第二十五話 メリュジーヌ
「さあ、来なさい?相手してあげる」
メリュジーヌは、目を細めて、口を緩め、さらに左手をクイクイと曲げ、挑発してきた。
ノエルは、それに対して激怒し、人差し指に、風を積もらせる。
俺は、シフォンと共にお互いの武器を振るってメリュジーヌへ向かう。
「フフ、いいわねぇ、好きよそういう闘争心に駆られる人」
「るっせぇ!てめぇのその減らず口を、減らしてやるよ!」
メリュジーヌの付近に佇む八つの首を持つ蛇がそれを迎撃しようと突撃する。
俺はそれをグラムで受け、そして跳ね返すが、次の攻撃によって押し返される。
シフォンは他の蛇の相手をするが、3対1では太刀打ちできず同じく吹き飛ばされてしまう。
その後ろでノエルは”イールグ”を放つ。
俺を押し返し、そのまま投げ飛ばした蛇の顔に直撃し、大きくひるむ一匹の蛇。
「ノエル、やるようになったわね~…八岐大蛇に対してダメージを与えるなんて」
「なめんじゃないわよ!これでもあんたよりも勝る強さなんだからねっ!」
「へぇ、何が勝ってるっていうのぉ?あぁ…そのお乳様かしらぁ?ちょこっとの差で私の勝ちよ、諦めなさい」
と、二人は、互いに胸を張りあう。
…なんていうか…そんな気になる所か?
そんな事を俺は考えつつ、目の前にいる蛇の対処に移るが、思った以上にやるな…。
連戦のせいで、かなりの疲労がたまった上にこんな強敵相手…無理あるぞ…。
俺はもはや根気だけで体を動かしているぐらいだ。
フラフラになりつつ、グラムを振るうがその力は衰えるばかり。
このままじゃ、時間の問題だ…。
「くぐ・・・ぁ・・・」
「ロシル、諦めんな!粘れ!うぉっ・・・!」
「やられてんじゃねぇか、お前も頑張れよ!粘れよ!」
そういって、俺は油断していた体を立て直したが、シフォンは一気に3体を相手にされているために、実力を発揮できないどころか、まともに対処できない。
そのため、一番余裕があるのが、ノエルだが…あれは…空元気だろう。
先ほどの取っ組み合いに加えて、三姉妹の戦い、さらにはシフォンとの戦い…ここに来るまでに使った呪文の数々…。
生命力を維持できるかというと…あの小さな体に到底できないと思える。
「フフ、ダメねぇ…それじゃ、話にならないわあなたたち…少しはできると思ったんだけどねぇ…それじゃあ、ウード以下ね」
そういって、メリュジーヌは心底残念そうな顔をする。
一体あんたは何がしたいんだ。
しかし、その言葉の後半につられたのか、ノエルがその名前について問う。
「ウード…!?あんた一体何者よ…!」
「今更それ、聞く?私は、大魔女の名を継ぐ者…メリュジーヌ…その何物でもない、日の終わりに我が肉体は生まれ変わり、そして日は巡る人として、エドワードさんを支え続ける者…フフフ、ハハハ!」
突然笑い始めたメリュジーヌ…。
それを不気味に見る俺たち…。
そして…日は落ちる。
メリュジーヌの背後に、月が上り、そして俺たちの背後に太陽が落ちていく。
すると、段々とメリュジーヌの体に異変が起きていく。
「満ちる…満ちていく…私の素顔…最後の最後に、愛したエドワードさんに見られてしまった…フフフ、アッハハハ!お前らはワタシを見てしまった…普通なら今ここでコロスけれど…今度にして あ・げ・る★」
と、言い終えたと同時に爆発音が鳴り響き、左右の壁から巨大な蛇、そして天井すら崩れて来た。
「残念だけど、そろそろお別れね…ロシルくん、あなたには教えておいてあげる私の子、8人のメリュジーヌが、いずれあなたたちを襲う…楽しみでしょぉ?でも、油断しちゃダメよ…私を超えるなら、倒したいのなら、その子たちを倒しなさい、それが私が最後にあなたに教えてあげられることよ、師匠を忘れないでね♪それじゃあ、1の呪文、返してあげる…それないと、あなた弱いもんねぇ」
崩れゆく城の中、メリュジーヌは俺の所だけを安全地帯にし、そう続けていく。
「どうして、俺なんだ!俺に…何ができるっていうんだ!」
俺は、そういう。
怒鳴るようにそういう。
しかし、その言葉は…おそらく的外れだ。
こいつは…楽しんでやがるのだから。
「ま、勝手に自分で考えなさいよ、あなた自身の抱える問題に興味なんてな~いし、まあ私に勝ったら、教えてあげるわ~?」
メリュジーヌは、そういって、いつの間にか持ってきていたエイピロの死体を蛇に絡ませ、そして首元に噛みつかせる。
すると、エイピロは痙攣したかのようにビクビクと体を震わせる。
な、なんだ・・・?
まるで生きているようだぞ…?
「私のラ・ビネスチェにかかれば、死を無くすことすらできる…ラ・ビネスチェは私が悪魔から奪った能力…そして、今は私の能力…あぁ、いいわぁ…これが、無敵の力…ククク…あなたに返すって言った1の呪文、じっくりあなたの中で…炒めて熟して、そして返しに来てね、楽しみにしてるかぁ~ら」
そして、カプリとかみついていた蛇の首がこちらを向く。
その歯からは血があふれ出ている。
エイピロの首元からも、その血が出ている。
…生きている…?
どうしてだ、今さっき死んだはずだ…。
「ラ・ビネスチェ…まさか、不死っていうのは…」
「あぁ~もう、何でも聞いてくるわねぇ…そうよ、ラ・ビネスチェは不死の力を与え、そして加減するスキルも個々によって与える最強の呪いよ・・・よって、このエイピロも死してなお、息絶えることはない、これこそが不死・・・して、歳を取らない・・・永久の美、それこそが不死だと思わな~い?」
俺が問う事に苛立ちを覚え始めたのか、そんな口調でいってきた。
俺は、それに対して少し身を引いた。
が、俺の背後に崩れた瓦礫が落ちてきたので、前に身を出すと、目の前まで来ていた蛇に首を噛まれ…。
「ぐぁ…っぁ…」
噛まれた瞬間に体中に広がる脱力感…そして、喪失感から満ち溢れる満足感…。
何で…なんで…満たされていくんだ…。
痛みはない…むしろ、快感に近い…。
まるで…それが幸せに感じるだけで…麻酔を打たれているかのように…
「白蛇には、甘いあまぁ~い麻酔効果があるのよぉねぇ…ま、快感になるだけだから、いいだろうけどさぁ?前にそれしすぎて中毒になった人いるのよねぇ…ま、これで返したから、じゃ」
そうして、メリュジーヌは…去った。
一瞬で…そして、エイピロも…。
俺は…崩れゆく瓦礫の中に…倒れた。
(ここは…どこだ…)
見渡す限りに、赤い世界…。
所々には絵具を塗り手繰られたようになっている。
…冗談だろ…。
口が…開かない…いや、開けない…。
…ここは…どこ…なんだ…。
「目が覚めたか、オーナーがお待ちだ、来い」
(…オーナー…?)
俺はそう告げられ、体勢が低かったのが、自分が寝込んでいたのだと悟ると、すぐに立ち上がろうとする…すると、そこには…
「!?」
切り傷だらけの腕。
体を見渡すと、所々に付けられた鉄筋が刺さり、また鉄で部分的に埋められた部分から血が漏れてもう…焦げたような色をして乾いている…。
「行くぞ、ルーク…急げ」
ルーク…俺は…そういう名前…。
そう、認識すると、俺はそいつについっていった。
そいつは、黒い表装に身を包み、目が赤く光っている以外まったく表情も読み取れない…。
…くそ…一体、なんだってんだ…。
堅く閉ざされている扉を開けると…そこから一気に光が漏れ始め…
そして、オーナーらしき者が現れた…。
「やあ…君が、ルーク…ルーク=ウォリアーだね」
そいつは、事務椅子に座っていた。
顔はつるっぱげで、目にはゴーグルをつけている…首元からは、俺と同じような鉄が付けられていた。
他は、紳士服を着ている。
「あんたは…?」
俺はようやく動いた口で、そういった。まだ慣れない…。
「クェイ=ガレー…ここで、オーナーをしている…ここ…まあ、つまりはこの島の名は…ガレー島…そして、君は選ばれた…私に一つ…貸を作ってみないかい?」
なんだか妙な話だぞ…こいつ…貸だと?
「ふざけるな、大体なおm…」
「口を慎め、機甲風情が」
俺は先ほどの黒い表装に身を包んだ奴にそういわれた。
声はロボットのような声だ…。
ただ、男…?と断定できる。
ついでに、俺の背中にどこから出したのか、刃物を突き付けてきた。
こいつ…しかも、この目の前の奴…。
強制かよ。
「…わかった、ただし…条件がある」
俺は、そういった。
ついで、またあいつの口が挟まれると思ったが、今度はクェイの方が早かった。
「ほう…どんなだね」
そいつは、笑みを浮かべている…。
フ、どうせならドでかい事言ってやる…。
「俺が望むもの…それは…」
(第二章に続く)
第一章…ようやく終えました…
次回から第二章です!
第一章でメリュジーヌという目標ができたロシル一行。
彼らは今後どうなっていくのか。
そして、メリュジーヌの本当の目的は…?
最後にあったあの話と、あの赤い部屋とは!?
第二章…こうご期待