第百五話 棘の塔の戦い
「とりあえず、目標は達成し…あぁ、これで終わろうと思っていたのに」
「人の物盗んで、それはないンじゃなイ?」
イペカと対峙していた男は、緑の装束で、少し小柄だった。
「兎にも角にも、僕の邪魔はさせないから」
「あーはいはい、御託はいいかラ、さっさとケリつけさせていただきますヨ」
イペカは赤いヒールに、白いスーツ姿で、見えない銃を持っている。
イペカは銃を一瞬で構えて放つ。
が、緑の装束に届く前にパキンッ!と音を出して何かに弾かれていた。
「まあまあ、僕の剣の能力…『イリュージョン』を、見れるのは…そうそうないんだからさ」
「…『イリュージョン』…」
イペカは、手を伸ばす。
瞬間、その空間がねじれた。
「こういうノ?こんなので、いいノ?」
「いいや、こういうのだよ」
指をパッチンと鳴らし、そこから火花が散り、
そして大きな炎が生まれ、渦となって、イペカを囲む。
「幻術でなく、実体…中々面白い能力ネ」
「実体どころじゃないよ、この『イリュージョン』の真骨頂…見せてあげよう」
緑の装束は、両手の人差し指を伸ばし、親指を立て、イペカに向ける。
そして、その指先から光が見えたかと思うと、一瞬でイペカの胸部を貫く光が放たれる。
「『エクスプロージョン』」
緑の装束は顔を歪ませながら、そういうと、光の先から爆発がひき起きて、
イペカを巻き込む。
その爆風は、棘の塔を震わせ、崩壊させていく。
「はっははは!!!見てください!これが!これが!僕の力です!どうですかぁ?お客様方!」
崩壊する棘の塔の音を、歓声を言わんばかりに、緑の装束は満足気にそういった。
イペカは、崩壊した棘の塔の瓦礫の下敷きになって、血を頭から流し倒れている。
それを見た緑の装束は、イペカのそばにより、いい気味だ、といわんばかりに一瞥して、
そこから去ろうとする。
「これで、終わリ?」
「!?」
緑の装束はその声に驚き振り向くと、先ほどまで崩れていた棘の塔は何事もなかったように元通りに戻っており、何事もなかった、否ずっとそこにいたように、イペカは緑の装束の背に銃口を向けていた。
「もう一度、聞きまスよ、これで終わリ?」
「はぁ…ぁぁぁ…ぐっ…んまえは…なにもん…!」
「イペカ…イペカ・デ・メリュジーヌ」
「メリュジ・・・ヌ・・・だと・・・」
タァン…。
棘の塔に虚しく響く銃声は、緑の装束の心臓を銃弾が貫いた音であった。
幻覚。ここに敗れたり。
棘の塔の戦いは静かに終わりを告げた。