第百六話 ティルフィング
ドゴォォン...
大きな音を立て、境遇の塔は崩れた。
コトハの体が瓦礫に埋もれ、そのまま動かない。
ドルクは、その様子を残念そうに、不満足そうに見ている。
「この程度か、この程度なのか、否もう言葉すら放つこともできないのか?
否、これしきで私の楽しみを失わせる奴ではないはずだ、さあ立て、立って、誠意を見せよ」
ティルフィングの六本の刃が光を放ち、それらが全て回転しながらコトハへと向かっていく。
コトハはその迫るティルフィングを避ける事ができず、そのまま直撃を食らってしまう。
「がはっ…ぐっぁ・・・」
それがきつけとなり、コトハの虚ろになっていた目が光を取り戻した。
「全く、つまらないな…否、面白くない…これ程までに退屈か、私の前ではもう少し巧みに勤めよ
否、もう終わりか」
「はぁ…うっぁ…うっ…」
瓦礫の破片が体の節々に突き刺さり、身動きすら取れない。
彼にとっては、もはや絶望的状況だった。
「終極としよう、否…もなしだ」
ドルクは一切の容赦をしない。
ティルフィングはドルクの元に円を描きながら戻っていき、ドルクの後ろで回転を始めた。
「(どうする…もう、何も…手も足も動かせない…)」
コトハの動きがピクリともしない中、ドルクの手がコトハに向けられる。
ティルフィングがその手を中心にグルグルと円を描くように回転し、
手のひらに柄を触れさせ、剣先をコトハに向けた。
そしてティルフィングは一斉にコトハへと突撃を開始した。
コトハは、目を瞑る。
が、
「あきらめるわけにはいかない…ここで、こんなところで・・・」
くれ…力を…来い、来いよ…グラム!
「来い、グラム!!!!」
風が、靡く。
力が…わいてくる。
「アバターフォーム:エドワード グラム!」
周囲の風が、俺に圧し掛かっていた瓦礫を吹き飛ばし、
ティルフィングをも吹き飛ばす。
そして、グラムと呼ばれる蛇の形をした柄が俺の左手と右手にくる。
「ティルフィング!奴を殺せ!」
「グラム!弾け!」
六本のティルフィングが今度はバラバラに飛び、こちらへ向かってくるが、
グラムから溢れる風が、ティルフィングを弾くために、こちらへ向かって来れない。
「おのれ!おのれ!不愉快だ!実に、不愉快だ!否…!
これは、侮辱とすら受け取れてしまう!おのれ、おのれ!」
ドルクは、心底頭にきたようで、コトハをにらんでいた。
「破邪蛇穴」
両手のグラムを目の前で刃先を下に向けてクロスさせ、払った。
すると、そこにバッテン印の黒い空間が開く。
そこから無数の蛇が飛び交っていき、ドルクへと襲い掛かった。
「な、なんだ、この蛇はっ!否!この異様な化け物は!何を…生み出したんだ…!」
「生み出すことのできる魔法…魔術師を、知らなかった敗因がこの結末を呼んだんだ、
お前はこの結末を受け入れなければいけない、邪悪な心と共に、蛇に抱かれて堕ちろ」
蛇は段々とドルクにまとわりついていく。
ドルクはティルフィングを飛ばしていたために、武器がなく素早く動くことすらもできない。
段々と追い込まれていくドルクは息苦しそうに最後…
「おのれ…許さん…」
とだけ言い残し…蛇に包まれて闇に消えた。