第九十七話 目的
「今日は厄日だ…」
俺は、甕割を下に構え直し、廊下を出口に近い方へと走った。
緑の装束が近づいてくる。
甕割で作り出す無音の衝撃波は、
吹き飛ばす、突破風のようなものだ。
「そもそもなんでこんなにドルグレの連中がいるんだ!防衛側は何を・・・」
その一瞬、防衛軍を思い出した。
確か…さっき捕まえた装束…。
あいつが使ってきたナイフ…。
魔導師のナイフじゃなかったか…?
「疑うな!仲間だぞ…きちんと思い出せない、何かに尾鰭をつけて、
結果的に自分のいいように考えただけじゃないか」
俺は、考えに思い違いがあるだろうと思って、
それ以上を考えずにいた。
そして、走り…緑の装束の軍団とぶつかった。
緑の装束たちは、それぞれナイフを構え、向かってくる。
俺は甕割を使って振るう。
「無音の…」
「遅い」
その時、すぐ近くまで緑の装束が近づいていた。
俺は無音の衝撃波を止め、後ろに下がる。
ナイフが俺の腹部から上を軽く引っかき、
俺の服の真ん中がダラリと尾鰭のように垂れ下がった。
皮膚の傷からは、多少の血が流れる。
そしてすぐさま緑の装束の後ろから別のナイフが飛んできた。
俺は目視で避けるが、若干傷を負ってしまった。
「くっ…」
どうすればいい…?
そこには、数十人の緑の装束が、
それどころか、背後からも近づいている。
…もしや…
「王の抹殺が目的じゃあないのか」
と、俺が呟くと、目の前の緑の装束が肩を揺らした。
動揺したんだ。
てことは、だ…
「お前ら、本当にあのロシルとか言う奴の呪文を狙ってるんだな」
「そこまで知っているとは…始末させてもらう」
本より始末するつもりだったんだろうが、
今更その言葉で動揺なんかしねぇぜ。
俺はタッタッと素早く左右に動き、
甕割振るう。
目の前の緑の装束はその攻撃を後ろに下がるのではなく、身を揺らして避けた。
狙いはここだ。
「うらぁあぁ!」
俺は、両手に握っていた甕割を片手に持ち直し、
残りに余った左手を勢いよく緑の装束の腹部に叩き込んだ。
メリメリと拳は入り込み、緑の装束は異物を吐いた。
そして、拳を抜き、回転して蹴り飛ばし、廊下の左の壁にぶつけた。
「舐めんなよ、俺は”やれる”ぜ」
そういって、指をクイックイッと曲げて挑発する。
「たった一度、たった一人倒しただけで、いい気になるなよ小僧、
そんなのは、ナンセンスだ」
一人、緑の装束の軍団の中から出てきた奴がそういった。
そいつは、白い仮面をつけていた。
その仮面をのけて、姿を現した。
「俺の名は、コクア=ルックルドだ まず、名乗りをしておくのが、
俺の流儀なんでな」
俺は、甕割を構える。
その構えをどこかでしたかのように、
構える。
片手で持ち、真っ直ぐにそれを突き出す。
構えにしては隙だらけ。
しかし、その構えを俺はした。
経験がそれをさせた。
「なんて構えだ…あの構えじゃあ、防御なんてできやしねぇ」
一人が言った。
が、加えてもう一人が言った。
「いや、防御する気がないんだ!あいつ、守りを捨てやがった!
しかも、あの構え方、フェンシング式だ!
あの武器・・・突くという点では、全く機能しないように見えるが…
何を考えているのか、全くわからないな」
俺は、攻撃を仕掛ける。
突くように前へ出した甕割を、俺は片刃が横を向くようにした。
それを押し出した。
「払え!甕割!」
くるりと甕割の刃を翻し、コクアの頬めがけて振るう。
甕割は、俺の声に呼応して、風を纏い、突風を生み出した。
切る風ではない。
包む風・・・だ。
「魔導師の投影武装か!くっ…くぁっ!」
コクアは、頬に無造作な傷をつけ、吹き飛んだ。
俺は、刃をもう一度翻し、斜め上へと払いあげた。
「まずい!投影武装・ハルパー!」
緑の装束の一人が投影武装を取り出した。
それは、武器というにはあまりに短いリーチの武器で、
湾曲になった先端まで20cmもない。
緑の装束の一人は、ハルパーを投げてきた。
しかし、風がそれを遮り、ハルパーはその風圧に耐えかねて落ちた。
が、直後、風が弾けた。
そう、その表現通りだった。
まるで内側から破壊するように、風は弾けて消えたのだ。
「なっ」
「僕たちを舐めるなよ?フォーミルの犬」
そして、俺は後方を見る。
いつの間にか、緑の装束が俺の退路を塞いでいた。
逃げる事ができなくなっていた。