第百二十九話 夢幻天承(むげんてんしょう)
「な、なんだと!?同じ奴が二人!?」
「…」
「へっ、僕は既に力をつけ過ぎたようだな」
分身体はしゃべらず、ただそこに突っ立ている。
が、こいつが鎌を振るい飛ばした事に間違いはない。
だが、どうして…何の抵抗も見せぬのか、
それがクリスには理解できていなかった。
何故か、その分身体にそれができぬと考え得る程に意志を感じなかったからだ。
「『血辱の鎖』!」
その分身体に血の鎖が結ばれていく。
力なく、その鎖に結ばれた体はだらりとしていた。
それにまた血で作った鎌でトドメをさそうとする。
今度は邪魔もなく、首から肩へとその鎌の刃が通っていく。
「・・・あっけねぇ・・・なんなんだ・・・」
「・・・」
取れた首。
その肉体はさらに力なく鎖にぶら下がるだけだ。
だが、
「あ・・・ぅ・・・さ・・・ま・・・」
「!?」
その討ち取った首は、山羊頭ではなく、ただの女の顔だった。
「そ、んな・・・お前!いつから!」
「えぇ?なんの事だい?その子は最初からそこにいたじゃないか」
その顔の主はオードリー・コッパー。
ジャスティス=デストラクションと名乗っていた兵士だった。
クリスの顔が歪む。
憎悪に塗れ、次第に膨れ上がったそれは鎌の刃を鋭く太くさせた。
「貴様ァアアアアアアア!」
「夢幻天承!」
鎌がロクロブロンスに触れようとした途端、
クリスは倒れこむ。
同時に血の鎖は粉々になり、ロクロブロンスは放たれた。
「夢の狭間を彷徨い続け、君の世界を永遠と謳歌し続けるがいい…」
夢幻天承
それにかかった者は、現実に帰る事のできぬ永遠の眠りにつかされる。
不死身のクリスも眠りには勝てなかった。
「これで、後1国のみ」
ロクロブロンスの侵攻は、止まらない。
世界の4分の3は全てロクロブロンスの領土と化してしまった。
そんな中、ドルグレ島ではさらなる事件が巻き起こっていた。