第百四話 破壊王クロスノア
「まったく、よくもまぁ…こう、お前らって、抵抗に抵抗を重ねてくんだな」
「勝手に攻め込んできて、そりゃあないんじゃないの?」
弓を構えるエイピロは、目の前にいる緑の装束に対し、そういった。
赤髪の長髪。
そして、筋肉質な体は、ごつごつとして引き締まり、より強固な力を感じる程だ。
「とりあえず…邪魔はせんといてくれるか?おいの・・・おいの剣は抜きたくねぇんだ」
エイピロは矢を放った。
初速はただの矢。
ただ、そこから弓を離れた後、青い光が矢を包み、ものすごい速さで矢が、緑の装束の男に向かっていく。
そして、矢がそこまで到達すると、矢を緑の装束の男に当たり、そして壁際まで追い込んだ。
砂煙がたち・・・
「あっけねえな、これで終幕だ」
「あーあー…ったくよ…」
シュンッシュンッという音がなったと思うと、その砂煙が3つに切れて、サッとなくなった。
そして中から緑の装束が現れた。
「この剣を使う事になるなんて、おいは…もう、止まんねぇでさぁ…」
「…そうか、あの矢を受けて、かすり傷一つも負わないってなると…」
「これはもう、仕方なか…」
矢を構えなおすエイピロに、緑の装束は刀身のない剣をシュンッシュンッと振るう。
すると、その刀身が現れ、段々と伸びていく。
矢を放ったエイピロは、次の矢を構え直し、そしてまた構え、打つを繰り返す。
それをほとんど手首の動きだけで、弾いていく。
弾かれた矢は、壁へと向かっていき、爆音を上げる。
「くっ、矢じゃ弾かれるか…だったら!」
「おそかよ、あんた」
「なっ…」
エイピロは次の行動に移ろうとしたが、
既にそこに緑の装束がいた。
そして、エイピロの腹部を貫く剣…。
「がっ…ふ…」
エイピロは吐血する。
口元からじわりじわりと血が零れ落ちていく。
そんな中、緑の装束は剣をエイピロの腹部から抜き、
ついた血を払う。
そして、その刀身を剣先から手のひらで押して消した。
さながら魔法のようにも見える程のものだった。
あまりの出血で、エイピロはその場に倒れこむ。
「その血の量では、もう立てやせん、これでどうか引いてくれんね?」
「…がっ…くか…ってんだ」
エイピロはその空いた腹部を押さえながら立つ。
体が小刻みに震えていて、なんとも痛々しく思えた。
「俺は…がっ…うっ…まだ、戦う…くっ…」
「動くでねぇ、もう血が足りてなか、おいの剣…『フリークダイヤモンド』で、
あんたの腹部に穴を開けたんだ、仮に立てたとしても、限界だな」
「…”普通なら、な”」
エイピロはそこから急速に移動し、そして緑の装束の胸元まで来て、
素手に持った矢で心臓部に突き刺そうとしていた。
「っ!?」
「チッ、外したか」
エイピロの傷口はふさがっていた。
止血すらせず、その傷口からは血が止まっていて、血は枯れていた。
「っあんたぁ、もしかして不死ってやつかえ!?ほんまにそないな奴がおるかいな!」
「いや、ちょいと違うな…俺は不死じゃない、正しくはただの死者だ」
肉体は違えど、精神は同じ。
それが俺の秘密だ。
この肉体はエイピロ=ヤングマンという体を乗っ取って、無理やりエドワード=フォートという
精神だけを入れた、言わば人形に魂を入れたに過ぎない。
「…じゃあ、どうやっても殺せない、そう言いたいわけだな…?」
「ああ」
矢の形が変わっていく。
そう、まるで細剣のように。
「『クリア』」
そして、ついにはその形はレイピアになる。
そして発光する。白く。
「それが、あんたの投影武装…ねぇ…じゃあ、こっちも見せてあげな、な」
そういって、先ほどの刀身のない柄を持って、それを突きつける。
すると、そこから刃が伸びていき…
「なるほどねっ!」
レイピアでフリークダイヤモンドの刃を弾く。
それを刀身の変幻自在の突きに何度もあわせていく。
「(死者っつうても、疲労はある…。というのも、魂を使うためか、
その魂を持って動く、この体に対しての疲労感を感じてしまう…
それが、この体のリスクだ)」
「これ以上、あまり時間をかけてはいられない…これで決着をつけさせてもらう」
両手を大きく左右に広げる。
そして、その両手から青い光が伸びていく。
持っていた矢が段々と光の剣が完成した。
「二刀流・次元龍光剣!
(それに…エドワードの魂の力を使って、グラムを呼び出した所を、あいつに見られないしな」
「二刀流…せやったら、おいも増やそうかいね…!」
柄に刀身が戻り、次の攻撃に移った時、その鍔から次に出てきたものは無数の刀身だった。
まるで蛇のようにあちらこちらへと伸びていき、地面に突き刺さったり、壁に突き刺さったりしていく。
それを光の剣で何度も何度も切断していく。
光の剣に触れた刀身は、全て黒く焦げていき、その焦げ痕が段々と広がって、
やがて鍔まで迫っていくが、鍔まできてから、柄を捨てた。
「ふぅーん…おいのフリークダイヤモンドを使っても、まだ息をするでか…
いや、もう死んでたんだ、さて、それならおいは…眠るとするかいな…
あんま、戦うのはおいの所業と合わんでな…」
ゆっくりと目を瞑る緑の装束の男。
エイピロは警戒し、その場から動けない。
そして、ゆっくりと目を開いた時、その男の目は黄色の光があった。
「あぁー…久々…うーん…」
その雰囲気はとても戦いを望んでいるようには思えない口調であった。
が、次の瞬間、エイピロはいつの間にか空いた自分のすぐとなりの壁に気がついた。
腕もろとも、吹き飛んでいた。
「っ!?」
「はぁ…面倒くせぇなぁ…けんど、わいはやんぜ?
(そうともさ)、わいと(おい)は、ハート=クロスノア…なーんか、
わいのせいで破壊王なんつー名前までついてるがんね」
とてつもない破壊力を、とてつもないスピードで打ち込んでくる。
いや、それどころか、空間そのものが抉り取られているような、そんな感じ。
あの目、おそらくその目に秘密があるのかもしれないが…
「右腕を持っていかれた…が、じきに復活するはずだ」
「そんの前にゃあ決着つかせてやんぜ、わいの力でな!」
そして、エイピロとハートの戦いが再び始まった。