第百三十二話 女帝の降臨
「わかった、ではそろそろ俺も出るとする」
玉座に座る男、バーグとその隣に立つ男オーヴァル。
二人の王が存在する国はこの国だけだ。
統括する王が二人では、示しがつかないとはじめたのが、
王と代表という二つの役職だ。
戦闘に立つのは代表、先頭に立つのは王。
彼らはそう決めた。
そうして、後に王降臨祭にて、正式に選ばれた王
それが、オーヴァル=ドルグレだった。
故に、こうして今経つバーグは、
偽王と呼ばれた。
「バーグ、試作品をあまり手荒く扱うなよ?」
「わかった、そうする」
双子のドルグレ兄弟。
青い髪と緑色の目。
長い髪を後ろで結んでいるのは、
兄バーグ。
短髪で右目に傷を負っているのは、
弟オーヴァルだ。
偽王は歩み、扉の外へ向かう。
謁見の間では、王の前に立つ事を許された者のみが入室を許可されている。
今、この場にはドルグレ兄弟と報告をしにきたルアトクアトしかいない。
「ルアトクアト、貴様には侵入者をやってもらう」
「承知」
ルアトクアトは、赤い装束を揺らしてすぐに消えた。
ルアトクアトの能力。
それは、短刀を使って次元を裂くというもの。
出入りは自由だし、
応用で相手の背後に陣取る事もできる。
彼はこれを 次元扉穴 と呼んでいる。
「次元扉穴」
「相変わらず・・・便利な能力だよなぁ・・・」
「兄、例のニホン軍が国旗を挙げて攻めてきているという報告があった」
「そうか、では我ら狼煙を上げるとするか」
テーマパークとしての役割を担う一方、
軍事武装も兼ねたスタッフたちが、敵の攻撃に備えている。
そんな中、突如として大きな警告音と共に狼煙が上がっていく。
悲鳴、轟音、そして歓声。
夥しい量の音が、その場所に響き渡る。
「さぁ、いくぞ!」
「うぉおおおおおお!」
兵士が一斉に走る。
島の周囲には、機械の鳥が飛んでいる。
それを迎撃するために用意された砲台から射出される砲弾の嵐。
しかし、当たる気配はまるでなく、ただ闇雲に弾を減らし続ける一方、
機械の鳥は、その体から弾を飛ばしてきている。
ドルグレ軍は太刀打ちできずに、次々とやられていく様をどうしようもなく眺めるだけだ。
「くそっ!どうなってやがる!ニホン軍は新兵器を作ってやがったのか!?」
「焦るんじゃない!きっと手はあるはずだ!持ちこたえ...うわあああああ!」
「ノイ中佐がやられた!」
ドルグレ軍の混乱は続く。
<-ドルグレ北部->
「なに?ニホン軍に南部を制圧されただと?」
「はい、兵士たちの反撃も虚しく…申し訳ありません」
「いい、報告はそれだけか?」
「ええ」
ドルグレ軍の拠点の一つ 右白鳥城でウィッタ大佐に報告をしていた伝令は、その報告を終えるとすぐに
持ち場へと戻っていった。
ウィッタ大佐は、その場で溜息と苛立ちを抑えていた。
苦しむ兵士に、自身はどう命を下せばよいのか。
未だかつて自身の兵を戦場で無駄死にさせた事がないと自負していた彼だったが、
その心は今や折れかけている。
「・・・あぁ・・・くそ!ニホン軍めが!まだ戦いには早すぎる・・・だが、こうなってしまって仕方なかろう」
ウィッタ大佐の目の前にあったのは街の光景が見えるモニタと、
赤いスイッチ。
危険と書かれたそれを、彼は握りこぶしで叩いた。
同時に、アナウンスが流れる。
{コード:プロミネンス 発令}
「マザーコード 382を」
{受諾コード:382 秘密コード 承諾しました}
「あぁ、いよいよ始まるぞ…頼むから、あまり破壊しないでくれよ…19932…」
モニタには、濃い青色の髪で、長髪の裸の女の子がカプセルから目覚める姿が捉えられていた。
「いや、今はこういうべきか…シェイノ・チャル」
「お父さん・・・?」
モニタ越しではない。
モニタが上へと上がり、そこには大きなガラスとそれ越しに先ほどモニタリングされていた彼女が見えた。
父といわれたウィッタ大佐は、シェイノの顔を見て微笑む。
その顔は、仏頂面から一転して、優しい父親の顔だった。
やがて、彼女を閉じ込めていたカプセルが回転して、開く。
中から彼女が滑り落ちるように出てくると、急いでウィッタ大佐は駆け寄る。
「すまない、シェイノ…また君に頼みを聞いてほしいんだ」
「いいよ、お父さんの言うこと、ボクはなんでも聞いてあげる」
「あぁ・・・ありがとう」
シェイノの目は普段緋色で普通の黒目をしているが、
そのときの彼女の目は、三角の黒目をしていた。
「女帝の銀猫」
彼女がそういうと、ウィッタの背後に白い空間が開く。
否、それを白い空間と呼ぶべきだったろうか…。
こう呼ぶべきだろう。
白い炎と。