第二十八話 エクダスト
そこには、男と女がいた。
廃墟となった建物に、いた彼らは…雨に打たれつつも、何かに歓喜を得たような
柔らかい表情を残していた。
「…ああ…、そろそろ止むな」
「フフ、嬉しそうね」
「そりゃ…そうだろ…お前、だってようやく…終わるんだぜ」
「そうね…じゃあ、私は先に行くわ…じゃあね ロシルくん」
そういって、女は目の前にあった黒い穴に落ちていった。
「ハッ…」
…な…なんだ…夢…か?
くそ…、今まで忘れていたが、俺は…記憶がないんだ…断片的に繋ぎ止められた記憶と記憶が、
何かで接触したとして…今のはなんだ…?
ロシル…女はそういった。
それに、あの姿は…ノブ子…もとい、メリュジーヌだった…。
だが、名を呼ばれたと思われる俺は…敵意なんて…微塵も発していなかった…。
どうなってるんだ…。
「ようやく起きたか、ロシル」
「…ああ…なんだよ、城の工事はどうしたんだ…シフォン」
そこにいたのは、長身の黒いフードに、チェーンの上着を着た男、シフォン=ノイスクランチだった。
「オアシスに行くんだろ?…なら、俺も同行する…あそこへは、お前じゃあたどり着けない上に、迷子になられちまう」
そういって、シフォンは、俺にハンドガンを渡してきた。
…ベレッタ90-Twoを渡してきた。
「これは?」
俺の問いに、シフォンは自分の背中のあった黒色の鎌を取り出した。
そこには、鎖が伸び、シフォンの腕に絡みついた。
「俺の愛用だったものだ、お前に貸す…今回の戦いは、魔術が発動不可だからな…そいつがあると、心強い」
魔術なんてもん…俺は使ってないんだが…。
魔術師の見習いってのは…魔術を使うと思われてるのか…?
「とりあえず、準備はできた」
シフォンは、さらに壁に立て掛けられていたショットガンを持つと、俺にこういった。
「ロシル…俺は…お前に、エドワードの面影を感じるんだ…だから、お前は、メリュジーヌに」
「やめろ」
シフォンが、俺に対して抱くもの…それは、一体なんだろうか…そう思うけれども、続いて出たメリュジーヌの名前が、俺の気分を損ねた。
なんでだろう…あの夢のせいか…強気な態度が取れない…。
俺の記憶に、あいつがいる…。それが何を示すのか…まだわからないけれど…。
俺がメリュジーヌと会ったのは…あの時が初めてだ…。
記憶ってのは、過去にあるものであって…。
「…」
「どうした、何か考え事か?」
俺の記憶の損失に…メリュジーヌが関わっている可能性がある…あいつなら、あり得る気がしてきた…。
記憶に浮き出たあいつの顔…あれは間違いない。メリュジーヌ本人だ。
ロシル…その名は、俺のもらった名だ。
元の名がそうであるとは限らない。
なら…この記憶は、先の記憶…つまりは、"予知されたもの”なのかもしれない。
…考えすぎか。
「…いや、なんでもない さあ、行くか」
シフォンは、俺の何か納得しない表情を読み取ったか、何も言わず、肩に先ほどの鎌を回し、そして、絡みついた鎖が赤い光を発した。
「それは?」
俺が尋ねると、シフォンは、それを掲げ、
「…エクダストって言ってな、こいつがあると投影武装を実物武装が変換されるんだ」
変換…つまりは、先ほどの話だと、投影武装もまた使えないということか
「…俺のグラムは?」
まず先に、その使用不可という事をさとると、俺はすぐにそれを考えた。
「グラムには、元々エクダストがついてる…実物武装以上の実物武装、神が木に差した剣なんてもんの本物だ」
空想の武器が、仮想で生み出された結果、それは本物となる。
ということか。
「わかったら、行くぞ…ノエルと一緒に行かないつもりなんだろ」
「…ああ」
と、そこで、意外な人物が顔を出した。
身を白銀の鎧で囲い、さらには青い髪を綺麗に靡かせ、黄金に輝く眼をこちらへ見せる背の低い少女…
「シェイノ?」
そう、男嫌いで、男勝りな少女、シェイノ=チャルだった。