち込んで、右ストレートを相手にかます。
しかし、その攻撃は、相手の眼前で動きを止めた。
いや・・・なんだ・・・見えない壁か何か・・・。
「くそぉ!なんでだ!攻撃が・・・!」
その後も、攻撃を連打する。
右、左、右、左・・・。
俺の攻撃は、相手の眼前、また別箇所にも攻撃は一切通らず。
そして、その間、シェイノは操られてるせいか、その場に立ち尽くしている。
攻撃してくる様子はない・・・。
いや、このガリッツとかいう奴には、そのシェイノの攻撃方法がわからないんではないだろうか。
操ると言っても、その操る本人が技の出し方を知らない限りは・・・。
まあ、こいつが舐めてるって可能性もある・・・。
とにかく、こいつの能力は、あの目が人を操る能力で・・・。
そして、この鎖・・・。
鎖・・・?
「!・・・シフォン、エクダスト・・・だっけか、今ついてるか」
人を操る能力・・・。
そんな単純なもんじゃなかったんだ、あいつの能力は・・・!!!
「何言ってるんだ、お前のグラムについて・・・!?」
シフォンも気がついたみたいだな、こいつ・・・物質移動・物質添加・幻覚付与・幻聴付与・・・。
あの目、すべての事を、操る目なんだ・・・。
「トライアングルアイズか・・・こいつの目・・・」
そう、としか思えなくなってきた。
しかし、なんであいつの肉眼でなく、腕についた目に宿っている・・・!?
そもそも、血族でなければ、受け継がれないと聞いたはずのトライアングルアイズが、チャル家でないはずのこのガリッツという男に付いているのかが謎だ。
「ほう・・・答えを己が求め、出した・・・か、いい応えだ」
さっきから、わけわかんねぇな・・・こいつ・・・。
とりあえず、グラムは抜けない。
このまま連打してても、ラチがあかない・・・。
一旦、身を引き、俺は手を前にかざす。
「俺が、最初にあいつに教わった技だ・・・いくぞ!」
"イールグ"!!!
言葉にならない言葉を、俺は手のひらに力を込めて叫んだ。