第二十七話 封殺の剣
「やあ、ロシルくん、君に届けは届いたようだね」
そこにいたのはラグナだった。
あの戦以来、性格がもとに戻ったとかで、今の口調に落ち着いている。
ラグナは、俺に「グラムの封印を解く」という事で、砂漠にあるオアシスに向かうように仕向けた。
その意図を探るために、封印とは何かを知るためにわざわざ壊された宮殿をノエルとシフォン他、避難民たちが修復している所にお邪魔した。
ノエルと俺は宿に泊めてもらっていたのだが、ノエルは修復を手伝うといって、ここにいた。
しかし…周りの目は、ノエルを見ては、ニタリと笑い、何か狙っているように見える…。
そこを、シフォンが隠すようにノエルを遠ざけては、自分の作業に戻る。
ノエルは呪文 エアルを自在に使って、物体を浮かべてそして組み立てる作業が忙しいようで、視線に気が付いていない。
・・・大変だな、お前も。
「ああ…ラグナ、あんた・・・もう体はいいのか?」
ラグナは、戦いの最中に受けたダメージを受けて立つこともしばらくはできないとされ、そのため他の人の力を借りるぐらいしかできなくなっていたのだが、今彼は玉座を立ち、崩れた柱に手をついている。
そして、こちらを見て、その童顔の唇を緩ませる。
「心配性だね、ロシルくん・・・ああ、君たちのおかげか、僕はこの通りだ…ただ、こうやって何かの支えがなければ立っていることはできない・・・元々体が弱い方なんだが、彼女・・・つまり、メリュジーヌ郷が、そんな僕を見かねて・・・まあ、今になってみれば、それが罠だったのかもしれないが…催眠術をかけて、随分と楽になっていたんだよ」
そんなラグナを見て、確かに今の姿と前の姿の豹変プリはかなりの差が感じられた。
好戦的で、挑発的。
権力に溺れた愚かな王と、世間から冷たくみられるだろうと思う姿と、
冷静で、優しい。
それでいて、権力などというものにしばられるわけでもなく、温かい眼差しを民衆に振り撒く陽気な姿には、とても同一人物であるという確証は得られないだろう。
しかし、それは同時に体調の変化にも影響し、体の弱くなった今のラグナは、通常の怪我が恐ろしく免疫がないのだという。
この国にいる医者は数名。
特にこの国は代々戦争家らしく、他国からの冷たい目があったそうだ。
一言で言えば、戦争国家。
その言葉を聞いて…俺は何故か違和感すらわかず、むしろ当然なのだと…思ってしまう。
「…それよりも、ラグナ…例の、グラムの封印…ってのは?」
やはり、といった顔になったラグナは、自身が握っていた紙の入った瓶をこちらへ投げてきて、それを受け取る。
「そこに、グラムの封印式があった…昔、エドワード氏がもしもの場合と本来なら…魔導師としていたノエルちゃんに渡されるもの…けれど、彼女はグラムを拒んだ…魔術師として…グラムは使えないと言ってね」
そういいつつ、思い出すように俯く彼。
そして、俺はその渡された紙を見る…。
「君には…どう見える?」
その渡された紙…本来なら、どうともいえないはずだが…俺には…わかってしまった。
「『怒り』…『竜の怒り』って書いてある…」
グラムを見る。
そこにも文字がちらほらを掘られている。
『我が怒りを受けよ、グングニール』…か。
「読める…んだな」
その言葉にして、俺自身も驚いた。
読める自覚すらないのに、どこかで見たことがあるから…といったら、おかしいのか、読めた。
「封印を解くには、それを受け取る必要がある…おそらく、怒りとはグラム自身のことかもしれない…オアシスには、それらが詰まっている…まあ、危険は多いがな」
「…わかった、そういうことは理解した、だが俺は…一人でいく」
そう、もう…あいつに…迷惑はかけたくないし、あんな嬉しそうな顔を見た後なんだ…もう少し、笑顔を見ていたい。