第百十三話 ヤギ
「今のお前を殺す価値などない、僕に大人しく従え」
「黙れ…誰がお前なんかを…!」
俺はグラムを投げつける。
が、バルディッシュで軽く弾かれる。
「まだわからねぇか?僕に敵うわけないだろう」
「甘ったれてるんじゃない!」
と、突如としてロクロブロンスの仮面付近から蒼い炎が現れた。
「くっ」
「あの炎…シェイノか!?」
「隊長格を守るのが、下っ端に役目でしょうが!あんたはそれを忘れたっていうんじゃないでしょうね!」
「っうっせ、俺はやる…あいつを、ここで…止める!」
シェイノだった。
シェイノが背後から現れ、そして俺の隣へ来る。
「ぐっ…この炎…左目の鐘猫か」
左目の鐘猫…。
その実は、蒼き炎で悪しき魂を焼き尽くす。
仮面は悪の根源だ。
その魂を焼けば、あの肉体にボロが出るはず。
が
「魔術師の呪文の前に、そんなチャチな攻撃が食らうなんて、思っちゃいねぇよなぁ?」
急接近してきたロクロブロンス。
仮面についた炎は既に消えていた。
そして、シェイノを吸収しようと手を出すが…。
「それは僕には効かないよ」
仮面が吸収しようとするが、シェイノには本当に効かないらしく、吸収するどころか、はじき飛ばされていった。
「なっにっ!」
「女帝をあまり舐めない方がいいよ?」
「そうだな…僕もそろそろ本気を出してやろうと思い始めたぞ」
ロクロブロンスは仮面でない方の顔に手を被せ払う。
すると、そちらの方も仮面となり、顔全体がヤギとなった。
「メェェ…」
「なんだよ…あいつ…!今…今、仮面を半分被っただけで…数倍も力をあげちゃったわけ!?」
と、タタンッと足で地面を蹴って、一気に接近してくる。
もう人と呼べる程の速度ではない。
動物的な速度…人が見て行動に移そうとして、間に合わない程だ。
「うっ」
まず、シェイノが吹き飛ばされ、次に俺に向かってくる。
それをまともに受け、俺も吹き飛ぶ。
「ぐはっ…」
二人掛かりでどうにかなるもんじゃ…ねぇぞ…これ。
「メェェ...」
と、俺たちをそれぞれ見てその場から去った。
逃げた…?
今、殺せたはずだ…どういう事だ…。
「わからない…どうして…逃げたの…?」
「そりゃ、不可視の魔法かけたからじゃねーの」
と、いう声の主は…プライヴァイス=ノイスクランチ。
サボリ癖のあるシフォンの兄だ。