第十二話 バルディッシュ
俺は、なんて…無力なんだ…。
つくづく思う。
けれど、この剣を持った瞬間、それが吹っ切れた。
ノエルは…五つの剣を、それぞれ違う形のそれらを3つを盾に、2つを攻めに使っていた。
…その時、指の動きは、親指 人差し指 中指を第一関節から手のひらに平行になるように曲げ、薬指 小指は、まっすぐに向けていた。
五つの剣を扱っていたのは、指…。
でも、指でどうこう支えられるものなのか…?
「本来なら、それはそうやって使う物じゃないんだろう?ノエル…どうしてお前は、そうまでして助かろうとする、無力であれ、そして苦しむな、俺が今…楽にしてやる」
「やるものなら…ね」
シフォンは、目を閉じ、そしてパッと目を瞬時に開けると、そこに何かで吸いつけられるような威圧を放つ。
殺気だ…。
これが、こいつの本気…。
まるで災害じゃないか…。
あいつのついてる陸地は、その恐ろしさのあまり、すべて荒廃している。
それどころか、生命すらも消滅させている。
草が…泣いている。
嘆いている。
聞こえてしまう。
それほどに、こいつは…強大だ。
「さあ、どこからでもかかってこい!」
「言われなくとも!」
俺は震えることしかできなかった。
被弾を防ぐ?冗談はよしてくれ…。
こんなの、防ぎようがないじゃないか…。
手が怯えて動かない。
剣だって、手が麻痺してて、持ってるのかさえあやふやだ。
あんな奴にかなうはずがない。
俺は、そういいきかされたように感じる。
怖い…恐ろしく怖いのだ。
俺は、俺は無力だ…。
ただ、彼らを見ているしかできない…のか…?
「ヒャッハアアア!」
「くっ、ノブ子!」
「キャアアア!」
あの二人にしてもそうだ。
敵うわけないんだ…。
どうして…どうして…。
シフォンは、鎌の刃ではない方を回して、ノエルの腹部を圧迫する。
そして、そのままこちらの方へと飛ばす。
ノエルは、そのままこちらの方へと来る。
それを俺は、体で受ける。
ノエルの体は思った以上に軽くて。
「う・・・うぅ・・・」
「どうして…そんなになってまで…も、もういいだろう…?」
「…フフッ、震えてるの?大丈夫よ、私なら…」
どうして、そこまでして…。
けれども、彼女は立ち上がる。
腹部を抑えて、血を吐きながらも、懸命に。
男の俺が…それを見上げる。
その姿は、とても死を恐れず。
そして、決して勝利を望んでいなかった。
ただ、孤高であった。
誇らしく思えた。
姿そのものが、戦士に見えた。
けれど、少し震えていた。
怯えている…?
いいや、武者震いか?
…俺にはわからない…。
そして、ノエルは体勢を低くして、地を蹴って、シフォンへ立ち向かう。
本屋さんは、草を掴んで、それを空へと投げる。
当然そこまで飛ばない。
それでも十分だった。
本屋さんは、それらに指先を向け、そして力強く手をシフォンの方へと向ける。
すると、弱弱しく空に飛びだったはずの草が、鋭く尖り、そして回転を始めて、
そしてそのまま
シフォンへと突撃する。
「ノブ子…お前もなのか」
シフォンに刺さる瞬間、草は力を無くしてそのまま落ちつつ、だんだんと枯れていった。
そして、シフォンは、構える。
『バルディッシュ』を身構える。
あの構えだ…。
衝撃波を放つ…あの構え。
「くそっ…」
避ける?いいや、そんなことを考えるな…。
「き・・・れ・・・?」
何を…言っているんだ。
俺は。
俺は…どうかしてしまったのか?
そもそも、衝撃波を切るなんて…。
…剣でか。
「お前なら、やれるだろ?ってか…」
剣は語りかけてきた。
いや、妄言なのかもしれない。
けれど…やってみよう。
「ノエル、諦めろ…これで、終わりだ」
「く…(体がもう、動かない…魔力の使い過ぎね)」
「…残念だg「ノエル、退け!」
「!?」
シフォンは、身を退いた。
それもそのはずだ。
俺が、ノエルの上を飛んで両手で掴んだ剣を思いっきり振り下ろしたのだから。
シフォンのフードコートに切り傷を残した。
切れる。
俺は…切れる!
「ちっ、怯えてれば生かしてやったものを!」
「喰らえ!」
俺は、そのまま剣を横に。
そして、地を蹴って、振る。
シフォンに、攻撃の隙を与えなければ、『バルディッシュ』の攻撃範囲は、直径2m程度。
それを考えても、いいけれど、それよりも攻めて攻めて、あの鎌を振らせる隙を与えなければ!
「うぉおおおおおお」
「フン、なるほど、俺の『バルディッシュ』を塞ぐ方法か、だが…」
「なっ」
シフォンは、自ら『バルディッシュ』を投げて、回転を加えて俺を蹴り飛ばす。
「うっぐぁ・・・・」
「俺の攻撃方法を、こいつだけだと思わないことだ、いい方法ではあるが…爪が甘いんだy…」
「それは、お互い様よね…シフォン…」
シフォンは、武器を投げあげたとき、本屋さんがそれを取り、そしてノエルに渡し、それを後ろからシフォンに突き刺したのだ。
「はぁ…、はぁ…、シフォン…あなたの負けよ」
「…くそ…ノエル、お前…」
ノエルは…刺した『バルディッシュ』を押し込み、そして地面に突き刺す。
その刃先は俺の目の前の地に突き刺さり、そしてシフォンは刺された腹部あたりの『バルディッシュ』を掴む。
すると、『バルディッシュ』は徐々に姿を粉状に変え、そして消える。
シフォンは、その場に力なく倒れこみ、ノエルを見上げる。
「…」
恐ろしくもあった強敵シフォンは、塞がらない傷の風穴から溢れる血を抑えつつ、フードコートの内ポッケから、何か小さなものを取り出して、地面にたたきつけた。
「わっ!」
「きゃっ」
その場にいた俺たちは、その小さなものから発せられる光に目を隠した。
…次に目を開けると、そこにはシフォンの姿はなく、ただ血痕だけが、そこにはあった。