第十一話 シェイノ
「宜しいのですか!?あいつは…あいつは、重罪刑を受けた犯罪者ですよ!?」
「かまわん、シェイノ・チャルを解放しろ」
「…何が起こっても、我々、処罰人は何も責任を問わない。これは覚えておいてください」
「百も承知だ」
私、ラグナ・フォーミルは…国王として、国の裏切り者を管理している監獄の裁判官、パトリオンを扱える。いや、国そのものを動かす権力を持っている。
…しかし、問題があるとすると、世継ぎだ。
私は、ここから…王宮フォーミル城を動くことを禁じられて、ずっとここにいる。
そのため、他の場所からの使者に、使い物を頼む。
酒、遊具、そして女…。
皆、私の動くことなく手に入る。
しかし、そんな私でも手に入ることがならないものがある。
…ノエル・フォート…。
あの娘を、妃にしようという考えを、私の絶対権限を振るっても、あいつは動かない。
いいや、破棄すらしようとする。
権限を振るう暴君に、抗うというらしい。
ククク、まったく。楽しいものだ。
ここまで抗う女は初めてだ。
国王の命令とあれば、平気で体を差し上げてくる女共と違い、金にも目がくれず、ましてや権力者というものすらも、捨ててしまうような、そんな愚かな女。
それをどうしても、手に入れてみたい。
あぁ、それこそ至福であろう。
きっと、こんなつまらない宮殿の永遠のペットとして生きる惨めな姿を、私は想像していたろう。
ああ、愉しい、愉しい。
麗しい、麗しい、麗しい。
思わず笑みがこぼれる。
…しかし、最近現れた見習い魔術師とかいう奴が、ノエルの元にいるという。
魔術師は、跡継ぎのために魔術回路をつなぐ。
そして、魔術師は、100の呪文を手にしたものを言うが、その権限を移す時、100の呪文をも失う。
実は、100の呪文というものは、継いだ魔術師の1の呪文とされ、そして継がせた魔術師は、自らの使命を全うし、安らかに眠りにつく。
死という物に似たものだ。
凍結。それに相応しく、生きたまま、そのままを保って肉体から引き離された精神のみが、天に召される。
そして、新たな命として、再びこの世に舞い戻り、赤子として母体に宿る。
…人間のシステムは、それと同じようなものだろう。
肉体に有限はなく、作り出すことができるが、精神は有限。
それが、このシステムの関係を作り上げた。
「…なぁんて、私は何を考えているのだろうか」
つまりは、ノエルの心配をしているという事だ。
あの見習いが、どんな奴かは興味はないが、‘私のノエル‘を傷つけようものならば、生きていけると思わないことだな…。
「フフフ、ハハハ、アッハハッハ!」
「フォーミル王…連れてまいりました…19932番…シェイノ・チャルです。ほら、19932番」
そういって、パトリオンに鎖でつながれながら現れたのは、背が150cmも満たないような少女だった。
濃い青色の髪を持つ彼女は、その髪を肩あたりまで伸ばしているが、何も装飾品がなく、自然のままの髪が、若干吹く風で、靡いていた。
そして、その少女は、私を見る。
顔をあげて、彼女は少し目をそらそうとする。
…そもそも、少し薄暗いここは見えるものと見えないものがある。
前者は、それぞれの人数。
後者は、その顔だ。
少女は、確かにこちらを見ているはずなのに、目が見えない。
…いいや、違うな。
髪で隠れているとばかり思ったけれど、それは違う。
こいつ…アイマスクを付けられてる。
それに、腕には手錠が三重。
足には鉄球が両足につけられている。
それでいて、普通に難なくそこにいた。
苦しそうな仕草を見せず。
そこにいるというだけでも重苦しい重量が襲うはずなのだ。
だが、彼女は平気でその場にいる。
震えもなく、恐怖というものすら感じていない。
…こちらが震えてしまいそうだった。
「あなたが、我が主君となる王…フォーミル・ラグナ?」
「…ああ、そうだ。お前の体…頭の毛から足の爪の先まで、すべてを私に尽くすために捧げよ」
「では、フォーミル王…首輪を」
私は、手にあった‘それ‘をそいつに手渡した。
…そこから黒い霧が現れ…。
「絶対服従を誓え、シェイノ・チャル」
「…」
シェイノは、頷くことなく、光を亡くした瞳で、薄暗い地面を見ていたろう。
…いいや、アイマスクされているせいか、それはかなわない…か。
「チャル家は、代々受け継いで来た遺伝子細胞がある。それは、血の中にある動脈が、どういうわけか目からの別の力となって、体中に送られる特殊体質…だ、視力とは違うそれは、今発見されている中で、‘音速を超える速さで動く事が出来る目‘‘目で見たものを全て焼き払う目‘‘空間を捻じ曲げて、そこに新たな物質を生み出すことができる目‘‘目を合わせた相手の行動を逆転させる目‘…ほかはまだ知らないが、この程度あるのは分かっている、お前は‘目で見たものを全て焼き払う目‘を持っている、故にアイマスクを付けているが…」
こんなもの、服従を誓った私に向けられるはずがない。
そう思った私は、アイマスクを外す。
「今日からは、私の奴隷だ、私がしろと言えばし、そして…望むとあらば、体を捧げ、私の身を守れ」
「…イエス、マイ…マ・・・マスター」