第三十話 アドベント
----アビスパラ----
…ドクン…
ドクン…
トク…ン…
ト…ク…
心拍音で、俺は目を覚ます。
…いや、正確に言えば、俺自身が…ではなく、俺の左腕が…だが。
王都…俺が、そこにいたのは、そこだ。
アビスパラと名付けられたその場所は、俺が知る中で、もっとも大きな国だった。
しかし、突如として現れたあのレビナとかいう奴のせいで、王都はフォーミルとなった…。
チクショウ、チクショウ、チクショウ畜生畜生畜生畜生...
「着いたぞ、ここが…アビスパラだ」
そこは…廃墟だった…。
砂を固めた砂岩でできた建造物は、それぞれが崩れ落ち、人が住めるようには見えない。
…本当に街なのか…ここは…。
「昔、ここいらで戦争があった…エドワード率いるアルフェグラが、ここを攻めたんだ、ここはこの島がまだフォーミルとなる前、王都だった場所だ…だから、この島の名前も違った、ここは昔アビスパラだった、そしてそのアビスパラを制す者、それがガリッツ=オーデェスって奴なんだ…あいつは、魔王の左腕っていう黒い皮膚に、尖った肩骨さらに手のひらには魔王の眼っていう相手を操る能力があるもんがついてた上、シニガミの鎌を持ってた…俺が持ってるバルディッシュと似たものだ」
メリュジーヌ並みのチート野郎だな…そいつ…。
メリュジーヌなんて、俺ら三人が手に負えなかった奴だぞ…。
そんな事を思っていると、シェイノが、口を挟む。
旅の途中、空腹を抑えきれないのか、何度か腹が鳴っていたからな、おそらくそれだろう。
「う…ぅ…あ…ふ…」
「どした、言わないとわかんねーぞー」
と、少し嘆きにも聞こえた薄い声は、シフォンの意地の悪い言葉でムッと顔を顰めたシェイノの声だったわけで。
てか、なんか…かわいそうに見えてくるな…
Help me と言っているように、こちらに救いの手を…と伸ばしてくるシェイノの細く小さい手を、俺は手持ちに持っていたバルバーガーとネケコーラを差し出す。
「おい、よせって・・・いきがけでこいつ、散々食べてただろ…」
と、シフォンにそれを止められる。
それを、ようやく救いが!と思ったのか、歓喜の笑顔を浮かべたが、シフォンの腕がその間に入ると、途端に絶望の驚愕なる顔を見せる…。
なんか、本当にかわいそうだな…と、みていると、シェイノがもう我慢できなかったのか、間に入ったシフォンの腕に噛みついた。
「い、いでででぇえええいいいい!お前!それくいもんじゃねぇよ!つか、犬か、お前は!」
「がるるるるるうぅぅぅるるるる!」
何か…うん。
と俺は何ともいえない気分となり、それを見て、ご愁傷様と、手を合わせた。
「ようやく、あいつらが来たか…姉御よぅ、やっちゃっていいんか」
その体格のいい男は言う。
アビスパラは広大な大地に、街が大きく佇んでいる。
村という規模が、1としたら、ここはその5倍は行くだろう。
「ええ、構わないわ…ここで死んだら、私の期待外れってだけだから」
そういった女は、男に対して、右手の平を向け、何かを唱えると、その男の姿が一変。
現れたのは、シルクハットにタキシード。
片目眼鏡に、上品な白い布を胸のポケットにしまい、そして白い手袋に、黒い靴を履いた紳士服を纏う男であった。