第百三十四話 仁義
「俺は、仁義を示す、ただそれだけだ」
「仁義だぁ?何を言ってんだ」
仲間を傷つけ、そして俺の自尊心って奴を傷つけられた。
それだけで、このニライカナイを使うに値する。
ああ、こいつには・・・全力を持って終わらせる。
今より俺は…仁義を示す。
シフォン、シェイノ、そしてコトハ。
俺は…オレハ…
「ヴァララララライ!」
「な、なんだこいつ…急に叫び始めたぞ」
次の瞬間、毛むくじゃらのそいつは、突然に速度を上げて、こちらへと向かってきた。
プライヴァス・・・こいつのニライカナイって奴は、理性を失う代わりに身体能力を向上させる物か!
速度が人のそれではない。
「次元っ…」
「ヴァアァァァイ!」
ドガァンッ!
激しい衝突音と共に毛むくじゃらのプライヴァスは野生の腕をあるがままに振るう。
ルアトクアトの身体は激しく地面に叩きつけられながら転がっていく。
城壁にぶつかり、ようやく動きを止めたが、上からの瓦礫が落ちてくる。
「次元扉穴!」
自分の密着する地面に穴を開け、瓦礫をプライヴァスの背後から向かうように、
穴を繋げる。
「ダァァイ、ダァァイ!」
瓦礫がプライヴァスを貫く。
同時に、プライヴァスの腕がルアトクアトを掴む。
ザクザクッと刺さっていく瓦礫。
「くそっ!この化け物めが!はな・・・せ!」
「ダァァァァァァァァァァァァァァァァァッァァァァァァァァァァァァァァッッッッァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアイ!」
アア、シフォン、ニイチャンハ…ジンギヲ…示せた…ぞ
握り締め、ルアトクアトをつぶす。
毛むくじゃらの手に、真紅な液体が勢いよく飛び出る。
直後に、腕の毛がなくなっていく。
「ジジジジ...かんだ…俺の仁義は…仲間も失わず…はぁ…勝つって事だ…」
刺さった瓦礫が身体から抜けていく。
だが、そのダメージは非常に大きく、プライヴァスの体力は限界に近づいていた。
その場に倒れ、城を見上げる。
「コトハ…後は…頼んだ…ぞ」
そこから、プライヴァスの意識は失われた。
---なあ、教えてくれよ兄さん---
ああ…。
---どうして、父さんと母さんは…---
…彼らは、旅に出たんだよ。
---そうじゃない、どうして---
---死んでしまったの?---
「…まだ、終わる時じゃないぞプライヴァス」
「そうね、プライヴァス?シフォンはあなたを待ってるわよ」
そこには、夫婦がいた。
一人はオーヴァル・ノイスクランチ。
かつてエドワードと共に戦い戦死したとされた男だ。
もう一人は、レビナ・ノイスクランチ。
彼女もまた、エドワードと共に戦ったが、オーヴァルと同じく戦死したとされていた。
その二人は茶色のコートに身をまとっていた。
オーヴァルはプライヴァスに手を置く。
「レビナ、回復準備を」
「ええ、準備はできているわ」
二人は、魔導師ではない。
しいていうならば、魔法使いである。
魔法とは、その人の”力”を使って様々なものを生み出すものとされているが、
彼らのそれは違う。
魔法を使うのに、クリスタルという物を扱う。
クリスタルを割ることで、その力を発揮するのだ。
パリンッという音と共に、緑の光がプライヴァスを包む。
すると傷口が段々と治癒していく。
「それじゃあ、行くとしようか、ノイスクランチ一家の一人を取り戻すために」
「ええ、行きましょう」
二人の魔法使いの行動は開始された。