第九十五話 緑の装束
「だ、誰だ!?」
俺はベッドからサッと起き上がり、扉から一番遠い壁際へと立った。
扉の向こうから気配がする。
・・・壁に立てかけてあった甕割を手にし、鞘から抜き、刃の先端を扉へとむけた。
「お前が…ロシルか?」
「いや…違う」
その声は、男の声だった。
若々しさがあり、声は高い。
そして、扉がゆっくりと開かれた。
「では、死んでもらうぞ!」
そいつは、そういうと、ナイフを投げてきた。
それをかわし、そいつを見た。
緑の装束と、その背中に赤鷹の紋章が描かれたそれを着たそいつ。
歴書で読んだ、あの赤鷹の紋章は、確かドルグレ国のもの!
「侵入者か!」
途端に緊迫が増した。
しかし、何故こいつが俺の瓜二つと言われているロシル=フォートに接触しようとしたのか
まだわからない…。
だが、考察は後だ。今はこいつから仕掛けてきた。
戦うしか手段はない。
逃げるわけにもいかない。
ドルグレは敵国だ。
フォーミル国は、他国との同盟はおろか、停戦協定すら結んでいない。
皆から敵とみなされるこの国に他国の侵入者があれば、それは
「敵国偵察ってわけか、ドルグレの者!」
「敵国偵察?この国にそのような価値はないと思うがね?
仮にあるとしたら、ロシル=フォート…そいつの魔術師の呪文だけだ」
目的はそれか。
呪文という特殊な系統を使って、詠唱なしで魔法を発動させる魔術師だが、
その実、大した魔力を持っていない者でも、簡単に呪文は扱える。
つまり、呪文さえ使えれば、魔術師は誰にでもなれる。
恐ろしいのは、その呪文だ。
1~100まであり、便利なものから、大魔法まで、
様々な魔法を一瞬で発動できる。
とんでもない代物だ。
だからこそ、魔術師は狙われている。
この国フォーミルが他の国との同盟や停戦を組まないのは、
その呪文を条件とされるからだ。
俺は、太刀を振るう。
すると、そこに青い衝撃波がうまれた。
「な、なんだこれ!」
その衝撃波は、そのまま緑装束の男の方へと向かっていく。
無音の衝撃波。
そう思える程に静寂なるものだ。
男は、装束から黒い皮の手袋に包まれた手で、その衝撃波を受け止める。
が、衝撃波は触れると、暴発して、突風となって、男に襲いかかり、吹き飛ばした。
「この衝撃波・・・いったい・・・」
男は、廊下の壁に叩きつけられ、体をだらーんとしていた。
「くそ、なんなんだ…」
男はそういいながら、俺を睨んだ。
思わず睨み返し、
「俺が聞きたいよ…一体、俺は何者なんだろうな」
俺は、そいつを縄で縛りつけ、警備兵の元に連れて行くこととした。
・・・だが、
「なんだ…よ…この惨状は…」
城内は、ボロボロになっていて、所々に焦げ痕が残っていた。